クリスマス特別編 Burst Christmas 前編
■前書き
皆さん、こんにちは。
マサラです。
本日はクリスマスの特別編なるものを書いてみたいと思います。
まぁ何で最終幕の押し迫った時にわざわざ季節物を?
とは思われるかもしれませんが……
と、言うのも何故書いたのかと聞かれたら最近遊んでるAIイラストアプリで制作したクリコス暮葉とクリコス蓮がごっさ可愛かったってのが一番大きいです。
それを見てたらムクムクと創作意欲が湧いて来たと言った塩梅で……
んでまた書きたい事を書きまくってたら文量が多くなってしまい、結局前後編になっちゃいました……
後編は明日アップします。
イラストは近況ノートの方に載せてますので興味のある方はご覧下さいませ。
時間軸や時代背景は割とザックリで行こうと思います。
それでははじまりはじまり~
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20XX年12月 兵庫県加古川市
「う~っ……
寒い寒いっ……」
僕は肌を突き刺す寒さに身を屈めながらコンビニへ飛び込んだ。
(えあろッすみーっすっ……)
このコンビニ、結構来るんだけど絶対アレいらっしゃいませに聞こえないよな。
まあそれはそれとしてやはり建物の中は暖かい。
じんわりと身体を包んでいた寒が暖へと成り代わって行くのを感じる。
僕らが入るなり、中にいたお客さんが何人か驚いた顔でこっちを見ている。
【何が寒いんだよ。
それより、竜司。
ここって肉売ってる所だろ?
肉買ってくれよ肉】
その原因はコイツ。
僕の隣にいる緑の翼竜が原因だ。
いくら世の中、竜が認知されて溢れていると言ってもやはり急にデカい爬虫類が入ってきたら焦るんだろうな。
僕の名前は
それでこの翼竜の名前はガレア。
「解ってるよ。
ってか家に居ても良かったのに」
【嫌だよ。
お前がフラッと出かける時は大抵食いもんだって知ってんだよ。
俺、肉が食いてぇんだよ。
あとばかうけ】
「荷物増えるなぁ……
んで今日は何袋?
三つ?」
【全部】
サラッと言いやがった。
何処の世界に年の瀬にばかうけを買い占める奴がいるんだろう?
あ、居たわ。
ウチのガレアだ。
とりあえず僕は売ってるばかうけを全部カゴに突っ込む。
それで僕の買い物も進めた。
ポテチにコーラ。
オタクの二大巨頭。
これで今日はずっと録り貯めてたアニメを見るんだ。
今季も面白いのが多かったんだけど全部リアタイで追いかけるのはしんどい。
(竜司君、ガレア。
いらっしゃい)
「あ、スーさん」
この人はスーさん。
このコンビニの店長さん。
ちょっとした知り合いなんだ。
よく来るって言うのもあるんだけど……
【スーじゃん。
肉くれよ肉】
(お前、相変わらず肉ばっかだなぁ。
そんなんばっか喰ってると痛風に……
あ、竜って病気にならないんだっけ)
「タハハ……
そうですね……」
【ん?
スー、ビューキって何だ?
食いもんか?】
(食いもんな訳あるか)
(スーさん……
竜の言葉なんてよく解るッスねぇ~……
俺にはただの唸り声にしか聞こえねッスよォ~)
ここでさっきエアロスミスと挨拶してたチャラいバイト店員が会話に入る。
(まぁしょぼくれた雇われ店長の数少ない特技って所かな?
で、竜司君。
いつものファミチキ全部でいいのかい?)
これが知り合いになったもう一つの理由。
スーさんは丙種竜河岸なんだ。
■
突如来訪した竜の言語を理解し、共に持ち込まれた未知のエネルギー魔力を操る事が出来る人種。
世界中に分布。
日本では竜を使役しているしてないで分類。
竜司の様に使役している
スーの様にしていない竜河岸を丙種
ちなみに一般人には竜の言葉は解らず、全て唸り声に聞こえる。
スーさんは何か色々事情があって竜を使役していないらしい。
でも別に本人は気にせず、日々を過ごしている。
「あ、はい。
それで……」
(全部って……
これ全部ッスか……?)
バイト店員が目線を送る先にはスナック系のホットショーケース。
中にはファミチキがパンパンに入っている。
おそらく数にして20個はくだらない。
(何となく今日、ガレアが来る気がしてたからな。
大量に作って待ってたんだよ。
ほれ、ボーッとしてねぇでとっとと袋詰め)
(ウ……
ウィ~ッス……)
呆気に取られていたバイト店員は一つずつ袋に詰めていく。
割かし丁寧に。
スーさんの教育の賜物だろうか?
そうこうしている内に買い物終了。
(あらんっどろんっふざぃでしたーぁっ……)
でも、やはり挨拶はおかしい。
ありがとうございましたって言ってるのだろうか?
