クリスマス特別編 Burst Christmas 後編

 ■前回までのあらすじ


 クリスマス前日に祖父、源蔵から知り合いの活権かつけん大吾郎のパーティに行ってくれと頼まれる竜司。


 最初は渋っていたが暮葉などを誘って良いと言われ了承。

 そしてクリスマス当日。


 げん、蓮、暮葉。

 ガレア、ルンル、ベノムの六人を連れて活権かつけんの屋敷に向かう。


 そこで出迎えた瀬場と名乗る執事に案内されるまま一室に入る。

 が、中は真っ暗だった。



 ###

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 僕らが中に入るとそこは真っ暗。

 何も見えない。


「何や、真っ暗やないかい」


「どうなってるんだろう?

 瀬場……」


 僕が瀬場さんを呼ぼうとしたその時。


 カッッッ!


 何か光った!!?


 バッッ!


 僕らは一斉に振り向いた。

 何かステージみたいな所がある。


 光ったのはスポットライト。

 ステージのセンターを照らしている。


 何が何だか訳が解らない。


 KA!


 TSU!


 KEN!


 KA!


 TSU!


 KEN!


 状況が呑み込めないまま響く大音量。

 何か言ってる。


 急に音が鳴ったから良く解らない。


 ティティー♪


 何か曲が流れて来た。

 何でサンバ調?


 あれ……?

 この曲、どっかで聞いた事がある様な……


 あ、ステージのライトが一斉に点いた。


 あれ?

 芸者みたいな女の人が左右に並んでる。


 両手に桜の木を持ってサンバの音に合わせて腰を動かしている。

 もしかしてダンサー?


 目まぐるしく変わる状況に何処から手を付けていいか解らない。


 けどサンバの曲と芸者ダンサー。

 僕の記憶に何か引っかかる。


 とか考えていたら……


 バフォォォッッッ!


 大きいサンバの音に被さる噴出音。

 何か出た!!?


 ステージセンターから何か飛び上がって来た!!?


 一人はキンキンギラギラの趣味の悪い着物を着たチョンマゲ。

 あれヅラか?


 しかも結構年が行ってる感じがするぞ。

 少し離れていても解る。


 金ピカの着物を着てチョンマゲ被った爺さんが下から飛び出してきた。


 そして飛び出してきたのは一人じゃない。

 二人同時だった。


 もう一人は金髪ブロンド縦ロール。

 飛び出した衝撃で長い髪の毛がワッサとなってる。


 あれ……?

 縦ロール?


 何かデジャビュが。


 こっちはロココ調の幅が広いシュミーズドレス。

 ピンクを基調に一部白が混ざっている。


 色彩バランスや配色を見て解る。

 このドレスは意匠の一品。


 決して。


 決してステージ下から飛び出す為に作られた物じゃない。

 ガニ股で飛び上がる為に作られた物じゃない。


 二人ともよろけながら何とか着地。


 叩けボ~ンゴ♪

 響けサ~ンバ♪


 踊れ南のカルナバ~ル♪


 チョンマゲ付けた爺さんがマイクを手に歌い出す。

 あ、思い出した。


 歌い出して思い出した。

 これ……


 マツケンサンバだ。


 ■マツケンサンバ


 松平健が歌う一連のステージ楽曲の一つ。

 公演の歌謡ショーで歌われ、舞台版暴れん坊将軍が終わると必ず歌われていた。

 激しく踊る振り付けと派手な和服衣装から若者にも受け入れられ2004年から2006年まで大ブームを巻き起こす。


 古。


 まず僕の頭に浮かんだ言葉はこれ。

 大ブームから大分経ってるぞ。


 ってか僕らの世代はあんまり知らないし。


 オ~レ~♪

 オ~レ~♪


 カツケンサンバ~♪


 気持ち良さそうに歌ってるチョンマゲの爺さん。

 気が付いたら隣のマリーアントワネットみたいな娘も歌ってる。


 カツケンサンバ~♪


 あ、今気付いた。

 この曲、マツケンサンバじゃ無い。


 カツケンサンバだ。


 自分が活権かつけん大吾郎だからだろうか?

 曲はまんま丸パクだし、歌詞もほぼ一緒。


 マとカを変えただけ。

 ここまで解った段階で頭の中にはこれしか浮かばなかった。


 くだらねぇ。


 箕面の山に呼びつけられて。

 訳も解らないまま体育館みたいな所に案内されて。


 昔に流行った曲のクオリティの低い替え歌を披露されている。

 ……僕らは一体何を見せられてるんだろう……?

 

 オーレッ!


 曲が終わったのだろう。

 一斉に場が明るくなった。


 5分ぐらいか?

 とても長かった。


 ふと周囲を見る。

 三人とも目が点になり言葉を失っていた。


 そりゃそうか。


【なぁなぁ竜司。

 何だコレ?

 何かキラキラしてて綺麗だったな】


【アタシ、割と好きよん。

 ハデで】


 かたや竜の反応は割と好印象。

 マジか。


「ガッハッハ。

 ガッハッハ。

 どうだったかな?

 我が社歌は?」


 皆の様子を見ていると後ろから声がかかる。


 振り向くと汗だくのチョンマゲ付けた金ぴかのお爺ちゃんが立っていた。

 人相は言うなれば若干皺枯れた男梅。


 社歌?


「は……

 はぁ……

 た……

 楽しそうで素敵な社歌ですね……」


 とりあえず僕は社交辞令を述べる。

 すると、僕をジロジロ嘗め回す様に見る爺さん。


 次はげんの方も同様。

 前後左右、満遍なく。


 まるで値踏みされている様。


「爺さん、何やねん?」


 堪らずげんが尋ねる。


「君じゃなっ!?

 源蔵の孫はっ!?」


 が、無視して僕を指差す爺さん。


「えっ……?

 あっ……

 はい、そうですが……?

 貴方は……?」


「やっぱりのうっ!

 その社会不適合な感じとコミュ障っぽい所が源蔵にソックリじゃっ!

 あやつは元気にしておるのか?

 せっかく新調した社歌を披露して度肝を抜かせてやろうと思っとったんじゃがのう。

 使役してる竜が留守と言うのも多分嘘じゃろうて。

 ワシの築いた栄光を見て悔しさの余り歯噛みするのが嫌なだけじゃろ?」


 ム?

 何だこの人。


「いや……

 嘘かどうかは知りませんが、祖父からはそう聞いてます」


 初対面の人間に失礼じゃないのか?

 て言うかさっきのくだらないカツケンサンバは最近作ったのか?


 ポタ……

 ポタ……


 汗が滴り落ちてる。

 高齢なのに無理するから。


「おいセバスチャン。

 タオル」


「はい、ご主人様。

 あと私は瀬場です。

 セバスチャンじゃありません」


 いつのまにかジジィの後ろに立っていた瀬場さん。

 この人の素早さは何なんだ?


 受け取ったタオルで汗を拭き始めた。


 スポ


 あ、ヅラ取った。

 中から出てきたのは禿げ散らかした頭。


 どっちでも余り変わらないだろうに。


「お爺様。

 私にもお目通り宜しくて?」


「お、麗香。

 紹介しよう。

 儂の孫娘、活権かつけん麗香じゃ。

 君に比べて気品に溢れとるじゃろう?」


 前に出て来た金髪縦ロール。

 喋らなくてもキャラが確立されてそうな感じ。


 年は僕と同いぐらいかな?


