第25話 ヒミツの猫ちゃん

冒険者ギルドでもらった地図を頼りに、二人は貴族街に入り件の男爵家を探していた。 ギルドの受付嬢によると、貴族街に入って右手…と言っていたが、目当てのお屋敷がまだ見えてこない。 そうこうしているうちにあ・る・事・に気がついた。


「ねーミーア。 これってさ、アレだよね?」


「うん、こんな所にもあるんだねぇ。」



二人が気がついたもの、それはこの世界に生まれた時からつい最近まで身直に感じていた、気の揺らぎ、精霊の通る力の道【エレメンタルサーキット】の気配だった。 



「ほんの2〜3ヶ月前まではこの気配を当たり前のように感じていたのにねぇ」


「そうね… ねえ、母さん達、元気でいる…かな?」


「うん、父さんが新しい村にみんなを連れて行ってくれているよ。 きっと大丈夫。」



フィアナとミーアは止むを得ず生き別れた両親を、優しく見守り、自分達を育んでくれた村人達を思い、悲しいような、寂しいような、しかし自分たちと離れた事で、彼らの危険は一応は去ったのだと安堵するのと、複雑な気持ちが心中に浮かぶのだった。 



(絶対これ以上村の人たちを傷つけさせたりしない。 父さんも見つけて見せる。 早く元凶をみつけて元を絶たなくちゃ。)



「さ、それじゃあちゃちゃっと依頼終わらせて、リィラちゃんとこ帰ろうぜ!」


「ん、そうだね。」



そこから2人が10分ほど歩くと、正面におそらく件の男爵邸だろうと思われる屋敷が見えてきた。 貴族街の中では割とこじんまりとした、しかし歴史はそこそこありそうな重厚な造りの屋敷だ。



「ここ…かなぁ?」


「ここっぽいねぇ」



2人は屋敷の門を抜け、玄関の真鍮でできているドアノッカーに手をかけた。 『ゴンゴン』と独特の金属音を2度させると、暫く後にドアが開き、中から白髪まじりの髪をきちんと後ろに流し、燕尾を着込んだセバスチャン(フィアナ談)な侍従が顔をだした。



「当家に何か御用ですかな?」



貴族街に似つかわしくない服装をした、平民と思われる少女2人に穏やかな顔をしつつ老紳士は微笑んだ。



「あ、えっと… ギルドからの依頼でやってきました! ええっと、猫ちゃんが行方不明なんですよね?」


「ギルドの方でしたか。 ええ、当家で間違いございません。 御足労いただき、ありがとうございます。」



セバスチャン(暫定)の案内で応接間に通されると、ここで待つように言われた。 座り心地のいいソファーにフィアナとミーアが並んで座り、なんとはなしに部屋の中をキョロキョロと眺めていると、程なくして屋敷の女主人と先程のセバスチャンが入ってきた。



「まあまあまあ、お嬢さん達が冒険者なの? お二人共こんなに可愛らしいのに大変なことねぇ。 あらあら、お茶もご用意しなくてごめんなさいねぇ。 セバス、お茶を持ってきてちょうだい。 そうそう、昨日頂いたお菓子があるでしょう? それも一緒に持ってきてね。」



(ほんとにセバス(ちゃん)だった… やはり不文律は崩せないって事だよねー)



妙なところでフィアナが感動していると、女主人が人の良さそうな笑みを浮かべて2人に向き合った。



「あらあら、わたくしったらご挨拶もしないでごめんなさいねぇ。 わたくしはエリナ・サヴァンよ。 主人はずいぶん前に亡くなってしまって、今は使用人の他はマーオがわたくしの家族なの。 可愛がっていたのだけどつい3日ほど前から姿が見えなくてねぇ。 ほら、猫は死期を悟ると姿を隠すって言うじゃない? まだ5歳だし、特に病気を患っていたわけではないから迷子になってるだけだと思うのだけど、心配なのよ。」



ほう… と右手を頬に当てて痛ましそうに目を伏せるサヴァン男爵夫人。 話出したらとまらないその様子にフィアナとミーアはただただ困惑していた。



(は、話かけることができない… おばさんマシンガントークすぎ)



更に「それでね…」と話し始めようとするのを見かねたセバスが止めてくれた。



「奥様、お二人にも自己紹介していただいてはいかがでしょうか」


「あらあら、わたくしったらごめんなさいね。 可愛らしいお客様についはしゃいじゃったわ。」


「あ、いえ、大丈夫です。 改めまして冒険者ギルドの依頼でまいりました、私はフィアナ、こちらはミーアと申します。 えっと、早速ですが確認させてください。 その、猫ちゃん… マーオちゃんの特徴と、いつ頃いなくなったのかと、日頃の様子などを伺ってもいいですか?」


「ええ、ええ、分かったわ。 うちのマーオちゃんはねーーー…」




聞き取り調査を終え、2人は屋敷の外に出た。 夫人の話によると迷子のマーオは時々長時間の散歩をしていたらしい。 あとはマーオの縄張りだけど結構な広範囲で目撃されているらしく、ちょっと絞り込みが難しそうだ。 



「うーん、どこ探そうかねぇ…」


「そうね… ちょっと聞き込み…って言っても、貴族街じゃあんまり路上に人がいないしなぁ」


「貴族街… そうか、ねえねえ、一旦侯爵の屋敷に戻らない? もしかしたら何かヒントもらえるかも」


「闇雲に探すよりは… いいのかなぁ… それじゃあ一旦戻ろうか」


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精霊のカプリース 紗衣羅 @char-ange1025

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