ヘタレなドーベルマンはパーティー風船でお祝いされたい

アほリ

ヘタレなドーベルマンはパーティー風船でお祝いされたい

 「ハッピーバースデー!マルコシアスちゃーん!サキュバスちゃーん!グリフォンちゃーん!ハッピーバースデーおめでとうー!!」


 3匹のドーベルマンは、この屋敷の番犬だだ。


 3匹は、御主人様に大広間で揃って誕生日パーティーを催して貰っていた。


 テーブルには、一流のシェフによる犬用料理や一流のパティシエによる犬用ケーキが並べられた。


 そしてパーティー会場の周りにはバルーンアーティストに頼んで飾られた、いっぱいの『ハッピーバースデー』と書かれた、大小のゴム風船やマイラー風船がところ狭しと置かれていた。


 「さあ!たーーーんとお食べ!!お前達のお陰で、この屋敷とこの私が護られてるんだからね!!

 これはほんのご褒美!!

 何時も何時も何時もありがとうねーーーー!!

 今日は君達の無礼講だよーー!!

 何でもやっちゃってーー!!」


 「わふーーー!!」


 「きゃんきゃん!!」


 「ぼうっ!ぼうっ!」


 「わん!わん!わん!」


 ドーベルマンのマルコシアスとサキュバスとグリフォンは、テーブルの料理やケーキをガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツ!!と口いっぱいに頬張って食らい、御主人様と遊び・・・


 そして、パーティーのフィナーレは・・・


 「わふーーー!!」「わん!わん!わん!」「きゃん!」「きゃいん!」


 

 ぱぁーーーん!ぱぁーーーん!ぱぁーーーん!ぱぁーーーん!ぷしゅーー!!ぼん!!ぱぁーーーん!ぱぁーーーん!ぱぁーーーん!ぱぁーーーん!



 これが、ドーベルマン達の1番の楽しみだ。


 バルーンアーティストがドーベルマン達の為に、端正込めて装飾したいっぱいのバースデー風船を惜しみも無く、牙や爪や体重で、ぱんぱんぱんぱんぱん!!と割りまくってエキサイトする事だ。



 ぱぁーーーん!ぱぁーーーん!ぱぁーーーん!ぱぁーーーん!ぱぁーーーん!ぱぁーーーん!ぱぁーーーん!ぱぁーーーん!ぷしゅーー!!ぼん!!ぱぁーーーん!ぱぁーーーん!ぱぁーーーん!




 「う・・・羨ましい・・・3匹の兄弟が皆、御主人様に誕生日をお祝いされてる・・・!!」


 実は、もう1匹ドーベルマン達に兄弟が居たのだ。


 「悔しいな・・・悔しいな・・・俺があんなドジをやらかさなきゃ・・・」


 ドーベルマン4兄弟の1番の兄貴分のケルベロスは、屋敷の片隅で普通のドッグフードを食べもせずにふて腐れていた。


 他の3匹の兄弟よりドジで、ここぞという御主人様の危機には何時も何処かでブルブル震えて隠れている『ヘタレ』なドーベルマンだった。


 「あーいたいた。やーい!『ヘタレ犬』ーー!!」


 そこに、身体中に割れた風船の破片を付けた他のドーベルマン兄弟が笑いながらやって来た。


 「やあ、『ヘタレ犬』!!この前、この家に来た敵組織の刺客が侵入してきた時、俺らは身を呈して御主人様から護ったのに、君は呑気にガレージの中で鼻提灯を膨らませて眠りこけてたんだよな?

 で、御主人様に御立腹されてさあ、飯抜きの上に、俺らとは隔離されて当分の謹慎の檻生活だったんだよな?!

 もう、お前は『番犬』に向かないんじゃね?御主人様にとっちゃ『番犬』はこの3匹で充分らしいしな!!」


 兄弟のうち1番の弟にあたるマルコシアスは、ニヤニヤしながらいじけるケルベロスに嫌みを振ってきた。


 「マルコシアス、それは言い過ぎじゃ・・・」「それじゃ、ケルベロスが余りにも・・・」


 「黙っててサキュバスとグリフォン!!こいつは根っから足手まといだったんだよ!!」


 「だからそれは言わない方が・・・」


 「ほら、ケルベロスはだいぶ心が傷ついてるんじゃ・・・」



 「いいよ・・・皆、本当の事だから・・・」


 ケルベロスはボソッと呟くと、踞った。


 「どうせ俺は『ヘタレ』なドーベルマンだ・・・俺なんかどうせ・・・」


 「その言葉、本心か?」


 マルコシアスは、「う~」と牙を剥き出してケルベロスに向かって威嚇しながら聞いた。


 「まあまあ、マルコシアス。ここで騒ぎを起こしたら俺達もこいつと同類だ。」


 「けっ!」


 舌打ちしたマルコシアスとドーベルマン兄弟が去り、独りぼっちのケルベロスは悔し涙を流して嘆いた。


 「風船・・・バースデー風船・・・バースデー風船に俺も囲まれたいのに・・・俺のドジのせいで・・・俺は・・・バースデー風船に縁がないのか・・・

 風船・・・風船・・・フワフワして愉しいだろうな・・・俺も風船に囲まれたいのに・・・

 俺にはその資格が無いのか・・・」



 ・・・・・・



 ある日の事だった。


 ケルベロスは聞いてしまった。


 「4つのうち、3つでいいな。1つは余計だから切って捨ててしまおう。」

 

 ・・・えっ・・・?!