「オーッホッホッ!

 嫌だわお爺様ったら。

 こんな庶民と私を比べるだなんてぇっ!」


「ガッハッハ。

 ガッハッハ。

 いや、スマンかったのう麗香や。

 五番勝負はグラウンドでやるんじゃろ?

 ワシは別室で見とるからのう。

 憎き源蔵の孫なぞ捻ってやれい」


「オーッホッホッヒョッ!

 当然ですわァッ!

 庶民と上流階級の格差は竜河岸の中でも同様と言う事をじっくり教えて差し上げてよォッ!」


 何かうるさい。

 この家族、うるさい。


 このやり取りを見ていた僕が抱いた印象。


 けど、この麗香って人。

 まさか本当にこんなベッタベタな高飛車御嬢様なんているなんて。


 なんかUMAや天然記念物を発見した気分だ。


「ではワシは失礼する。

 源蔵の孫よ。

 パーティ前に落ち込み過ぎないようにのう。

 何、挫折の一つや二つ。

 人生にはいくらでもある。

 君達庶民なら尚更じゃて。

 落ち込んだ後はどれだけ早く立ち直るかで人間の質が決まるもの。

 まぁ夜のパーティに参加すればおのずと質が向上する事を約束しよう。

 ガッハッハ、ガッハッハ」


「ご主人様、お疲れ様でした」


 瀬場さんがペコリとお辞儀。

 多分、大吾郎さんと思わしき男梅は去って行った。


 と、言うのもまともに自己紹介もしていない。


 その前に何の話だ?

 五番勝負とか言ってたけど、全然聞いてないぞ。


 そう言えばお爺ちゃんが言ってた僕と孫娘を比べるって話か?


 何だ。

 気分良く高説めいた事を話してたけど、僕が敗ける前提なのか?


 質が向上するって事は僕がパーティーを体験して早く立ち直るとでも言いたいのか?


 何かこの家族って勝手に話を進めるから頭の中に疑問ばかり浮かぶ。

 正直疲れる。


「では改めて……

 私、活権かつけん麗香と申しますぅ。

 以後お見知り置きを……」


 片足を後ろに引き、スカートの裾を軽く持つ麗香さん。


 これはカーテシー。

 前に暮葉がやってた奴。


 金髪縦ロールが揺れている。


「えっと……

 僕はすめらぎ竜司。

 それでこちらの女性が天華あましろ暮葉さん。

 この方は友達の新崎蓮さん。

 そしてこの方も友達の鮫島げんさんです。

 友達は二人とも竜河岸です。

 宜しくお願いします」


「そちらの暮葉さんは竜河岸じゃありませんこと?」


「あ、えっと……」


 しまった。

 暮葉は竜。


 説明するとややこしい事になりそう。


「貴方、何処かで……

 あぁっ!!?

 クレハッ!

 貴方、クレハじゃありませんかっ!?」


「ん?

 そうだよ?

 私、暮葉。

 それより貴方、何でマンガみたいな恰好してるの?」


「この姿は私が上流階級である証ですのよぉっ!

 オーホッホッホッッ!」


「ジョーリューカイキュー?

 よくわかんないけどホントに貴方、漫画に出て来る人みたいね」


「そんな事より、何でアイドルのあなたがここにいるんですの?」


「ん?

 竜司に誘われたの。

 今日、クリスマスパーティがあるって言うから。

 私、初めてだから楽しみなんだーっ。

 みんなニコニコしてておっきなケーキがあって、キラキラしたでっかい木もあるんでしょっ?」


「オーッホッヒョッフォッ!

 初めてのクリスマスパーティが我が活権かつけん家のパーティとはっ!

 ご自身の幸運に感謝し遊ばせませっ!

 後に超特大クリスマスケーキとロシア直送のコーカサスモミで創り上げた巨大クリスマスツリーをお見せいたしますわぁっ!」


「ん?

 ん?

 何かよく解んないけど、凄そうね」


 麗香さんの御高説をキョトン顔で聞いてる暮葉。

 何かお互い肝心な所はスルーして会話が成立してるっぽい。


「が……

 その前に……」


 ニヤリと不敵な笑みを浮かべて、僕を見る麗香さん。


「竜司さぁんっ!

 貴方との五番勝負を終えませんとねぇっ!

 オーッホッホッヒョッ!」


 さっきから気になってるんだけど、この人の高笑いって音が安定して無いな。


「あの……

 麗香さん……?

 五番勝負って何の話ですか……?

 僕、聞いてないんですけど……」


「オーホッホッヒョッッ……!

 ゲホッ!

 エホッエホッ!

 御免遊ばせ。

 五番勝負と言うのは私率いる竜河岸チームと貴方との雌雄を決する争いの事。

 さぁ、行きますわよっ!

 ついていらっしゃいっ!

 オーホッホッヒッ!」


 解った。

 この家族はこっちが何で聞いてるかとか考えないんだ。


 とにかく自分の勝手で話を進める。

 そう言う人種なんだろう。


 あと高笑い、もしや慣れてないのか?

 咽てるじゃないか。


「こちらですすめらぎ様」


 瀬場さんの案内で僕らは外に出る。

 入って来た所とは違うまた奥の出口だ。


 って言うかレセプションルームはカツケンサンバを聞かせる為だけか。


 外に出ると目の前に広がるグラウンド。

 こんな物も持ってるのか。


 何か中央で準備体操をしている人が見える。

 傍に竜が居る所を見ると全員竜河岸か。


 あれが麗香さんが言う竜河岸チームか。


 ズカズカと中央に歩いて行く麗香さん。

 全員前に整列。


「オーッホッホッヒュッ!

 如何かしら?

 これが我が活権かつけんグループが誇る竜河岸チームッ!

 名付けてロイヤルドラゴンガードですわっ!」


 如何って言われてもなぁ。

 僕からしたらただの初対面の竜河岸だし。


 心なしか並んでる竜河岸の面々。

 みんな顔が赤いぞ。


 あー……

 多分、このチーム名が恥ずかしいんだろうな。


 あとさっきからきちんと高笑い出来てないぞ。


「あの……

 勝負するのは別に良いんですが……

 僕が五回やるんですか?」


「オーホッホッホッ!

 貴方は貴方でお友達らと何とかしなさいな」


 勝手だなぁ。


「オイ竜司」


 ここでげんが話しかけてきた。

 何か語尾が尖ってる。


 あれ?

 怒ってる?


「ど……

 どうしたの?」


「正直、さっきから聞いとったらムカついて来たわ。

 こいつらとことんワイらをナメくさっとんな。

 ええやんけ、五番勝負。

 受けたれや。

 ギッタンギッタンに叩きのめしたる」


「私も協力するわ。

 さっきから何、上から勝手な事ばっかり言ってんのかしら?

 ホント感じ悪い」


 げんだけじゃ無い。

 蓮も怒ってた。


「二人とも何怒ってんの?」


 暮葉はキョトン顔。


「まぁまぁ二人とも穏便にね?

 お爺ちゃんの手前も……」


 二度と竜を連れて歩けん程、叩きのめしてやれ。


 ここで思い出すお爺ちゃんの言葉。


「……無いけど。

 一応、ここは日本なんだからね。

 物騒な事は止めようよ」


「それはそうと五番勝負の内容はどないなっとんねや?」


 そう言えば。


「麗香さん、五番勝負の内容ってどうなってるんです?」


「オーホッホッホッ!

