なんでも屋“革詠”
風見☆渚
なんでも屋“革詠(かくよむ)”、開店です。
「おはよっすバーグさん。今日もお仕事頑張りましょう!」
「カタリ君、おはようございます。今日の予定は、浮気調査の報告といつものタバコ屋さんから毎度の自動販売機の補充依頼です。あと、猫探しの依頼がありますので、昼過ぎまでには戻ってきてください。」
「今日は大忙しっすね。」
「そうですね。昨日は一日やることがなさ過ぎて大掃除してましたから、今日くらいまともな仕事をしてもらわないと給料出せませんよ。頼りないカタリくんだけが頼りなので心配ですが期待してます。」
「今日もバーグさんの励ましはマイナスベクトル全開っすね。じゃぁ行ってきます。」
「はい。いつものファミレスで3時間後に来るよう伝えてあります。」
「3時間後?!だってファミレスまで歩いて10分じゃないっすか?僕が行くのに3時間もかからないっすよ。」
「そうですね。カタリ君の今までの現地到着最高記録は2時間23分42秒だったので、少し余裕を見て3時間と設定しました。では気を付けて早く行ってきてください。」
「了解っす!じゃぁ、行ってくるっす!」
バタン!
勢いよく出かけたて赤茶色の髪をした少年はカタリィ・ノヴェル。高校を中退して、このなんでも屋“革詠(カクヨム)”で働いている。
元気が良く真面目な性格をしているが、ドが付くほどの方向音痴で待ち合わせの時間に間に合う確立8%。だから、依頼主との待ち合わせには必ずかなりの余裕を持たせている。
そして、そんなカタリ君に可愛い笑みで悪態をつく美少女はリンドバーグ。カタリ君は知らないが、3年前飛来した隕石から出てきた高性能AIを搭載したアンドロイドである。
見た目はごく普通の美少女だが、アンドロイドだけあってパワーや計算能力は人知を超えた性能を持っている。しかし、地球に降り立って間もない彼女は言葉の使い方が上手くないせいか、本人は他人を褒めているつもりでも悪態になってしまう。ただ、優しい心を持つアンドロイドなので安心してほしい。
「社長。おはようございます。入り口脇に置いてある観葉植物にとまって何してるんですか?その木、折れやすいので気を付けてください。」
「あ・・・・」
勢いよく折れた植木の枝と共に地面に叩きつけられたが、鳥が落下してケガをするとか笑えない。
「あいたたた・・・羽が折れるかと思った。」
「大丈夫ですよ社長。その羽が飾り物で本当は飛べないって知ってますから。安心してください。地面を駆けずることしか出来ない鳥もたくさんいますから。」
「もう少し労って欲しい気もするが・・・」
「社長、お怪我はありませんか?いくらフクロウに擬態してても残念なくらい飛べないので気を付けてくださいね。」
そう、俺はこの会社の社長。
そして、トリ!
「ホーホー」
「社長。毛並みのお手入れは外でしてください。身綺麗にするのも大事ですが、掃除するの私なんですから。あと、いつまでとまり木してるんですか?トリのつもりですか?仕事してください。」
「ホォ⤵ホォ⤵・・・」
というわけで、このなんでも屋“革詠(カクヨム)”は社長と2人の社員で日々人々のために粉骨砕身働いているのだ!
「なにしてるんですか、社長?仕事してください。」
「・・・わかりました。ホォ⤵ホォ⤵」
事務所を出て2時間と55分、やっとの事で事務所から歩いて10分のところにあるファミレスに到着したカタリは、浮気調査の依頼主への報告を無事済ませた。
「ここ数日、ご主人の身辺調査を行いましたが・・・・完全に、黒でした。」
カタリの言葉に表情を無くした依頼主の女性は、手渡された書類を受け取ると、無表情のまま軽く会釈をし重たい足を引きずるように出て行った。
「こういう仕事が一番こたえるんだよなぁ。」
カタリは、ため息交じりにドリンクを飲み干し、次の現場へ向かった。
ちなみに、カタリは何故か目を瞑ったまま移動する方が目的地に早く到着するという特殊スキルを持っている。ただ目視した場所には絶対にたどり着けないという欠点もある。
目を瞑ったままのカタリが急ぎ足で次の現場へ向かう途中、誰かとぶつかってしまった。
ドスンッ!
