遠い異国の3人

揣 仁希(低浮上)

お節介は変わらない


その日は朝から晩まで街はお祭り騒ぎだった。

中央通りは夜遅くまで明かりが灯り行き交う人々は皆笑顔で手にしたジョッキをぶつけあっていた。


この日、僕らの住む街に鉄道の駅の建設が始まったのだ。

僕も含めて開拓当初からのメンバーは朝から式典やら挨拶回りやらであちこちを忙しなく歩き廻りようやく日付が変わる頃になって我が家に帰ってくることができた。


「ただいま、チカ」


「おかえりなさい、あなた」


そして僕と彼女の関係にも若干の変化があった。

僕は彼女を「チカ」と呼ぶようになり、彼女は僕を「あなた」と呼ぶようになったことだ。

僕の妻となりまもなく母となる彼女がそう望んだことで僕としてはなんとなく気恥ずかしく感じたりしているのだがそれも時間と共に慣れていくのだろう。


そしてもうひとつ。

あれから僕はこの街の町長になった。

結局のところ僕はこの街が大好きなわけでこの街に骨を埋めるつもりで暮らしている。

街のみんなから推されたのもあるが、それならば最後までちゃんとやり遂げようと思い決心した。


すっかり大きくなった彼女のお腹を優しく撫でてから僕は彼女を伴ってリビングに入る。

そこには、滞在二カ月になる僕らのかけがえのない友人がいる。


「よう!ハルキ遅かったじゃないか!」

「ごめんごめん、あっちこっちに顔を出してたらこんな時間になっちゃったよ」

「ははは、すっかり町長の職が板についてきたんじゃないか?」

「慣れないことばかりで大変だよ」


トモヒロが何故ここにいるかと言うと、テレビの収録のためなのだ。

チカの妊娠がわかったときにこの街を訪れていたトモヒロはテレビの番組でこの街と僕を取り上げたいと話をしに来ていたのだ。


なんでも未開の地にいる日本人の暮らしを取材する番組らしくトモヒロはそれにかこつけて久しぶりの休暇を満喫しているらしい。


スタッフの方々も同じく滞在しているのだが、朝からのお祭り騒ぎを一緒になって楽しんでいるらしく不在だそうだ。


チカがお茶を淹れてくれて窓から街のバカ騒ぎを眺めながら僕らはこれからについて少し話していた。


「そういやもうすぐなんだろ?予定日」

「ええ、来月ですからあと一月くらいね」

「男の子?女の子?」

「うふふ、調べてないわ。ハルキくんとの子供ですもの、どちらでもきっと可愛いわ」

チカはもう母の顔でお腹を撫でる。


「はぁ〜俺も結婚したいよなぁ」

「トモヒロは予定ないの?」

「あるわけないだろ。ちょっとなんかあったらすぐに週刊誌に載っちまう」

「売れっ子も大変なんだね」

「まぁそのおかげでこうしてお前らとこんな異国でゆっくり出来てるんだがな」


トモヒロは何年か前に女優さんと噂になったらしいけど結局うまくはいかなかったと本人が言っていた。


「しかし、まぁあのハルキがここまでデカイことをするとは思ってもみなかったよな」

「ははは、僕が一番驚いてるよ。それに僕が何かしたわけじゃなくて、街のみんなや一緒に頑張ってきた人たちのおかげだよ」

「それでも中心となったのはお前だったんだろ?大したもんだぜ、まったくよ」

トモヒロはまるで自分のことのように僕のことを喜んでくれる。


「ふふふ、ホント不思議よね。こんなに遠く離れた土地で同級生3人でいるなんてね」


チカが感慨深げに僕とトモヒロを見てそう呟く。


「そうだね、あの頃からじゃあ想像もつかないね」

「ホントにな、お前らが結婚までしてこんなところで暮らしてるなんか想像できるわけないしよ」


僕らが昔話に花を咲かせていると次第に夜も更け街のざわめきも少しずつ落ち着いてきた。

トモヒロに泊まっていけばと言ったのだけど、スタッフの皆も帰ってくるだろうから宿泊先に戻ると言って戻っていった。


「トモヒロくんは変わらないわね」

「うん、ホントあの頃のままだよ、お節介なところもね」

そう言って僕はテーブルの上に一枚の銀貨を置いた。


「なに?」

「ああ、そうか。チカは知らないんだったかな?」

僕はチカにトモヒロの御守りについて語った。

チカは次第に涙を溜めてやがて零れる涙もそのままに僕の話をじっと聞いていた。


「出産の頃にはトモヒロは帰国してるだろうから忘れないうちにチカに預けて・・・おくってさ」

「トモヒロくん・・・」

チカは大事そうに銀貨を両手で持って抱きしめる。


「あと先に言っておくってさ」

「何を?」

「出産おめでとう。だって。俺の御守りがあるから間違いないからって」

「・・・ありがとう」


この数日後トモヒロはいつものように飄々として帰国していった。


「また来るからちゃんと返せよな」

と言い残して。





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遠い異国の3人 揣 仁希(低浮上) @hakariniki

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