17 エピローグ 前世と現世と来世。
エピローグ
前世と現世と来世。
ある日、僕は古い神社で神様(一人の幽霊の女の子)と出会った。
「……ねえ、樹。これ、どういうこと?」
あざりは樹の書いた日記を読み終えてそう言った。
「どうって、よく書けてるでしょ?」黒猫と遊びながら樹はいう。
「……僕、こんなに泣いてばっかりじゃなかったよね?」
「そんなことないよ。あざりはずっと泣いてたよ。それに僕に、ばいばいって言ったときも、笑っていたけど、やっぱり泣いていたしさ」
自信満々の態度で樹はいう。
「これ、僕が預かってもいい? (永遠に)」
「だめ。このあと、二宮さんにも読んでもらうんだからさ」
その樹の言葉を聞いて、琴音に怒られる樹の姿をあざりはありありと想像することができた。
楠木樹と東雲あざりはいつもの東雲神社の境内の中にいた。時期は夏の終わり。夏祭りも終わって、秋の始まりが感じられるようになったころ。
なぜ消えてしまったあざりがここにいるかというと、それはあざりにも、(そして樹にも)よくわかっていなかった。
ただ、あざりは目覚めると、東雲神社の中で横になっていた。
自分が消えてしまった、と言う感覚は確かに残っていたのだけど、あざりはなぜかもう一度、幽霊としてだけど、現世に留まり続けることができていたのだ。(なにかやり残したことがあるのかもしれないし、あるいは神様の起こしてくれたつかの間の奇跡なのかもしれない。あざりは自分が消える瞬間、このまま樹と一緒にいたいと願っていた)
そして、樹の前に突然あらわれて、樹をすごく驚かせた。(仕返しができてあざりは嬉しかった)
そして二人はいつもの日常に戻った、というわけだった。
今の二人の現在の目的は、あざりをきちんと成仏させることだった。
あざりの協力を得て、樹は生きる力をもらった。
そのお返しとして、樹はあざりが成仏できるように協力をすることになったのだ。
「ねえ、あざり」
「うん? なに?」あざりはいう。
「もし、あざりがきちんと成仏できたとしてさ、あのときみたいに、僕の前から消えてしまったとして、……僕たち、今みたいに、ううん。今よりももっとちゃんとした形でまた出会えたりするかな?」
樹はいう。
「お互いのことを忘れることなく、ちゃんと覚えていて、どこかで偶然、再会することができるかな?」
「それって来世でって意味?」あざりはいう。
「うん。来世で。……あるいは、現世でもいいけどさ」樹は言う。
あざりはにっこりと幸せそうに笑うと、「そんなの、僕にもわかんないよ」と自分のとなりに座っている樹に嬉しそうな声で、そう言って、それから夏の終わりの夕焼けの空を見上げた。
樹も同じように真っ赤な夕焼けの空を見上げる。
「もし、来世があるとしてさ、君のこと僕が忘れてしまってさ、覚えていなかったら、ごめんね」とあざりは言った。
「大丈夫だよ」といつきは言った。
「大丈夫?」あざりは言う。
「うん。そのときは、きっと僕があざりのことを覚えているから。あざりのことを覚えていて、あざりがどこにいても絶対にあざりのことをひとりになんてしないから」
いつきはあざりを見て、少し落ち込んでいるあざりに向かってそう言った。
「……ありがとう、樹」
少しだけ間をおいてから、にっこりと楠木樹の顔を見て笑って、東雲あざり(孤独な幽霊の女の子)はちょっとだけ照れながら、そう言った。
未来のことは誰にもわからない。
でも……。
古い神社の床の上にある、二人の手は今、確かにしっかりと結ばれている。
東雲 しののめ 終わり
東雲 しののめ 雨世界 @amesekai
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