第24話 ミーアの実力

「次はミーア、おまえだな」



そう言ってギルドマスターの男は腕を組む。 ミーアを鋭い目つきで見据えると 、つい先程フィアナが見せた力量に驚く姿はもうない。



「ええ、よろしくお願いしますギルドマスターさん。 入口にある武器を使って攻撃すればいいですか?」



ミーアは入り口の横に立てかけてある武器を一瞥すると、そちらの方に静かに歩き出した。



「お前は何を使うんだ?」


「私はこれです。」



そう言いながらコンポジットボウを手に取り、徐に矢をつがえると、ぎりぎりと弓を引き絞ぼりギルマスにぴたりと狙いを付けた。 



「まてまてまて! 弓を使うなら俺じゃなく的を狙え!ほら、あの辺にあるだろう!」



自分に対している向けられた矢に男は焦りつつ、外周の木立の中や、木人の頭、なぜか積み上げて置いてある丸太などなど‥‥…割と見つけにくい所にある的を指差した。


ミーアは目を細めて冷たく睨んだ後、ふーっと息を吐き出す。 「‥‥…わかりました。」と弓を下ろし、再び顔を上げた。 表情を引き締めると改めて弓をつがえ、狙いを定め「はぁっ!」と言う掛け声と共に次々と正確に的を射抜いていく。 その姿はまるで踊るようにしなやかで優雅だ。男が思わず見ほれている間に全ての的を射抜き終わっていた。


ぼーっとしていたギルマスがハッとして気がつくと、押し殺すような低い声で「お前らは本当に… 末恐ろしいな‥‥…」と呟く。



「‥‥…不本意だが、二人とも合格だ」


「分かってもらえて良かったです。 これで合格じゃなかったらうっかりと流れ矢がギルマスさんに当たっていたかもしれませんから。」



顔を青くしながら目を見開いたギルマスに、フィアナはニッコリと微笑んだ。



「それじゃギルマスさん‥‥…」


「ニコラスだ。」


「え?」


「俺の名前はニコラスだ。 ‥‥…ほら、手続きにいくぞ」



二人はニコラスの後に続き、冒険者で賑わう受付ロビーに戻った。 先程手続きをしてくれたレイリアの所へいくとニコラスがレイリアに「登録手続きを進めてくれ」と指示をだした。



「えっ‥‥…って事は、ギルマスの試験に合格したんですか? ‥‥…まさか、可愛い女の子二人組だからって手加減し‥‥…」


「ああ“? 俺が手加減なんかするわけねーだろ。 いいからちゃちゃっと進めろ。 階級はトパーズだ。」



途端に受付前がざわりとする。 レイリアも目を何度も瞬き「え、トパーズ…ですか‥‥…?」と驚いた声をだした。 フィアナとミーアは訳がわからず首を傾げてニコラスとレイリアに尋ねる。



「えっと‥‥… よくわかんないんですけど、トパーズってどのくらいの階級なんですか?」



この世界の冒険者ギルドは鉱物を階級名にするらしく、通常は登録したての駆け出しはアメジストから始まり、以降貢献度に合わせてエメラルド→トパーズ→ルビー→ダイヤと上がっていく。 いきなり登録時に2階級飛ばすのは前代未聞であるらしい。



「へぇ〜… じゃあニコラスさんに随分買って貰えたんですね?」


「あ? ああ、まあな‥‥ 」



フィアナがニヤニヤしつつ、ニコラスにそう言うと照れたのか、頬をかきふいっと目をそらせた。 からかうフィアナをミーアが呆れながら諌める。



「フィー その辺にしてあげて。 もういいんじゃない? それより何か依頼受けてみよう?」


「お、初依頼か。 いいねいいね! 何があるか見てみよう」



フィアナの扱いが上手いミーアが促し、二人が掲示板の前にいくと、いくつかの依頼票がボードに貼り付けてあるのが見えた。 今の時間はお昼を過ぎていて、割りのいい依頼は残っておらず、殆どが常時募集中の薬草の採取依頼などの簡単な依頼だったが、そんな中ふと目に留まったのは迷子の猫の捜索依頼だった。 ミーアが前世からネコが好きなのを知っていたフィアナはこれはどうかと相談してみる。



「ネコもこの世界にいたんだねぇ。 いいんじゃない? 初仕事っぽい内容で。 ....ネコも見てみたいし」



やはり猫が気になるらしい、ミーアの目がわかりやすくそわそわしていた。 それじゃ早速とばかりに依頼票を剥がし、受付カウンターに持っていく。



「‥‥こちらの依頼ですね。 えーと、期限は3日、詳しくは現地でお願いします。 場所はわかりますか?」


「いえ、この街はきたばかりなので‥‥ 」


「 依頼人はイアン男爵ですね。 貴族街に入って右手に行ったところです。」



初めてのおつかい‥‥もとい、依頼にワクワクしながら二人は貴族街へ戻っていいった。


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