第7区画の神様
こあく
第1話 第7区画の殺し屋
ー
それは『人外』により廃墟と化した幻の都市。
人類が超能力を使えるようになり、新世紀が打ち立てられる。
その新世紀に入り、人間は『
それは第11区画建設中に起こったことだ。第7区画に突如として『次元決壊』が現れた。決壊した暗黒から人間とはかけ離れた存在、『人外』が人類の脅威として世界を襲う。
5年の戦争の上に協定が結ばれ、世界にはまた平和が訪れた。
しかし、人外の差別は未だに残り、第7区画の人間も差別されるように。
第7区画は廃墟、いや無法地帯となり身元不明な人間、人外が増加していく。
そんな中でも第7区画が政府に壊されない理由があった。
『
禁忌がそこに居座っているからだ。
酷く煙たい空気が漂う『死の都市』こと
「……政府とやらはいつになったら俺たちを救ってくれるのやら」
1人の若い男が煙草から吸った煙を吐き出しながら言う。瓦礫の上からスッ、と飛び降り、短くなった煙草を地面に捨て踏み潰した。
「こっちも楽じゃねぇっての」
昼間だと言うのにて太陽の光も見えない空を見上げ、苦笑いする。
5年間も続いた戦争から約7年、ここはガラクタしか残っていない。政府が第7区画を見捨てた為に、第7区画に残された兵士、戦争孤児、住民も見捨てられた。住民票も、戸籍もあるわけがない。つまり法による手当ては無い。そのくせに罪を犯すと法の裁きが下る。そのため第7区画に住む人々が他の区画へ行っても迫害されるだけになってしまった。人外も蔓延っており、夜な夜な死人が出る。無法地帯、旧世紀で言う国境地帯、だろうか、それとも核兵器で汚染された都市だろうか?昔の事など知らないし、今では核など身近な存在になってしまったから説得力など皆無に近い。
煙草を羽織っているベージュ色のカーディガンの内ポケットから取り出し、プラズマによるライターで火をつける。
彼が持つ煙草は旧世紀の遺産である使い捨てのものだ。新世紀に入り健康に害が無い電子タバコが普及した中、わざわざ取り寄せて使っている。愛着があるようで銘柄も必ず同じものを注文しているようだ。
「……さて、一仕事してくるか」
彼はゆっくりと足を進めては街を歩く。
暗闇の中、路地裏に1人の男がジュラルミンケースを持ち誰かを待っていた。見るからに金を持っていそうな見た目だ。
「……目標確認、捕捉。…3、2、1、」
遠くから、音がした。これは不幸の予兆だったが、気付かなかった。
可哀想なことに彼の待ち合わせ相手は来ない。未来もないのだから。
男に素晴らしいヘッドショットが。頭に弾丸が突き刺さり、血飛沫を上げては倒れた。
「ナイスショット!」
見事なショットを見せた青年はどこかのビルの屋上でライフルを抱えて胡座をかいていた。ヒュー、と口笛を吹いては男を嘲笑う。
彼はジュラルミンケースを自分の手元に
「最高の気分だなぁ……さて、依頼主に報告っと」
青年は手から映像を投影し、依頼主に文字を打ち込む。これは旧世紀で言う携帯だ。
彼の仕事は所謂殺し屋だ。依頼された相手を殺して金を貰う。第7区画の住人にはピッタリな裏仕事である。個人情報が政府にないからこそ犯行を特定しにくい。
報告文を送信し、映像を閉じようとした時、あるニュースが目に飛び込んで来た。
『異能力者ランキング更新!』
どうやら政府はまた格付けをしているようだ。
超能力、又の名を異能力。それは進化した人類に備わった力だ。それには強さが存在する。下からCランク、Bランク、Aランク、Sランク。それぞれのランクに順位があり、1位になれば昇格出来る。つまりはSランク1位が異能力者最強、ということになる。
しかし、
『シエル=ユニ・マリエ=アンノージュ』
