第3話 テメェら、金もねぇじゃねーか!!
店のカウンターに二人で並んで酒を呑みながら、店主の話を聞いている。
「お前らも知っていると思うが、魔界から攻めてきた魔人共が暴れ回ってな」
店主は顔を歪めながら、悲痛な思いを滲ませて言った。
それを聞いた二人は、顔を見合わせて同時に言葉を発した。
「知ってるか?」
「知っていますか?」
そして数瞬の沈黙の後、再び同時に言葉を発する。
「知らないのか?」
「知らないんですか?」
その場には再び沈黙が流れ、酒を一口仰ぐと、リトは大きく口を開けて怒鳴った。
「なんで執事のくせして知らないんれふかぁー? 情報収集は執事の|嗜(たしな)みだと教わった筈れふけどぉ?」
すると、顔を真っ赤に染めたマイが鼻をつまんで顔を顰めた。
「ちょっ口が臭いれふよ! 大体にリト様はぁ私の大変さを分かっていないからぁ、そんなこと言えるんれふよぉ!」
そんな二人を交互に見て、店主は瞠目した後、口を開いた。
「おい、あんたらまだ一口だぞ! 喧嘩はやめろ!」
「うるさぁい!」
二人から同時にパンチを貰った店主はノックアウトし、客が担架で運んでいく。
「大体ぃ、リト様は常識を弁えておられないんれふよぉ! ひっく! 魔王なら魔王らしくドンと大きな椅子に座ればいいんれふよぉ!」
「れふよぉって言うのやめろぉ! ひっく! 変に耳に残るだろぉ!」
店内は物が飛び交い、酒瓶は割れ、客は避難を開始する。
と、かれこれ二時間。
段々とヒートアップしていく喧嘩に、店内の誰もが手をつけられない状況が続いていたが、ある瞬間を境に静寂が訪れた。
スヤスヤと眠りに落ちた二人とは逆に、酒場の店主が目覚めると、「あ……あぁ」と頭を抱えた。
「起きろテメェら! 俺の大事な店を壊しやがって!」
弁償させようと、手当り次第に二人のポケットに手を突っ込む店主。
「なんだこれ、クルマエビ漁業許可証?」
マイの服に付いているポケットに入っていた紙を見た店主は、それを戻して再び探るが……。
「テメェら、金もねぇじゃねーか!!」
未だに眠っている二人の首根っこを鷲掴みにした店主は、それを外へと投げ捨てた。
「……痛い」
二人が地面にぶつかった衝撃で意識を取り戻したと同時に、店主は唾を飛ばす。
「もっとまともになってから店に来やがれってんだ、全く!」
そして、店内へと入っていく姿を二人は眺めていた。
「ふぇぇーーーーん! 追いらされたぁあー! ひっく!」
「泣くなよぉ! ひっく!」
仕方がなく、二人はふらつきながらも歩き出す。
結局その日は、ヒビ割れたコンクリートの端っこに蹲って寝た。
次の日の朝。
「あれ、どこだここ? 痛てて。う、身体中がぁぁああー!」
伸びをするリトの身体は、寝返りをする度に地面とぶつかり合っていたため、悲鳴を上げる。
「うるさいでふよ、リト様ぁ」
そんなリトの横には、アホみたいに涎を垂らしているマイが居た。
「おい、起きろマイ!」
彼が呼びかけると、マイは僅かに瞼を開いて、リトの顔を見る。
「ああ、こんな所に美味しそうなポテト……」
そう言って彼女は、リトの頭を掴みガリガリと噛み付いた。
「痛い、痛いから! ちょっマイさん、ポテトじゃないですよ!?」
そう言うリトの頭から離れたマイは、パッと目を覚ますと、
「おはようございますリト様、昨夜は毛の生えたポテトを食べる夢をぉぉぉおおお!」
バキバキと鳴る身体を捻らせて藻掻き始めた。やはりマイも同じように、地面に苦しめられたようだ。
「おい、ここはどこだ?」
見回すと、最早店や人影など一つもない場所にいたため、リトはキョトンとしている。
そんなリトに「さあ?」と言うと、マイは後悔を顔に滲ませた。
「魔人はアルコールに弱いということを忘れておりました」
すっかり消えた記憶を蘇らせることは出来ず、仕方がなく昨日の酒場を探すことにした。
「クソッ、アルコールが抜け切ってねぇから魔法が使えねえ」
そういう訳で、歩いて行く。
多分あっちの方向ですね。と、マイの勘で進んでいくと、酒場にいた一人の客の姿が見えた。
「おい、居たぞ! なにトロトロ走っていやがる! どっか行っちまうだろ!」
リトはカックンカックンと、手を振り足を動かす。
「そういうリト様こそ、それでも魔王なんですか!?」
マイも同じように、カックンカックンと走っている。
「言ったな? 俺の真の姿を見せてやる! うぉおおおお!」
「やりますね! では、私も隠されし力の解放といきましょう! うぉおおおお!」
その絶叫を聞きつけた客の男は振り返ると、変な走り方の男女が迫ってきているのを目撃し、逃げるように走る。
「なんだあれは! 見てはならない何かが迫ってきている! うぉおおおお!」
そんな客の男だったが、たぷんたぷんと揺れる腹が災いしてか、カックンカックンの二人にガシッと両肩を掴まれた。
「捕まえたぞぉ」
「いやぁぁぁあああ!」
悲鳴を上げる男も二人がかりで、かくかくしかじか説明すると、ようやく「あ、昨日の!」と思い出した。
「そうかそうか、君達昨日は大丈夫だったかい?」
笑ってそう言う男に、二人目を吊り上げて怒気を放つ。
「大丈夫じゃないから、こうなってんだろ!」
その言葉を浴びて男は苦笑いした後、
「せっかくだし家に寄っていくか?」
と、渋々だったが言葉を繋いだ。
家を焼かれた魔王様は人間界で暮らしたい! キウイ @hajikerukiui
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