どう聞いてもアランドロン不在でしたにしか聞こえない。
「さぁとっとと帰るよガレア」
【肉よこせ肉】
「駄目。
ちゃんと家に帰ってからじゃないと食べちゃダメ」
【何だよ。
ケチくせぇなぁ】
僕が使役してるんだから社会の常識はしっかり躾けないと。
こうして僕らは寒い中、帰宅の途に就く。
ガレアに乗ってひとっ飛びでも良かったんだけど、こんな寒い日に空を飛ぶなんて絶対に嫌だ。
結局人間は地に足つけて動くのが一番だよ。
加古川市
ようやく帰って来れた。
ホント寒かった。
歯なんかガッチガチに鳴っちゃって。
家の中は暖かい。
さぁ、とっとと部屋に戻ってアニメを見よう。
「おお、竜司。
帰ったか」
そこにお爺ちゃんが話しかけてきた。
僕の家は大体お爺ちゃんとヘルパーさんと僕しかいない。
兄さんは東京だし、母さんも父さんも基本忙しくて家にいない。
「あ、お爺ちゃん。
ただいま」
「夕食の時にちと話がある」
「う……
うん、わかった」
お爺ちゃんが話があるって言った時は大抵面倒臭い事なんだよな。
絶対、竜河岸絡みの。
もちろんウチのお爺ちゃんも竜河岸。
何か日本最強の竜河岸なんだって。
この平和な日本で最強だなんて言われてもなぁ。
そう言うのはアニメの中だけにして欲しいよ。
願わくばお爺ちゃんの話もオタライフを邪魔しない程度のものであって欲しい。
僕は部屋に戻り、さっそくポテチとコーラをお供にアニメ視聴開始。
数時間後
(竜司さーん、御飯ですよーっ!)
下から声がかかる。
「あ、そろそろご飯だよ。
ガレア、行こう」
【なぁなぁ、竜司。
何かこの二人、お前とアルビノみてぇだな】
「えーっ?
そうかなぁ……
西片より僕の方がしっかりしてるでしょ?
ここまで子供っぽくは無いよ」
これは今見てたアニメの話。
僕はいつもガレアと一緒に見る。
それで毎回あれやこれやと色々言ってくるんだ。
……で、ガレアの言ったアルビノってのは……
僕の婚約者なんだ。
魔力を使って竜が人間の姿に変化している。
多分誰が見ても可愛いって言うと思う。
いや、婚約者贔屓とかじゃなくてね。
何せトップアイドルだから。
竜の変化って言うのは世間でも認知されててドラゴンアイドルとして売り出し中。
クレハって名前で人気もある。
あ、人間の時は
オタで陰キャな僕に婚約者なんて大それた存在がいること自体不思議なのにそれがトップアイドルだなんて。
まさにこれ何てエロゲだよなぁ。
【何かこの女に妙な事されて顔真っ赤にしてるトコなんてソックリじゃねぇか。
ケタケタケタケタ】
出た。
ガレアのケタケタ笑い。
僕を馬鹿にしてる時の笑い方。
「ガレアうるさいっ!
とっとと下行くよっ!」
僕はムスッとしながらドスドスと下へ。
そう言えばそろそろクリスマスか。
チラッと竹内まりやの曲も流れてた。
……暮葉はどうするのかな……?
やっぱり仕事かな?
アイドルだし。
暮葉と過ごしたいな。
クリスマスデート。
こう……
プレゼントをあげたり。
イルミネーションの中を二人で歩いたり。
二人でケーキを食べたり。
何かドラマとかで見る様な幸せなクリスマスってのを一度体験してみたい。
あ、でも暮葉は辛い物好きだから甘い物はダメかな?
ハハハ……
ハァ……
そんなトレンディドラマみたいな事、無理なのは解ってますよ。
オタで陰キャな僕にはデートに誘うなんてハードルがスカイツリーより高い。
そんなテンションの下がる事を考えて茶の間に辿り着く。
カチャカチャ
僕らは食事を終え、一服についていた。
「おタケさん、食事の片づけが終わったらもう帰って良いぞ。
さて、竜司よ」
おタケさんって言うのはヘルパーさんの事。
でも僕からしたらどうでもいい。
さぁ来た。
お爺ちゃんからの話。
「う……
うん……」
「貴様、25日に何か予定はあるか?」
25日って12月25日?
クリスマスじゃないか。
「い……
いや、特にこれと言って予定は無いけど……」
言ってて少し哀しくなる。
15歳の男子がクリスマスに何にも予定が無いって。
しょうがない。
これもオタの宿命さ。
いいんだ、僕にはガレアがいるし。
「何じゃ。
くりすますじゃと言うのに暮葉さんと逢引きの一つでもせんのか?」
暮葉の事は一応、家公認の間柄。
「逢引きって……
しょうがないよ、向こうはアイドルだし。
忙しいでしょ?」
「竜河岸としてはそこそこマシになって来たのにそこら辺はまだまだじゃのう。
まぁ、こちらとしても好都合。
ならば、大阪にちょっと出向いてくれんか?」
「大阪?
