第4話 魔王城スペルマー
オーク族を無事殲滅し、戻ってきた俺はセルシアに建物内を案内してもらっていた。
案内してもらってる内にわかったことがある。
まず、俺が目覚めたこの場所は、《スペルマー》というらしい。
魔族の領土の中でも最奥に位置し、周辺には強力な結界が貼られているため、侵入者が入ることはほとんどない。
魔王城、とでも言うべきだろうか。
また、ここスペルマーを取り囲む7つの主要都市があり、都市一つにつき七星魔人が一人管理しているようだ。
俺が……というよりサリアが眠る前はもっと魔族側の領土が広かったらしいが、魔王不在の中、魔族すべての指揮をとることが困難になり、なんとか管理できているのがここスペルマーと7つの主要都市。
今回オーク族が反乱を起こしたのもこちら側が管理できていない、いわば魔族領土とも言えない地で起こった出来事らしい。
しかし、魔王が復活したとの情報が回れば反乱の数を減るだろうというのがセルシアの考えである。
そして俺がまず魔王としてすべきことが魔族側の体制の立て直し、それが終わり人間側の情勢の調査。
あくまでも最終目的は人間との戦いに勝利し征服することだ。
やり込み要素しか見つからないゲームだが、だからこそ燃える。
「サリア様。よければお食事の用意をなさいましょうか?」
「頼む」
このゲーム。リアル過ぎるのがお腹も減るのだ。
五感も搭載されているし、改めてこれがゲームだと思う事が出来ない。
と言ってもログアウトボタンがあるのだから、ゲームだと思うのだがどうしても引っかかるものがある。その正体が何かは分からないが。
「サリア様。お食事の用意ができました」
10分ほど待つとセルシアから準備完了との知らせと同時に食堂へと案内された。
食堂に入ると用意されていた食事はサソリらしき生物を煮込んだものと、何かの唐揚げだった。
「セルシア。これは何の唐揚げだ」
「ノワール蛇でございます」
「そうか」
聞いた俺が間違いだった。
まさか鳥の唐揚げなんて返事帰ってくるわけがない。
唐揚げはいいにしろサソリの料理なんて明らかにダークマターなのに美味しそうと感じてしまうのだ。
それもおそらくこの体になったせいなのだろう。
サソリの身をナイフで切り取り一口。
今まで味わったこともないような不思議な味がしたが美味しいと感じた。
辛くもなく、甘くもなく。
かといって苦くもなく、酸っぱくもない。
人類の言葉でこの料理の味を表すことができない。
唐揚げの方はタコの唐揚げに近いだろうか。
不思議な味に変わりはないが、もしかするとこの味なら現実世界の俺でも食えるかもしれない。
「サリア様。この後のご予定は?」
「うぬ。書庫で少し調べ物をしようと思う」
「かしこまりました」
魔族と人間との歴史について調べようと思ったのだ。
今後、人間の領土へと侵攻する際、知識はあって損はない。
もし戦いが激化したら調べ物をする時間もないかもしれない。
ならば今のうちに調べておく方がよいだろう。
「うまかった。ありがとう」
「ありがたきお言葉」
食事を終えた俺は、そのまま書庫へと向かう。
書庫に入ると数えるのすら嫌になるほどの量の本が目の前に広がっていた。
どれが歴史に関する本なのかさえわからない。
本棚を見ていると魔法に関する本から魔族の中の種族に関してや様々であった。
その中で魔族の歴史といってわかりやすそうな本があった。
本を見ると魔族と人間の戦いの発端について書かれていた。
遥か昔は人間が魔族をも支配していたらしい。
しかし、ある日強大な力をもった魔族の一人を中心に反乱を起こした。
その中心人物が初代魔王。
その力は圧倒的であり世界の3分の1の領土を取り返すことに成功。
その後は今に至るまでずっと争い続き。
もちろん、多少争いが収まったりはあったのだろうが詳しい事は書かれていなかった。
本を読むこと1時間ほど。
体に疲れを感じ始め、少しウトウトし始めた。
まさかゲームの世界でも眠たくなるとは。
ここらで一旦ログアウトしておこうかと、システムボタンを押しログアウトを選択した。
すると、またも抗えない程の睡魔が押し寄せ意識が遠のいていった。
***
はっと目を覚ましスマホを見ると時刻は朝の5時だった。
いつも見る夢ならばぼんやりと覚えている程度だが、サリアとしての記憶は鮮明に残っている。
家に帰り眠りについたのが12時間前。
そしてサリアとしてゲームの世界で過ごした時間もおおよそ12時間ほど。
つまり、ゲームの中の時間の流れと現実世界の時間の流れはほとんど同じらしい。
今日も大学だ。
しかも一限からである。
とりあえず新作『魔王と勇者、ときどき触手』が届いてるか確認する為に宅配ボックスを確認するときちんと届いていた。
中身を空けて早速インストールしプレイするもなぜか集中できなかった。
ボーっとプレイし、時計を見れば針は7時半を指していた。
大学に行く準備をゆっくり行う事にした。
意味もなくテレビをつけ、歯磨きしながら流れてくる音声を右から左へ聞き流していた。
支度を終え、嫌々大学へと向かい始める。
正直、一秒でも早く帰りサリアとしてあの場所へ帰りたかった。
今日は二限で終わる。
この二限で寝だめして今日はたっぷりとサリアとして生きようと決めた。
***
大学の講義室に入り後ろの方の席を座り寝る準備を整えていると横に俺のよく知るイケメン野郎が座ってきた。
「おはよう、
「あぁ、おはよう
俺の横に座った爽やかイケメン野郎は俺の幼馴染の
ちなみに昌ってのは俺の事で名前は
「今日も眠そうだな」
「大学は寝るところだからな」
「それで1年生フル単だもんな。やっぱ昌はすごいよ」
そう、俺は1年をフル単で終えている。
別に意識高い系のつもりでもない。ただ4年生になって焦りたくないだけだ。
だから、多少大学に行かずにゲームに入り浸っても問題はない。
なんてことを考えていると俺たちの二つ前の席に三人組の男が入ってきた。
普段なら特に気にすることも無いだろう。
しかし、今回ばかりはそうもいかなかった。
気になったのは話してる内容だった。
「昨日俺ゲーム始めたんだよ! 俺が異世界で戦士になって魔物をばっこばっこ倒していくんだ。しかも最新技術を使ったフルダイブ型のゲームで、まるでそこが現実かのように感じるくらいリアルだったんだよ」
「お前アニメの見過ぎでとうとう区別つかなくなってしまったんじゃねーの」
「本当だって! おまえらにもプレイさせてやりたいくらいだ」
その会話に俺はびくっとした。
もちろん俺にも心当たりがあるからだ。
視点は戦士と魔王で違えど、その男が言ってることは俺も感じていたことだ。
まるでそこが現実かのように……
異世界に転移しましたと言われても納得できるほどにリアルだった。
「そんな話ある訳ないだろうに」
普段人の会話に反応しない勇人が珍しく反応した。
それほどまであの男が言ってることは現実味を帯びていないという事だろうか。
「そうだな」
一応俺も同意しておいた。
しかし、平然を装っていても俺は寝ることができなかった。
どうしても気になってしまう。
俺と同じ体験をしてるやつがどのくらいいるのかと。
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