 ご安心遊ばせっ!

 もう既に用意してありますわよっ!

 セバスチャンッ!」


「はい、御嬢様。

 あと私はセバスチャンじゃありません。

 瀬場です」


 ガラガラ


 そう言いながら瀬場さんが持って来たのは何かバラエティで使うみたいなボード。

 1から5まで番号が書いてあって隣に長方形の枠がある。


「さぁっ!

 さっそく始めますわよっ!

 こちらは私とロイヤルドラゴンガードッッ!

 そちらは?」


「えっと……

 僕とこの二人です……」


 チョイチョイ


 何か裾を引っ張られる感覚。

 見ると暮葉がじぃっとこっちを見ている。


「ねぇねぇ竜司。

 今から何かするの?」


「えっと……

 この人達と……

 競技……

 なのかな?

 違う、ゲームをするんだよ」


「へー……

 私もやるっっ!」


 ニコニコ満面の笑みで参戦を表明する暮葉。


 え?

 貴方、竜でしょ?


 大丈夫なのかな?


「ちょ……

 ちょっと待ってね。

 麗香さん、暮葉もやりたがってますけど良いですか?」


「えーえー、好きになさいな。

 どうせ私達が圧勝するに決まってますわァッ!

 オーホッホッホッ!」


 言質取ったからな。

 後悔するなよ。


「さぁ、さっそく始めますわっ!

 セバスチャンッ!

 一戦目を開きなさいっ!」


「一戦目は……

 垂直飛びですね。

 私はセバスチャンではありません。

 瀬場です」


 あ、脇のダイヤルでボードを回転させるタイプなのか。

 それと瀬場さん、アレ毎回言うのか?


「徳永。

 前へ」


(はいっ!)


 一人が前へ出て来た。

 体格は割と良い、角刈りの男性。


 年齢は24歳ぐらいかな?


「垂直飛びか……

 ええやんけ、一番手はワイや。

 おい、お嬢。

 魔力注入インジェクトは使こうてええんか?」


 ■魔力注入インジェクト


 竜河岸が竜の魔力を使って行うバフ技能。

 単純なパワーの向上から敏捷性の向上。

 五感の精度アップ等が可能。

 習得している竜河岸も多い。

 


「お……

 お嬢って私の事ですの?

 ええ、もちろん。

 竜河岸の勝負ですから当然ですわ。

 無論、徳永も使いますわァッ!

 オーホッホッホッ!」


 少し間が空くと高笑いは安定するんだな。


「よっしゃっ!

 ほんじゃあこっちも使わせてもらうわ。

 お前らから先に跳べや」

 

(では……

 行きますっっ!

 ハァッッッッ!!)


 ドコォォォォン!


 大きく鳴る衝撃音。

 同時に徳永と呼ばれた人の姿が消えた。


 見上げるとかなり上空に居る。

 まだまだ上昇している。


「……へっ

 まあまあやな。

 オラァッッ!」


 ドコォォォォォォンッッ!


 続いてげん

 強くグラウンドを蹴って超速で急上昇。


 響いた音はさっきよりも大きい。


 ダンッッッ!


 やがて先に降りて来た徳永さん。


(くっ……

 くそッ!!)


 四つん這いで空を見上げて悔しそうな顔。


 ダンッッ!


 しばらく待っているとげんが降りて来た。


「へへ……

 ワイの勝ちやな。

 下からは見えんかったかも知れんけど、どっちが高かったかはやった本人がようわかっとるやろ?」


 すっくと立ち、平然と不敵な笑みのげん


(す……

 すいません御嬢様……)


 徳永さんが青い顔になってる。

 給料とかに影響するのかな?


「一戦目はすめらぎ様の勝利ですね」


「オ……

 オーホッホッホッ!

 庶民と言えどさすがは竜極のお孫さんですわね。

 しかぁしっ!

 ロイヤルドラゴンガードはまだ控えておりましてよっ!

 さぁセバスチャンッ!

 二戦目を開きなさいっっ!」


 竜極ってのはお爺ちゃんの異名。

 竜の力を極めた人って意味らしい。


 って言うかげんは孫じゃねぇ。


「二戦目は……

 砲丸投げですね。

 あと私はセバスチャンではありません。

 瀬場です」


「オーッホッホッヒョッ!

 この勝負は頂きましたわァッ!

 石井ッ!

 前へ」


 あ、間隔が狭まったからまた音が乱れてる。

 それにしても砲丸投げか。


(はいっっ!)


 前へ出て来た人はさっきの人よりもガタイが数倍良い。

 まさに力自慢って感じの人だ。


 向こうは何か自信がありそうだな。

 さて、どうしよう?


「砲丸投げか。

 オイ竜司。

 ワイが連チャンでやってええか?」


「あ、別に良い……」


「ム~~っ!

 げんちゃんばっかやっててズルいっ!

 私も何かやりたいっ!」


 げんにしようと思った所、むくれっ面の暮葉が苦言。


「あ、ゴメンゴメン。

 げん、悪いんだけど暮葉にやらせてやってくれる?」


「しゃあないのう、ええで」


「ありがとう。

 じゃあこっちは暮葉で」


「オーホエッホッ!

 エッホッ!

 ゲッホッ!

 御免遊ばせ。

 竜司さぁんっ?

 勝負を投げたんですのぉっ?

 そんな細腕でこの石井に敵うと思ってぇっ?」


 慣れてないなら高笑いなんてしなけりゃ良いのに。


「そんなのやってみないとわからないでしょ?

 あのね、暮葉。

 砲丸投げってのはね……」


 僕は暮葉に砲丸投げを説明。


「フンフン。

 この黒い球を投げたら良いの?」


「そうだよ。

 思い切り投げちゃって」


「オーホッホッホッ!

 そんな華奢な腕じゃあ思い切り投げてもたかが知れ」


「ホイ」


 ブンッッッ!


 麗香さんの言葉を遮る様に暮葉が砲丸を投擲。


 ギュオッッッッッッッ!


 真っすぐ空へ飛ぶ砲丸は雲を突き破り四散させる。

 そのまま消えて行った。


 距離を測るとか言う次元を超えている。


 もはや投擲と言うよりかは射出。

 みんな言葉を失っている。


「二戦目もすめらぎ様の勝ちと……」


 石井って人が投げる前に淡々と僕らの勝利を告げる瀬場さん。

 そりゃあねぇ。


「クキィーーッ!

 一体何だというのォッ!?

 お前たちィっ!!

 もっと気合を入れなさいっっ!」


 麗香さんが白いハンカチを噛み締めて下へ引っ張っている。

 本当にベタなお嬢様だなぁ。


「ねぇねぇ、竜司。

 このゲームどうなったの?」


 目をパチクリさせながら純粋な目で尋ねて来る暮葉。


「暮葉の勝ちだよ。

 圧勝」


「やったぁ。

 ホントに貴方、マンガみたいね」


 勝利に喜んだと思ったら興味は麗香さんの所作に移った模様。

 結局何やかんやで五番勝負は続き……


 勝敗は引き分けで終わった。


 と言うのも正直僕らの圧勝だったんだけど、最後の麗香さんとの勝負前に瀬場さんからこそっと耳打ちされたんだ。


すめらぎ様、お嬢様との勝負は何卒忖度の程を宜しくお願いします」


 要するに八百長して負けろと言うのだ。


「え……?