何で?」
「儂の古い知り合いでな。
そいつが家に来い来いとやかましくてのう……
お前が代わりに行ってくれんか?」
僕、関係ないじゃん。
「え?
何で僕が行くのさ。
それも12月25日になんて」
「日にちは奴が指定して来た。
忘年会とか言ってはいたがどうせバタ臭くてゴテゴテしたくりすますパーティでも開くつもりなんじゃろうて。
パーティとは名ばかりの傲慢不遜で虚栄心を吹き散らかしたいだけの催しじゃ」
えらい言い様だ。
多分その知り合いの人、嫌いなんだろう。
何だろう?
成金なのかな?
「その日にやるのは解ったけど何で僕が行くの?」
「毎年、カイザを連れて行ってたんじゃがの。
彼奴が所用で出とるから今年は断ろうと考えとった。
じゃが、奴の事。
おそらく儂だけでも引きずり出そうとしつこいに決まっとる。
そこでじゃ、奴には孫娘がおった事を思い出しての。
奴の孫と儂の孫を比べると言う方向に話を持って行ければと思ってのう」
いや、思ってのうじゃ無しに。
何で僕がわざわざクリスマスに成金家族の当て馬にならないといけないんだ。
ちなみにカイザって言うのはお爺ちゃんが使役してる竜。
暮葉と同じで普段は人の姿に変化している。
「嫌だよ。
何で僕が自慢しぃのお宅にお邪魔しなきゃいけないんだよ。
どうせ太鼓持ちみたいな事させられるんでしょ?」
「何を言っとる。
別に奴の自慢なんぞ適当に流せばいいし、孫娘には本気で挑んで構わんぞ。
どうなるかは当日にならないと解らないが諍い事になったら二度と竜を連れて歩けん程叩きのめしてやれ」
「……ん?
……って事はその自慢しぃって竜河岸なの?」
「そうじゃ、奴はもう引退して家業は息子や孫に継がせとるがの。
無論、孫娘も竜河岸じゃ」
なるほど。
竜河岸繋がりで知り合いなのか。
でも孫”娘”だろ?
女の子に叩きのめせってどんだけ嫌いなんだお爺ちゃん。
適当に流せって言うならお爺ちゃんが行けば良いのに。
ほとほとその自慢に辟易としてたんだろうな。
「う……
う~ん、でもなぁ……」
僕は少し悩んだ。
どうせ恋人同士の甘いクリスマスが過ごせないんならせめてパーティで季節感を味わって置くのは悪くない。
どうせその自慢しぃ、成金っぽいからパーティの料理もクリスマスっぽいのが出るんだろうし。
あと竜河岸として行くのならもちろんガレアも連れて行く。
メシがいっぱいだから喜ぶだろうしな。
でも……
めんどい。
面倒臭い。
「貴様にもメリットはあるぞ。
このパーティに暮葉さんを誘ったらどうじゃ?
どうせ竜司の事じゃから誘うキッカケが無いとかで今日までいたんじゃろ?
儂に頼まれた事にしていいから一度話をしてみればよかろう。
それに場所は大阪じゃ。
蓮ちゃんや
あ、それもそうか。
みんなでクリスマスパーティ。
これはまだやった事が無い。
じゃあ……
まぁいいか。
「うん……
解ったよ。
行くよ。
それで場所は何処なの?」
「箕面市の新稲と言う所じゃ。
山の中にそれはそれは趣味の悪いデカい家が建っとるからすぐ解る。
後で届いた招待状を渡す。
奴には儂から連絡はしておく」
「そ……
そう……
解ったよ。
あと、その奴って何て名前なの?」
「
名の通り、竜河岸の権利を活かし過ぎて高慢ちきな成金に成り下がったがの。
確か孫の名前は
何かベタだなぁ。
成金で
何かオーホッホッホって高笑いしそう。
いや、まさかねぇ。
「じゃあ僕はみんなに連絡してくるよ」
こうして僕は自室に戻る。
まずは
一番気楽だ。
スマホを手に取り、電話をかける。
プルル
プルル
ガチャ
「あ、もしもし?
「何や竜司。
何かあったんか?
ケンカか?
ワイに加勢でも頼みたいんか?」
全くもう。
「違う違う。
あのね、
「25日?
別に何も無いで」
「良かった。
じゃあさ……
25日、僕に付き合ってくれない?」
「どっか行くんか?」
「うん、お爺ちゃんに言われてね。
箕面の方のパーティに行くんだよ。
だからせっかくクリスマスだし、蓮とか暮葉も誘ってどうかなって」
それを聞いた
何か考えてるのかな?
「
聞いてる?」
「……ワレ、25日言うたらクリスマスやろ?
そんなんやったら暮葉と二人で行けや。
ワイやら蓮やら誘っとる場合やないやろ」
まぁそりゃね。
「う……
うん……
そうなんだけど……さ?」
「どうせお前の事やから、妙に緊張して誘えへん。
誘ったとしても会った後、どう振舞ったらええかわからへんとか言うんやろ?」
その通りです。
誘うのも勇気がいるし、誘って遭った後どんな感じでエスコートしていいかとかも全然解らない。
何だったら忙しくて断って欲しいって気持ちもある。
断られる事は淋しいけど、デート当日に恥をかくよりかはマシだ。
「はい……
お恥ずかしながら……」
「ンなもん、あの暮葉やぞ?
