無免許レーサーのゴール目前極限バトル

ちびまるフォイ

最終決着は神が決める

「知ってるか。この峠はひとよんで峠と呼ばれている。

 とくに呼び込まなくても人がどんどんやってくるから

 "ひとよんで峠"というらしい」


「こんなところでレース対決しようというのか、おもしれぇ」


「走り屋が出会ったら、そこがレースの場所になるんだよ」


峠には2匹のけものがいた。

けしてフレンズになれそうもないギラついた目でお互いを牽制し合う。


「さぁ、始めようぜ。先にこの峠を超えたほうが勝ちだ」

「ああ」


「……乗れよ」

「お前からいけよ」


「ちょっと待て。先に、ガソリン漏れないか確認しなくちゃいけねぇ」

「なんだと!?」


1人は車をぐるりと見回して問題がないかチェックする。

その所作はまるで運転免許をもっているかのような「こなれ感」があった。


(こいつ……もっているのか、"アレ"を……!)


「よし、問題はない」

「レーススタートだ」


2人はそれぞれの車に乗り込みキーをひねった。

エンジンが動くと急激に心拍数があがる。


二人の会話はつなぎっぱなしのケータイで行われていた。


「先にスタートしてもいいんだぜ?」

「悪いが俺の愛車はじゃじゃ馬でね。エンジンをあっためなくちゃいけないんだ」


2匹の獣は牽制をやめない。

なにせどっちがアクセルでどっちがブレーキなのかわからない。


テレビのニュースでは踏み間違い事故が繰り返し報道されている。

二人にとって足元のペダルは爆弾の赤青コードと同じだった。


「行けよ」

「いやいやそっちが」


「どっちのペダルを踏んだかだけ教えろ」

「それならお前が先に」


業を煮やした一人が2つのペダルを同時に踏み込み、

微妙に片方を上げたりしながら発進をした。


「しまった! 先をこされた!! どっちだ!? どっちのペダルだ!」

「フハハハ! 教えるかよ! バーカ!」


時速5kmくらいの高速スタードダッシュをかました。このリードは大きい。

焦るもう1人は必死にワイパーを動かし、ウインカーを出しまくる。


そのとき、先頭を走っていた車がつんのめるようにして止まった。


「な、なんだ!? 何が起きた!?」


エンストという言葉がエンジンストール(ストップ)の略だということも二人は知らない。


「車は運転者と心をひとつにしたときに動く。

 てめぇはまだ車と心をシンクロできてないのさ!」


「な、なんだと!?」


遅れながらももう1台がゆっくりと発進する。

しかしもう1台の車には謎の3つ目のペダルがあった。


(このペダル、一体何だったんだ……)


アクセルでもブレーキでもない第三のペダルは踏んでも踏まなくても変わらなかった。

たぶん、なんらかの設計ミスだろう。


ものすごい爆音と異音を鳴らしながら低速で発進する。


「くっ……なんて音だ!!」

「言っただろう、じゃじゃ馬だってな!!」


ギアを1速にしたまま、先頭で何度もエンストを繰り返す車を抜き去った。


「悪いがこの峠は俺の庭さ。毎日走ってるからな!」


「貴様ァ!!」


「ランニングでな!!」


エンストでつんのめりながらも、車は必死に追いかける。

やがて最初にして最後のカーブに2台は差し掛かった。


「ついに来たか。この峠の名物、ヘアピン急カーブ。

 ここを曲がりきれずに落ちたレーサーは数知れない」


「ここで勝負を決める!! 先にブレーキを踏んだ方が負けだぜ!」


ヘアピンがよく落ちているだけのゆるやかなカーブを2台は曲がろうとする。


「ぐっ!? なんだ!? ハンドルがこれ以上回らない!?」


「ハハハ!! ばかめ! それが峠の魔物だ!!

 ハンドル操作を乗っ取られたのさ!!」


「ちくしょう!! マルヲカートならもっと回るのに!!」


車のハンドルを回せる限界まで回しきってしまいこれ以上回れない。

ギリギリまでカーブを耐えてしまったがために、後部車輪が脱輪する。


「う、うああああ!!」


車はあえなく峠の谷へと落ちていった。


「フッ……だからあれほどドライブレコーダーは必要だといったんだ」


2匹の獣はドライブレコーダーがドライバーの運転を記録し

徐々に自動運転を補助するAIかなにかだと思っていた。


「さて……押すか」


残った1台はカーブ曲がれないので、いったん車から降りて

車を外から持ち上げ、軌道修正して、再度発進する筋肉解決することに。


だが……。


「まだ……まだ終わってないぜ」


「なにぃ!? 貴様、落ちたはずでは!?」


「シートベルト、上手くとめられてなかったのさ!」


「こいつ……なんて強運だ……!

 しかし、もうお前の車はない!」


「いいや、お前の車があるさ!」


「な、なんだと!?」


残った1台の運転席に乗り込んだ。


先に峠を越えたほうが勝ちというルールではあったが

それがどちらの車かどうかまでは決まっていなかった。


「クッ! 降りろ! これは俺の車だ!」


「誰の車かなんて関係ない! 大切なのは車にふさわしい運転手がどっちなのかってことだ!」


二人は車を発進させながらも車内で激しいハンドル争奪戦を繰り広げる。

やがてカーブを越えた先の直線に峠の終わりが見えてくる。


「この車は俺のものだ! このままゴールしてやる!」


「いいやこの車は俺のものだ! だって俺のほうが運転うまいもん!」

「そんなのわからないだろ!」


「さっきまでマニュアル車だったんだぞ! 腕前のポテンシャルがちがう!」

「車を滑落させてたじゃないか! これは俺の車だ!」


車の所有権をめぐって争う二人。


その激しさが最高潮に達したとき!!



「はい止まって。今、検問やってるんだけどね。

 これ、どっちの車? 持ち主は運転免許出してくれる?」



2人は声をそろえて答えた。




「「 こいつの車です。自分はただの同乗者です! 」」

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