「失礼。大丈夫ですか?」
「いやいや、僕の方こそちゃんと前を見て歩いていなかったので・・・・!」
相手の顔を見たカタリは驚いた。その男性はさっき報告していた浮気調査の対象相手だった。何故こんなところで?と思いながらカタリが考えを巡らせていると、急いだ様子でその男性は走り去ってしまった。
「怪我はないかい?本当にごめんね。私は急ぐから。」
「何処に行くんだろう?あ、もうこんな時間だ。急がなきゃ。」
男性の職場は3つ隣の駅にあり、事務の仕事をしているため外に出る事はまずない。そんな人が何故こんなところを歩いていたのだろうと考えているうちに、目的の場所に到着した。
「おばぁちゃん!おはようございます!」
「ゃあぁ?カタリちゃんじゃないか。今日はどうしたんだい?」
「今日は外にある自動販売機の補充を手伝いに来ました。」
手早く仕事を済ませたカタリが老婆に声をかけると、老婆は棚からお土産と言って袋詰めされたお菓子を手渡してきた。
「ぁありがとね。カタリちゃん。これ持っていきな。娘が彼氏に作ったらしいんだけど、渡しそびれたらしくて、いらないからって置いていったのさ。良かったら食べてくれるかい?」
カタリは手渡された菓子袋を手に、全速力で事務所へ向かった。
「カタリくん、おかえりなさい。奇跡的に昼過ぎ前までに帰って来れたなんて、とっても早かったですね。偉いですよ。では、早速次のお仕事の話を聞きましょうか。」
「はぁはぁ・・・その前にみ、水を・・・ガクッ」
床に倒れ込んだカタリは2Lの未開封ペットボトルをバーグから受け取ると、猫探しの依頼をしに来た女性の前に引きずられながら連れてこられた。
女性の話によると、1ヶ月ほど前から飼っている猫の姿が見当たらないらしい。ただ、完全に家の中で飼っていたから逃げ出す可能性はないはずだと言う。
「ごめんなさい。お昼ご飯食べてなかったから少し失礼しますね。」
カタリはさっき老婆からもらった菓子袋を上着のポケットから出すと、女性は驚いた表情でカタリに近づいた。
「なんであなたがコレを持っているんですか?!」
カタリが仕事でもらったという話を女性にすると、どうやら猫探しの依頼で来た女性の祖母がその老婆だった。そして、彼氏とうまくいっていないという話や、最近誰かに狙われているような気がするという話をし始めた。さらに、切手の付いていない脅迫めいた手紙も最近ポストに入っているそうだ。
彼女の話を聞きているカタリは、何か違和感のようなモノを感じていた。
心配な表情でうつむく女性を横目に、カタリはそっとバーグに耳打ちをした。
「この人、浮気調査の依頼で調べてた男の人の浮気相手ですよ。」
「本当なの?」
「だってここ1ヶ月ずっと見張ってた僕が見間違えるはずないです。」
「じゃぁ、1ヶ月誰かに見られてたってのはカタリくんだったの?」
「そうなるのでしょうか・・・。でも、脅迫状とか知りませんよ。」
猫の写真を置いて事務所を出た女性の背中を見送った二人は、改めて浮気調査で撮影した写真に目を通した
「でも、どういうことなんでしょう?」
「私にもわかりません。私より頭の悪いカタリくんなら確かにわからないでしょう。」
「ほっほっほっ。君たち私の存在を忘れていないかい?切り札と言えるこのフクロウ社長が、久々に現場に出て事件を解決してあげようじゃないか!」
「「けっこうです!」」
「二人とも、そういうところは絶妙なシンクロを見せてくるのだから。社長ショック・・・ホゥ⤵ホゥ⤵」
カタリは、依頼主の住所近辺を中心に猫を探すが、手がかりはもちろん目撃情報すらなかった。気を取り直してカタリがもう一度猫探しをしてきた依頼主の家に向かうと、浮気調査をしてきた女性が睨みつけるように猫探しの女性宅を凝視していた。
「な、何してるんですか?」
カタリの呼びかけに驚いたその女性は、慌ててその場を走り去ったがすぐカタリに追いつかれてしまった。
「はぁはぁ。なんで逃げるんですか?」
観念した女性はゆっくり話し始めた。
彼女の話によると、浮気調査の依頼は嘘で、実は猫を飼っている女性に好意を寄せているそうだ。そして、その女性をストーキングしている事も白状した。猫は彼女の分身だと言って家でひっそり飼っていたらしく、バーグの生傷をえぐるような説得によって無事飼い主の元へ返されたのだった。
ちなみに、浮気調査をされていた男性へは、猫探しの依頼を出してきた女性がストーカーしていたらしく、カタリと偶然出会った時はストーカーを辞めて欲しいという説得に行っていたらしい。
「なんて複雑すぎる関係なんだろう。」
「カタリ君。大人には大人の事情というモノがあるらしいですよ。頭の悪いお子様のカタリ君には難し過ぎると思うので気にしない方が良いでしょう。」
「そうだぞカタリ。私のように大人で紳士な・・・」
「「社長は黙っててください!」」
「ホゥ⤵ホゥ⤵・・・」
こうして“革詠(カクヨム)”に舞い込んできた依頼は無事解決した。
次はどんな仕事が舞い込んでくるのか。まだわからない。
「カタリ君。明日は、ファミレスから人員不足だからシフトに入って欲しいという依頼が入ってます。あと、迷子のカメレオンを探して欲しいという依頼があったので受けておきました。」
「バーグさん、その仕事ってどっから依頼が来るんですか?」
「よくわかりませんが、ファミレスの店長さんが先日大きな花束と一緒に仕事の依頼を持ってきてくれました。」
「あ、そうなんすか。」
なんでも屋“革詠” 風見☆渚 @kazami_nagisa
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