 何でですか?」


「ここでお嬢様が負けてしまうと、後のパーティに影響が出てしまいます。

 ですので何卒忖度の程を……

 理由は後できちんとお話致しますので」


 え?

 え?


 どう言う事?


 何で麗香さんが負けたらパーティに影響するんだ?

 訳が分からん。


「仰っている意味が良く解りません」


「そのお気持ちは重々承知の上で御座います。

 理由を簡単に説明するとお嬢様のスキルの関連でです。

 何卒忖度を」


 スキルって言うのは竜河岸が扱う固有能力の事。

 僕も蓮もげんも持ってる。


「まだですのっ!?

 早くしなさいなっ!

 私が敗れない限り、ロイヤルドラゴンガードは敗けていなくってよォッ!

 オーホッホッホッ!」


 高笑いしながら往生際の悪い事を言ってる麗香さん。

 と言うのも部下の竜河岸は全員僕らに負けている。


 何だったら使役している竜まで駆り出して来たけど、ガレア一人で叩きのめしちゃったんだ。


 ガレア曰く。


【お前らみたいな奴らに俺が敗けるかっての】


 だそうだ。


 後で瀬場さんに聞いた所、争った竜河岸の人達は普通に営業とか企画とかの社員さんなんだって。


 別にスポーツ選手とかでも無い、人種を除けば普通の暮らしをしている人達。

 それが麗香さんの勝手な言い分で駆り出されただけ。


 ロイヤルドラゴンガードなんて名前負けも良い所。

 全員赤面してたのも解る。


 ちなみに石井って人だけは趣味で鍛えてたらしい。

 けど争ったのが暮葉だったのが不幸だったな。


 竜と人じゃそもそも生物としての土台が違い過ぎる。


 結局僕は忖度をしてわざと負けた。

 こんなくだらない勝負で後のパーティが台無しになるのは何とも忍びない。


 僕が敗けて丸く収まるなら別にいいやと言う事。


「オーホッホッホッ!

 ご覧頂きましてェッ!?

 この勝負は引き分けっ!

 引き分けですわァッ!」


 ちなみに勝敗に関しては最終戦が4ポイント。

 それまで全敗してても勝てば引き分けになると言うもの。


 逆転されないだけバラエティ番組よりかはマシだ。

 

「は……

 はい……

 そうみたいですね……」


「とは言うものの……

 あなた方の勇猛な戦いっぷりにはこの活権かつけん麗香、感服いたしましてよ」


 何か僕らが負けたみたいになってるぞ。

 いや、引き分けだからな。


 て言うか蓮もげんも全然余裕だったし。


「は……

 はぁ……」


「私達の健闘を称え、友情の握手で終幕と致しましょう」


 スッ


 そう言って右手を差し出す麗香さん。


「あ……

 はい……

 じゃあ……」


 僕らは握手を交わした。

 これにてよく分からない五番勝負は終了。


 時間、何時ぐらいだろ?

 僕はスマホで時間を確認。


 午後3時52分


 四時前だ。

 結構な時間じゃないか。


「さぁ、余興は済みました。

 ここからパーティの準備に取り掛かりますわよっ!

 セバスチャン、入浴と衣装の準備をっ!」


「かしこまりましたお嬢様。

 あと私はセバスチャンではありません。

 瀬場です」


 徹底しているなぁ。


「あと暮葉さんと……

 貴方、蓮さんと仰ったかしら?

 あなた達も一緒に参りませんこと?」


「え……?

 お風呂……?

 別にいいわよ。

 そんな汗も掻いてないし」


「何を仰いますの。

 貴方、そんなに可愛らしいのに磨いて披露しないと勿体ありませんわ。

 当家自慢の浴場で洗って差し上げますわよ」


「か……

 可愛いだなんてそんな……」


 あ、若干照れてる。

 蓮って案外チョロいよな。


「お風呂っっ!?

 みんなでお風呂っっ!?

 楽しそーーっっ!

 ねっ!

 ねっ!

 蓮っ一緒に入ろっ!?」


 暮葉も混じってきた。


「あーもーっ!

 解ったわよっ!

 入るわよっ!

 入ればいいんでしょっ!」


「蓮さん、女性と言うものは常に優雅にぃっ!

 エレガントに振舞わないといけません事よぉっ!

 オーホッホッホエッホッ!

 エッホ!

 ゲッホ!」


 咽るのって急に来るんだな。

 気管支でも弱いのかな?


 こうして三人は屋敷の中へと消えていった。

 何故かルンルも一緒に。


「……んで、ワイらはどうしとったらええんじゃ?」


「さぁ……」


「宜しければゲストルームへご案内いたしますが?」


 瀬場さんが気を利かしてくれる。


「あ、よろしくお願いします。

 げん、ガレアとりあえず行こう」


「おう、ベノムも来んかい」


 僕らは瀬場さんの案内で屋敷の中へ。

 とある一室に招かれた。


 中には雑誌やテレビ、ドリンクサーバー等も完備されている。

 えらく庶民的な部屋だなあ。


「ではパーティ開演は午後六時ですので、しばしお待ち下さいませ」


 そう言い残し、瀬場さんは場を後にした。


 ゲストルームの居心地は割と快適。

 時間はあっという間に過ぎ、気が付いたらもう5時半を過ぎていた。


 窓から見える景色は夕闇に包まれ始め、茜色の空が濃紺色に侵食されつつある。

 冬だから日が落ちるのが早いんだ。


「うお、もうこんな時間やんけ。

 女共は何しとんねん」


「ホントだ。

 もしかして僕らがここにいるって知らないのかも。

 僕ちょっと見てくるよ。

 トイレも行きたいし」


「おう、ほな頼むわ。

 迷子になんなよー」


 僕はゲストルームから出て、瀬場さんを探しつつトイレも探す。

 結構飲み物飲んだから正直膀胱がヤバい。


 何処だ何処だ。

 トイレは何処だ?


 あ、これって……

 うん、迷ったな。


 広過ぎる。

 案内板なんかも無いから完全に迷った。


 ガチャ


 違う。


 ガチャ


 違う。


 僕は手当たり次第に扉を開けて行く。

 しかしどれも用途不明の部屋ばかり。


 落ち着け。

 落ち着け。


 僕しかいないのにローラー作戦をやっても駄目だ。

 まずはトイレがありそうな場を考えろ。


 ……よし、思い付いた。


 トイレは水場。

 ならば風呂の近くにある筈。


 ってその風呂が見つからないっての!


 ガチャッ!


 違うッ!


 ガチャッ!


 違うッ!


 一体こんなにも何に使うんだっ!

 彷徨う事、10分弱。


 ガチャッ!


【アンタ、ケツは結構色っぽいのにホント胸が残念よねぇ。

 もっとキャベツを食べなさいキャベツを】


「ルンル、うるさい。

 ……何でこの服、こんなに背中が出てるのよ」


 認識できたのはオカマ口調の竜言語。

 そして聞き慣れた声。


「アレ?

 竜司、こんな所で何してんの?」


 続いて聞こえる婚約者の声。

 音の次は視覚。


 飛び込んできたのはまず暮葉の着ている赤い服。

 端々に白いフワフワが付いている。


 サンタ?

 コスプレ?


