美川憲一と宇宙に来た
三文の得イズ早起き
美川憲一と宇宙に来た
「あ、り、が、と」
美川憲一は僕にそう言った。
美川憲一はテレビでみたままだ。ふと神田うのと仲が良かった事を思い出してその事を聞いてみた。神田うのさんってどういう人なんですか?
「おだまり!」
怒られた。
プライベートに深入りしてしまったからだろう。
僕と美川憲一は今、スペースシャトルの内部にいる。当然宇宙服を着ている。もちろん美川憲一の宇宙服にはラメが入っている。窓から見えるのは青い地球だ。
地球は青かったって言ったのは誰でしたっけね?僕は美川憲一にそう尋ねたが返事はない。代わりに「おうちに帰りたい」と呟いた。ホームシックになってしまったようだ。無理もない。宇宙では孤独が身にしみる。
「早く地球に帰りたいですね」
「帰って何がしたいのよ?」
「うーん。ラーメン食いたいですね。豚骨系・・いやもっとさっぱりしたのがいいかなあ。美川さんは何したいですか?」
「そうねえ・・・紅白出たいわねえ」
「紅白出たら何歌うんですか?やっぱり『蠍座の女』ですかねえ」
「それしかヒット曲ないからそれよ」
「・・・ところで美川さんって蠍座なんですか?」
「牡牛座」
牡牛座なのか。知らなかった。僕たちは二人でちょっと黙った。
「あ!あれ蠍座じゃない!?みてみて」美川憲一はスペースシャトルの窓の外を指差す。
「いやわかんないです」
僕がそう答えると美川憲一はiPhoneを取り出した。何やらゴニョゴニョとしている。何してるんですか?と聞いても答えない。
「あーやっぱりわからないか」
「何がですか?」
「蠍座 探し方 でググってるんだけど地球からの見方しか出ないのよ。宇宙船からだと方角が変わっちゃうのね」
「そうなんですか」と適当に相づちを打つ。
「へー。アンタレスって蠍座の中にある星なんだって。あんた知ってた?」美川憲一は楽しそうに言う。
「知りませんでした。でもアンタレスってのはなんか聞いた事ありますね」
「あんた、レス、みたいな感じよね」
「キャッシュレス、みたいな感じですか?お前はいらない、みたいな」僕の問いを美川憲一は無視し、相変わらずスマホをごにょごにょしていた。
今度は何してるんですか?と聞くと小さい声で「グラブル」と答えた。
「あんたさ、会いたい芸能人とかいるの?地球戻ったら私が会わせてあげる」スマホの画面を見ながらそう言う。グラブルをまだやってるのだろうか?
「ほんとですか!?ええと、じゃあ、吉岡里帆でお願いしたいです」
美川憲一はスマホから目を離さずに「無理」と答えた。
「あーーつまんない、家帰りたい」と美川憲一は座っていた椅子で伸びをした。
あー肩凝るわー宇宙でも肩こるわねえ、と愚痴を言う。
「有吉ってさ」と美川憲一は伸びをした姿勢のままでそう呟く。
「有吉っていつから毒舌キャラじゃなくなったのかしらねえ」
「確かに最近は全然毒舌じゃないですよね」
「私も昔、毒舌キャラだったことあるから解るけど、アレはキツイのよね。色んな人に嫌われるし」
と言うと小さな声で蠍座の女を歌い始めた。
地球はキレイですねえ、と僕は窓の外を見ながらそう言う。ふと美川憲一を見やるとスマホで自撮りをしながら何やらゴチャゴチャと動いている。
音に合わせて踊っているのか、と思い暫く眺めていた。美川憲一のスマホから出ているこの曲はなんて曲だろう?どこかで聴いた事のある洋楽だ。
「この曲なんて曲でしたっけ?ZEDDでしたっけ?」
「あーーおだまり!」怒られてしまった。
そして「あーもう」と言ってスマホを放り出した。宇宙空間にプカプカと浮かぶiPhone。
僕はすいません、と謝った後で何をしてたか尋ねた。
TikTokだと言う。美川さんティック・トックなんてやってるんですか?と驚くと心外だという顔をした。あれは私が流行らせた、と言う。絶対嘘だ、と思ったが黙っていた。
「あんたが邪魔したから撮れなかったわ」
「すいません」
「ほんとうにもうあんたは素人だから」というとまた美川憲一はスマホを弄りだした。
しばらく弄った後で「あ、」と感嘆の声を上げた。
「TwitterみたらDMきてる」と目を丸くして僕の方を見た。
「どこからですか?」
「NASA」
「マジですか?なんて書いてあるんですか?」
「地球に帰ってもいいって」
「マジですか?おめでとうございます!」と僕は言った。
「あんたも一緒に帰れるってよ!」
「ほんとですか!やったー!」
「おめでとう」
その後でNASAから来たというDMを見せて貰ったが日本語で書かれている事に少し疑問を持ったが深く考えるのはやめておいた。
散々嬉しいやら、良かったやらの感想を言い合った後で、「地球に帰ったら一緒に蠍座探しましょうね」という主旨の話をしてみたが、「それはいいや。あんまり興味ないし」と言われてしまって僕らは笑った。
美川憲一と宇宙に来た 三文の得イズ早起き @miezarute
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