西日本魔法少女大戦

にゃべ♪

謎の声の正体と世界の秘密

 大阪で発生した異世界モンスター大量出現事件。この事態に対抗出来るのは唯一魔法少女だけだった。

 苦戦する魔法少女達は起死回生を狙い、岡山に眠るマスコットキャラを復活させる。仲間にしたマスコットキャラ、フクロウのトリを仲間に加えた事によって彼女達は反撃に転じ、ついに事件の起点である大阪に帰還。

 その後、見事に災厄の元凶である特異空間ゲートの破壊に成功したのだった。


 そこで安心していた2人に、突然謎の声が語りかけてくる。


「……だが、まだ終わりではないぞ? もう少し楽しませてもらわねばな……」


 この声に底知れない不安を抱く魔法少女達なのだった。



 その頃、その声の主はどっかりと椅子に座り込み、大きくため息を吐き出していた。


「ふう、煽りはあんな感じでいいのかな」

「いいと思いますよ、ベタですけど」


 謎の声の主は少年だった。肩にかけたショルダーバックには多くの書物が無造作に詰め込まれている。そうして、その少年のいる場所もまた多くの書籍が無造作に積み上げられていた。

 少年に話しかけた声はスピーカーから流れたもの。彼の近くにあるモニターには可愛らしい美少女が映し出されている。どうやらその少女が喋っているらしい。


「あの2人、気付いてくれるかな」

「さあ、どうでしょうね。カタリのテンプレ台詞に呆れていなければ……」

「はは、バーグさんは相変わらずだなあ」


 少年はそう言って笑う。この会話から少年の名前がカタリ、モニターの少女の名前がバーグだと言う事が判明した。



 ――舞台を戻して、大阪では謎の声を聞いたマスコットキャラのフクロウが異常な反応を見せていた。


「時が来たホー!」


 普段は気ままに目覚めるか尻を叩かなければ起きないはずのトリが、声を聞いた途端に覚醒し、どこかに向かって飛び立っていったのだ。

 この突然の異常事態に、魔法少女の2人も困惑する。


「あ、トリ!」

「追いかけよう!」


 まだ何が起こるか予断の許さない中、今ここで貴重な戦力を失う訳にはいかないと、2人は飛んでいくフクロウを追いかける。

 ビルの谷間を抜け、路地裏を駆け抜け、知らない誰かの家の庭をこっそり走り抜け――。そうして辿り着いた場所にあったのは、もうひとつの特異空間ゲートだった。


 かつて魔法少女達が目にした資料によれば、特異空間ゲートは世界にひとつしかないはず。そのないはずのものが目の前に実在している事実に、キリエは混乱する。


「嘘、こんなところにも特異空間ゲートが?」

「トリ、入って行っちゃったよっ!」


 そう、何かに導かれるように飛んでいたトリは、この特異空間ゲートに吸い込まれるように入っていってしまったのだ。

 事態が飲み込めなくて固まっているキリエの腕をマルルは力強く握り、強い決意を秘めた目で彼女を見つめる。


「行こう!」


 その目力に我に返ったキリエもうなずき、2人は迷いなくこの空間の中に入っていった。その中は大きな図書館のような構造になっており、所狭しと本棚が並んでいる。

 キョロキョロと辺りを見回しながら慎重に進んでいると、彼女達は進行方向の先にひとつの人影を発見した。


「ふふふ、よく来たね。魔法少女達」


 こっちは初対面なのに相手は自分達の事を知っている。その不自然さにマルルは疑問を覚えた。


「だ、誰?」

「あ、そうか。じゃあ……この声に聞き覚えはないかい?」


 魔法少女達に認識されなかったカタリは慌てて声色を変える。それを聞いた2人はすぐにその声を思い出した。


「さっきの声の主の人!」

「少年だったのか!」


 驚く魔法少女達を前に、カタリはニヤリと挑戦的な笑みを浮かべる。


「面白かったよ、君達の物語」

「え? 何言ってるんですか?」


 当然、彼の言葉を2人がすぐに理解出来る訳がない。カタリは額に手を当ててため息を吐き出すと、改めて魔法少女達に向き合い、被っていた帽子を脱いで少し格好をつけて頭を下げる。


