双子兄
俺は、マイオン・エル・ヴィーエ。
父上は、辺境伯家の次男であり、子爵でもあるリエール・フォン・アール・ヴィーエ。
母上は、田舎娘の男爵令嬢から、子爵の夫人になったリラン・エル・ヴィーエ。
そんな二人の間に子爵家の嫡男として生まれ、双子の妹がいる俺は、どうやら、若い頃の父にそっくりらしい。
が、色合いは少し違う上に、性格もかなり違うため、身長は同じくらいだけど見分けやすい。
今年17歳になったばかりの俺は、双子の妹のユインと、社交界に初めて参加している。
リゼ伯母上が公爵夫人だから、俺たち双子は、かなり世間から注目をされている。
俺は大丈夫だけど、双子の妹は注目されるのが苦手そうだ。大丈夫だろうか………?
ふむ。妹の方には、伯母上が一緒にいるから、大丈夫だろう、と信じよう。
会場に入ったとたん、興味津々な視線が………
その貴族達の中でも、一際目立つ可愛いというよりも、綺麗な令嬢が近付いて来た。
ふむ。辺境伯と公爵夫人の甥っ子であるから、声をかけられるだろうとは予想していたが……
「貴方が、リゼッタ公爵夫人の甥っ子さん?」
「ええ、はい、そうです。ヴィーエ子爵の嫡男マイオンと申します。」
子爵家の嫡男に声を掛けれるのは、もちろん、伯爵以上の家に生まれた貴族令嬢ということ。
つまり、目の前の、赤茶色の瞳を持つ、銀髪のご令嬢は、伯爵以上の令嬢ということになる。
そんな人物が、なぜ、俺に声をかけるのか………
ああ、リゼッタ伯母上の関係者、だろうか?
「そうなの。マイオン殿とおっしゃるのね?」
「ええ。そうでございます。貴女様は、どなたなのでしょうか。社交界には初めて出入りしたものですから、世間知らずで、すみません。」
「わたくし、エリゼーラ辺境伯の三女、アリーシエでございます。初めてなら知らないのも、無理はないわ。よろしくね。」
「アリーシエ様、よろしくお願い致します。」
甥っ子、姪っ子を、息子娘のように可愛いがる伯母上から、俺のこと、何か聞いたのか?
だから、興味を持って声をかけてきた、とか?
それ以上に気になるのは、エリゼーラ辺境伯という名前。アール辺境伯家の………
「アール辺境伯家と、ライバルと言われている北の領地の辺境伯家でございますね。」
「そうね。東の領地の、アール辺境伯家とは、確かに、ライバル扱いをされていますわよね。でも、わたくしの母と貴方の伯母は、仲良くて親友同士なんですよ。」
東の辺境にアール家、北にエリゼーラ家、西にカトリー家、南にユジーエ家。真ん中に王家。
東と北の辺境伯は、お互いをライバル同士だと思っているらしい。
「エリゼーラ辺境伯は、代々女性が継ぎます。なので、今の当主は、お母様なのです。」
「スィーティ夫人が?レオテス様ではなく?」
レオテス様は、筋肉ムキムキの伯父上の上司。てっきり、辺境伯様かと………
レオテス様は、実は、準男爵家出身の騎士で、辺境伯家に婿入りしたらしい。
スィーティ夫人は、可愛いらしい三児の母とは思えない、華奢な乙女、と言った女性である。遠目から見ても、女騎士には見えない。
「長姉セスティーユは騎士に興味がありませんので、次姉リトラシーアが、次の当主です。」
「セスティーユ様に、リトラシーア様。噂ではありますが、聞いたことはあります。」
長姉セスティーユ様は、同盟国に嫁がれた侯爵夫人ですね。母親に似て、おっとりしていて、文官になったという噂なら聞いています。
次姉リトラシーア様は、侯爵家の四男と結婚をしているはずです。凛々しくて、女獅子のようだと言われているようなお方です。
「ええ、ちなみに、もちろん、わたくしも騎士でございます。見えないでしょう?」
「ええ。見えません。ですが、よく見ますと、身のこなしが、普通のご令嬢とは違うようですから、納得しましたよ。強そうですね。」
「ふふふ。ありがとう。アール辺境伯の甥っ子さんならば、何かと関わりがありそうね。」
「ええ、そうですね。同じ騎士同士、よろしくお願いします。アリーシエ様。」
エリゼーラ辺境伯の婿殿と伯父上は、幼馴染でライバル。エリゼーラ辺境伯と伯母上も親友。
これは、かなり関わることになりそうですね。
「出来れば、手合わせ願いたいところですが、それは、今度にしましょう。」
「ふふふ。わたくしも、マイオン殿と手合わせしたいけれど、我が辺境伯家の女性と手合わせしたいと言うのは、婚約して下さいと言ってるようなものなんですのよ?」
「……えっ?そうなんですか?い、いえ、私は、ただ、純粋に手合わせしたかっただけで………!そちらの事情を知らず、すみません!」
騎士同士ゆえ、手合わせ願いたいだけなのに、まさか、婚約の話になるとは………!
