カクヨムバトラーKACIO(King of AI Character Identification Operation)

ハイロック

第1話「カクヨムバトラーを君は知ってるか」

KACIO(King of AI Character Identification Operation)


「カクヨムバトル 文字認識AI 最強決定戦」というゲームは通称KAC10と呼ばれている。


 本当は10じゃなくてIOなのだが、いつの間にか10で統一されるようになり、知らない人からしたらこの戦いは、いつも10回目だと思われる。

 まあいいのだけれど。


 さて僕はこのゲームに初期から参加してるのだが、何のことだかわからないだろうから簡単に説明しておこう。文字認識ソフトウェアの向上を目指した電機メーカーのKASINOが作ったゲームソフトで、いかに早く自分の開発したAIに文字を判読させるかという戦いである。

 つまらなそう……?

 まあ待ってくれ、これが夢中になる要素があるんだ。

 

 対戦はオンライン上で、それぞれのプレイヤーが作ったキャラクターが魔法を駆使して戦うというゲームになっている。

 まず、プレイヤーは専用の「マジックシート」というQRコードが付いた紙を購入する。

 そしてプレイヤーは、その紙に決められた魔法術式を書く。例えば炎の魔法を使いたければ、『汝が呼び起こし紅蓮の炎、天を焼き尽くす破とならん カオスフレイム』というやたら長い言葉を書かなければいけない。

 そしてこの言葉を、カメラで読み取らせて判読させる。見事に認識が成功すれば、

魔法は発動し、相手にダメージを与えることができるのだ。

 そして魔法術式は長ければ長いほど威力を増す。


 つまり、長い言葉を高速で「カク」ことができるものがこの戦いに圧倒的に有利であり、高速で書いた雑な字をいかに正確にAIが「ヨム」ことができるかで勝敗が決まるのだ。

 そして重要なのは、AIの調教である。

 自分の字を普段からAIに覚えこませなければいけない。高速で書いて乱れた字でも正確に判別できるように、何パターンも何パターンも文字を書いては、AIには覚えさせていく。これをマメにやるやつが最高のカクヨムバトラーなんだ。


 さて、僕の相棒となるAIがミニスカ美少女型のAI「リンドバーグ」である。AIは自分で設定できるので、動物でも男の屈強な戦士でもいいのだが、やはり多くのカクヨムバトラーは美少女を使いたがる傾向にある。

 まあそりゃあそうだよね。

 逆に言うと、美少女型を使わないこだわり型は手ごわいと相場が決まってる。

 今のランキング1位は美少女型ではない。


『さあ、今日もあなたのへたくそな字を私に教え込んで!』

 今日も僕はリンドバーグに調教をおこなう、なんだかエロいと思った人はエロゲのやりすぎだ。ボーカロイドの音の調整を調教と言っただろう、同じだよ。

 さっそく、ひたすらに文字を書きなぐり、リンドバーグに読ませる。読み間違ったら正しく訂正するという作業を繰り返す。


 そして書くたびにリンドバーグは僕にコメントを出す

『速く書けてますね!下手なりに』

『すごい! もう50字も書いたのですかいつもそのペースで書いてくれると嬉しいのに!』

 こんな設定を入れた覚えはないのだが、このリンドバーグは素直にほめることをせずに必ず軽いディスりを入れてくる。なんだろう、デフォルトなのかなあと思って、友達に聞いたが、友達のやつはそんなことを言ってこないらしい。


 まあいいか、今ではなんだかそっちの方が心地が良くて、逆に楽しくなってきてしまった。僕はどMなんだろうか、まあ最もひたすら文字を書くことを要求されるこのゲームは、どMじゃなければ務まらないだろうが。


 さてそろそろ今日のランク戦をやるか。僕は今日本23位という結構なランカーなのである。そして現在のところ10連勝中、さらに伸ばして10位以内をまずは目指したいところだ。

 僕はパソコンの画面の中のランク戦をクリックする。マッチング中と表示されすぐに対戦相手が見つかった。

 相手は「カタリィ・ノヴェル」。

 ほう珍しいな、男のキャラクターを使ってくるとは。大体女性なんだよなこの場合、対戦相手が女の場合は、AIに頼るというよりは自分のスキルで勝負する傾向にある。

 読める字を素早く書くのである。つまり僕とは全く逆のタイプなのだ。


 ――READYの文字が出る。そして画面にはお互いのカメラの映像が映し出される、映像にはお互いの手元のマジックシートが映し出され、何も書いていないことを確認する。

 もし初めから何か書いてあった場合、その時点で失格だ。

 

 ……3,2,1スタート!

 お互いに高速で文字を書きあう。


「流れよ水! アクア!」

 相手はもっとも簡単な魔法で攻めてきた。こんなもん無視だ。僕は構わず長文を書く。

「いでよ炎! ファイアー!」

 何だ、簡単なやつばっかり?

