双子妹


私は、ヴィーエ子爵家の長女、ユイン。


今いる場所は、初めての社交界。様々な美しいドレスを着飾ったお嬢様たちが、貴族の殿方と優雅に綺麗に踊っている。


私は、ただ、その様子を、ひっそりと、静かに眺めているだけ。


お母様は、こういうような初めての社交界で、お父様に声をかけられたらしい。






「ふぅ。私は、お相手を探すより、こうやってのんびりと皆を眺めていたいわ。」


ちょうど休憩スペースがあるから、休憩して、それから、伯母様の元に行きましょう。


伯母様が、色々な貴族のご夫人と話してる間にこっそり離れて、壁の花となった。





「壁の花のお嬢さん。こんばんは。」


「こ、こんばんは。お初にお目に掛かります。あなたは、もしかして、第二王子殿下………?」


どうして、王子が、社交界の会場の隅っこに、いらっしゃるの?


社交界は、初めて。だけれど、王族の肖像画を見たことがあるから、顔は知っています。


マイルディオ国王陛下の第三子で、私より三つくらい年上の次期公爵様である。


長い黒髪に青紫の瞳は、まさに、マイルディオ国王陛下や皇太子殿下によく似ています。


「ああ。よく見たら、リートの、従妹の………」


「は、はい。ヴィーエ子爵家の長女、ユインと申します!よろしくお願い申し上げます。」


「私は、この王国の、第二王子、クオリート。君は、ユインと言うんだね。よろしく。」


クオリート殿下の口調は国王陛下や皇太子殿下とは違うらしいのですが、威厳のあるミステリアスな雰囲気は、まさに、王族の青年特有の。


まあ、王族とは、公爵様親子しか会ったことがないんですけれど、リート兄様と雰囲気が似ている青年ですね。


ううう………どうしましょう!?緊張します!


「ふむ。リートの従妹にこんな可愛い子がいるなんて、知らなかった。」


「………わ、私が、可愛い子、ですか?見た目は平凡な方だと思うのですが………」


クオリート殿下………?いきなり、どうされたんですか。これは口説かれているのでしょうか。


私、確かに、公爵家嫡男リート兄様の従妹ですけれど、子爵令嬢なんですが………


「君は、母君のリラン夫人に似てる。すぐに、リートの従妹だと気付いた。」


「わ、私が、お母様に似てる………?あんな美人さんな、お母様と………!?」


「自信を持つと良い。君は、美人だよ。」


「あ、ありがとう、存じます!」


王族の殿方に褒められるなんて、どうしたら!


クオリート殿下………ありがとう存じます!






「さて、君は、誰と来たんだい?」


「双子のお兄様とリゼッタ伯母上です。」


「伯母上のリゼッタ夫人は、どこに?普通なら初めての者は付き添いがいるはずなんだが……」


「つ、つい、気後れ、してしまいまして………」


気後れというより初めてだから、社交界の事、よく分からずに、ここへ来たんですけどね。


お兄様は、ひとりで大丈夫なのに、なぜか私は伯母様と一緒で。


「ふむ。つまり、ひっそりと離れたと?今頃、リゼッタ夫人が探しているんじゃないか……?」


「ううう………はい、そうですね。戻ります。」


さすがに、私は、お兄様伯母様を心配させたいわけではありませんし………






「いや、私が付き添いをするよ。」


「えっ!?いえ、そこまでして頂かなくとも!お話相手になっていただけるだけでも、有難いことだと思いますので………!」


そもそも、子爵令嬢である私に、リート兄様のような親戚なら、まだしも。親族でない王家の殿方と話せるなんて、奇跡なんですよ………!


幸い、ここは隅っこ。他のご令嬢に気付かれずお話し出来ていますが、伯母様がいる場所は、かなり目立つ場所なんです………!