 華奢で白い肩口。

 振り向いてる暮葉はキョトン顔。


 僕の動きは完全に止まった。

 無言で凝視してしまっていた。


 尿意も完全に吹き飛ばす程の衝撃。


「…………何かポッペが熱くなってきた。

 竜司、あんまりこっち見ちゃダメ」


 照れ笑いを浮かべる暮葉。

 正直物凄く可愛い。


 が……

 その隣。


 蓮の方は暮葉以上に肌が露わになっていた。

 背中はほぼ丸出し状態。


 蒼い髪に映える白い肌。


 そして僕の存在に気付いていた。

 振り向き様に僕の方を見ている。


 顔は真っ赤。

 多分恥ずかし過ぎて声が出ないんだろう。


 ガンッッッ!


 痛っ!

 何か硬いものが顔面に当たった!


 ズデェッ!


 そのまま床に倒れこむ。


「くぁwせdrftgyふじこlpーーーーッッッ!!!」


 甲高い言葉にならない悲鳴が轟く。


「バカッッッ!

 何シレっと覗いてんのよッッ!

 竜司のエッチッッ!

 バカッッ!」


 いや、僕はただトイレを探していただけであって。


 決して。

 決して覗こうだなんて。


 ……確かに眼福ではあったけど。


「ん?

 竜司はいっつもエッチだよ?

 蓮ってば何言ってんの?」


 バタンッッ!


 扉は再び固く閉ざされた。

 暮葉さん、その発言の意図が解らない。


「……貴方、何やっていますの?」


 ここで麗香さんの声がかかる。

 体を起こすとまたこれもサンタコス。


 ロココ調のシュミールドレス型は変わらないんだが配色がサンタクロースになっている。


「いや……

 トイレを……」


「トイレならもう少し奥ですわよ」


 トイレを意識したら猛然と溢れる尿意。


「ありがとうございますっ!」


 僕は脱兎の如くトイレへ向かい、用を足した。

 この時の気持ち良さたるや。


 まさに抑圧からの解放。


 トイレから出るとすっかり着替え終わった二人が試着室から出て来ていた。

 三者三様趣向の違うサンタモチーフの衣装。


 麗香さんはワッサワッサとしたエレガントサンタ。

 しかし二人は何か……


 やたらボディラインが強調された服。


 暮葉のは両肩出ていて腰の括れもクッキリ見えている。

 蓮のは上着を着て背中は隠しているが下のヒップラインがハッキリ解る。


 正直何かエロい。


「……ちょっと竜司っっ!

 いやらしい目で見ないでよっ!」


 蓮がむくれっ面で怒ってる。


「貴方……

 さっきはなかなかおやりになる竜河岸だと思ってたのに……

 ただの出歯亀でしたの……?」


 麗香さんもジトッとした目でこっちを見る。


「違いますっっ!

 ホントにっ!

 ホントにトイレを探していただけなんですってっ!

 大体こんな広い家なら案内板ぐらい付けて下さいよっ!」


「あぁ~らっ御免遊ばせぇ。

 私共、上流階級からしたらこれぐらいの屋敷は広いに入りませんのよ。

 案内板なんか無くてもトイレぐらいすぐに解かりましてよぉっ!

 オーホッホッホッホッッ!」


 こいつ。


「そんな事より、そろそろ時間じゃないんですか?」


「ええ、そうですわね。

 では参りましょうか」


 僕はげんとガレア、ベノムを呼びに行き、皆で中庭へ。


 出るなり飛び込んでくるのは光り。

 白く輝く大量のオーナメント。


 夜闇を照らし、煌々と瞬く光の粒が列になって屋敷の中腹辺りから吊るされている。


 その光の列は中央の巨大クリスマスツリーへと繋がっている。

 全ての光を集約したかの様に一層光り輝くツリー。


 巨大なツリーは光だけで無く、色とりどりの飾り付けが上から下まで満遍なく施されていた。


 ガヤガヤ


 そして周りには大きなテーブルがいくつも置かれ、上には豪華絢爛な御馳走が所狭しと並べられいる。


 もう料理名とかも解らない。

 が、贅沢な料理と言う事は伝わる。


 更にそのテーブルの周りには人の群れ。


 パーティの招待客だろうか?

 いつの間にこんなにやって来たんだ?


 全く気付かなかった。


「あっ!?

 お爺様ーっ!」


 麗香さんがワッサワッサとドレスを震わせ駆け寄っていった。

 大吾郎さんは何か他の人達と談笑中……


 いや、何か悪企みをしてそうな感じ。

 麗香さんもカーテシーポーズで挨拶。


 よく見ると周りの女性はみんなサンタモチーフのドレスを纏っている。

 女性のサンタコスは決まりなのかな?


「うわ……

 みんな綺麗なサンタクロースになってる……

 私、場違いじゃないかな……?」


 いやいや、何を言っている。

 蓮も充分可愛いから。


「ん?

 蓮もすっごく可愛いよ?」


 無垢な顔で素直に褒める暮葉。

 この天真爛漫さはこう言う時、本当に助かる。


「フフ……

 ありがと。

 暮葉こそさすがアイドルね。

 何着ても絵になるわ」


「アーアーッ!

 テステス……」


 拡声器で大吾郎さんの声が響く。


「皆の衆っ!

 今日は集まって頂き感謝するっ!

 今年一年、良い事があった者はそれが来年にも続くよう祈り、嫌な事があった者はワシが用意した食事を食べて不運を取り払ってくれいっ!

 今年も愛しの孫娘、麗香の催しものはあるからのう。

 楽しみにしとれいっ!

 ガッハッハッ!

 ガッハッハッ!」


「オーホッホッホッ!

 今年も大盤振る舞いですわぁっ!」


(うおーっ!

 麗香様ーっ!)


(今年こそーっっ!)


「では皆の衆っ!

 グラスは持ったかの?」


 あ、乾杯か。

 持ってないぞ。


 えっと……

 あ、給仕さんがいた。


「すいません、僕にも下さい」


(はいどうぞ)


 グラスを受け取り、振り向くと僕以外全員既にグラスを持っていた。

 ルンルやガレアまで。


 酷い。

 みんな言ってくれてもいいのにな。


「カンパーイッッ!」


 何はともあれパーティが始まった。

 けど、いざ始まってみると何て事は無かった。


 いや、確かに料理は美味しい。

 ツリーやオーナメントも凄く綺麗なんだけど。


 何かそれだけ。


 よく解らないけど、特にクリスマスだからって感じもしない。

 別にパーティを腐そうとか斜に構えるつもりじゃない。


 暮葉はずっとキョロキョロしてて落ち着かない様子だし。

 ガレアは色々なテーブルを回って料理をいっぱい食ってるし。


 みんな楽しそうだし良いんだけどね。

 でも今一つ僕の気持ちは高揚しない。


 何故なんだろう?

 僕は周りに広がる光景に身を置かず、何処か外から見てる気分になっていた。


 そんな折……


「あーっあーっ!

 皆様ーっ!

 楽しんでおりましてっ!?

 そろそろ場も温まって来た所で……」


 いや、別に僕は温まってない。

 ってさっきからちょこちょこ聞くやつか?


 瀬場さんも言っていた。

 麗香さんの催しって何だろう?


「始めますわよっ!

 麗香サンタからの大プレゼントッ!

 散宝の儀を執り行いますわぁっ!

 オーホッホッホッ!」


 散宝の儀?

 何だそりゃ?


(ウオーーーッッ!

 キターーーッッ!)


(年明けには新商品のリリースが控えてるんだっ!

 頼むぞーーっっ!)


