おめでとうレンジャー
鈴木怜
おめでとうレンジャー
『新しいおめでとうの作法を教えます』
そんな言葉につられて
しかし、どうやらそのセミナーは胡散臭い部類に入るものらしく、山井以外に人はいなかった。ちくしょう、こんなことなら来るんじゃなかったと山井は心の中で毒づきながらそれでも一度決めたことだからと帰りはしない。
そのうち山井は声をかけられた。声のする方を見ると、小さな子供が五人いる。
「おめでとうの新しい作法を知りに来たんですか?」
そのうちの一人が、無邪気な声で聞いてきた。山井の頭が混乱する。なんだ、どうしてこんな子供がそれを?
そんな山井を知ってか知らずか、さっきの子供はわざとらしく胸をはった。
「ぼくたちが新しいおめでとうの作法を教える先生です!」
「そ、そうですか?」
「そうです!」
その裏では他の子供たちが「ちぇ、ひとりか」だの、「むしろひとりでも来たことに感謝しなきゃ」だの、「あきたからかえろーぜー」だの、「そういやひとりでできるの?」だのと言いたい放題している。途中まではいい、最後のは一体どういうことなんだ? 山井は叫びたい気持ちをぐっとこらえる。
子供たちがわーきゃー騒いでいるのを山井と話していた子供が「いい加減にしないと怒っちゃうぞ!」などと言っているあたり、この子がリーダー格なのだろう。それを聞いた他の子供たちも「はーい」などと答えるので、どうやら仲は良いらしい。
「よし、じゃあ、ぼくたちがやりますので、あなたは見ていてください!」
リーダー格のような子供が、他の子供を一列に並ばせる。自身はその真ん中に入った。そしてわざわざせーのと声を出して、それに合わせて子供たち全員がバンダナをどこからか取り出した。
「やったね戦隊、おめでとうレンジャー!」
リーダー格の子供は真っ赤なバンダナを首に巻いて、こう吠えた。
「おめでとうレッド!」
その左隣の子供を見れば青いバンダナを手首に巻いて腕をクロスさせている。
「おめでとうブルー!」
一番左の子供を見てみると、緑のバンダナを頭に巻いて空手の型のように構えている。
「おめでとうグリーン!」
レッドの右隣の子供は、黄色のバンダナを足首に巻いて右手を掲げている。
「おめでとうイエロー!」
一番右の子供は、ピンクのバンダナを首に巻いて、両手でハートマークを作っていた。
「おめでとうピンク!」
「ぼくたち、おめでとうレンジャー!」
最後にレッドがそう叫んで、おめでとうレンジャーが完成した。
山井は、それから拍手していることに気が付いた。戦隊ヒーローなんてしばらく見ていない。だというのにこの子供たちは、おめでとうレンジャーなるものを一生懸命考えて作ったのだろう。それにしては、作法という言葉が引っ掛かるが。
「どうですかどうですか? ぼくたちのおめでとうレンジャーは」
「はい。いいのではないでしょうか」
山井のそんな答えに、子供たちははしゃいだ。会社では使えないだろうが、胡散臭いわりにはいいだろう。
「じゃあ、今度はあなたの番ですよ?」
「え」
そうして山井はしばらく子供たちと『おめでとうライダー』なるものの作成にいそしんだのだった。
「私は祝福の騎士! おめでとうライダーだ!」
おめでとうレンジャー 鈴木怜 @Day_of_Pleasure
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