第5話 帰還

 あれは本当にゲームなのか。

 という疑問を抱きながらも俺はすぐにでもサリアとしてスペルマ―へと向かいたかった。

 向こうの世界では俺を必要としてくれている者がたくさんいる。

 それが例えNPCだったとしても現実と区別のつかない程のリアルなゲームならそう思ってしまっても仕方のないことだろう。


 大学の講義を終え俺は急ぎ足で家へと向かう。

 いつもなら勇人とお昼ご飯でも食べる所だが、今日は用事があると言いすぐに帰ってきた。


 またあの世界に行けると思うと胸が高鳴ってきた。

 俺の顔には自然と笑みがこぼれていた。

 小さい頃、親にゲームを買ってもらって帰るまで我慢してるあの感覚だ。


 家に着くと俺はすぐさまベッドに横になりイヤホンを装着し、ミュージックプレイヤーの再生ボタンを押す。

 すると、またしても抗えない程の睡魔が押し寄せ眠りについた。


***


 目を開けるとそこはログアウトする前にいた書庫だった。

 背中に違和感を感じその違和感を手で触れるとブランケットのようなものがかけてあった。


 どうやら誰かがかけてくれたらしい。

 同時にログアウトをしてもこの世界の時間は進んでいるらしい。

 これはMMORPGなどでは当たり前のことだから特になんとも思わなかった。


 しかし、気になる点は一つあった。

 通常のMMORPGだとログアウトをすると文字通りその世界から切り離される。

 しかし、誰かが俺にブランケットをかけた。

 すなわちログアウトしてる間もサリアはここに存在し続けたのだ。


 では、戦場で突然ログアウトをするとどうなるのだろうか。

 間違いなく死だ。

 ログアウトしてもそこに存在しつづけるのに戦場で棒立ちではいい的だろう。

 では、この世界で死んだらどうなる?

 五感すら存在するこの世界で死んだら本当に復活できのか?

 もしや、もう二度とこの世界にログインできなくなるのではないか。


 考えれば考えるほど嫌な可能性がでてくる。

 それらを踏まえた俺ができることはなるべくスペルマーでログアウトすること。

 間違っても戦いの最中にログアウトしてはならない。

 そもそもできない可能性もあるが。


 何はともあれ俺はこの世界に戻った。

 書庫を後にして俺はとりあえずセルシアを探す。

 俺が眠っている間に何かあったのか確認のためだ。


 スペルマーを探索すること10分。

 セルシアは食堂奥の厨房にいた。


「サリア様。お目覚めになられましたか」

「うぬ。我が眠っている間に何か問題はあったか」

「いえ、特にはございません」

「わかった」

「あの、サリア様!」


 問題がない事を確認した後、その場を去ろうとする俺をセルシアが呼び止める。


「どうした」

「朝食はいかがなさいましょうか」


 そういえばお腹が空いた気がする。

 現実世界では帰りにコンビニで軽く食べたはずなんだけど。 

 やはり現実世界とこの世界はそういった部分は共有されてないらしい。 

 当然と言えば当然なんだけど。


「いただこうか」

「かしこまりました」


 セルシアは笑顔でそう答えた。

 さて、今回はどんなゲテモノ料理が出てくるのか。

 少し楽しみにしている自分がいた。


「お待たせしました」


 セルシアが運んできた料理はなんと食パンだったのだ。

 この世界にも食パンがあるのかと思ったが、食パンの上にのせられて具材をみてその感動は消えていった。

 上にのせられていたものは蜘蛛だ。

 それも巨大な蜘蛛が二匹。


 昨日のサソリは美味しそうに感じたのに蜘蛛はそうも感じられなかった。

 かといって食べない訳には行かないので、思い切って一口食べてみる。


 食パンのふんわりとした食感に蜘蛛のサク……いや、ガリっとした食感を感じた後、以外にも甘さが口の中に広がった。

 食パンにジャムを塗ってるような感じだ。


「セルシアは天才だな」


 蜘蛛を食パンの上にのせて美味しく調理したのは地球上で初めてだろう。

 ここは地球じゃないけど。


「ありがたきお言葉」


 朝食を取り終えた後、俺は風呂に入りたくなった。

 というのも、俺は起きた後、さっぱりする為に必ず風呂にはいる。

 今朝だって大学に行く前に風呂に入ったのだ。


 まさかこの感覚がゲームの中でもそのまんまだとは思わなかった。

 確かセルシアに案内してもらった時には大浴場なるものがあったはずだ。


 俺は大浴場へと向かうべく食堂を去ろとした時、セルシアから声が掛けられる。


「サリア様。この後はどうなさいますか?」

「あぁ、目を覚ますために風呂に入る。」

「かしこまりました」


 地下にある大浴場へと向かい更衣室に入り衣類を脱ぐ。

 黒のマントに上下赤と黒の服。

 改めてみると俺も立派なコスプレイヤーだ。


 浴場へと向かうと途中、姿見がありそこで初めて自分の顔を確認する。

 視界には若干入っていたが二本の角が生えている。

 それと、顔も超イケメンだった。

 可愛い系じゃなくてカッコイイ。

 彫りが深くて目もキリっと二重。

 現実世界でもこんな顔に生まれたかったよ。

 しかもブツも大きいしな。

 

 現実世界の俺との差が落胆しながら浴場のドアを開けると、ぶわっと湯気が立ち込める。

 自然な香りが広がり、その辺の銭湯よりもよくできていた。


 驚くことにシャワーまで完備されており、以外にも現実世界と同じような設備がこの世界にもあるらしい。

 

 椅子に座り、まずはシャワーで頭を洗おうと思った時、浴場の扉が開かれた。

 後ろを振り返るとバスタオルで体を隠したセルシアがいた。


「あ、あのセルシアさん?」

「サリア様。お背中お流し致します」

「う、うぬ」


 なんか勢いに任せて了承したけどこの状況少しやばいのではないだろうか。

 心臓の鼓動が限界突破しそうな程に早い。

 こういう時こそ冷静になるべきだろう。

 俺の精神攻撃耐性Lv1よ仕事しろ!


「痛くはございませんか」

「セ、セルシアよ。我が眠る前もこうしておったのか?」

「はい。そうでございます」


 おいサリア側近になんてことさせてるんだ。

 おかげでごほうび……じゃなくて大変な事になってるぞ。

 何がとは言わないが。


「サリア様、どうかなさいましたか?」

「い、いやなんでもない」


 たまたま持ってはいってたタオルがここにきて大活躍している。

 俺は生まれて一番と言ってもいいくらい精神を研ぎ澄ませなんとか魔王としての尊厳を保った。


「セルシアよ。すまぬが一人でゆっくりしたい」

「かしこまりました」


 セルシアには悪いがここはお引き取り願いたい。

 これ以上は俺の精神攻撃耐性Lv1では耐えられない。

 いや、もうすでに一部分は耐えれてはいなかったのだが。


 なにはともあれ、セルシアの精神攻撃を乗り切り湯舟でゆっくりと過ごすことができた。


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俺が魔王であいつが勇者 かのか @kanoka511

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