「女性がひとりだと、強引にせめてくる高位の貴族もいるから、気を付けた方が良い。」


「ううう………はい、分かりました。付き添い、お願いしても、良いですか………?」


「ああ。もちろん。遠慮することはない。」


「殿下………!あ、ありがとう存じます!」








「リゼ伯母様。すみません。」


「貴女、どちらに行って………!!」


いつも冷静な伯母様が慌ててる。凄いご心配をおかけしました。すみませんでした。


伯母様や周りの人々は私の横にいる殿下を見てびっくりして固まりました。


「クオリート殿下……!殿下が、姪っ子と一緒にいて下さってたんですかっ?」


「ええ、はい、ひとりで、壁の花になっているものだから、お連れしました。」


「まあ!ありがとう存じます。ユイン、貴女、素晴らしい殿方に見つかりましたのね?」


「え、ええ。はい。まさか、クオリート殿下とお知り合いになるとは思いませんでした。」


し、視線が………!周りからの視線が凄いけど!


幸い、伯母上が王弟殿下である公爵のご夫人で私が姪なので、好奇心があるだけですね。


「初めてなのだから、今回は仕方ないだろう。今度からは同伴者から離れない方が良い。」


「ううう………はい、分かりました。ありがとう存じます。クオリート殿下。」


今度から、気をつけます。伯母様が付き添いの理由は、そういうことなんですね。


てっきり、親戚だからだと思っていましたよ。






「ユイン。私と踊ってくれないかい?」


「………えっ?わ、私と、でございますか?」


なんだか、両親から惚気まじりに聞いた展開になんとなく似ていませんか………!?


踊りを男性から頼むということは、この王国の国民にとって、婚約して下さい、ということになるのです。


初対面で言われるなんて、どういうこと………?


「あら、やるじゃない。ユイン。貴女の母も、私の弟にそうやって声を掛けられたのよー。」


「えっ?あの話しは、本当だったのですか?」


両親の惚気が、まさかの本物であった、ということが、伯母様から聞かされて、驚いた。


両親から聞いた出会いのような展開を娘である私まで体験するとは………!


これは、もしかして、夢なのでしょうか………?


「ユイン。私のこと、どう思う?」


「ク、クオリート殿下!わ、私達は、そもそもまだ今日、お会いしたばかりですし………!」


なにより、私は、子爵令嬢なのですけれど………


第二王子殿下である貴方とは、釣り合わないのではないですか………?


公爵夫人の姪として、関わって下さっているということなのでしょうか?


「なら、友人として、話をしてくれるかい?」


「友人として………!?お、お話し相手ならば、よろしくお願い申し上げます!」


「ありがとう。ふふふ。可愛いね。ユイン。」






その後、私は、お兄様の元に行き、お兄様から相談を受けた私は内心ドキドキしていました。


なんせ、私も、求婚をされたようなものです。どう説明すれば、良いのでしょうか?


「ユインは、何かあったの?」


「………えっ?いいえ、お兄様が相談して下さるなんて、思わなくて、嬉しかったんですよ!」


「ほんとかな?それにしては浮ついてるよね?何か、あったんじゃないの?」


あ、相変わらず、鋭い洞察力………さすが、あのお父様に似たお兄様ですね…!


私は、本当に、どうすれば良いのでしょうか!


「ううう…………実は、リート兄様の従兄であるクオリート殿下にお声をかけられまして………」


「それは………リート兄さんの関係者だからではなく?婚約して欲しいと言われたのかい?」


「は、はい。踊ってくれないか?と言われて……

で、でも、子爵令嬢の身分差がありすぎます!ですから、考えさせて下さい………というようなことをお伝えしました。」


「そしたら、殿下は、なんて、お答えに……?」


「そ、そしたら、友人としてなら良いか?って言われました!ど、どうしましょう?」


「クオリート殿下………リート兄さんに、殿下のお人柄を聞いてみるよ。」


「お、お兄様………よろしくお願いします。」






その7年後のことです。


新しい公爵家の当主になられたクオリート第二王子殿下と、兄のおかげて、子爵令嬢から伯爵令嬢になったユイン。


このふたりは、22歳のときに結婚しました。


伯爵家のご令嬢になったおかげで、誰にも批判されることなく結婚出来ました。


後に、クオリート殿下に似てクールで聡明で、ユインに似て可愛い女の子が生まれました。


その女の子は、隣国第三王子殿下と出会って、婿に迎え、幸せに暮らしましたとさ。

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