どこまで口を出されたらウザいと感じますか?

御剣ひかる

やっぱりわたしがいないとダメでしょう?

 カクヨムの作者をサポートするというAIができたそうだ。

 割とかわいらしい女の子の容姿をしたソレはリンドバーグっていう名前らしい。


 別にAIに無理に人間っぽい形なんて与えなくてもいいんじゃないか? と俺は思うんだけど。

 スケジュール管理とか、調べものとかやってくれるみたいだから、そっちの機能さえしっかりしてくれていればいい。

 そう思ってインストールした。


 少しして、モニターの一角に案内と同じイララストのキャラが現れた。


「はじめまして作者様。リンドバーグです。バーグさん、と呼んででいただけたら嬉しいです。これから全力で作者様のサポートをさせていただきます。よろしくお願いします」


 AIの女の子は、ちょこんとお辞儀をした。

 執筆の時にサポートアプリも立ち上げておくと、いろいろと便利らしい。

 なら早速試してみるか。


 俺はファンタジー小説を連載している。

 いつものようにカクヨムの編集画面に直接書き込んでいると、パソコン画面のサポートAI、バーグさん、だっけ? 彼女の頭上に「!」マークが点滅している。


 なんだろう? クリックしてみる。


「作者様、この文脈だとここは『獲物』ではなくて『得物』です」


 誤字ってたのを教えてくれた。


「ちなみに『得物』は広義で武器のことですが、『最も得意とする武器』という限定的な意味や『得意な技』という意味もあります」


 そうなんだ。じゃあこのキャラの得意武器は曲刀って設定もひそかにつけておこう。

 キャラ設定の幅が広がったぞ。

 なかなか優秀なAIだな。


 俺は改めてバーグさんの機能紹介を見てみた。


 自分の日常のスケジュールと書いている作品のあらすじ、完結目標日時をアプリのスケジュール欄に記入しておくと、一日にどれぐらい書けばいいかの管理なんかもしてくれるみたいだ。

 すごいなAI。

 バーグさんの評価が一気に上がった。




 ……上がったんだけど。


「作者様、もうおやめになるのですか? インターネットの閲覧などに寄り道をしているから目標字数に全然足りていませんよ」

「作者様、ここの語尾にブレがあります。もう結構長く小説を書かれているのにこの手のミスが減らないのは注意力散漫ですよ」

「作者様、今日が更新予定日ですがまだ書きあがっていないのですか? それでは三十人のフォロワーさんががっかりなさいます。更新予定日をあまり頻繁に遅れてはせっかくのフォロワーさんが離れてしまいますよ。それでなくともあまり多いフォロー数とは言えないのに」


 判ってる、判ってるって! 最後余計だ!


 なんか使い続けてたらバーグさんの口数が増えて生意気になってきたんだけど。

 これ仕様? こういうのだけカットできないのか?

 ただのAIなんだから、淡々と調べものとか誤字の指摘だけしてくれればいいんだよ。


 便利よりウザいが勝ってきたから、俺はアプリを停止した。

 でもさすがに削除まではしなかった。

 ちょっと使いたい時もあるだろうから。




 バーグさんがあれこれと口出ししてこなくなったから、スッキリした気持ちで作品を書ける。

 作品書けと尻を叩いてくれるのはありがたかったけど、立てなくなるまで叩かれてる気分になってたし。

 バーグさんのいないモニターは、なんか広く感じる。


 さて、書くか。

 えっと、不愛想、って意味の類語で何かいいのないかなぁ。

 ……こんな時、バーグさんなら、さっと答えてくれるんだよな。語源とかことわざの由来なんかも教えてくれるし。

 いやいや、あいつに頼るのはウザすぎる。こんなことも知らないのかとか言われるのがオチだ。

 俺はおとなしく「類語辞典」を開いた。




 バーグさんを開かなくなって一か月。

 前よりも連載のペースが落ちてしまった。

 作品のフォロワーさんが三人も減った。

 元々、二日置きに更新と謡ってたのに一週間遅れるとか増えたからなぁ。


「もう、作者様はだらしないですね。しっかり書いてくださいよ」


 こんな時、バーグさんならこう言うんだろう。

 不機嫌そうなふくれっ面を思い出して、思わず笑った。


 俺は久しぶりに、執筆支援アプリを立ち上げた。


「作者様! お久しぶりです!」


 とっても元気そうで嬉しそうなバーグさんがモニターの隅っこに現れた。

 バーグさんは画面内でぴょんぴょん跳ねて、再会した喜びを全身で表している。


「もう呼び出してくれないかと思いましたよぉ」


 涙の粒まで目に浮かべられちゃ、こっちもさすがに嬉しくなる。


「またよろしくな。けど、あんまり口うるさくしないでくれると助かる」

「それは作者様次第ですよ。わたしは執筆を支援するためにいるのですから作者様がサボったら口うるさくもなります」


 まぁ、そうなんだけど。


「それでは早速、作品のチェックをします。――あぁっ! 誤字三か所、脱字一か所、文章の揺れもあります! それにスケジュールが大幅に遅れてますね。これだから作者様は――」


 バーグさんのウザい指摘を受けながら、俺はなぜか笑ってた。


(了)

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どこまで口を出されたらウザいと感じますか? 御剣ひかる @miturugihikaru

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