家を焼かれた魔王様は人間界で暮らしたい!

キウイ

第1話 ウチの魔王は脳ミソが入ってないんですか?

 世界は二つに分かれている。一つは、西に位置する人間界。もう一つは、東に位置する魔界だ。


 過去数千年、人間界は魔界に対して不介入を訴えて来たが、魔人達はそれを拒否し続けている。

 人間の声を聞かない魔人達は、人間界への関門『勇者の街』が忽然と壊滅したのを境に、二つの領域を縦断する線『ディバイドライン』を踏み越えて、人間界を荒らしまくった。


 そんな中、魔人の軍勢を倒すために再び立ち上がった勇者によって、魔人達は切り捨てられることとなる。

 それだけでなく、二度と同じ歴史を辿ることがないように、彼らは魔界へと足を踏み入れ、魔王の首を狙い始めた。


 勇者一人の力量は、魔王一人に相当する、又は上回るものであったため、魔王達も協力をすることとなったのだか……。


 「リトは? リトはどこだ!?」


 怒鳴り散らす老魔王に、配下である魔人が報告を開始した。


 「はっ、魔王リト様は今回の協議にはご参加されないという意向を示されています!」


 「なんだと、クソが!」


 老魔王は机をダンと叩きつけ、次にはすぐ様指示を飛ばす。


 「もう時間がない、勇者を迎え撃つ準備を開始しろ!」


 すると、配下の魔人達は慌ただしく動き始め、今から始まる今世紀最大の戦いに向けて準備を始める。


 「まあまあ、リトなんて居ても役に立ちませんよ」


 「はっはっは、そうですよジオン様。リトが落ちこぼれの最弱魔王というのは我々の共通認識でございましょう」


 老魔王を宥める他の魔王達は、指をポキポキと鳴らして「勇者なんて俺らがぶっ潰してやりますよ」と、息を巻いている。


 老魔王にも、リトは落ちこぼれという同じ認識があるのだが、それでも数は多い方が良いと考えた。

 何故ならば、勇者の力量を見誤った魔王が、既に三人も首を取られているからだ。


 「油断するな! 油断したものから命を奪われるものと思って慎重に行動しろ!」


 老魔王が他の魔王達にも指示を飛ばした所で、協議が行われている建物の前で、大きな爆発音がした。

 その轟音は段々と建物に近づいて来るため、配下の者が止めれなかったことがすぐに分かった。


 魔王達もウカウカとしてられず、すぐに戦闘の用意をすると、「バタン!」と音を立てて協議室の大扉が開かれた。


 「こんにちはぁ魔王の皆さぁーん!」


 まだ二十歳にも満たないような見た目の人間のメスを見て、老魔王は額に青筋を浮かべた。


 「なめやがって、こんなガキ一人に魔王軍は攻め落とされたのか!」


 老魔王が唾を飛ばしながら言い放つと、魔王達はその少女へと切りかかる。


 上段から放たれた斬撃を、少女は持った剣で簡単にいなして左手の拳を、魔王の腹へと打ち込んだ。

 すると、その魔王は血を吐きながら地に伏せ、息苦しそうに藻掻いている。


 「うわぁ痛そー。って私がやったんですけどねぇ!」


 その少女が甲高く奇怪な声で笑うと、剣を胸の位置で構えて言い放った。


 「さあ、始めましょうかぁ」


















 「なあマイ、なんか外が騒がしくないか?」


 リトは自室の、壊れた椅子を修理をしながら執事であるマイに話しかけた。

 するとマイは、「はて、なんの音でしょう?」と惚けたような顔で答える。


 「知らないんならまぁいい。良し、これで直ったぞ!」


 リトは、たった今直したばかりのボロい丸椅子に腰掛けて、マイに違う質問をした。


 「そう言えば、椅子の修理中に話があるって言っていたけど、なんの話だったんだ?」


 リトの質問を受けて、マイはメモ帳を取り出すとコホンと咳をして話し始める。


 「四日前から魔王ジオン様より、協議会への参加を促す手紙が百件ほど届いております」


 マイの話を黙って聞いていたリトは、思わず聞き返した。


 「え? ではありません。ですから、魔王ジオン様から……」

 

 「もっと先に言えよ!!」


 怒鳴り散らすリトに、マイが頭にハテナを浮かべて言い放った。


 「何度も言おうとしたのですが、今はあいにく手が離せないと仰ったのはリト様ですよね? それをあろう事か私のせいに……」


 無表情で延々と語るマイに恐怖を抱いたリトは、丸椅子からゆっくりと立ち上がり、次には膝を着いた。

 頭の前に手を置き、前へと体重をかけていくと、勝手に頭は沈んでいく。


 「本当に、申し訳ございませんでした」


 まさに土下座の形で謝る魔王を、蔑んだ目で見るマイは未だに文句を言っている。


 「大体、椅子を直すのに一週間使うってバカじゃないんですか? ウチの魔王は脳ミソが入っていないんですか? もしかして頭の中にカニ味噌でも詰め込んでるんですか?」


 文句と言うより悪口になり始めた、その時。


 リトの背後から爆発音が響き、同時にカランカランと木材が音を立てて地面に転がる。


 「あ……あぁ、俺の家が……」


 リトは膝をついたまま首だけ回して背後を見ていると、煙の中から現れる人影を見つけた。


 「あ、魔王いた」


 そこに立っていた女はリトの方を向き、ゆっくりと歩いて近づく。

 それを阻んだのは、執事であるマイだった。


 「あなた、何者ですか?」


 「何、知らないの? 勇者よ。ゆ、う、しゃ!」


 その女勇者は、豊かな双丘を揺らして言い放つと、カッとマイが目を見開いた。


 「あなたEカップと見せかけて、実はAカップですね! 魔法が使える人間がいただなんて、勇者を見くびっていましたわ!」


 「な、なんだと! あぶねえ、騙される所だった!」


 すると勇者は、一瞬で顔を赤く染めると力を入れて歯を食いしばった。


 「う、うるさい! こ、これは本物の胸よ!」


 そう言って右手を前に突き出すと、一瞬で地面に大きな赤い魔法陣が出来上がり、次には大爆発をする。


 煙が晴れた頃には、リトの魔王城、改め木製の馬小屋は跡形も無くなり、二人の姿も消えていた。


 「クソッ、なんで私の役目が落ちこぼれ魔王の始末なのよ!」


 そう言って、女勇者は他の勇者の加勢に向かったのだった。

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