幼馴染


わたくしは、レイーエ男爵家の娘、ミーレ。


男爵家の当主シール・フォン・レイーエ男爵と商家の娘オリバーの間に生まれた長女。


4歳年下の、お父様に似ていて、わたくしには似ていない賢くて凛々しい弟がいる。


お父様の初恋は、今や伯爵夫人となった幼馴染ヴィーエ伯爵夫人のリラン様らしい。


けれど、今は、諦めたんだそうよ。お相手が、辺境伯家の次男だから、でしょうね。


わたくしの初恋も、ヴィーエ子爵の息子である2つ年上のマイオン様でしたの。彼も、また、辺境伯家のご令嬢と婚約されたようね。


父娘揃って、わたくし達の初恋は、叶わない。似た者同士ということ、なのかしらね………?


そんなわたくしは、15歳にして、今初めて、王都の社交界に来ていますの。


同じ男爵家でも、騎士爵でも、商家でも良い!


素敵な殿方と出会って、わたくしは新しい恋をするの………!








「あら、ミーレ。お久しぶりね。」


「ユ、ユイン様………お久しぶりでございます。どうなされましたの?」


初恋であるマイオン様の双子の妹、ユイン様。

こちらも、わたくしの幼馴染です。


ちょっと、今、会うのは、複雑なのですが………


「私は、懐かしい幼馴染である貴女を見かけたものだから、ご挨拶をしようと思ったのよ。」


「そ、そうでしたか。ありがとう存じます。」


確かに、逆に、幼馴染のはずなのに、声を掛けられないというのも、寂しい気がする。


わたくしは、ユイン様と義姉妹になりたかったから、尚更ね。


「ユ、ユイン様。あの、第二王子殿下との婚約おめでとうございます。」


「まあ!ありがとう。私びっくりよ。まさか、お声がかかるなんて思いませんでしたもの。」


「ユイン様は、とても美人ですからね、王子様から、お声がかかるのも無理はありません。」


「あら、ミーレの方こそ、オリバーさんに似て美人さんよ!自信をお持ちになって!」


って、毎回褒めて下さるのですが、わたくし、あまり自信はありません。


オリバーさんとは母のことです。お母様に似て来たってことは、目付き悪いんでしょう?


「ねえ、弟くんは、リズくんは元気かしら?」


「リズですか?相変わらず、やんちゃですよ。見た目は、クールなお父様に似てるから、姉の私でも、違和感があります。」


「まあ!うふふ。レイーエ男爵は、寡黙なお方ですものね。確かに、ギャップが激しいわ。」


クールで寡黙な人だから、リラン様に告白することが出来なかったのかしら?


今は、リラン様より、お母様を大切に思ってるから後悔はしてないそうですけどね。






「こんにちは。お元気かな?」


「レオル様、お久しぶりね。とても元気よ。」


明るい金の短髪に茶色い瞳。ニコニコな笑顔とともに、青年レオルが声を掛けてきた。


わたくしと年近い上に、青年というより、童顔だから、少年にも見える方。


「うん。それは良かったよ。第二王子殿下との御婚約、おめでとうございます。」


「ええ。ありがとう。もう知られてるのね?」


「ユイン様と呼んだ方が良いかな?マイオン様から聞いて、びっくりしたよ!ほんとに!」


「ふふふ。私も、びっくりしたわ。いきなり、踊りを頼まれたんですもの。不思議よね?」


踊りを王子様から………素晴らしいことですね!


ユイン様は、自分でお気付きになられていないようではありますが、とても美人さんな上に、優しくて、明るくって、皆の憧れなんですよ。


王子妃に選ばれても、不思議ではありません!むしろ、あり得ます………!






「ユ、ユイン様………」


「ああ、こちらの殿方はお兄様のお友達よ。」


それも、気になってますが、後で、王子様とのやり取り、詳しく聞かせて下さいませ………!


わたくしは、物語を読むのが好きなんですが、趣味で、小説も書いているんです………!


お二人の出会い、ご参考にしても良いかしら?


「マイオン様の………!初にお目にかかります!レイーエ男爵家の長女、ミーレと申します!」


「僕は、ユレーン伯爵家の嫡男、レオルです。よろしくね!ミーレさん。」


ユレーン伯爵は、宮中伯という、王宮の執事のような立場のお方らしい。


人懐っこい犬のような可愛い笑顔に、思わず、わたくしも微笑み返してしまいました。


「まだ会ったことなかったけど、ミーレさんはヴィーエ子爵家の親戚なのかな?」


「い、いいえ!わたくしは、ヴィーエ子爵家と領地がお隣の幼馴染です!」


「ああ、なるほど!それで仲良いんだねー。」


双子の大叔母とわたくしの大叔父様が結婚したから、親戚の親戚ではある。


大叔父の息子レヴィーさんとは、血の繋がりはあるけれど、双子兄妹の親戚ではありません。


「テレース男爵となられるレヴィー様を知っていますか?レヴィー様の従兄の娘です。」


「ああ、レヴィー殿とも関わりがあるんだね。マイオンから紹介されて、何度か会ったことがあるよ。執事みたいな人だったね。」


「執事………!ふふ。確かに、見えますね。」


マイオン様、ユイン様の世話役ではあったそうですから、執事に見えますね。


わたくしも、小さな頃は、執事だと思ってて、後で知った時は、盛大に謝りましたもの。


「もし良かったら、お友達にならない?君とは仲良く出来そうな気がするんだよねー。」


「ええ。お友達でしたら、もちろん。よろしくお願い申し上げます。レオル様。」


「ふふ。うん。よろしくね。ミーレさん。」


なんだか、人懐っこい犬に懐かれた気分です。


レオル様に、犬耳と尻尾を付けたら、似合うんじゃないかしら………?


「まあ!ふふ。ミーレちゃん、懐かれたわね!護衛も出来る騎士様だから強いわよ?お父様のお弟子さんだもの。」


「えええっ?騎士様っ?それは、意外ですっ!文官かと思っていました!」


って、今思えば、ユイン様のお父上も、あまり騎士様っぽくはありませんね………!


リエール様は、アール辺境伯リュエル様と同じくらい、お強いそうです。


「ふふふ。よく言われる。騎士っぽくないからこそ、油断は禁物だよ?ミーレさん。」


「えっ?は、はい。ゆ、油断は、禁物………!」


わたくしの両手を取り、ふわりと笑いました。


ああ、このお方、レオル様は、マイオン様とは違った美青年ですね………!


な、なんだか、ドキドキといたします………!


「うふふ。レオル様っ!頑張って下さいね!」


「はい。ありがとう存じます。ユイン様。」








何を頑張って下さい、なのか………


それは、5年後のことですね。二人は、次第に惹かれ合い、20歳で結婚をしました。


この二人の娘は、マイオン様&アリーシエ様の嫡男と出会い、結婚。


三代にわたって、ようやく、レイーエ男爵家の初恋の連鎖は実りましたとさ。

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