エリゼーラ辺境伯家は、不思議な伝統が残っているんですね。
「ねえ、あなた、わたくしと婚約しませんか?わたくし、お強い殿方を探しているのですが、なかなか見つからなくって。」
「アリーシエ様………私は、まだ社交界デビューしたばかりの身です。じっくり考えさせていただけませんでしょうか………?」
「ええ、ええ、じっくり、考えて下さいませ。まずは、お友達から始めましょうね!」
「あ、ありがとう存じます。アリーシエ様。」
「って、なったんだけど………どう思う?」
「あら、お兄様の方こそ、辺境伯家のご令嬢、アリーシエ様を、どう思っているのかしら?」
アリーシエとの話のあと、すぐに、マイオンは妹に相談することにした。
女性側の意見を必要としていたから、である。
まあ、一番の理由は、リゼ伯母上に知られたらすぐ話題になってしまうから、なんだけど………
「うーん……初対面だから、まだ分からない。」
「お兄様は、性格面では、アリーシエ様と気が合いそうですか?」
「それは………合いそうではあるけど。むしろ、父上母上が初対面で婚約を決めたのは、不思議すぎるんだが………」
そもそも、初の社交界で、まさか、女性から、申し出があるなんて、考えてもいなかった。
普通なら、男性から女性に、踊りませんか?と誘うのが普通である。
同じ子爵家か、男爵家あたりのご令嬢をお嫁に迎える予定であった。
今のところ、婚約を約束を交わしている女性はいないが………
まさか、自分よりも身分の高い女性に、求婚をされるとは………本当に、予想外の展開である。
「お母様は、お父様と出会った時、誠実なお方だから、信用出来ると思ったそうよ。そして、お父様は、お母様に一目惚れしたんだとか。」
「まあ、確かに、父上は、素晴らしいお方だと息子の俺でも思うし、母上もかなり美人だから一目惚れしてしまうことはあるかもしれない。でもさ、初対面で分かるなんて、母上、観察眼良すぎじゃないか………!?」
「あら、お母様らしくて、良いじゃない。よく幼い頃のお兄様の可愛いいたずらも、見抜いていたんでしょう?」
「う………それは、まあ、確かに、見抜かれてたみたい、なんだけど………!」
「ふふふ。お兄様は寂しがり屋ですものね。」
「ユイン、君も、そうだろう………?」
あの身のこなし……アリーシエ様は、おそらく、女騎士団団長になられそうなくらいのお方だ。
対して、俺は、元騎士団長のお祖父様の孫息子とはいえ、まだまだ未熟である。
俺達は、果たして、釣り合うんだろうか………?
「わたくし達のお祖父様は騎士団長で、父方は辺境伯家。騎士団の方にとって、わたくし達の存在は、気になるのでしょうね。」
「ああ。うん。そうなんだろうなとは思う。」
強い男性なら、他にも、騎士団にいるはずだ。
なぜ、俺に………?アール辺境伯家の嫡男である従兄もいるのに………?という思いはある。
これは単なる劣等感に過ぎないかもしれない。けれど、ただ、ただ、不思議に思った。
「じっくり考えても良いのでしょう?焦らずに考えてみてはいかが、かしら?そのご令嬢は、嫌な人というわけではないのでしょう?」
「あ、ああ。そうだな。友人としてでも良いとおっしゃって下さったからな。」
うん。そうする。アリーシエ様に関わりながらじっくりと考えてみよう。
アリーシエ様について、リュエル伯父上夫妻に聞いて、マイヤ兄さんにも訪ねて………
その後は、たびたび会うようにして、じっくり考えてみよう。
「ええ。お兄様、今日は、お疲れでしょう……?お早めに寝た方が良いですよ?」
「うん。そうするよ。ありがとう。ユイン。」
「うふふふ。どういたしまして。お兄様なら、大丈夫よ!お父様から、直々に騎士として鍛えられているんだもの!」
ユインは、いつも優しくて、俺には、もったいないくらい、可愛くて、賢い妹だよなあ。
妹のユインも、何か出会いがあると良いけど。
この子なら、兄の目から見て、良い貴族夫人になりそうだし。
それから、7年後のことです。
「旦那様。お散歩をしませんか?」
「とーさま、おさんぽ、しよっ!!」
「ちちうえさま、おさんぽ、しませんか?」
「ああ。構わないよ。いつもの庭に行こう。」
「ふふふ。頼もしいですわ。子ども達も貴方のような父親を持てて、幸せね。」
「ああ。家族に囲まれて、俺は、幸せ者だよ。アリーシエ、子ども達、いつもありがとう。」
子爵嫡男マイオンと辺境伯の娘アリーシエは、お互いが騎士だということもあり、次第に惹かれあいました。
22歳の時に正式な婚姻を結び、アリーシエが嫁入りをしてきました。
凛々しくて強かな嫡男と可愛いらしい女の子に恵まれて、二児の父親・母親に。
さらに、アール辺境伯の甥っ子で、エリゼーラ辺境伯の娘を妻にしたということを認められ、子爵家から伯爵家になりました。
ヴィーエ伯爵家は、賑やかな大家族になって、幸せに暮らしましたとさ。
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