私がアイドルになるまでの少し不思議な物語
にゃべ♪
初めてのフェス!
アイドルになりたいと願った私は鎮守の森に住む願いを叶えるフクロウ、トリの力を借りて見事に5人組アイドル『クリスタル☆エレメンツ』のメンバーになった。
そこで私はグループのリーダーやらせてもらっている。
活動を初めて半年以上が経過し、アイドルとしての仕事も順調に増え、この間は主演映画も上映された。結構評判も良かったから今後はもっと仕事が増えそう。
そんなある日、またマネージャーが目を輝かせて声を弾ませながら新しい仕事を持ってきた。
「みんな! フェスの仕事が決まったよ!」
「フェス! どんなフェスなんですか?」
この話に嬉しくなった私はつい声を弾ませる。マネージャーは若干声のトーンを落とすと、メガネの位置を直しながら詳細を教えてくれた。
「そこまで大きいフェスじゃないんだけど、今年で3回目になるカクヨムフェスって言うの」
「どんなフェスでもいいじゃん、私達初フェスだよ!」
「だね、爪痕残さなきゃ!」
メンバーの深雪と夏樹がみんなに向かって話しかける。うん、そうだ。私達にとっての初フェス! これからグループが大きくなるためにきっといい足がかりになる。
よし、レッスンを頑張ろう。フェスで最高のパフォーマンスを見せるために!
レッスンを終え、クタクタになって家に帰ると、リビングで家族がテレビを見ていた。私がその液晶画面に目を向けた時、信じられないものを目にしてしまう。
「ちょ、何これ。ドラパレがテレビに出てる!」
ドラパレとは勝手に私達をライバル視している『ドラゴン☆パレス』と言う5人組アイドルグループ。あの子達、いつの間にテレビのレギュラー番組を……。
「この子達結構面白いよね。あ、それとね、名前、改名したそうよ。確か、『ドラゴン☆ブレス』だって。強そうな名前よねぇ」
「ちょ、おかーさん、私達の応援も忘れないでっ!」
「あはは、忘れるもんですか。頑張って! 応援してる」
それにしてもいきなりテレビのレギュラーだなんて。きっと向こうの運営にテレビ局のコネのある人がいたんだ。差をつけられちゃったなぁ。
ライバルの主演番組を見ていたら、何だかやる気がなくなっちゃった。今夜は早く寝よう……。
結局この悔しい気持ちは一晩寝たくらいでは収まらず、私は鎮守の森に直行する。
「悔しいよトリえもーん!」
私は目の前に現れた全長30センチくらいの丸々としたぬいぐるみのようなフクロウに泣きついた。
抱きつかれたトリは若干迷惑そうな顔をしながら、その可愛らしい翼で私の頭をなでる。
「他と比べるの良くないホ」
「だってだって」
「千春、いやクリエレの良さはいつかきっと伝わるホ。続ける事が大事なんだホ」
トリは私を慰めるように優しく言葉をかけてくれる。フクロウの柔らかい言葉を聞いている内に、私の心に刺さったトゲトゲが少しずつ抜けていくような感じがした。
うん、私に出来る事をすればいいよね。結果は後からついてくるよね。
すっかり心が軽くなった私は、トリの翼を握って感謝の言葉を伝える。
「有難う、ちょっとスッキリした」
「仕方ない、そんな千春にお守りをあげるホ」
トリはまたしても自分の体の中から何かを取り出した。それはシンプルなデザインの手のひらサイズのブローチ。中央に楕円形の宝石がはめ込まれ、周りを古風な装飾が囲んでいる。
「これは?」
「支援型AIのバーグさんホ。話しかければ色々アドバイスをしてくれるホ」
「AI……」
正直、トリの口から出たAIと言う言葉に違和感を感じないでもなかったけど、今までの実績から考えて、悪いものではないだろうと文句はゴクリと飲み込んだ。
きっと、話しかければ色々と私の役に立つようになっているのだろう。
「分かった。サンキュ」
ブローチをもらった私はそれをつけて家に帰った。このちょっとしたオシャレアイテム、何故か周りには注目されないみたいで、つけて帰ったのに家族の誰からも追求されない。やっぱりトリアイテムって不思議。
私がいなくなった後、トリは森の中で1人考えを巡らせていた。
「それにしてもライバルが急に売れ始めたのはどこか怪しい気もするホ……」
私は試しにブローチを付けたまま、オリジナル曲をアカペラで歌ってみる。
「バーグさん、どうかな?」
「うん、いい感じ。だけどちょっとパンチが足りないかな」
おお、確かにアドバイスをしてくれた。宝石にAIが仕込まれているのは間違いないようだ。しかもアドバイスもかなり的確。
私はバーグさんに助言を求めながら、自分の技術を磨いていった。
「バーグさん、どうかな?」
「良くはなってきたけど、もっと自然に出来ない?」
「うっ……」