「吹けよ風! エアー!」

 僕がまだ書き終わらないまま、相手は軽めの魔法をどんどんぶつける。はっきり言って意味がない。AIには基礎体力が100設定されているが、これらの魔法のダメージは1しかない。弱点属性の場合には2倍になるが、もし弱点を探るためにこれをやるなら、最初からウィークサーチの魔法を使った方が早い。

 そうこうしてる間に完成した。

「――我にふりそそぐ無限の祝福は、何人からの攻撃をも受け付けないであろう。そしてその神々しい姿を人々はこう呼ぶ。ミリオンゴーレム――」

 きまった。ミリオンゴ―レムだ。

 これが決まれば、僕は30秒間無敵になり、一切の攻撃を受け付けない。ただこれを書いている間は無謀なため、この魔法を効果的に使うにはこれを、15秒程度で書く必要がある。

 これさえ決まれば後はひたすら攻撃だ!


「我招く数多の刃がお前の胸を突き刺すであろう。グレイソウル!」

「真っ黒な風にさらわれて、新しい地獄へお前を運ぶだろう、フローズンドロップ!」

「紅に染まった地獄の炎を止められる奴はもういない! クリムゾンレッド!」

 大型魔法をガンガン決める。

 こうなるとコンボボーナスもつき止められない。

 相手も必死に防御魔法を書き連ねるも間に合わず、あっさりと体力ゲージを0にした。

 ――勝者、リンドバーグ!


「ずいぶん簡単だったなあ、たぶん初心者だったのかな」

 初心者は、術式をほとんど知らないので、さっきみたいな簡単な魔法を使いがちである。それを見た上級者は、開幕からミリオンゴーレムのような強力な防御魔法を入れるのだが、通常はそれを発動させる前に、防御無視魔法を決められてしまうのだ。

 

 さて2戦目と……引き続き、僕はマッチングを待つ。さっきの戦いではポイントはほとんど増えなかったから、やっぱ初心者だったかな。

 さて、マッチングしたぞ……。


 ーー!? なんだと、まさか相手は、「フクロウ」か!

 対戦相手は、最近おそろしい強さで1位にのぼり詰めたと噂の「フクロウ」である。噂によれば、あまりの速さに何が起きたのかわからないという。


「まさか、キングと対戦とは……しかしちょうどいい!僕のリンドバーグも過去最高の仕上がりを見せている。あとは僕の文字の書くスピードだけだ」


画面にREADYの文字が出る。

――3,2,1、スタート。

……序盤、お互いに何も出さない。そうそれがセオリー、短い魔法は効率が悪い。

ミリオンゴーレムほど時間のかからない防御を仕掛けるのがセオリー。

 よし完成した。

「時の神の法に寄りて、そなたの時間にゆがみをもたらす。ヴィヴィッドタイム」

 これは相手の魔法の発動を常に3秒遅らせる魔法だ。

 よって相手の魔法を見てから3秒以内に対策魔法を使うことができる有能魔法である。通常トップランカー同士の戦いは初めにこれが用いられる。


 しかし、敵が同時に使った魔法は想定外のものだった。

「――我にふりそそぐ無限の祝福は、何人からの攻撃をも受け付けないであろう。そしてその神々しい姿を人々はこう呼ぶ。ミリオンゴーレム――」


 そんなバカな、信じられない! ミリオンゴーレムだと! いくらなんでも早すぎる。そのスピードで使われたら一切対抗する手段がない。

 しかし幸いヴィヴィッドタイムは間に合った。ならば相手が使ってくる魔法をすべて見切って適切な防御を入れるのみ。30秒耐えきれば、まだ勝てる。


「いつまでも限りなく降り注ぐ槍とお前への重り! ワンダーグローブ!」

くっ、重力系魔法!?

「降り注ぐ雨に アイアンカーテン!」

 よし、少しは槍の攻撃を防げた。

「埋め尽くしたい埋め尽くしたいただ埋め尽くしたくなる― マッドタイガー!」

 なんだと、土砂攻撃をしてくるとは、マニアックなものばかりだ。

「ここに空気がある限り! エアーキラー」

 最悪は窒息で即死のパターンだ、とにかく空気を確保する


――という攻防を繰り広げ、間もなく30秒。

と思った瞬間だった。

「悠久の時を超えて、汝に永遠の眠り授ける神が訪れるであろう。汝にそれを拒否することはかなわず、またその拒否する思いすら打ち砕かれよう。眠れ永久に!」

 カクヨムバトラー上もっとも長い術式であり、最大ダメージを誇るものの、ほとんど使われることのない魔法が信じられないタイミングでやってきた。

「――デッドエンド!」

 ダメージ量は50!

 

 リンドバーグの体力は尽き、フクロウの前に屈した。

 噂通りの速さで、ほんとうに何もできなかった。一体何が、起きたのか。

 死ぬ間際に相手の手元画面を見た時に僕はすべてを悟った。


「――二刀流!?」

 フクロウのプレイヤーは、なんと両手にペンを持っていたのだ。まさか両手同時に文字を正確にかけるやつがいるとは。


 ……まったくKACIOってやつは本当に奥が深い。

 

次こそは得意技の、

「ひたむきにただ貫きたい、優しさだけでは戦えない!オーバーフロウ」を使って勝って見せるぜ。なあリンドバーグ?


『いや、まあ別にいいですよ、はい』

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