「じゃあ、まずは挨拶からかな。僕の名はカタリィ。カタリって呼んでよ」

「カタリ? 君は何故さっき私達にあんな言葉を……」

「それは君達に会いたくなったからさ。こうでもしないと直接は会えないからね」


 キリエの質問に、カタリは涼し気な笑みを浮かべながら答えた。彼女は顎に手を当てて、そこから導き出された答えを口にする。


「つまり、トリを使って特異空間ゲートに導いた……?」

「どう言う事、キリエ?」

「上手く説明出来ないけど、この世界は、何か特別な世界って事だけは確かね」

「その認識はちょっと違うな。実は君達の世界の方こそが特別だったんだ。そう、君達の世界は物語だったんだよ」


 このシチュエーションに心当たりのあったマルルは、思わず大声を上げる。


「嘘? 私達が被造物?」

「僕はただ、君達にお礼が言いたかったんだ。有難う。漫画やアニメにも負けない物語を楽しませてくれて」


 カタリは彼女の言葉を否定も肯定もしない。それが当然の事実ならば、敢えて言葉にしなくてもいいと言う判断なのだろう。

 唐突に始まった一連のやり取りに理解が追いつかなかったキリエは、少なくとも目の前の彼に敵対意識がない事は分かったので、それで十分と軽く右手を上げる。


「あの、失礼します。私達、大切な仲間を探しているので……」

「まだ帰せないわ」


 彼女が踵を返そうとした時、カタリの傍にあったモニターから呼び止める声が聞こえてきた。そのシリアスっぽい展開に、魔法少女達は思わずモニターに注目する。


「ここから立ち去るには、記憶を消させてもらわないと」

「ま、お約束だよね。でもそれはトリを見つけてからでいい?」


 マルルはお約束のシチュエーションに条件を付け加える。このまま2人だけが元の世界に戻されそうな雰囲気だったので、それを恐れたのだ。

 この訴えを聞いたカタリは、少し淋しそうな表情を浮かべる。


「ゴメン。トリはこっち側なんだ」

「えっ?」


 この衝撃の告白には流石のマルルも言葉を失う。そこにトリがバサバサと羽音を立てて魔法少女達の前に降り立った。


「2人共、ここでお別れホ」

「だって、あなたは伝説のマスコット……」

「アレは設定ホ。君達の物語のバランスが悪かったから、調整役として参戦したんだホ」


 トリはあっさりと自分の役割のネタバレをする。目の前のぬいぐるみのようなフクロウは、物語に介入する特殊能力を持っているらしい。そう考えるとあのチート級の桁違いの能力の理由にも納得がいく。

 全ての謎が明かされ、自分達の役割にも得心したマルルは、改めて目の前のマスコットフクロウに話しかけた。


「お別れ……なの?」

「お前らとの旅、面白かったホ」


 トリはそう言うと、またどこかに飛び去ってしまう。真相が分かった今、2人はもうその姿を目で追うだけだった。

 やがて羽音は聞こえなくなり、場に静寂が戻ってくる。

 しかし、その静寂はさっきまでの静寂より更に静かになったように2人には感じられたのだった。


 ずうっとタイミングを見計らっていたバーグは、ここでAIらしく感情のこもっていない声で作業の開始を告げる。


「じゃあとっとと記憶を消させてもらいますね」

「ちょ、まだ心の準備が……」


 マルルが慌てて手を伸ばしたところで、彼女の記憶はぷつりと途切れた。



 気がつくとそこは朝の自室で、パジャマ姿の彼女はぬくぬくと布団にくるまっていた。窓からは朝日が射し込み、耳には小鳥たちのさえずりの声が聞こえてくる。

 まるで異世界モンスターの襲来などどこにもなかったかのように世界は再生されていた。

 マルルはベッドから体を起こすと、眠い目を擦りながらあくびをひとつ。そうしてキョロキョロを顔を動かして状況を確認する。


「あれ? まさか夢オチじゃないよね?」


 夢オチは物語では禁じ手のひとつとされている。自分が物語の登場人物だったとして、その禁じ手を使われたのだとしたらと考えた彼女は、作者に軽い怒りを覚えたのだった。


 起き上がったマルルは窓を開け、戻った世界を改めて確認する。そこには見慣れた平和な街の景色があった。

 彼女がしみじみと平和を実感していると、家の前で自分の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。


「マルルー、学校行こう」


 そう、それは親友からの登校のお誘い。マルルはすぐにスマホを見つけ出して日時と時間を確認し、速攻で出発準備を整える。

 必要最低限の身だしなみと教科書とかの準備を済ませて制服に着替えたマルルは、用意されていたトーストを咥えると急いで玄関を出た。


「ごめん、遅くなった」

「ふふ、おはよう」


 通学路を歩きながら、マルルは親友に話しかける。


「キリエ、覚えてる?」

「魔法少女でしょ、大丈夫、私達変身出来るよ。試したから」


 どうやらキリエも魔法少女だった頃の記憶を消去されていないようだ。それどころか、まだ変身も出来るらしい。このお約束な展開と違う流れに、マルルは頭を悩ませる。

 その理由を何度も頭の中で反芻はんすうした彼女は、あるひとつの結論に辿り着いた。


「まだ変身出来るって事はさ、また敵が出てくるのかも?」

「まっさかぁ……。これはアレだよ。きっと記念品なんだよ」


 キリエはカタリが自分達の冒険を称賛していた事を理由に、都合よく事態を解釈する。親友のその楽天的な考えに対し、マルルは笑顔で返すのだった。


 一方その頃、東京では――。


「ついに人工ゲートが完成したぞ!」

「おめでとうござまいす!」

「これで様々な問題が解決しますな!」


 とある研究所で、この世界と異世界とを繋ぐゲートの研究が実を結んでいた。まぁ、悪い予感しかしなかったよね。

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