活字文化の復活を目指して

水谷一志

第1話 活字文化の復活を目指して

 一

 「あの…、この小説なんかオススメなんですけど…。」

「…小説?興味ないな~。」

「あっでも試しに最初だけでも読んでみたら…。」

「だから興味ないって!」

カタリィ・ノヴェル、通称「カタリ」は今日も人に小説を勧めては、断られていた。

「カタリさん、今日もダメでしたね…。」

そうカタリに語りかけるのは、カクヨム内のお手伝いAI、リンドバーグ、通称「バーグさん」だ。

「やっぱこの時代だからな…。『詠目(ヨメ)』使ってもダメか~。」

そうカタリはタブレットの向こう側に存在するバーグさんに話しかける。

ちなみに「詠目(ヨメ)」というのは、人々の心の中に封印されている物語を見通し、一篇の小説にする能力のことだ。

「大丈夫!カタリさんならできます!私も頑張るのであきらめないでいきましょう!」

「あ~バーグさんが人間だったらな…。絶対小説読んでくれる人増えるよ。」

「そ、そうですかね?」

「ま、色仕かけでね。」

「ちょ、ちょっとカタリさん、それセクハラですよ!」

 バーグさんはカタリにそう言われて本気で怒ったので、

「あ、ごめん、今の冗談のつもりだったんだけど…。」

とカタリは平謝りする羽目になった。

 …そう、この2人が中心になってやっていること、この2人の壮大な目標、それは…。

 「失われつつある活字文化の復活」だ。


 二

 西暦21☓☓年。科学・テクノロジーは進歩し、人々の暮らしは昔に比べて格段に便利になった。

 しかし物事には良い面もあれば悪い面もある。その悪い面とは…、

 人々が小説を含む活字を読まなくなったことだ。  

 テクノロジーは進歩し、人々はスマートフォンに代わる通信機器を手にした。それはとても便利な代物なのだが…、そこに活字は存在しない。

 そう、音声だけで全てのやりとりが完了してしまうのだ。

 また、これを受け政府も「活字反対派」に牛耳られていた。その反対派の言い分は、

 「小説を始め活字文化は旧時代の産物である。『音声文化』が発達した今、『活字文化』を普及させる意味がない。」

 …というものである。

 しかし、その本音は、

 「中途半端に活字を人々が読みだすと、反政府運動につながる。

 国民は政府の管理する『音声』だけ聞いていればいい。」

 というものであった。

 要するに、政府は検閲のしやすい『音声文化』のみを国民に浸透させ、小説などの『活字文化』の影響を抑えようとしているのだ。

 『そんなのは、民主主義とはいえない…。それに、人々に小説を読む楽しさ、活字を読む楽しさを思い出して欲しい!』

 カタリ、バーグさんは、そんな昨今の状況に関して、強い反対の思いを持っていたのである。

 そう、彼らは今では数少ない、「活字推進派」なのだ。


 三

 「カタリさん、面白いもの発見しました!」

そうバーグさんがカタリに言ったのは、そんなある日のことである。

 「何?バーグさん?」

「…実は私、『叙述トリック』の小説を探してたんです!

 叙述トリックは小説ならではの表現だし、それに興味を持ってもらえれば活字文化が復活するんじゃないかと思って…。」

 さすがはバーグさんだ、カタリはそう思った。こういった機転が利く所がバーグさんの長所である。

 「それで…、いいの見つかった?」

「はい!ちょっと古いんですが…、2019年に執筆された『水谷一志』という名の作家の作品がヒットしました!」

「へえ~!それって面白いの?」

「はい!うまく叙述トリックが使われている作品がいっぱいあって…、これを勧めれば突破口が開けるかもしれません!」

「…ちょっと読ませてくれる?」

「もちろん!」

そう言ってバーグさんは自らの住むタブレット端末から、水谷一志の小説をアップさせる。

 そして…。

「バーグさん、これいけるよ!面白い!それにこれは小説ならではの表現だね!」

「でしょ!」

「よし、じゃあ今からこの小説、水谷一志の小説を売り込んでいくかな!」

気合十分といった様子でカタリがそう告げると、

「その意気ですカタリさん!」

バーグさんもそれに続く。

 そう、それは「活字文化の復活」前夜になる日のできごと―。


 四

 2019年。

 最新作『活字文化の復活を目指して』の冒頭を書きあげた『水谷一志』は、休憩がてらにコーヒーを飲んだ。

 『ちょっとこの冒頭部分はナルシストっぽいかな…。』

 水谷一志はそう思わなくもないが、とりあえずこのまま書き進めると決めている。

 今まで水谷一志はとある小説のコンテストに参加していた。そして、この作品、「活字文化の復活を目指して」が、その最後となる。

 『もう、これで最後か…。』

そう思うと、終わってホッとするやら、また寂しくなるやら、複雑な気持ちになる。

 最後に水谷一志はふと、まだ見ぬ読者に心の中で語りかけた。


 ―今まで僕の小説を読んでくださったみなさん、ありがとうございました!

 また、「カクヨム」内でお会いしましょう!― (終)



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活字文化の復活を目指して 水谷一志 @baker_km

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