どーせノーテンキに行く行く言うに決まっとるやんけ。
んで行ったら行ったで勝手に楽しんどるやろ?」
いや、暮葉はアイドルとして立派に活動してますから。
そんな能天気に行くって言うだろうか?
それに勝手に楽しんでるって。
何か僕、置いてきぼりじゃないか。
まぁ、そう言う所あるけどよ。
「じゃ……
じゃあ、どうする?
やめとく?」
「ん~~……
暮葉と蓮が行くんやったら行くわ。
おのれら三人やと蓮が居心地悪いやろしな」
「解った。
じゃあ解ったらメールするよ」
「おう、んじゃな」
■
大阪で知り合った竜河岸で竜司の親友。
大柄な体格で金髪リーゼント。
スカジャンにサングラスと見た目は完全にヤンキー。
ケンカっ早いが友達や舎弟には豪快且つ繊細な心配りも見せる。
無口な陸竜、ベノムを使役する。
とりあえず
お次は蓮だ。
プルル
プルル
「もしもし?
蓮?」
「竜司、急にどうしたの?」
これは
ダメな気がする。
「えっと……
お爺ちゃんにちょっと頼まれ事されてさ。
手伝って貰えないかなって思って」
よし我ながらまずまずの入り。
「頼まれ事?」
「うん、何か竜河岸の知り合いから忘年会に誘われたらしいんだけど、お爺ちゃんが行きたくないからお前が行って来いって」
「じゃあ行って来たら良いじゃない。
私の手伝う事なんて無いでしょ?」
「いや、手伝ってって言うのは少し語弊があったかも。
25日にするから多分忘年会と言いつつクリスマスパーティになるって言うんだ。
僕って友達とクリスマスパーティってした事ないからさ。
これを聞いた蓮は無言。
何かデジャビュ。
「蓮……?
聞いてる……?」
「竜司……?
アンタ、馬鹿じゃないの?
何クリスマスに友達と一緒に騒ごうとしてるのよ。
そのパーティは暮葉と二人で行ったらいいじゃない」
何か辛辣。
僕なりに気を使ったのにな。
トホホ。
「でっ……
でもっ……
あの暮葉だよ?
パーティが楽しいものって解ったら絶対蓮達も一緒にって言うだろうし。
もし誘ったけど断られたとか聞いたら多分悲しんじゃうよ?」
「まぁ……
それはね……
で、
「蓮と暮葉が行くんなら行くってさ」
「……アイツ……
妙な所で気を利かせてんじゃないわよ……
解ったわ。
私もそのパーティに行く。
暮葉にも久しぶりに会いたいし。
その代わり……」
「な……
何……?」
「きちんと暮葉に了承を取る事。
暮葉が来ないんなら行く意味あんまり無いし」
「解った。
頑張ってみるよ」
「でもあの子、アイドルでしょ?
クリスマスなんてスケジュール空けれるのかしら?」
「そこら辺は聞いてみないと解らないね。
じゃあ、解ったらまたメールするよ。
それじゃあ」
「うん」
こうして条件付きではあるが二人とも了承を得る事が出来た。
■
大阪で知り合った竜河岸で竜司の友達。
ロシア人とのハーフでショートボブの青い髪と瞳が特徴。
腰が高くスレンダーな体型。
若干勝ち気で言いたい事はハッキリと言うタイプ。
竜司に恋心を抱いており、グイグイとアピールを続けるも暮葉の出現により悲恋を味わう。
現在その辺はもう割り切り、竜司と暮葉両方とも友達だと思っている。
オカマの雷竜、ルンルを使役する。
さぁ、最後は暮葉だ。
大丈夫かな?
プルル
プルル
「もしもし?
暮葉?」
「あ、竜司。
久しぶり……
であってるのかな?
どうしたの?」
「あ、いや。
今何してるのかなって……」
あ、入りマズったかな?
「お年始に出すニューシングルのレコーディング。
今は休憩中よ」
「へぇ、新しく出るんだ。
じゃあ、年末の仕事ってレコーディングだけ?」
「ん?
多分、そうだと思うけど。
このプロデューサーさん、厳しい人らしいから時間を充分に取ったってマス枝さん言ってたし」
マス枝さんって言うのは暮葉のマネージャー。
「そ……
そう……
じゃあ、無理かな……?」
「無理?
何が?」
「いや、25日にね。
お爺ちゃんの知り合いがパーティを開くんだけど暮葉、どうかなって。
蓮と
「行くっっっっ!!」
食い気味に来た。
「え……?
ちょっと待って待って。
まだ話を全部話してない……」
「25日ってアレでしょっ!?
