第2話 この格好ってあまりカッコよくないのか?
勇者から逃げ延びた二人は、話し合っていた。
「すみませんリト様、人間があんなに野蛮な生物だったなんて……私の無知をお許し下さい」
マイが頭を下げると、リトは明るい声を作りながら頭を上げるように促した。
「心配すんな、家を壊されたのは痛いが、二人ともこうして生きてるじゃないか」
「ええ、そうですね。約三年かけてお作りになられた、四畳半の魔王城を壊されたのは本当に悔やまれますが、生きていて本当に良かったですね?」
マイが真顔で言うと、リトは視線を横に逸らして「あはは」と苦笑した。
「また、作り直す……ってのはダメか?」
マイの周辺に漂うダークなオーラを感じ取ったリトは、
「や、やっぱり辞めとくか! ほら、あそこにある平地なら二人くらい住めそうだ!」
と、公園を指差す。
「そんなことより、ここ何処ですか?」
その公園に向けられた右腕を鷲掴みにしたマイは、リトにそう尋ねると、彼は頭をポリポリと搔いてから再び苦笑した。
「さあ、何処だろうなあ……。急に勇者が家に現れたから、出来る限り遠い場所にテレポートしようと思って……そしたらここに居たって訳だ」
その様子を少し見た後、リトが指差す公園を見て、マイは顔を顰めた。
「あの平地にいるのは人間のように見えますが、まさかディバイドラインを越えた訳では無いですよね?」
マイの顔が怖くなったので、リトは公園へとダッシュで逃げる。
「あ、リト様! 逃げないで下さい!」
公園に入ったリトは、すぐ様足を止めて辺りを見回した。
「な、何だこの平地は!?」
そんなリトに追いついたマイも、辺りを見回して目を見開いた。
そして、置かれているすべり台に左の頬を当てると、彼女は涙を流し始める。
「あんなに野蛮な生物が、こんな代物を作り出すだなんて。リト様……我々の完敗です」
そんなマイを置き去りにして、リトは水飲み場に近寄るとソワソワしながら蛇口を触り始めた。
「なんだ、この奇妙な形をした工作物は!」
蛇口のハンドルに手が触れて少しズレると、チョロチョロと水が流れ始める。
それを見た二人は、目を見開いて驚きを顕にした。
「まさに芸術、素晴らしい……」
二時間ほど蛇口を触り続けていた二人だが、ふとリトが顔を上げると、指を差す子どもが見えた。
その位置からでは声は聞こえないのだが、耳に魔力を込めて聴力を上げると、ハッキリと聞こえた。
「ママー、さっきからあそこに変な人がいるー!」
子どもがそう言うと、母親と思われる女性が近づいて、その子の手を引く。
「見たらダメよ! ほら、コッチ見てる。警察に通報しときましょう……」
そう言うなり、二人の姿は見えなくなってしまった。
何が変だったのか考えたリトは、「なあ、マイ」と呼びかけるなり、悲しげな瞳を下に向けて言う。
「……この格好ってあんまりカッコよくないのか?」
そう言うと頭に生えている二本の角のうち、片方の角を握って、キュポンと抜いた。
その角を凝視するリトに向かって、マイは言う。
「え、今更ですか?」
彼女は顔に、バカにしたような笑みを浮かばせて、メモ帳を取り出した。
「他の魔王の皆様も言っておられましたよ? あそこのクソダサ落ちこぼれ魔王は何の役にも立たないし、仕事遅いし、遅刻するし…………」
淡々と語られる壮絶な悪口に、リトは耳をふさぐ。
「やめてマイさん! 聞きたくないっす!」
すると、口に手を当てて笑うマイは、次には人差し指を立てて言った。
「クスクス、ご安心くださいリト様。半分は冗談ですよ!」
「半分は、本当なんだ……」
そんなやり取りの後、ずっと人間界にいる訳にもならないので、二人は魔界へと帰る準備をする。
と言っても持ち物はないので、魔力をためてから一気に飛び立つだけだ。
「テレポートのせいで魔力を消耗したから、休憩をとりながら帰ろう」
そう言うとリトは、身体に魔力を纏わせて空へと舞い上がった。
その後を追うようにして、マイも空を飛ぶ。
少しの間は、魔王城と比べて大きな家が並んでいた為、楽しんで飛行していた。
しかし、目が慣れてくると退屈になってしまったので、蛇口を持ってくれば良かったと後悔をしているリト。
そんな彼が、数時間ほど空を飛んだ後に目に入れたのは、比較的廃れた街並みだった。
「なんだ? ここから先、全部こんな感じの町しかないぞ」
目に魔力を込めて視力を増強したリトが言うと、マイも同じように見る。
「これは酷いですね。何があったのでしょうか」
執事であるマイの反応を見て、「少し降りて聞いてみるか」とリトが下降を始めた。
彼らが降り立ったのは、腐りかけの看板の前。そこは恐らく酒場なのだろうが、看板の文字は掠れていて読めない。
「うーっす、ここは良さげな酒場だなぁ?」
リトが呑気な声音で、店のドアを叩く。
その店内に入ると二、三人だけ人間の姿が見えたが、顔には活力がない。
場を代表して、店主と思われるゴツイ男が声を飛ばした。
「その爪……あんたら、魔人だな?」
どうやら人間達は、爪の色で人間か魔人かを判断しているようだ、と二人は初めて知った。
それはさておき、マイがリトの耳に口を近寄せてコショコショと話すと、「分かった」とリトが返事をした。
店主は二人を睨み付け、指に挟んだタバコを吸っている。
すると、マイが手を大きく広げて声を張り上げた。
「良いか人間達よ! ここに居られるのは魔界を代表する魔王が一人、リト様である!」
それを聞いた店主含めた人間達は皆、目を大きく見開き驚いた様子を見せた。
それを確認したマイとリトは、勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
だが次の瞬間、店内には小さな笑いが起こった。
「ハッハッハッ! 魔王ってのは頭に一本だけ角を付けるのが趣味なのか?」
それを聞いたリトは頭に手を乗せると、抜き忘れたもう一本の角を抜いた。
「あっ」と言う表情を作ったマイに向かって、リトは顔を赤くして言う。
「マイさん、これ恥ずかしいから二度としない方向でお願いします」
マイは苦笑いをしながら聞き流し、店主に尋ねる。
「座って良いですか?」
すると、店主は「金さえ払えば構わねぇさ」と言ってコップを拭き始めた。
拭きながら「酒を飲むだけならな」と付け足した彼に、二人は酒を頼み、話を聞き始めるのだった。
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