10個のお題を無理やり全部投入したら、こんな小説になりました!

鷹司

小説家を目指しているみなさんへ!

「うーん、全然進まないなあ……。完全にスランプ状態だよ……」


 ぼくはパソコンの画面を難しい顔で睨みながら、うんうんと唸り声をあげていた。小説投稿サイト主催の新人賞を目指して小説を書いているのだが、このところ執筆ペースに停滞ムードが漂っていた。


「こういうときは神頼みにすがるしかないか」


 ぼくは雑貨屋で買ってきたフクロウの置き物を手に持った。昔からフクロウは不苦労に通じるとかで、縁起がいいらしいのだ。単なる語呂合わせでしかないが、執筆に行き詰っているぼくにはもうこれしかない。この『フクロウは最後の切り札』といっても良かった。


「どうか斬新なアイデアが舞い降りてきますように」


 ぼくはフクロウにお願いをした。


 そもそも、ぼくが小説家になりたいと思うようになったのは、ある言葉に出会ったのがきっかけだった。それは、『紙とペンと想像力』さえあれば誰でも小説は書ける、という力強い言葉だった。


 その言葉を信じて、ぼくは小説家になるという夢に向かって走り出したのである。当時のぼくは小説家になるというのが一番目の夢で、『二番目』の夢は研究者になることだった。


 小説家を目指すにあたって、ぼくは自分にひとつの『ルール』を設けた。どんなに忙しくても、どんなに疲れていても、必ず一日一回、執筆する時間を作るということ。


 そうやって病気のとき以外は、毎日、小説の執筆に励んだ。


 でも一人きりで書いていると、どうしても精神的に参ってしまうことが多々あった。そこでぼくは、ぼくの相手をしてくれる架空の存在を作り出すことにした。流行りのAI技術を使った、ちゃんと人間の相手をしてくれる仮想のキャラクターである。その名は『バーグ』ちゃん。


 ぼくが疲れて執筆が進まないときには――。


「作者様、スゴイ! 今日はもう3ページも書いたんですね! もしかして時間の進み方がおかしかったんですか?」


 と、絶妙なイヤミを言って、ぼくのやる気を起こしてくれる。


 また誤字脱字を何回もすると――。


「作者様、スゴイですね! 小学生でも書ける漢字をわざわざ間違えるなんて、もはや神業としか思えないです!」


 と、辛らつな言葉を容赦なく投げ掛けてくれる。


「ねえ、バーグちゃん、もっと優しくしてくれよ。これでも真面目に書いているんだからさ」


 たまにバーグちゃんに本気で泣き言を言ってしまうこともあった。


「真面目というわりには、文章中に裸とか、胸とか、肌とか、なぜか身体的な単語ばかりが並んでいるように感じるのですが、それはわたしの気のせいですか?」


 などと、返答に困る返しまでしてくる始末だった。逆に言うと、それだけバーグちゃんはAIとして完璧なのだった。


 いつしかぼくとバーグちゃんの関係は『ラブコメ小説によく出てくる、気の弱い少年と勝ち気な幼なじみの少女みたいなシチュエーション』になっていた。


 とにかく、こうしてぼくはバーグちゃんの罵詈雑言の力で背中を無理やり押されて、今日も執筆に励んでいるところだった。


「作者様、フクロウをずっと見つめていても、作品は出来上がりませんよ。それでは『不苦労』じゃなくて、苦労を負う――『負苦労』になってしまいますよ」


 バーグちゃんのいつものブラックユーモアが炸裂した。


「ああ、分かっているよ。このフクロウはあくまでも気を紛らわすためのものだから」


 ぼくは再びパソコンの画面に目を戻した。


「さあ、書くとしようか」


 フクロウのお陰か、はたまたバーグちゃんのお陰か、そのあとは執筆ペースが上がって、順調に書き進めていくことが出来た。


 そして半年をかけて、ぼくはようやく小説を書き上げた。あとは添削と仕上げの作業を済ませて、新人賞に応募するだけである。


 しかし、書き上げたことで気が緩んでしまったせいか、ぼくは応募締め切り時間ギリギリまで作業する羽目になった。


「作者様、応募の締め切りまであと四分ですよ! 応募処理に使う時間の一分を引いて、作品の仕上げに使える時間は残り三分です! この『最後の三分間』をしっかり使ってください!」