クリスマスでしょっ!?」
「う……
うん……
そうだけど……」
「漫画で読んだっ!
クリスマスパーティってみんな笑顔で楽しいんでしょっ!?」
ま……
まぁ、当たってなくも無い。
テンションが一気にマックスになったな。
「う……
うん……
そうだね」
「みんなでお菓子とかジュースとか持って来てっ!
そんでデッカイ木がキラキラでっ!
すっごくすっごく楽しそうだったっ!」
いや、大人が主催するパーティだからお菓子とかジュースは……
ははん、おそらく読んだのは青春もののやつだな。
多分デッカイ木と言うのはクリスマスツリーの事かな?
「でっ……
でねっ……
「行くっっっ!!」
また喰い気味に返答。
何かループ。
「解った。
解ったから。
それでも今レコーディング中なんでしょ?
大丈夫なの?」
僕は蓮と
それにしても前はサンタクロースが玄関から来るとか言ってた娘が成長したもんだなぁと感慨深い部分がある。
「大丈夫にするっ!
何かやる気出たっ!
フンッ!」
何か暮葉のやる気スイッチがONになったみたい。
そんなにクリスマスパーティを体験したいのか。
「フフ、じゃあお仕事終わったらメール頂戴」
「解ったっ!
竜司、見ててねっ!
私、大丈夫にするからっ!」
「うん、期待してるよ。
じゃあ頑張って」
こうして暮葉にも連絡完了。
■
静岡で出会った竜司の婚約者。
銀髪のロングストレートヘアーと深い紫の瞳が特徴。
カイザと同様に竜が魔力で人の姿へと変化している。
竜時の名前はアルビノ。
日本でドラゴンアイドル、クレハとして大人気。
性格は天真爛漫で色々竜司に疑問を投げかけてくる。
その旨を二人にもメールする。
とりあえずみんなに連絡はついた。
はてさてどうなる事やら。
数日後
今日はクリスマスイブ。
だけど、まだ暮葉からは連絡が無い。
どうしたのかな?
やっぱりレコーディング間に合わなかったのかな?
この日はずっとモヤモヤしていた。
度々スマホを確認してはしまい、確認してはしまいと。
結局夕食まで連絡は無し。
やっぱり無理だったのかな?
暮葉とクリスマスパーティ楽しみにしてたのにな。
一応、用意する物も用意したのに。
残念な気持ちが胸中に溢れる。
夕食を食べながらテンションがどんどん下がって来る。
だってもし暮葉が行かなかったら僕とガレアだけで行かないといけない。
根暗で陰キャでオタクの僕が初対面の人しかいない会場に放り込まれるなんて罰ゲーム以外の何者でも無い。
多分会場でもガレアとばっかり話してるんだろうな。
そんな事を考えてた折。
ピンポロン♪
側のスマホが通知する。
電話の着信音じゃない。
メールの着信音。
バッッッ!
僕は箸を放って、急いでスマホを取る。
「これ竜司。
行儀が悪い」
お爺ちゃんから苦言が飛ぶけど行儀が悪いなんて言ってられない。
明日が最高になるか最悪になるかの瀬戸際なんだ。
本能のままにメールを開く。
暮葉からだ。
---
着いた。
竜司の家って何処だっけ?
---
?
ただ一つ。
とても大きなハテナが浮かぶ。
「ちょ……
お爺ちゃん、ちょっとゴメン。
電話してくる」
僕は食卓から席を外し、廊下へ。
すぐさま暮葉に電話をかけた。
「もしもし、竜司?」
すぐに出た。
「あ、暮葉?
あの……
色々聞きたいんだけど……
まず着いたって何処に?
それとレコーディングはどうなったの?」
「ん?
レコーディングは昨日終わったよ。
それと今はカコガワ……
だっけ?
その駅にいるよ」
言ってくれよ。
今日のモヤモヤを返して欲しい。
多分、今キョットーンとした顔してんだろな。
スマホ越しでも解る。
てかもう関西に来ているのか。
行動力あり過ぎ。
「わ……
解った……
すぐに迎えに行くから待ってて」
「うんっ!」
元気な返事で通話終了。
僕はすぐに身支度をする。
「お爺ちゃん、暮葉がこっちに来たみたいだから迎えに行ってくる。
今日は泊っても大丈夫だよね?」
「部屋なら余っとるから別に構わんが。
また唐突じゃな」
ホントに。
「じゃあ行ってきます」
こうして僕はJR加古川駅を目指す。
本当に暮葉って娘は訳が分からない。
いつも唐突な行動を取って僕を惑わせる。
今日、僕がどれだけモヤモヤを抱えて過ごしたと思ってるんだ。
竜だからホウレンソウとか抜けちゃうのはしょうがないのかな?
華奢な見た目なのに物凄くパワーがあるから死にそうになる時もある。
羞恥心っていう物が無いのか、僕が前にいても普通に脱ぎだすし。
本当にじゃじゃ馬で苦労する娘。
でも……
それでも……
「あっ!!