 何か周りも盛り上がってる。


すめらぎ様、パーティは楽しんでおいでですか?」


 ここで瀬場さんが話しかけて来る。


「あ、はい。

 まぁ、そこそこには。

 もともとこう言う場には余り慣れていないので」


「左様で御座いますか」


「で、今から何が始まるんです?」


「今から行う催しは散宝の儀と申しまして。

 麗香お嬢様がスキルで宝石を生成して皆に振舞われるんです」


 へぇ、スキルで。

 珍しいな。


「魔力で物質を生成するってかなり高難度なのに凄いですね」


「ええ、麗香お嬢様のスキルのお陰で我が活権かつけんグループは世界の宝石シェアの六割を占めるまでに成長いたしました。

 もはやお嬢様は活権かつけん家になくてはならない存在です」


 まぁそりゃそうか。


 発掘じゃ無しに自分で生産できるとなるとほぼ半永久的に宝石を確保出来る。

 市場の価値操作も思いのままか。


「はいっどうぞっ!

 お受け取り遊ばせっ!」


 瀬場さんと話してる内に生成完了したらしい。

 手渡しで宝石が渡された。


 ……ってかデカい。

 何カラットあるんだ?


 掌に収まるずしりと重たい翠色に輝く宝石。

 これはエメラルドかな?


「どうやらコンディションは好調の様ですね。

 すめらぎ様、本日の麗香お嬢様の無礼な振る舞いをここでお詫びしておきます」


 ここで妙な事を言い出す瀬場さん。

 静かに頭を下げる。


「あぁっ!?

 いえいえっ!

 そんな瀬場さんが謝ることじゃないですよっ!」


「ステレオタイプなお嬢様にさぞや驚かれたことでしょう」


「まぁ……

 こんなベタなお嬢様ってホントにいるんだなとは思いました……」


「フフ……

 確かに。

 でもそれは無理の無い話なのです。

 何故なら今のお嬢様の振る舞いは全て漫画などメディアからの受け売りなのですから」


 そうなのか。

 だからあんなベッタベタなお嬢様気取りなのか。


「何でそんな事を?」


「お嬢様は主人の役に立とうと必死なのですよ。

 主人に恥をかかさぬよう、お嬢様として振舞わないといけない。

 だからあんな社歌にも付き合うし、慣れない高笑いも続けるのです」


 やっぱりあの安定しない高笑いは慣れていないかったのか。

 要はただのお爺ちゃん子ってだけか?


「じゃあ、ホントはあんな子じゃないって事ですか?」


「ええ、多分先の五番勝負も引き分けと言ってますが心中では負けを認めています。

 でも主人の手前、認める訳にはいかなかったのでしょう。

 本日もあぁして参加者全員に宝石を手渡ししています。

 これも主の孫娘として出席者には敬意を払わなければいけないと言う気持ちの表れです」


 瀬場さんの見つめる先には笑顔でデカい宝石を渡してる麗香さんが見える。


 こう言う話を聞くとあの笑顔が高慢ちきなもので無く凄く素敵な笑顔に見えるから不思議だ。


「さぁーっ!

 皆様っ!

 私からのプレゼントは全員お受け取りなされましたわねっ!?

 ではっ!

 皆様に幸あれーっ!

 オーホッホッホッ!」


 ここで麗香さんの大きな声。

 また妙な事を言ってたぞ。


「オイ竜司。

 何やデッカい宝石もろたけど、これどないしたらええねん」


「私も。

 こんな大きな宝石もらっても困るんだけど」


「それはお嬢様からのクリスマスプレゼントですのでどうぞお持ち帰り下さいませ。

 本日の出来からどれも億はくだらない価値がありますので資産運用にでもご活用ください」


「いや、瀬場のオッサン何言うとんねん。

 ワイらまだ未成年やぞ?

 そないなモンになんちゅうもんもたせんねや」


「そうよ。

 それに、これ魔力で生成してるんでしょ?

 だったら自然に消えちゃうんじゃないの?」


「ご安心下さい。

 お嬢様のスキルは遅置換作用がありまして、そのまま放って置くとひと月ぐらいで本物の宝石へと変化します。

 ただし…………」


「エッキシッッ!」


 ドゥンッ!


 !!!?


 何だ!?

 爆発!?


 オッサンのクシャミみたいな音が聞こえたと同時に爆発音。


 ワーワーッ!

 キャーキャー!


 爆発音を皮切りに会場がざわめき出す。

 だが恐怖というよりかは何処か歓喜の声に聞こえる。



「無事に持ち帰ればの話ですが」



 サラッと怖い事を言う瀬場さん。


「ちょ……

 ちょっとっ!

 今なんて……?」


「もう宜しいでしょう。

 まずお嬢様のスキルは宝石加工インクルカットと申します。

 概要は地球上のありとあらゆる宝石を竜の魔力によって生成する事が可能。

 ですが、生成直後2時間以内にお嬢様がクシャミをすると宝石の魔力が爆散いたします。

 クシャミ一回でどれが爆発するかいくつ爆散するか。

 それはお嬢様でも知り得ない完全アトランダムとなっております」


 この人は一体何を言ってるんだ。

 じゃあ僕が持ってるこの宝石も爆発するかも知れないって事じゃないか!


「瀬場さんっ!

 何あなた恐ろしい事をサラッと言ってるんですかっっ!?

 麗香さんは爆弾を手渡したも同然なんですよっ!?」


「ご安心下さい。

 音や光は派手ですが殺傷能力は低いです。

 爆風に触れても少々熱くて多少焦げ目がつく程度。

 バラエティ等で使われる低温花火みたいなもの。

 ちなみに二時間爆発しなかった宝石はもちろんお持ち帰り頂いて結構ですし、その宝石の持ち主は来年の幸運が約束されます」


 何か色々合致した。

 観客の妙な台詞も麗香さんの言葉も。


 おそらく幸運って言うのも占いみたいな気休めで無く本当に起きるんだろう。

 で、無いとここまで周りは熱狂に沸き立たない。


「エッキシッ!

 エックシッ!」


 ドドドドドドドドウゥゥンッッ!


(わーっ!

 10個ぐらい爆発したぞっ!)


(今年はペースが早いなっ!)


「……おい、これとっとと捨てた方がええんとちゃうか?

 こんなぶっそ」


「エッキシッ!」


 ドゥンッッ!


「うわっ!?」


 僕の目の前で爆発。

 げんの持ってる宝石が爆散したんだ。


 光と煙に包まれたげんの大柄な身体。


 モクモク


 やがて煙が晴れ、中から出てきたのは顔を真っ黒にしたげん

 金髪のリーゼントも煤だらけでグチャグチャ。


 昭和のコントか。


「……オイ……

 オッサンッ!

 これどないなっとんねんっ!」


 良かった。

 瀬場さんの言う通りダメージはないみたい。


「プッ……

 アハハハハッ!

 何よ、げん

 その顔っ!」


 蓮がげんの有様を見て笑い出した。


 無理もない。

 昭和のコントのオチみたいだもん。


「キャハハハッ!

 げんちゃん、何その顔ーっ!

 真っ黒けっけーっ!」


 続いて暮葉も大爆笑。


すめらぎ様、ご安心頂きましたでしょうか?

 この通り、特に身体へのダメージはございません」


「は……

 はぁ……」


「おいオッサンッッ!

