番外編

喫茶店


私は、レヴィー・エル・ヴィーエ・テレース。


先代ヴィーエ男爵の妹が、先代レイーエ男爵の弟と再婚して生まれたのが私だ。


年の離れた異父姉ハルファ姉上は、私にとって尊敬できる姉さんである。


五年前に、テレース家の一人娘に婿入りした。


テレース家は、いわゆる平民とも呼ばれている人達なんだけど、従姉のリラン様のおかげで、平民から領民という呼び方に変わっていった。


だいぶ身分差が緩んできつつあるので、本当に有難いことだと思う。ありがとう。リラン様。


身分差が、もっと緩んだら、リラン姉さんって呼べますよう、願っている。







「セレイナ。セティー。」


「なあに?パパ!」「どうしたの?あなた。」


可愛い愛娘と清楚美人な妻を呼ぶと振り返ってそっくりなニコニコの柔らかい笑顔を見せた。


ああ、娘も妻も、可愛い。私は幸せ者だなあ。両親が恋愛結婚だから、私もそうした。


初恋は叶わなかったけど、今は、幸せな家庭を築いて来れている。


「今日は、久々に、父さんの実家に、ヴィーエ子爵家に行こうか。」


ヴィーエ子爵夫人であるリラン様は、歳離れた母方の従姉にあたるお方だ。


私は、16歳まで、ヴィーエ子爵家のご子息、ご令嬢の世話役であった。


けれど、今は、屋敷の近くの、小さな喫茶店を経営する店長として働いている。


「ええっ!?わたし、ちょっと、あそこは………行くけれど、かなり緊張するのよねー。」


「それは、仕方ないよ。私も、屋敷に行くのは久々だからね、緊張してるかもしれない。」


「ふふふ。貴方、子爵夫人と男爵様の親戚なのよねえ。私、最初に会った時は、どこかの執事さんなのだと思ったんだけど。」


「あはは。まあ、世話役ではあったからねえ。執事に見えるかなあ。」


セレイナ・フィー・テレースは、この喫茶店の先代店長の、清楚系美人な一人娘。


いきつけの喫茶店だから通っていたら、いつの間にか恋をして、私達は、夫婦になった。


いわゆる貴族ではない女性だけど、幸い、私の家族は、祝福して下さった。


「ぱぱ! ぱぱ! それ、おかし?」


「あはは。残念ながら、お菓子ではないけど。うん?ヴィーエ子爵家って、子どもからしたら美味しそうな名前なのかな?」


「………う?ちがうの?ざんねん。しゅん。」


「セティーちゃん。また今度、お菓子、一緒に買いに行こうね。約束だよ?」


「ほんと!? まま! だいすきー!」


セティー。この子、最近、セレイナに凄く似てきた可愛いらしい天然な愛娘だ。


ふふ。父さんは、ヴィーエ子爵家が、まさか、お菓子だと思われるとは思わなかったよ?


それは、さすがに、ヴィーエ子爵家の前で言わないように、ね?


まあ、リラン様は、怒らないけれど。むしろ、なんて可愛いの!って言いそうだけどさ。


「………今日は、どうして、ヴィーエ子爵家に?しかも、私やセティーも連れて。珍しいわね。レヴィーさん、何か、あったの?」


「どうやらね、マイオン様ユイン様に婚約者が出来たらしいんだ。お祝いに、と思ってね。」


「まあ!婚約! それは、おめでたいですけど、行っても大丈夫ですか?ユイン様は、あなたの初恋の女性、なんでしょう?」


「今、私が愛してるのは、セレイナとセティーという可愛い妻と愛娘だから、大丈夫だよ?」


「レヴィーさん………ありがとうございます。」


たしかに、私の初恋は、ユイン様だったけど。


私は、ユイン様にとって、兄のような、叔父のような人なんじゃないかな?