竜司ーっ!」
ブンブン
この快活無垢な声を聞いちゃうと許しちゃうんだよな。
僕に向かってブンブン手を振っている。
そんな姿を見ると可愛いが勝ってしまう。
僕は暮葉の元へ駆け寄る。
「暮葉、お疲れ様」
暮葉は白のキャスケット帽にサングラス。
いつもの変装コーデ。
トップスは黒くてタイトなセーター。
ボトムは白のロングスカート
その上から白いロングコートを纏っている。
長い銀髪と相まって白が眩しい。
「お疲れ様」
そう言ってサングラスを取る。
微笑を携え、深く綺麗な紫の両瞳が顔を出した。
ドキンッ!
何気無い言葉。
普段からよく聞く言葉。
だけど発する者が違うとこうも印象が違うものか。
否が応でも心臓が高鳴ってしまう。
「さっ……
さぁ、僕の家はこっちだよっ!」
僕は昂る気持ちを抑え込み、暮葉を自宅まで案内する。
その道すがら、蓮と
すぐに返信。
二人とも了解って。
「竜司、何してるの?」
僕の手元を覗き込む暮葉。
近い。
フワッと香る華の良い香り。
思わずクラッとなる。
「蓮と
二人とも明日行くからね」
「えっっ!!?
二人とも一緒にパーティするのっ!!?」
物凄く驚いてる。
いや、言って……
無かったか。
僕が言うのを諦めたんだ。
「フフ、そうだよ。
二人とも暮葉に会うの楽しみにしてるよ」
「わぁーっ!
楽しみーっ!
蓮も
まぁ、暮葉の事だから事後報告でも嫌がったりはしないのは解ってたし。
これはこれで良かったのかな?
そうこうしてる内に家に到着。
「おう、暮葉さんか。
久しぶりじゃのう」
お爺ちゃんが居間から出迎える。
「お邪魔します。
今日は素敵なパーティにお招き頂いてありがとう御座います」
これが暮葉だ。
きちんとお爺ちゃんの前ではサングラスと帽子を取っている。
ファサッとたなびく綺麗な銀色の長髪。
真っ白い頬と合わさると雪の妖精の様に見える。
目上の人への礼儀も弁えてる。
多分、今の言葉はアイドル活動で培った営業言葉。
真の社交辞令。
とてもさっきまで天真爛漫に振舞っていたとは思えない。
本当に不思議な娘だ。
「お……
おう……
まぁ、素敵かどうかは保証し兼ねるが、孫と楽しいひと時を過ごしてくれ」
「はい」
にこりと微笑む表情に母性すら感じてしまう。
お爺ちゃんが少し面食らったのは暮葉の態度にだろうか。
それとも明日のパーティについてだろうか。
とりあえず暮葉は兄さんが使ってた部屋で寝て貰う事に。
寝るまでは僕とガレアの部屋に居た。
【……だからよ。
これがこうなるから……
こうなんだよ】
「ん?
ん?
よくわかんない。
これはこうなるからこうなって……
こうなるんじゃないの?」
【ん?
ん?
アレ……?
そうかも……
よく解らなくなって来た】
暮葉とガレアが話してるのは漫画の内容について。
具体的な話は皆目見当もつかない。
僕は僕で
明日は12時に目的地へ到着しないといけないらしい。
パーティって夜じゃないのって思うじゃない?
でも受け取った招待状にはしっかり昼の12時に来られたしって明記。
お爺ちゃん曰く。
「そうじゃ、お前の言う通りパーティは夜じゃ。
どうせ、
でも今年は儂は行かんから、昼の内に孫娘と対面するんじゃないか?」
だそうだ。
本当に嫌いなんだろうな。
打ち合わせの結果。
明日11時にいつものビッグマン前で。
目的地は駅から離れてるけど二人とも自分の竜を連れて来るから乗っていけばすぐだろうって話。
「さぁ二人とも。
明日は11時に大阪へ行くよ。
だからそろそろ寝よう」
「はぁーい」
【明日どっか行くのか?】
「そうだよ。
多分、肉をたくさん食べれるよ」
【おっっ!?
マジでかっ!?
俺もつれてけっ!】
「だからそう言ってるじゃん。
馬鹿な事言ってないでとっとと寝るよ」
何か慌ただしく日々は過ぎて行き、パーティ当日を迎える事になった。
12月25日当日
僕らは早々に準備を済ませ、待ち合わせ場所に向かう。
その道すがら。
【なあなあ竜司。
今日、何処に行くんだよ】
ガレアが根本的な所を聞いてくる。
「あれ?
言ってなかったっけ?
お爺ちゃんの知り合いの所でクリスマスパーティだよ」
【な……
何だ……?
苦しみますパンチって……?】
途轍もなく物騒な単語が出てきたぞ。
何と言う聞き間違いだ。
「違う違う。
クリスマス。
クリスマスのパーティだよ。
TVでもやってただろ?