バーグさんは正直だ。そうして褒めても褒めるだけでは終わらない。だからこそ、大絶賛させてやろうと本気にもなる。歌もダンスもトーク力までも、バーグさんのアドバイスには全く隙がなかった。
ついには、知名度アップのために続けている趣味の小説の執筆にまで口を挟む始末。
バーグさん曰く、本来の彼女は小説執筆の応援や支援用に生み出されたものらしい。なので小説のダメ出しの方が辛辣だった。ひいい~っ。
そうして自主練をゲーム感覚で楽しんでいる内に私の技術も底上げされてきたのか、バーグさんからも高評価だけをもらえるようになってきていた。
「千春、よくなってきたんじゃない?」
「そっかな、えへへ」
バーグさんに褒められる事が自信に繋がり、更に練習に熱が入る。うん、フェスでは最高のパフォーマンスが見せられそうだよ。
その頃、『ドラゴン☆ブレス』の出演するTV番組のプロデューサーに丸っこいヘビが挨拶に向かっていた。そう、それはこのアイドルを支援する謎のヘビ、ナロンだ。
ヘビがテレビ局に入り込むだけでも異常な事態なのに、誰もその事に違和感は抱いていない。それはナロンが特別な能力発揮していたからだ。
「プロデューサーさん、よろしくお願いしますニョロ」
プロデューサーと対面したナロンはその額から特殊な催眠電波を発生させる。この電波を浴びた人間は発信者の思い通りにされてしまうのだ。
プロデューサーもすっかり瞳の輝きを失い、ナロンの傀儡と化してしまっていた。
「そう言う事だったのかホ」
ドラゴン☆ブレスが何故主演TV番組を持てたのか、そのからくりを突き止めたトリはこの丸っこいヘビに詰め寄る。
ヘビににらまれたカエル、いや、フクロウににらまれたヘビは、冷や汗を大量に流しながら弁解をした。
「ち、ちが、僕はひとみを有名にさせたいだけニョロッ!」
「うっさいホー」
願い主に支援はしても、肩入れしすぎるのは御法度。その掟を破ったナロンにトリは一切の容赦をしなかった。トリの一撃でナロンは空の彼方に吹き飛ばされていく。
いずれは、願いを叶える動物精霊界の警察がナロンを罪に問う事になるだろう。
こうして正気を取り戻した番組プロデューサーが、すぐに番組自体の見直しを行ったのは言うまでもない。
「ねえ知ってる? ドラブレの番組、ドラブレ自体が降板されたらしいよ」
「えっ? 一体何があったんだろ?」
この『ドラゴン☆ブレス降板事件』は私達のグループ内でもちょっとした騒ぎになる。裏でトリが動いていた事は私も知らなかったので、きっと業界内の何らかのトラブルだったのだろうと勝手に解釈した。
そうして、浮足立っているメンバーに喝を入れる。
「よそはよそ、ウチはウチ! さあ、フェスでやる新曲のチェックするよ!」
「何か千春、気合入ってるね」
「私らも負けてらんないね!」
私の気迫はメンバー内にいい感じの影響を与え、全員のパフォーマンスにも磨きがかかっていく。
これならきっとフェスでもいい結果が出せるだろう。
技術を磨いている内に時間はあっと言う間に流れていき、ついにフェスの当日がやってきた。私達は会場であるKADOKAWAホールに足を踏み入れる。
カクヨムフェスは全部で40組のアイドルやバンドなどが出演する中規模なフェスだ。初フェスと言う事もあって、私達は全員カッチカチになっていた。
「ききき、緊張するね……」
「出番、次だけど、トイレとか大丈夫だよね?」
「手順、間違えないようにしなくちゃ……」
「人と言う字、人と言う字……」
「気合気合気合……」
私も、夏樹も、深雪も、
私達は円陣を組んで、それぞれに手を重ね合わせた。そうして、代表としてリーダーの私が音頭を取る。
「よっしゃ、いくぞ!」
「「「「おー!」」」」
その後、気合十分で私達は自分達の持ち時間いっぱい最高のパフォーマンスを披露した。キレキレのダンス、曲に合わせた情緒豊かなボーカル、曲の間の客席を沸かせるトーク、今の自分達の最高を見せる事が出来たと思う。最高の拍手に迎えられて、私達は至福の瞬間を味わっていた。
その後の握手会でも多くのファンが集って、現場は最高に盛り上がる。フェスでファンになった新規の人も多く、私達は確かな手応えを感じたのだった。
それからも私達は地道に活動を続け、ファンを増やし続けている。困った時はトリにも頼ったりなんかして。
目指すは多くの人々から応援されるトップアイドル。このメンバー達と共に力を合わせれば、その夢もいつかは叶うはず。いや、きっと叶えてみせるんだ。
私がアイドルになるまでの少し不思議な物語 にゃべ♪ @nyabech2016
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