お孫様

俺は、アルート・エル・ヴィーエ。


昔は男爵家であったらしい、今や大家族すぎるヴィーエ伯爵家の嫡男として知られている。


「おはよう。アルート。ちょうど良かったよ。手伝ってくれないか?」


「おはようございます。殿下。分かりました。すぐに、準備して参ります。」


父方の従妹が公爵令嬢だから、その縁もあり、俺は皇太子殿下の右腕に選ばれた。


もちろん、伯爵家を継ぐという役目があるから期間限定の右腕ではある。


その結果、王都の方に出向くと、皇太子殿下であるユウジー様の手伝いが待っている。


「アル兄様とユウ兄様がご協力しているなんて初めて知りましたわよ!従妹に教えてくれてもいいんじゃなくって?」


「いや、今年決まったばかりな上に、期間限定だからね、あまり広めなくても良いかなと。」


「あら、そうなの?なら、仕方ないわね。」


従妹の公爵令嬢ユリーネ様は、隣国の騎士団長である第三王子の妃になる予定の方だ。


俺は、てっきり、殿下とユリーネ様は婚約者になると思っていたんだが、騎士団長に出会い、恋に落ちたらしい。


「アルートは博識だからなあ。補佐として凄い頼もしいよ。君が次男であれば、本当の補佐としても良かったんだけどね。」


「まあああ!アル兄様は、ユウ兄様にそんなに認められてますのね!素晴らしいわ!」


「殿下、ユリーネ様、ありがとう存じます。」


「うふふ。わたくしは、褒めただけですわよ?アル兄様らしくて、良いじゃありませんか!」


からかう表情を見せたユリーネ様。ユイン叔母上に見た目は瓜二つと思う程に似ているのに、性格は似てないんだなあ。


ちなみに、皇太子殿下も、国王陛下に、あまり似ていない。どちらかと言えば、王妃に似てるような気もする。


「あ、そう言えば、アル兄様。婚約者の方は、まだいらっしゃりませんの?」


「あー、うん。残念ながら、まだ居ないよ。」


「どなたか、アル兄様にご紹介しますか?」


「いや、それは良い。」


好きな相手は、いる。相手に、告白出来るとは思えないけれど。


それに、従妹からの紹介だと政略結婚に近い。恋愛主義な伯爵家には合わないんじゃないか?


「まあああ!もしかして、好きな女性がいるんですの?なら、女性をご紹介するのは、やめておきますわね!」


「いるよ。心配してくれて、ありがとう。」


「アル兄様、その方、もしかして………」


「ああ。幼馴染のミアラだよ。」


「諦めかけてらっしゃるの?大丈夫よ。素直におなりなさい。アル兄様は、とても素敵な方。ミアラさんも、受け入れて下さるわ!」


「素直に………か。ありがとう。」









「ミアラ。いらっしゃい。」


「は、はい。アル様。おはようございます。」


ユーレン伯爵令嬢ミアラ。子猫のような可愛いらしさがある、2歳年下の幼馴染だ。


家族ぐるみの付き合いだから、いつもなら皆で来るはずなんだが、今日は、一人で遊びに来ている。本当に、珍しい。


昨日、従妹と話したばかりだから、妙に緊張があるけど、知られてはならない。


「珍しく、一人なんだな?サーラが着いてきてないなんて、珍しいんじゃないか?サーラは、どうしたんだい?」


「はい、妹サーラは着いて来ておりません。幼馴染と遊びに行きました。」


「ああ。そういえば、エンゼルデン伯爵の孫と同い年だと聞いているよ。」


エンゼルデン伯爵家は智慧の本と呼ばれてる。


そして、その孫が、非常に優秀ゆえに、皇太子殿下の将来の右腕となる存在である。


「エンゼルデン伯爵家をご存知なのですか?」


「ああ、エンゼルデン伯爵とアール辺境伯は、親戚でね、その伝で聞いたんだ。」


「な、なるほど。それでしたら知っていらしたことに納得出来ますね。」


ミアラの5歳下の妹は、ミアラに瓜二つな程に似てるが、やんちゃで甘えん坊である。


ミアラ自身は、おっとりしていてお淑やかで、凛とした雰囲気のある子だ。


ちなみに、伝とは、大伯父である先代のアール辺境伯夫人のミーファ様が、エンゼルデン伯爵令嬢であったらしい。


「私は、幼馴染であるアル様にお願いがあってこちらに参りました。」


「お願いが…………珍しいね。言ってごらん?」


うん?あまり人に頼らない幼馴染が、お願い?


どうしたというのか、俺には分からないけど、好きな女性に頼まれるのは嬉しくもある。


俺は19歳になって、ミアラは17歳だから、あまり年上の未婚男性の家にひとりで来るのはどうかと思うけど。


まあ、幼馴染だから、仕方ないか。その感覚が抜けてるよなあ。絶対。


「わ、私を婚約者にして下さいませんかっ!」


「ミアラ…………君は、伯爵令嬢だから、王族の婚約者候補に選ばれてるんじゃないか………?」


「た、確かに、私は、第二王子殿下や第三王子殿下とは同い年ですから、選ばれそうです。」


「………だったら、王子様方を選べば良いのに。なぜ、幼馴染とはいえ、俺なんだい?」


驚きすぎて、これは、どうしたら良いんだっ?


ミアラは、美人で気立ての良いお嬢様だから、高貴な方々に人気らしいと聞いている。


それになによりも、俺にとって、俺にとって、ミアラは、初恋の相手だからだ。


初恋の相手に、いきなり婚約者になって欲しいと頼まれて、正直、断りたくはない。


「わ、わわ私は、アル様を、お慕い申し上げているからですっ!」


「それは、本当に?王子ではなく、俺を選んでくれるというのかい………?」


「は、はいっ!ずっとお慕い申し上げてましたからっ!アル様以外、選べませんっ!」


「ミアラ、ありがとう。本当に、ありがとう。俺も愛してるよ。婚約者になろう。」


「ア、アアアル様っ!?それは本当ですか?」


「もちろん。これからも、よろしく。」


「は、はい!こちらこそっ!」







それから、数年後のこと。


俺達は、晴れて婚姻式を挙げた。隣国に旅立つ予定の従妹夫妻と、ちょうど同じ日に。


従妹には、またからかわれたけど、それもまた幸せだから、構わない。

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田舎娘の社交界 ゆりあ @aoi48usausa

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