今は、セレイナと出会い、結婚をして、可愛い愛娘のセティーが生まれた。今のユイン様は、私にとって、妹みたいな存在なんだ。


「心配してくれて、ありがとう。セレイナ。」


「ふふふ。大丈夫なら良いのよ?準備してくるから、セティーと待ってて頂戴ね………!」


「ああ。本当に、いつも、ありがとう。」


私は、本当に、良い奥さんに出会えたよなあ。


リラン様からも、絶対に、妻と子どもを大切にして、幸せになりなさい!って言われている。


うん。リラン様は、従姉というより第二の母のような感じがしている。


「セティー、今日はね、お祖父様、お祖母様に久々に会えるよー?姉上達もいるんだよー?」


「わあああ!ほんと!?じーしに、ばあばに、おばしゃま! にいしゃま!あいたいっ!」


「うん、そうだよー!一緒に会おうね!」


父上サエール、母上ステファ、姉上のハルファ姉さん&ユゼロ義兄さんに会えるし。


さらに、甥っ子で、愛娘セティーにとっては、2つ年上の従兄であるハルーゼくんもいる。


「お屋敷に、可愛くおめかしして行くんだよ?セティーらしく、可愛くね?」


「うんっ!おひめさまみたいになりたいっ!」


「うんうん。その意気だよ!セティー!」








私たちは、ヴィーエ子爵家の両親や姉達が住む別邸の方を先に訪問することに。


本邸の方は、ヴィーエ先代男爵の曽祖父と子爵夫妻、双子の兄妹が住んでいる。


「あら〜〜、久しぶりね〜〜!レヴィー!」


「ああ、うん、久しぶりだね。ハルファ姉上。愛する妻と娘を連れてきたよ。」


ぱああと満開の笑みで、ハルファ姉上が可愛い甥っ子のハルーゼくんと共に駆け寄って来た。


うん。弟の私から見ても、美人な姉上である。


ハルーゼくんは、ユゼロ義兄さんに似ていて、優しそうな雰囲気の持ち主だ。


「まあああ!セレイナさん!セティーちゃん!久しぶりね〜。会いたかったわー!」


「お、お久しぶりです。ハルファお義姉様。」


「ハルファおばさまー。ひさしぶりにあえて、セティーちゃん、うれしいです!」


「うふふふ。わたくしも、嬉しいわ!」





「セティー!ひさしぶり!」


「わーい!ハルーゼにいしゃまあ!」


ハルーゼくんは、ハルファ姉上の一人息子だ。


娘セティーを激愛していて、父親として、叔父として、少々、心配な一面がある。


幼いのに、性格は優しくて紳士的だから大丈夫だろうけどね。


「セティーは、ハルーゼ君と遊んでおいで。」


「やったあ!いっしょ、いこ!にいしゃま!」


「うん、いっしょにいこうね!セティー!」







愛娘セティーをハルーゼくんに任せて


私とセレイナは、本邸に向かう。それも、双子兄妹が使うシンプルな茶色の客間に。


この部屋は、あえて親族用の客間なんだとか。


「久しぶりですね。レヴィー叔父上。」


「レヴィー叔父様。本当に久しぶりですこと。元気そうで、なによりよ。」


立派に成長して、17歳となった双子の兄妹のマイオン様とユイン様だ。


「はい、マイオン様、ユイン様、お久しぶりでございます。お二人も、お元気そうですね。」


うーん………?婚約者が出来たから、だろうか?


双子は、前よりも、落ち着いていて、大人びてきているから、なんだか感慨深いものがある。


「セレイナ義叔母上も、お久しぶりです。」


「義叔母様、お久しぶりでございます。元気にしていらしたでしょうか?」


「は、はい!マイオン様ユイン様、お久しぶりでございますっ!わ、私は、元気です!」


ああ、ちょっと、カチコチンになって、緊張しすぎてるね。セレイナ。


うん、たまにしか会わないような人達だから、仕方ないか。


「あら、セティーちゃんは、ハルーゼ君と一緒なのかしら?」


「はい。久々に従兄妹同士で遊ばせたくて。」


「ふふふ。微笑ましい光景ね。」


一方、セレイナ自身としては、美しくて可憐なお姫様のようなユイン様を見て………


こちらの方が夫の初恋相手………可愛いすぎ!!


と思って、カチコチンになっていました。


「叔父様、義叔母様は、どうして、こちらに?あ、もちろん会えるのは嬉しいわよ?いきなりだもの。びっくりしたわ?」


「あ、たしかに、びっくりしたよね。叔父上、何かありましたか?」


「お二人に、婚約者が出来たと聞いたものですから。お相手は、どんな方なんですか?」


「ああ、なるほど。私のお相手は、エリゼーラ辺境伯の三女、アリーシエ様だよ。辺境伯の娘だから、かなり強い女騎士なんだよね。一緒に領地を守って下さるようなお方だよ。」


「辺境伯家から、ご令嬢が来られるんですね。おめでとうございます。マイオン様。」


「ああ。ありがとう。レヴィー叔父上。」


アール辺境伯次男に続き、今度は、エリゼーラ辺境伯家のご令嬢がお嫁に来る。


それは、もはや、子爵家というより、伯爵家と言った方が良いくらい、貴重な出来事だ。


それにしても、なんてお優しい瞳………これは、確実に、アリーシエ様に惚れましたね………!


「いいや、私より、ユインの方が凄いと思う。なんせ、お相手は、第二王子殿下だからね。」


「第二王子殿下?それは、本当なのですか?」


第二王子殿下の、クオリート殿下は、もはや、雲の上の存在すぎて、お名前しか知らない。


まさか、親族から、王族に嫁ぐ人が出るなんて全く想像していなかった。


社交に慣れないセレイナは、もうびっくりしてますます固まっている。


「ええ。クオリート殿下と社交界で出会って、それから、交流を重ねていましたの。」


「つまり、新しい公爵家の、公爵夫人に………!おめでとうございます。ユイン様。」


「ふふふふ。ありがとう。レヴィー叔父様。」


ああ、なるほど。初恋相手の運命の赤い糸は、王族の第二王子殿下に………


それは、敵いませんね。ようやく、すっきりと致しましたよ。ユイン様。


私は、初恋ではなく、尊敬をしていたんです。

最愛の妻セレイナが初恋だったんですね?


それを知れて良かったと思います。ありがとう存じます。未来の公爵夫人様。

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