能力の実態はまだ判明されていないが、彼の脳略の一部として『創世』が含まれている。創造、物を作り出すだけでなく生命、例えば植物なども創り出す、正に夢のような能力だ。政府は彼を危険分子だと考えているが、国家を形成する中枢機能が集中している
「……政府も異能力者も何がしたいんだか」
別に興味も湧かない。第7区画という外れた都市にいるからかもしれないが、政治とは程遠い人生を歩んできた。政府が、統治者が、何をしようと関係無い。勝手にしていろ、と思う。しかし、自身の居場所を奪うなら別だ。その時は殺す気で受けてやろう。
ニュースに興味も無いので、詳細を見ることもなく投影された映像を消し、ジュラルミンケースに金を戻して鍵をかける。そのあと地面に青白い穴が空き、ジュラルミンケースを飲み込んでいった。
青年は屋上から隣のビルの屋上に飛び移りながら移動する。
暗い路地の中にポツリと白く光る看板を見つけた。看板の隣にある上品で重そうな扉を開き、中に入る。シャラシャラ、と店内に出入りする合図の鈴が鳴った。
「いらっしゃいませ、ツイ様。お待ちしておりました」
カウンターの奥に烏の頭をした店主が洗ったグラスを拭きながら言った。
カウンターに座っていた男が振り向き、不機嫌そうにこちらを見たあと煙草を吸う。
「待ちくたびれたぞ、ツイ」
「嘘つけ、お前さっきだろ、来たの」
ふっ、とツイは鼻で笑った。灰皿に吸い終わった煙草が一本も無かったからだ。煙草を吸う男、
ツイは好きでたまらないジントニックをマスターに出してもらい、それを口にしながら談笑していた。
「全く、近頃の他区画の輩は舐めきってやがる。報復してくれよ、『神様』」
奏が意地悪く、ツイを揶揄う。彼はこの愛称が嫌いなのを知りながらも。
「あのなぁ、俺はそんなあだ名呼ばれる筋合いはねぇの。他区画の奴らなんてほっとけよ、その内この『死の都市』で死ぬんだし」
ジントニックの中の氷をカラカラ、と動かして言う。奏は、ニヤッと笑いながらまた新しい煙草に火を付けた。
「まぁ、いいじゃねぇか。そうでも無いと格好がつかないしな。俺たちの
「故郷だった覚えなんて無いんだが」
鋭いツッコミをツイは奏に突きつけた。奏はやはり笑っている。
マスターに飲み終わったグラスをマスターに渡して、新しくウイスキーを頼む。
「そういえば今日
『
だってよ。お前も含まれてるだろ」
奏こちらを横目で見てきた。ツイは興味も無さそうに酒を飲む。
「……さぁな」
ツイは曖昧な返事をした。答えたくは無い。
「お前とは長い付き合いだ、大体のことは分かるつもりだよ」
奏は煙草を手に持ちもう片方の手で酒を飲む。
ツイはその言葉でニヤッと笑う。
「ふん、言ってくれるじゃねえか。じゃあ今回はまけてくれるよな?」
「それとこれは別だ、5万寄越せ」
ツイは不服そうな顔しながら仕方なく5万円を奏に渡す。しかし、彼は分かっているのだ。本来なら10倍、100倍と払わせる奏がこんな安い料金で情報を売ってくれることに。
「奏、お前も異能力者ランキング上位に食い込めそうだけどな」
「は、俺は攻撃系じゃないんでね。戦闘には向いてないし」
そんなことを言っているが、彼の椅子の隣に掛けているのは打刀である。凶器であるそれを常日頃から持ち歩いている時点で戦闘する人間であることに間違いは無い。
奏が酒を飲み干し、金を出した後席を立った。どうやら帰るようだ。
「……ツイ、近々また小規模だが『次元決壊』が起こる。少しは用心しとけ」
耳元で囁かれた。ツイははっ、と鼻で笑う。それは『かかってみろ』という自信に満ち溢れた合図である。
奏が店を出て、ツイもウイスキーを飲み終わり金を出した後店を出る。
人類に汚染された空は変わらず淀んでいた。
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