メリークリスマスって」
【ンな事言われても知らねぇよぅ。
んでその苦しみますパーティってのは人間が肉を食うのか?】
いやいや何度も見てるだろ。
まぁ肉を食うと言えば食うんだけど、そこだけとらまえると何か凄く獣臭い。
それとパンチは直したけど苦しみますは直ってない。
縁起でも無いから止めて欲しいんだけどな。
「た……
確かに肉も食うけど、肉以外も色々出るよ。
ケーキとか」
「フッフーンッ。
ガレアってば知らないのぉ?
クリスマスパーティってキラキラしたおっきなケーキが出るんだよぉ?」
ここで暮葉も割って入ってくる。
何か自慢げだ。
「暮葉って甘いものそんなに好きじゃないのに食べれるの?」
「ん?
私食べないよ?
見てみたいだけ」
暮葉はキョトンとした顔で僕を見つめてくる。
変わった楽しみ方だなあ。
電車に揺られ、そんな話をしている内にビッグマン前に到着。
二人と待ち合わせる時はいつもここだ。
まだ来ていない様子。
僕は時間を確認。
10時55分
ほんの少し早かったみたい。
僕らは少し待つ事に。
【何だ。
オレの本、もう無くなってやがる】
暇を持て余したガレアは隣の紀伊国屋書店を覗いている。
オレの本っていうのは前に見た表紙に怖そうな緑の翼竜が描かれていたものの事。
その竜をガレアは俺だ俺だと聞かない。
だからアレは絶対似てないってば。
「あっっ!!」
「ちょ……
暮葉、声が大きいよ」
暮葉が自慢の声量で大声を放ち一方向を指差す。
その先には金髪リーゼントにグラサン。
ダッフルコートを着た大柄な男と。
青いショートボブカットのスレンダーな女の子がこっちに向かって歩いてくる。
蓮はベージュの大きなファーがついたダウンコートを纏い、シンプルな白いタートルネックセーターと薄い蒼のデニムを履いている。
スポーティな感じだけど何処か大人っぽいなあ。
【あらん?
アタシ達の方が遅れたみたいねン】
長い首を伸ばし、こちらを見つめてくる焦げ茶色の陸竜。
蓮の竜、ルンルだ。
「おはよう、二人とも一緒に来たんだね」
【竜司ちゃん、ガレアちゃん。
チャオ】
小刻みに人差し指と中指を縦に振りながらウインクするルンル。
正直、フォルムは爬虫類だから全然可愛くない。
紫のアイシャドウも焦げ茶の鱗と相まって下品に見える。
爬虫類らしく口は大きいのにルージュは先端に小さく塗っている。
ルンルなりのこだわりなのかな?
とりあえずオカマは相変わらずのようだ。
「そこで偶然一緒なっただけや。
なぁ蓮?」
「そうよ。
ホント偶然。
たまたまよ」
「蓮ーーっっ!!
久しぶりーーっっ!!」
ガバッッ!
暮葉が蓮に思い切り抱き着いた。
多分、蓮に会うのを楽しみにしてたんだろう。
「ちょ……
暮……
何かデカいのが当たってるから……
それと苦しい……」
「んふふ~~
蓮のほっぺ、冷た~い
スリスリ~~」
密着している暮葉は蓮の顔を頬ずりしている。
何か久々に帰ってきたペットを相手にしてるみたい。
「ちょ……
暮葉……
やめ……
フフ……
くすぐったいからやめて」
……何か百合百合してるなぁ。
「おう、竜司。
今日はお呼ばれしたで」
「
相変わらず変わってないね。
けど
スカジャン姿しか見てなかったから新鮮だよ」
「いくらワイでもこの寒さやったら防寒するっちゅうねん」
「プッ……
何か不良が真面目に予備校通ってますって感じだよ」
「やかましい。
そこらのヤンキーと違ってワイは頭ええねんぞ。
他人の手ェなんか借りんでも勉強ぐらい出来るわい」
「知ってるよ。
ちょっとからかっただけ」
グイッッ
「このぉっ!
ワイがおらな色々ピンチになる竜司くんが偉そうになったもんやのうっ!」
「わわっ!?
やめてよ
「ほれほれ~っ、参ったって言わんかい~」
僕の頭をグリグリする
「アハハッ!
参ったっ!
参ったよ
見方を変えたら虐めにも見えかねない光景。
でも僕は笑ってた。
これが僕と
「ねぇ、ちょっと。
ジャレてるのはいいけど、早く行った方が良いんじゃないの?
約束の時間、12時でしょ?」
そう言う蓮の左腕には暮葉がしがみついている。
「おう、そうか。
竜司、最寄りは阪急の箕面でええんか?」
「うん、多分そこだと思う」
「ほな、行こか。
おいっっ!
ベノムゥッ!
ワレ、公共の場で何寝てけつかんねんっ!」
すると静かに丸まってた灰色の陸竜がのそりと起き上がった。
じっと
「あぁっ!?
めんどくさいやてぇっ!?
ワレ、ここまでついて来といて今更何言っとんじゃぁっ!
おおっ!?
