第2話 出会い

ツイは家の中、1人でコンピューターゲームをしていた。勿論オンラインである。

第7区画サリエルは無法地帯だが電波を受信しようと思えばできるし、勿論電気も通っているところも少なからずある。

「……はぁ、ったく、弱すぎだろ……。なんで俺がカバーしなきゃいけねぇんだよ」

映像に投影されたキーボードを素早く押して、操作をする。

『殺し屋』としての依頼が無い時は暇潰しにゲームをしている。第7区画サリエルに楽しいショッピングモールやら人が集まる観光地なんかは無いからだ。あるのは瓦礫の山、大破したビルが聳え立つのみ。ある意味『遺産』のように観光地になるのかもしれない。何年先のことかは分からないが。

「…お、勝利っと。連勝記録更新〜」

ゲームの結果は勝利に終わり、映像を閉じる。

ゲーム用の椅子から立ち上がり、キッチンにある冷蔵庫を漁ってみた。缶ビールがあったので取り出して飲む。

安い物だが普通に美味い。舌が肥えていないからだと思うが。

「……もう1時か」

時計を見ると深夜1時を回っている。何も変わったことでもなくいつも通りの時間だ。

夜の仕事が多いからか、完全に昼夜逆転生活になってしまった。不健康かもしれないが、それもそれでいいと思っている。

紙のように薄いテレビが壁に立て掛けてある。それを見つめると映像が映った。

新世紀になり『テレビ』という概念に番組の多様化は消え去っている。誰もが見たい番組を買って楽しむ。買わなくてもいいものはニュース程度だ。それも国営の。

『……続いてのニュースです。今日未明にも政府による核融合爆発実験が研究所で行われる模様です。国民からの批判も多く、シエル=ユニ・マリエ=アンノージュ氏も遺憾の意を示しています』

「は、政府もこんなご時世に核爆発かよ。そんなに世界を汚染したいのかっての」

そう言って缶ビールを飲みながらツイはヘラヘラと笑っていた。

政府は一体何を考えているのか。何処かの国と戦争でもする気だろうか、しかしそれはそれで面白いものである。

「軍事クーデターも案外面白いな」

この言葉は勿論誰かに向けた訳でも無い。ただの『独り言』だ。

つまらなくなったテレビを消し、空になった缶を洗った。リサイクルは旧世紀も新世紀もしている、資源は有限なのはいつの時代も変わらない。

「予定は明日の昼、な」

1人で明日の予定を確認した後、リビングの照明を消して自室へ行く。

自室のベッドに横たわり、寝る。明日は昼の仕事が入っているので早めに就寝した。



起床し身支度をした後、ツイ愛用の、現在も存在する大国アメリカがふ作り上げた旧世紀の兵器対人用スナイパーライフルM24 SWSを肩にかけて、外へ出る。

今日の目的地である座標を頭に浮かべて一瞬でそこに移動する。

そこはかつての戦争でひらけた場所だった。

「奏が言ってた場所はここだが……」

そこで口を閉じる。真っ黒な闇が空にポッカリと空いていたのだから。

「もう既に時遅し、てやつか」

小規模の『次元決壊』である。暗黒からは黒いものが落とされていった。所謂『無能人外』というやつだ。知的人外はマスターのように話せるし、理解してくれる。

「その涎を垂らす開いたままの口を結んでやるよ」

これはツイにしか出来ない仕事。

彼の異能力がそういう系統だからだ。

彼がその力を発動すると『次元決壊』が急速に収縮する。そして最後には消えてしまった。

「よーし、第7区画は安全安全」

懐に忍び込ませておいた手榴弾を敵にばら撒き殲滅させる。ツイはウキウキしていた。まるで遠足に行く子供のように。

「殲滅終了、よし酒飲みに行くぞ」

敵がいないことを見渡し、行きつけのバーで昼間から酒を飲もうと決めた。体たらくな生活なのは分かるが、別にいいじゃないか、頑張ったのだから。



踵を返そうとした時、背後に人気が感じられた。振り向くと黒髪が長くウェーブで、眼鏡越しに赤い目を向けて見つめてきた。

「……誰っすか」

ツイは素っ気のない言葉を言う。しかし完全に無視された。相手は只、こちらを見るだけだ。

見た所、人間らしい姿をしているが恐らく人型の知的人外だ。

本当になんなのだろう、と思う。


ツイは瞬きをした。一瞬の出来事だったが、何故か目の前にいた人物は消えている。周りを見渡すもどこにもいなかった。怪奇現象、というやつだろうか?奇妙なこともあるものだ。

まずは、ここから立ち去ろう。そう思った。




「それは無理があると思うぞ」

酷く風の強い屋上で、着物の袖に手を入れながら言う。青く頭の高いところに結ばれた髪が靡く。

黒髪の青年に話しかけていた。

親友の仲である彼らは、全てを話さずとも察することができる。

「……そうか?人間の感性とやらは理解し難いな」

無表情で淡々とそんなことを言われても困る。彼は少し特別な存在な為人間社会と関わることも多かった。だからこそ、人間の心理を理解できる。案外単純だということを伝えたいのだが、やはり無理があるのだろうか。

「……まぁ、もしその人物が『彼』だとすると、そんな心理も当てにならないかもしれないが……」

しかし、重要なのはそこではない。彼らが求めているものは自身の主人である『彼』だ。人間とはまるで違う存在なそれが、その人物だった場合はきっと感性が人間とは異常に違うだろう。

「それもそうだな。時間は無いが、焦る必要性は無い。無理をしても逆に手間を取るだけだ」

ご自慢の黒髪を揺らしながら言う。 よく目を凝らして観察すると、髪と思われていた部位から黒い蛇がシュルル、と音を立てて動いているのが分かる。所謂、メデューサというものだ。しかし悪魔の定理とは人間には形容し難い、実に難解なものであるが故にその正体を説明するのは無理である。

「それでは、私は行くとする。後に合流しよう」

ガクが自身の影に溶けていく。創はそれを見ながら、自身の赤いマフラーを巻き直し、笑顔で見送った。

「そうだな。ではまた」

そう言葉を返した後、彼も風の如くその場から離れていく。






シエル=ユニ・マリエ=アンノージュは苦悩していた。第1区画ミカエルの統治者として政府とは対抗してきたはずだ。しかし、そのバランスも崩れかけている。

自身の書斎でタブレットに映っている書類を見ながら、真剣に考えていた。

「……政府は一体何が目的だ?」

その言葉は誰に問うわけでもない。自問自答、というものだ。

政府の強行採決された核爆発実験。海上でやるにしても、平和を望む国民には納得のいくものではないだろう。

思考を巡らせながら、政府の資料を読む為に横にスライドする。

ふと、シエルの手が止まった。文章を読み、顔を顰めた。

「これは……」

合法、とは言えないような内容で埋め尽くされていた。その内容は幼い子供達に行う人体実験施設の実態だ。

それは非人道的であり、残虐な行為である。まるで旧世紀のナチス・ドイツだ。科学的に意味の無い人体実験を繰り返し行い、大量の人間を殺した残忍な国家だったと記憶している。政府はこのような独裁国家になるつもりだろうか。それは、統治者としても個人としても許せないことである。

「ならば、私が天罰を下してやろう」

そう言い、ニヤッと不敵な笑みを浮かべてはタブレットを横スライドさせて書類を読んでいく。頭上にはまるで天使のような光の輪ができ、水色の髪と水色の目がキラキラとその眩しい光を反射させた。

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第7区画の神様 こあく @koaku_co3

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