知ラバ諸共/シラバリィ

gaction9969

△○○○○○○○○○

「おめでとう。俺達がここまで来れたことに」


「『ここまで』って……ここまで来れたことがそんなにめでたい事かしら。こんな状況、私には不幸としか思えないんだけど」


「俺たちは選ばれたんだ。いいか、それは幸運だったと、そう思わないと。俺が言いたいのは、『だからこそのおめでとう』なわけだ」


「……そう思っているのは貴方だけかも知れないけど。それにここまでって言ったけど、『ここから』だってあるわけなんだし」


「……うん、それは否定しないが、それを抜けた先に待つもの。今はそれを信じてやり抜く他はない、と、俺はそう思ってる」


「とんだ楽天家ね。て言うか、楽観視するのも分からなくはないけど。だって貴方には途轍もない『アドバンテージ』があるものね」


「『アドバンテージ』なんて無いだろ。同じ条件さ。同じ条件……それは変わらないはずだ」


「何言っちゃってんの、『同じ』なわけないじゃない。何だかんだで結局、貴方は優遇されている。なもんだから、そうやって上から目線の余裕でいられるんだわ」


「おいおい、埒が開かないから、そのことについてはひとまず置いておかないか。俺のことはさておき、建設的な意見を述べよう。ええと、この『回線』は外には繋がっていないんだよな。あくまでこの俺達が囚われているこのくそったれの『施設』の中で互いにこうして『通信』をすることしか出来ない、と」


「はいはい、それはもう分かりすぎるくらい分かっているわ。一人部屋っていうにはえらく殺風景な『二畳間』くらいの狭いとこに押し込まれて、頑丈な扉はびくともしないから外には出られないってことも付け足しておいたら?」


「えらくご立腹だが、それが『奴』の手かも知れん。落ち着くんだ、冷静に。俺達は各個分かたれ、隔絶された状況だということが重要だ。如何にしてこの状況を打破するか、それが肝だと思う」


「ねえ、さっき『選ばれた』とか言ってたけど。何で私たちなのか、考えてみた?」


「いや、そこは無作為だと思う。『運営者』、と奴は名乗っていたわけだが、俺達のこの様子はおそらく配信されているのだろう。今、この様子もな」


「ひどい話ね」


「うん、同感だ」


「まったく。……もうやんなってきた。見たいなら見ればいいけど、いい加減、解放されたいわ。悪いケ……ド……」


「おいどうした?」


「……やっぱり。よく聞いて、こうして対話を続けなきゃダメ。奴は見ている」


「俺が喋り続けていればいい話じゃないのか? 俺がそれには適任だと思ってたわけだが」


「連続して対話が続かないとダメみたいね。連続、あくまで連続して紡がなければダメ」


「いや、そうか? 今のがそうだと言いたいのか?」


「分かってるくせに。わざと言ってるのかしら?」


「俺を責めてばかりだが、俺だって考えている。開かない扉を開ける方法も、だ」


「簡単に言ってくれちゃって。けど、それにしたって私には時間稼ぎにしか思えないんだけど。だいたい…サ……ア……」


「おい、また通信が途切れた。いったいどうなっている?」


「はいはい、白々しいにもほどがあるわね。本当に大したアドバンテージだわ」


「いい加減にしろよ。俺ばかりが悪者かよ」


「悪者っていうか、もう『勝者』でしょ。私なんかもう限界。ここらで降ろさせ……テ……モ……」


「……おい、聞こえるか?」


「やだやだ、この期に及んでそんな。ようやく分かったわ、貴方が『おめでとう』って言った真意。よく考えれば、自分に言ったってことくらい分かりそうなものなのにね。『おめでとう』。私からも言っテ……ア……」


「おい……おいっ!!」


「潮時かもね。所詮、私は貴方には勝てない。さよなら。ここらでドロップアウトさせテ……モ……」


「いいか聞いてくれ。俺はそんなつもりで『おめでとう』と言ったわけじゃない。いい加減、分かってくれよ!!」


「ラーラーラー、ルールールー、もう歌うしかないわよね、さヨ……ナ……」


「ああもう!! 教えてくれ!! 俺はどうすればいいんだ!!」


「何を白々しいって言ってんの。そうやって私を追い詰メ……テ……」


「行かないでくれ!! 俺は……」


「はあ……ひどい小芝居。私、いち抜けたあッ……ト……」


「うおおおおっ!! 俺を、俺をひとりにしないでくれぇぇぇぇっ!!」


「……どうやらこれまでのようね。誰もいなくなったわ。遂に、『私』と『貴方』だけ」


「うう……俺と、君だけしか残ってないのか。俺は君を救いたい……偽らざる気持ちだ。お願いだから信じてくれ……ッ」


「どうだか。どれだけ感情を込めたところで、貴方は堅実だもの。でも私も貴方の立場だったらそうするだろうから、いいのよ別に。だから私も、もうここで降りるわ。さよなら『ア行』。『ア行』から始まる言葉を発し続けないと、『失格』となる、私たち十人の中で、最も大きなアドバンテージを持った人。改めて言うわ、おめでト……ウ……」


「うわあああッ、『タ行』ッ!! 『タ行』ぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 ―暗転。


(終)


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