 バーグちゃんが急かしてくる。


「分かったよ、バーグちゃん!」


 ぼくは最後の三分間を使って、作品の最終チェックを行った。


「よし! これで完璧だ! さあ、この小説を新人賞に送るぞ!」


 締め切りまであと一分。ぼくは書き上げた小説を指定された応募フォームから送った。


「この作品なら絶対に新人賞を取れるはず!」


 すべての作業を終えてベッドに横になると、すぐに眠りに落ちた。よっぽど疲れていたのだろう。


 辛い執筆から解放された反動か、翌朝は『最高の目覚め』だった。これであとは吉報を待つだけである。


 それから半年後――ぼくのパソコンに受賞を告げるメールが一通届いた。


 ――――――――――――――――


「あの日からもう三年の月日が過ぎたんだよな――」


 ぼくは壁のカレンダーを見つめながら、感慨深げにつぶやいた。今日はぼくが賞を貰ってから『三周年』にあたる記念すべき日であった。


 いつもの朝の習慣に従ってパソコンを立ち上げる。AIのバーグちゃんのプログラムも一緒に起動する。


「カタリくん、おはよー!」


 ぼくの名前は香取かとりなのだが、バーグちゃんは勝手にぼくにカタリというあだ名をつけて、そのあだ名で話し掛けてくる。AIに人間らしさを組み込んだら、そうなってしまったのである。バーグちゃんは日々進化しているのだ。


「おはよう、バーグちゃん」


「ねえねえ、今日は何の日か分かる? とっても大切な日なんだよ?」


 バーグちゃんが訊いてきた。


「もちろん忘れるわけがないだろう。今日はぼくが賞を貰った日だよ」


「はい、正解でーす! 『おめでとう!』」


 パソコンの画面の中で、CGで描かれたバーグちゃんが嬉しそうに飛び跳ねている。


 三年前の今日、AI研究の成果が認められて、ぼくは賞を貰った。ぼくのAI研究の内容とは、言うまでもなく仮想キャラクターのバーグちゃんのシステムについてである。


 この三年の間に、ぼくは新進気鋭のAI研究家として数々のメディアに紹介され、それなりの名声を得た。その反面、諦めざるをえないこともあった。


 ぼくは三年前に新人賞に落ちてから小説を書いていない。AI関係の仕事が忙しくなって小説を書いている時間がとれなくなったせいでもあるし、また小説に懸ける情熱がAIに向かったせいでもある。


 今でもときどき考えることがある。


 もしも三年前に応募した小説で新人賞を受賞して、小説家としてデビューしていたら、今頃ぼくはどんな人生を送っていたのだろうかと――。


 もしかしたら、小説家として大成していたかもしれない。


 ひょっとしたら、小説家とAI研究家の二足のわらじを履いた生活をしていたかもしれない。


 あるいは逆にどっち付かずになって、どうしようもない生活を送っていた可能性もある。


 でも、今だからこそ言えることがひとつだけある。



 今のぼくがこうしていられるのは、夢を追いかけて毎日欠かさずに小説を書き続けた、あの頑張った日々があったからこそのお陰であると。




 だから、まだ日の目を見ない未来の小説家候補のみなさんへ、こう言いたい。




 あなたの『今の頑張り』は、必ず『未来のあなた』に繋がっているはずだから!




 小説家になるという夢が破れて、他の未来を進んだぼくから、今このサイトを通じて小説家を目指しているみなさんへ、エールを送ります!




『 フレー!  フレー!   みんな!


 ファイトだ! ファイトだ! みんな!


 負けるな!  負けるな!  みんな! 』




みなさんの書いた小説が店頭に並ぶ日を心から楽しみに待っています!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

10個のお題を無理やり全部投入したら、こんな小説になりました! 鷹司 @takasandesu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