 ワイの頭見てもっかいおんなじ事言うてみぃっ!」


 真っ黒の煤だらけでいきり立つげん

 確かにビシッと決めていたリーゼントが見る影も無い。


「で、さっき言ってたパーティに影響って言うのは?」


「はい、仮に先の五番勝負。

 すめらぎ様が完膚無きまでに御嬢様を敗北させたと致しましょう。

 おそらく御嬢様は酷く落ち込まれます。

 私が泥を塗ってしまった。

 お爺様の栄光に傷を付けてしまったと。

 そんな状態で宝石加工インクルカットを使用しても小粒ばかりで種類も少なく、ここまで音も大きくないでしょう。

 しかも生成された宝石は全て爆散して誰も幸運を持ち帰らずに終わると言う最悪の結果となります」


 スキルの精度は麗香さんのテンションに左右されると言う事か。


「エッキシッッ!」


 ドゥンッッ!


「イッキシッッ!」


 ドドゥンッッ!


 ワーワーッ!

 キャーキャーッ!


 説明を受けている間も周囲は喧騒に包まれている。

 麗香さんがオッサンみたいなくしゃみをする度、響き渡る爆発音。


「あの……

 まぁ概ね事情は分かりましたが……

 よくもまぁ都合よくスキル直後にくしゃみ連発しますね」


「お嬢様がスキルを使用すると自律神経が激しく乱れるそうです。

 結果、あの様にくしゃみを連発すると。

 あと、年不相応なのは単に麗香お嬢様の個性です」


 個性だと受け入れているが、やっぱり瀬場さんも言葉を変えているがオッサンみたいだと思っていたのか。


「ククク……

 あー、おっかしー……

 さて、私はげんみたいになるのはゴメンだから……

 えいっ!」


 ブンッ


 蓮がオーバースローで宝石を投げた。

 大きな放物線を描いて夜の空へ消えて行く。


「ウックシッッ!」


 ドドゥンッッ!


 くしゃみと同時に上空の宝石が爆散。


「はい、これで私いーちぬーけたっ!

 別に幸運なんていらないし。

 げんもとっととこうすりゃ良かったのに」


「そこら辺の事情解らん内に爆発したんやからしゃあないやろ」


「イッキシッ!」


 ドドドドゥンッッ!


「エッキシッッ!」


 ドウンッッ!


 周りの宝石がどんどん爆散していく。

 僕のはまだ爆発していない。


「ねぇねぇ竜司。

 もしかして私の持ってるコレももしかしてドッカンしちゃうの?」


 暮葉の手にはこれまた大きく白い宝石。

 これってもしかしてダイヤモンド?


「う……

 うん、まだ解らないけど……」


「じゃあ……

 私もげんちゃんみたいになっちゃうの……?」


 少しトーンが沈んだ声。


 暮葉も女の子。

 げんの様に真っ黒になるのはやはり抵抗があるのかな?


 そう思い、暮葉の顔を見る。

 が……



 全然そんな事無い。

 無かったんだ。



 眼は爛々と。

 口角は持ち上がり、テンションが上がるのを抑えきれない感じ。


「く……

 暮葉……?」


「私もドッカンしたいっっっ!

 げんちゃんみたいに面白くなりたいっっ!」


 えええ。


 爆発するって事は言わばハズレくじなんだぞ。

 ……いや、多分この娘は解って無いんだろうな。

 

 げんもウケを狙いたくて爆発した訳じゃ無いのに。


「オイ暮葉。

 言うとくけどワイ、別に笑いが欲しくてこうなったんとちゃうからな?」


 ごもっとも。


「えーっ、そーなのーっ?

 ……プッ……

 キャハハハハッッ!

 そんな面白いのにーっ!」


「あの……

 瀬場さん、すいませんけど櫛と手鏡を用意してくれませんか?」


「かしこまりました。

 少々お待ち下さいませ」


「エッキシッッ!」


 ドドドゥンッッ!


「イッキシッ!

 ウックシッ!」


 ドドォンッ!

 ボボォンッ!


 ワーワーッッ!

 キャーキャーッッ!


 麗香さんのくしゃみ。

 爆発。


 そして周囲の熱狂じみた喧騒。


 三つが混ざり合う混沌とした中、平然と屋敷の中へ消えて行く。

 すぐに瀬場さんは帰って来た。


「ありがとうございます。

 ホラ、げん

 これでせめて髪型だけでも直しなよ」


「おう、竜司悪いのう」


 とりあえず髪型だけは何とか整えたげん

 あ、ついでにタオルを持って来て貰ったら良かった。



 1時間半経過



 まだ爆発しない。

 暮葉のも。


「時間的にそろそろ終了ですね。

 すめらぎ様、天華様。

 おめでとうございます。

 来年は良い年になりますよ」


「あ……

 ありがとうございます……

 で、いいのかな?」


 言われても実感が沸かない。

 普通に年末の社交辞令とも取れるしなぁ。


「むーーっっ!

 つまんないっ!

 私の全然ドッカンしないっっ!」

 

 かたや暮葉はむくれっ面。


「ま……

 まぁまぁ、来年幸運らしいしさ」


「コーウンなんて言われても知らないっっ!

 私は面白くなりたいのっ!」


 何かツンツンと尾を引いてる。

 そんなにウケを狙っていたのか。


「天華様は珍しい方ですね。

 ここまで残っていたら大抵、喜んでいるものですが」


 瀬場さんも暮葉の反応に疑問らしい。

 何せ竜だからなぁ。


(イェァァァァァァッッ!

 残ったァァァーーっっっ!)


(もしもしィィッ!?

 あぁ、私のは残ってるっっ!

 今から言う銘柄を買いまくれっっ!)


 場の状況も変化。


 くしゃみと爆発音と喧騒が溢れていたのが若干静かになり、宝石が残った人の声だけが響いている。


 歓喜に湧く者。

 さっそく何処かに連絡と指示を送っている者。


 様々だ。


「さて……

 後はエンディングを残すのみ。

 すめらぎ様、本日はどうもありがとうございました」


 ぺこり


 瀬場さんは静かにお辞儀。

 この人、ずっとピシッとしていたなぁ。


 そろそろ終了か。

 何かあっという間だったな。


 バタバタとして気が付いたら終わるって感じだ。


「あ、いえいえ。

 僕も楽しかったです。

 こんなおっきいプレゼントも貰いましたし」


 手に持たれた大きなエメラルド。


「それは何よりです」


「エンディングって何かやるんですか?」


「スノーマシンで雪を降らせ、クリスマスツリーがライトアップされます」


「へぇ……

 ホワイトクリスマスですか」


「左様でございます。

 では私は残務処理がありますので失礼します。

 また機会がございましたら」


「あ、はい。

 ありがとうございました」


 こうして瀬場さんは去って行った。

 結局この人は何者だったんだろう?



 数分後



(オーッ!)


(キレーッ!)


 瀬場さんの言う通り雪が降って来た。

 同時に中央のクリスマスツリーがライトアップ。


 降る雪が光を反射してキラキラ光りながらゆっくりと降りて来る。

 確かにこれは綺麗だ。


 あ、そうだ。


 僕はみんなと一緒にその光景を見上げる。

 光る雪とツリーを見つめながらある事を思い出す。



 プレゼント。



 用意してたんだった。

 本当につまんないものなんだけど。


 シチュエーションとしてはバッチリなんだろうな。

 ……けど。


 どう切り出していいか解らない。

 そんな経験無いんだから。


 そんな事を考えていると……


「ちょっとちょっと竜司」


 後ろから蓮が話しかけて来る。

 何やら小声だ。


「……ん?

