おめでとうおじさん現る。
澤松那函(なはこ)
おめでとうおじさん現る。
「おめでとう!」
おれの前にハゲが居る。
おれの前に白のタンクトップと白いブリーフ姿のハゲたおっさんが居る。
俺の素敵なオートロックマンションのリビングにヤバっいおっさんが居る。
三十一年生きてきて色んな男と出くわしたけど、こいつはレベルが高いぞ。
「何がおめでとうなんすか?」
「なんだと思いますか?」
「興味ないんで通報します」
「待ってください!」
おっさんの輝く頭皮に汗がにじみ出している。
まるでプリズムの輝きだ。
「お若い方。あなた覚悟しているんですか?」
「何の?」
「人一人の人生を破滅させるという覚悟をしているのですか? あなたの通報がわたしの人生を破滅させる。そういう覚悟を――」
「もしもし警察ですか?」
「話を聞いて下さい!」
聞く義理はないのだが、こうも涙目で必死にすがられるとちょっと気になる。
「じゃあ何がおめでとうなのか説明してくれる?」
「今日お給料がちょっと上がりましたよね? おめでとう」
「ありがとう。要件それだけ?」
「はい!」
「もしもし警察――」
「待って!!」
「話終わったんでしょ?」
「ここから本題です!」
「えーめんどくさいな」
「まぁまぁそう言わず。わたしは、皆さんにおめでとうを提供するおめでとうおじさんなのです」
「へぇ」
「いろんないい事がある度、私がおめでとうと言います。これであなたの人生はハッピー」
「おっさんと同じ空間を共有する事のストレスがでかいんで通報します」
「待ってください!!」
「えー」
「私は、人におめでとうと言いたいんです」
「どうして?」
「私は今までの人生で一度も誰かにおめでとうと言われた事がないんです。だからせめてたくさんの人に、おめでとうをあげたい。それで私はおめでとうおじさんになったのです?」
事情は何となく分かった。
分かったけど、外見だけでも何とかしてほしい。
目の毒だってこれ。
このまま一緒に居たらヤバい。
俺の直感が囁いている。
「おじさん」
「はい」
「やっぱ警察呼ぶわ」
「待ってください!! 慈悲はないんですか!? こっから膨らむ話があるんですよ!! わたしの人生諸々を語りたいんですよ!!」
「いや身の安全に関する事なんで、警察呼んだ方がいいと思うわ、やっぱ」
「わたしはあなたに何もしません!! ただおめでとうを言わせていただけたらそれだけでいいのです!!」
「俺のさ。ストレスたまんだよね。あんたと居るとさ」
「何故ですか!?」
「俺の好みだからさ」
「え!?」
「我慢してっとストレスたまんだよ」
「ちょっと、お若いの――んっ!?」
そのまま俺は、ベッドの上におめでとうおじさんを押し倒した。
翌朝――俺の隣でおっさんが寝息を立てていた。
「あ……やっちまった」
完全に理性が飛んでしまった。
だってハゲでブリーフのおっさんとかドストライクだよ。
最近中々出会えない天使だったんだよ。
だからおっさんの身の安全にために警察に来てもらって、ここから出て行ってもらおうと思ったのに。
いやでも久しぶりに最高の夜だったわ。
反応も初々しくてかわいかったし。
それにおっさんの方もイヤではなかったみたいだ。
「おっさんあんた初めてだったのか?」
そう問いかけると目を覚ましたおめでとうおじさんは、赤面しながら頷いた。
「そっか。おじさん、初体験おめでとう」
おめでとうおじさんは、
「うん!」
とてもかわいらしい眩しい笑顔を浮かべた。
おめでとうおじさん現る。 澤松那函(なはこ) @nahakotaro
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