ありがとう

みし

ありがとう

 季節の上では既に春であるのだが、まだ肌寒い日が続いていた。勿論温かい日もあるが、今日は朝から風が吹いて冷え込んでいた。私はその中を少し厚着をして、風を避けるかのように道を真っ直ぐ歩いていた。

 思えば既に三年が過ぎた。様々な思い出が頭の中をよぎっていく。

 ここ三年の思い出が走馬灯の様に廻っていく……。

「走馬灯の様に廻ってはダメでしたね」

「何をしているの……」

 友人の紫織が声をかけてくる。一年から三年まで同級でSNSで毎日メッセをやりとりする仲である。

 今日の朝もくだらないメッセージを送ってきた。

「いや、いろいろ思い出すことがあって……」

「そうね。いろいろ面白かったもんね……例えば、一年の春……」

「いや、まってその話はやめて……黒歴史だから……」

「え、面白いから良いじゃ無いの?」

「ダメったらダメです」

「んー。ダメかなぁ。ほらこれこれ」

 紫織は、素早くスマホを取り出すと顔面に写真を突きつけた。

「辞めてと行ったのにぃ」

 ぷーと顔を膨らませてみる。そこには昔の私の写真が写っていた。あまり思い出したくない黒歴史の一つである。

「えー可愛いと思うんのだけどなぁ……」

「と言いますか、一体どこからその写真を取り出したのですか?」

「んー、待ち受け画面にしているからすぐでてくるわよ……」

「それより、そもそもなぜその写真を持っているのですか」

 写真を撮られた記憶は無いのですけど……

「ん、それは秘密だよ」

 秘密と言われるとますます気になる所です。ここは問い詰めてみましょうか……。

「ほらほら、早く行かないと遅れちゃうぞ♥」

「あ、もうこんな時間ですか……」

 私達は小走りで通学路を駆け抜けていく。

 いつも見慣れた風景が少し変わった情景を生み出しているが、まだ冷たい風があたり、頬が寒い……制服を少し引き寄せて風を避けようとする。

「あら、雛乃の頬って冷たいわね」

 紫織が、突然頬を寄せてくる。紫織の頬が私の頬にあたる。柔らかいけど少し肌寒い頬と頬がぶつかる。肌は寒いけど、心はなんだか温かくなる気がしてくる。心の奥底から温かみがほとばしってくる。

「ん、どうした?」

「いや、紫織って可愛いなって」

「それはお互い様よね。ほらほら急ぐわよ」

 私達は時間ギリギリで校門をくぐり抜け、校庭を駆け抜け校舎の中に入る。

 息を切らせながら、教室の中に入ると予鈴が鳴る。

 そう今日は卒業日。この学校とお別れの日だ。

 先生がやってきて、段取りを説明する。

 それから卒業式が始まる。

 校長の長い話……来賓のさらに長い話が終わり、送辞と答辞が読み上げられる。

 ……私は感極まって涙をこぼしていた。

 その涙を紫織がそっと拭っていく。

 そして涙の雫をぺろっと舐めた。

「紫織は一体なにをやっているの?」

 思わず少し噴き出してしまった。

「いや、こういうときにあんまりしんみりするのもなんだかなぁって思っただけだよ」

 手を後ろに組んで背伸びする紫織の目からも涙がこぼれ落ちていた。

 思わず私も舐め返してやろうかしたと思ったけれどそれは辞めて上げることにする。

「紫織、卒業おめでとう」

「雛乃も卒業おめでとう。これからも一緒よね」

「うん。ありがとう。三年間一緒に居てくれて」

「私もよ」

 二人で抱き合いながら、これからもずっと友達で居ようと思った。

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