 蓮?

 それにげんも。

 どうしたの?」


 振り向くとそこには蓮とげんが居た。

 げんは何やらニヤニヤしている。


「どうしたのじゃないでしょ?

 アンタ、暮葉にプレゼントの一つでも用意したんでしょうね?」


「あ、うん……

 一応……」


「どうせ、お前の事やからどう切り出してええかが解らんのやろ?」


「う……

 うん……」


「しょうがないわねぇ。

 私達が何とかするからとっととプレゼント取って来なさい」


 僕は蓮に言われるままプレゼントを取りに行く。

 ガレアの亜空間にしまってるんだ。


 えっと……

 ガレアガレア……


 竜の亜空間って便利なんだけど、側に居ないと使えないんだよな。


【モグモグ……

 うまうま……

 これ旨ぇな。

 もっと無いかな?】


 いた。

 テーブルの食べ物をガツガツむさぼっていた。


 僕はガレアの元へ駆け寄る。


「ガレア」


【ん?

 竜司か?

 これ美味いな。

 モグモグ……】


「そんな事はどうでもいいから。

 それよりちょっとお願いがあるんだよ」


【何だよ。

 コレならやらねぇぞ】


「違う違う。

 ちょっと亜空間を開いて欲しいんだ」


【何だそんな事か。

 ホラヨ】


 ギュオッ


 ガレアの隣に亜空間の穴が開く。

 中に手を突っ込み、手探りでプレゼントを探す。


 ズボ


 良かった。

 一発で引き当てた。


 僕の手には長方形にラッピングされ、リボンをあつらえたプレゼント。


 僕が用意したのはストラップ。

 可愛いネコとハートのビーズのストラップ。


 本当につまらないものだけど、暮葉の事を考えて一生懸命選んだ。

 喜んでくれると嬉しいな。


 けど、その前に渡せないといけない。

 僕はプレゼントを手に蓮の元へと戻る。


「お待たせ」


「よし、じゃあちょっと待ってなさい。

 ツリーの真下辺りに暮葉を誘い出すから」


 そう言って暮葉の元へ向かう蓮。


 え?

 僕どうしたら良いの?


「折を見て蓮とチェンジせぇって事やろ?

 ホレ、気張って行って来いやっ!」


 バンッッ!


 げんに背中を強く叩かれる。


「うわっ……

 ととっっ……」


 僕はつんのめりながら前へ。

 そのままツリーの麓まで。


 近づくと解る。

 このツリー、物凄く大きい。


 眼前にデンとそびえるクリスマスツリー。

 四方に光を放ち、煌々と輝いている。


 おっと、そんな事を考えている場合じゃない。

 暮葉暮葉……


 いた。

 蓮と楽しそうに話している。


 あ、チラッとこっちを見た。

 僕が来た事を察したんだ。


 すると何やら暮葉に話して蓮はその場から離れて行った。

 なるほど、そう言う事か。


 頑張れ僕。

 たかがプレゼントを渡すだけだろ。


 踏み出せ。

 一歩前へ。


 考えるけど、なかなかその一歩が踏み出せない。


 もしプレゼントを気に入らなかったどうしよう?

 それ以前に要らないとか言われたら……


 頭にネガティブな考えが巡る。

 そんな時。


 暮葉の顔が目に入ったんだ。

 横顔が。


 ゆっくりと雪が降る中。

 ツリーと雪の光に照らされた横顔。


 微笑みながら見つめてるその横顔を見てたら……

 自然と足が動いたんだ。


 一歩。

 また一歩と。


 暮葉に近づいて行く。

 何故足が動く様になったのかは解らない。


 けど、さっきまで身体を縛っていたネガティブな考えは霧散。


 暮葉の隣へ。

 傍へ行きたい。


 それだけしか考えてなかった。


「ね……

 ねぇ、暮葉……」


「あ、竜司。

 見て、すっごく綺麗ね」


 横目で僕を見た後、再びツリーを見上げる暮葉。


「うん……

 そうだね」


 しまった。

 会話が終わってしまう。


 せっかく蓮がお膳立てしてくれたのに。


 何か。

 何か無いかな?


「暮葉……」


「ん?

 竜司、どうしたの?」


「あの……

 今日は来てくれてありがとう……」


「ううん。

 私も初めてのクリスマスパーティだったし。

 こーんな大きなケーキも見れたしすっごく楽しかったよ」


 暮葉は屈託無く微笑む。

 その顔は冬の日に咲いた華の様。


 ドキン。


 心臓が少し高鳴る。


「あの……

 それでさ、これ……」


 僕はゆっくりとプレゼントを暮葉の前へ差し出した。


「ん?

 なぁにこれ?」


「クリスマスプレゼント……

 だよ」


「プレゼントッッッ!!?

 漫画で見たっっ!

 ホントにっ!

 ホントに私にくれるのっっ!?」


 急にテンションが上がる暮葉。


「う……

 うん、つまらないものだけど……」


「開けていいっっ!?」


 テンションが治まらない暮葉。

 漫画と同じシチュエーションが嬉しいんだろうな。


「いいよ」


 暮葉が包みを丁寧に開けた。


「わぁーっ!

 ネコちゃんのストラップッ!

 可愛いーーっ!

 ありがとう竜司っっ!

 大切にするネッ!」


 そうだ。

 これが暮葉なんだ。


 初めての事に素直に。

 純粋に感情を表す。


 僕は何を気に病んでいたんだろう。

 僕はこんな暮葉を好きになったんだった。


「暮葉、メリークリスマス」


「あっ!

 めりーっくりすますっっ!」


 こうしてクリスマスパーティは幸せな気分で終わる……

 筈だった。



「エッキシッッ!」



 ドォンッッッ!


 僕のポケットから爆発。

 正確にはポケットに入れていたエメラルドが爆散。


「わぁっ!?」


 僕は一瞬で煙に包まれた。

 突然の爆発に状況が判断出来ない。


「プッ……

 キャハハハーッ!

 なぁにその竜司の顔ーっ!!?」


 巻き上がった煙の中から出て来た僕を指差し大爆笑する暮葉。


 ちょっと待て。

 終わったんじゃないのか爆発タイムは。


 て言うかまだいたのか麗香お嬢様。


 自分の顔だから良く解らないけど、げんと同じく煤だらけなんだろう。

 いや、綺麗に終わろうとしていただろ?


 こんなオチいらないから。


「プッ……

 アハハハッ!

 せっかくイイ感じになってたのに何やってんのよ竜司ッ!」


 蓮が爆笑しながら駆け寄って来る。


「ハハハハッッ!

 竜司、ワレの頭エラい事なっとんで。

 ドリフか」


 げんも寄って来た。


【モグモグ……

 竜司、お前何で黒くなってんだ?】


 まだ料理を食べてるガレアも寄って来た。


【ハァ……

 竜司ちゃんて相変わらずシマらないわねぇ】


 ルンルは呆れている。

 いや、これは僕のせいじゃないだろ。


「く……

 暮葉……?」


 何か今回のパーティのオチになった僕。

 釈然としない。


 物凄く。


「キャハハハーッ!」


 僕の目の前には大きく口を開けて笑う暮葉。

 けど爆笑してても暮葉は可愛いな。


 まぁいいかオチになっても。

 暮葉がこうして笑ってるんだから。


 完

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ドラゴンフライ 特別篇 マサラ @masara39

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