ししゃもくれたら行くやとぉっ!?
解ったわいっ!
帰ったらししゃもめっさ焼いたるわいっ!」
断っておく。
ベノムは一言も喋ってない。
傍から見たら
けどコミュニケーションは取れてるんだよなこの二人。
「……いつもながらよく解るなあ……」
「ホントよね」
ガレアはばかうけが好きな竜。
ルンルはオカマの竜。
どちらも変わってるけど、
こうして僕らは阪急電車に揺られ、目的地の箕面へ。
やがて到着。
駅から降りると各々自身の竜に跨る。
暮葉は僕と一緒にガレアの背に。
「アプリで見たら1.9キロぐらいや。
南下して府道9号を西に行く。
ワイが先導するわ」
「うん、よろしく。
ガレア、ベノムの後をついていって」
【おう】
僕らは各々の竜を駆り、パーティ会場である
やはり竜は早い。
どんどん車を追い越していく。
途中車内の子供にガン見されてたのは少し恥ずかしかったけど。
数分後
「…………多分、これだ」
箕面の山の中を進んでいると一本道だった車道が分かれ道になってる。
先導しているベノムは右折する。
……と思ったら急に視界が開けた。
視界いっぱいに広がる巨大な建物。
宮殿?
お城?
そう見紛う程、途轍も無く広く大きい欧風建築物。
何でこんなもの大阪に建ててんだよ。
「……竜司、ここか……?」
「う……
うん、ここぐらいしか人住めそうな建物無いし……」
僕はとりあえずガレアから降りる。
「凄いお屋敷ね……
名前、何て人だったっけ?」
ルンルから降りた蓮があまりに浮世離れした巨大建造物に驚いている。
「
「
どっかで聞いた事あるような……」
何か考え込んでいる様だ。
「……これ建てた奴、頭沸いとんか?
箕面言うたらサルがおる所やぞ?
そんなトコに何建てとんねん」
ベノムから降りてきた
「と……
とりあえず、中の人に出てきてもらわないと」
僕は車何台分もある巨大な門の方へ。
あ、表札がある。
はい、確定。
ここだ。
今日のパーティ会場はここだ。
インターフォンが備え付けてるみたいなのでとりあえず押してみる。
無音。
辺りは静寂が流れている。
そりゃこれだけ広いと音も聞こえないわな。
「………………どちら様でしょうか?」
あ、声がした。
「あの……
僕ら、
「……
ようこそお出で下さいました。
すぐにご案内いたしますのでしばしお待ちを……」
会話終了。
「二人ともー、ここで良いみたいだよー」
僕は三人を呼びつけた。
「ねっ!?
ねっ!?
竜司っ!?
ここでクリスマスパーティやるのっ!?」
テンションが上がってる暮葉。
「うん、そうだよ。
多分、暮葉の見たがってたデッカいケーキも出るんじゃないかな?」
これだけ大きな屋敷なんだからパーティのご馳走もそれなりに凄いんだろう。
「わーっ!
楽しみーっ!」
子供みたいにはしゃいでる。
「
「ウワァァァッッ!!?」
唐突。
突然背後から声。
驚いた僕は声を上げた。
振り向くとそこには白髪混じりのオールバックを携えた初老の男性が立っていた。
ビシッとスーツを着て微動だにしない。
「驚かせてしまって申し訳ありません。
本日は
私、当家で執事長をやらせてもらっている
以後お見知りおきを」
ペコリと頭を下げる瀬場さん。
……何というか……
ベッタベタな執事だなオイ。
アニメから出てきたのか?
「おい……
竜司……
この瀬場言うオッサンが出てきた所見たか……?」
「ううん……
全く気付かなかった」
「ではさっそくこちらへどうぞ。
当家の主とお嬢様がお待ちです」
「は……
はい……」
僕らは通されるまま敷地内へ。
とにかく中は広い。
遥か遠くの方で庭師みたいな人が手入れをしている。
メイドみたいな人もちらほら掃除をしている。
「
「い……
いや……
凄い屋敷だなって思って……」
「ハハ……
この屋敷は今年の初めに建築されまして……
主、自慢の屋敷にございます。
それはそれは
あぁ、新築の凄い屋敷ならさぞや自慢しまくるんだろうな。
でもお爺ちゃん、何で知ってたのかな?
多分、他から聞いていたんだろうな。
それでより一層行きたくなくなったって事か。
……あれ?
そのまま瀬場さんについて行って屋敷の中に入ったけど、何か部屋を目指してるって感じじゃないぞ?
何かこう……
屋敷は通り道。
それ以外の目的地がある様な。
そんなルート。
「瀬場さん、一体何処に向かってるんです?」
溜らず僕は尋ねた。
「到着いたしました。
ここは当家のレセプションルーム。
中で主とお嬢様がお待ちです」
気が付くと目の前に大きな扉。
まるで体育館みたい。
言われるままに重い扉を開けて皆と一緒に入る。
中は真っ暗。
真っ暗闇が僕らを包んだ。
続く
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