 ケルベロスは絶句した。


 ・・・俺・・・御主人様に捨てられるの・・・?!


 「ぎゃいん!ぎゃいん!ぎゃいん!ぎゃいん!ぎゃいん!ぎゃいん!

 嫌だ!!嫌だ!!御主人様に俺は!!捨てられるなんて!!嫌だ!!嫌だ!!嫌だ!!」


 


 ケルベロスは激しく取り乱して発狂した。


 

 ぐいっ!ぐいっ!ぐいっ!ぐいっ!ぐいっ!ぷちん!!



 ケルベロスは、渾身の力を込めて首輪を止めている鎖をひきちぎると、セキュリティの効いた壁を悠々と飛び越えて屋敷から必死に逃げていった。


 「あっ!ケルベロス!!何処へ行く!!」


 花壇の花の手入れをしてた御主人様は、逃亡したケルベロスの後を追いかけた。

 



 たっ!たっ!たっ!たっ!たっ!たっ!たっ!たっ!たっ!たっ!たっ!たっ!たっ!




 「あのドーベルマン・・・」


 「鎖を引き摺ってる!!」


 「もしや、あそこの屋敷のドーベルマン?」


 「いやー噛みつかれたら・・・!!」


 周りの人々の怖がる声をよそに、ドーベルマンのケルベロスは、大粒の涙を流して駆けていった。



 「はっ?」


 ドーベルマンのケルベロスは、用水路の橋の欄干の鉄塔に引っ掛かったピンク色の風船を見付けた。


 ・・・風船・・・


 ・・・ここに風船が目と鼻の先にあるのに・・・


 「えっ!!」


 ケルベロスは絶句した。


 そのピンク色の風船を、ひとりの少女がよじ登って取ろうとしていたのだ。


 「こ、これ・・・やばくね?」


 ケルベロスの胸はドキドキと高まった。


 「いた!!おい!!ケルベロス!!何のつもりだ!!」


 後で、追いかけてきた御主人様の声がした。


 ・・・御主人様に捕まえられたら本当に俺が・・・?!


 そして、欄干には少女が・・・


 足を滑らせた!!



 「きゃーーー!!」



 ばっしゃーーーーーん!!




 少女は悲鳴をあげて、橋の下の用水路の中へ堕ちた。


 

 ばしゃ!ばしゃ!ばしゃ!ばしゃ!ばしゃ!ばしゃ!ばしゃ!ばしゃ!ばしゃ!ばしゃ!ばしゃ!ばしゃ!



 「助けて!助けて!助けて!助けて!」


 用水路の中で溺れて必死にもがく少女。


 後で、鬼の形相のケルベロスの御主人様。


 ・・・ええい・・・ままよっ・・・!!



 ケルベロスは、深く深呼吸をすると・・・



 ばっしゃーーーーーん!!



 ケルベロスは、思いっきり用水路の中へ飛び込んだ。



 「ケルベロスーーー!!」



 ・・・・・・



 全身びしょびしょのドーベルマンのケルベロスは気が付くと、無事だった少女に何度も撫でられていた。


 ピンク色風船がしっかりと握っている少女は、何だか訳の解らないドーベルマンのケルベロスにこう言った。


 「助けてくれてありがとう、ワンちゃん!!

 私の風船まで取って貰って。ありがとう!!」


 ・・・風船は、実は俺が欲しかったからついでに取ったんだけどな・・・でも風船は元々女の子の持ち物だし・・・


 


 ぱしゃ!ぱしゃ!ぱしゃ!ぱしゃ!ぱしゃ!ぱしゃ!ぱしゃ!ぱしゃ!ぱしゃ!ぱしゃ!ぱしゃ!ぱしゃ!



 ・・・えっ・・・?!


 多くの報道カメラマンに写真を撮られたドーベルマンのケルベロスは、訳が分からなくなった。


 「ケルベロス!!おめでとう!!君は大手柄だったぜ!!

 何せ、ここに1つの命を救ったもんな!!」


 ドーベルマンのケルベロスの首には、警察署長からのメダルが掲げられていた。


 「ケルベロス!!お前は俺の英雄だ!!」


 御主人様も、少女とケルベロスと一緒に報道カメラマンの写真に収まった。


 実は、御主人様の本当は『あるアブナイ稼業』の人だというのに・・・



 「わうーーーー!!」


 豪邸に帰ってきたケルベロスは、ビックリした。

 

 テーブルには、3匹の誕生日と全く同様のご馳走が・・・


 そして、これもバルーンアーティストによる、3匹の誕生日以上に多い1面のお祝いの風船の装飾。


 マイラー風船やゴム風船の一つひとつに、ケルベロスの顔が描かれており、ケルベロスの形のバルーンアートもあった。


 「くぅ~ん・・・」


 「いいんだよケルベロス。このご馳走も、この風船もみーんな君のものだよ。」


 ・・・これが・・・全部俺のもの・・・?!


 ドーベルマンのケルベロスは、興奮の余り鼻の穴をパンパンに膨らませ、マイラー風船からゴム風船、巨大な風船から小さな風船まである装飾の風船の山に飛び込もうとした。



 ばたん。



 ぷしゅーーーーーーー!!ぶおおおおおーーー!!しゅるしゅるしゅる!!



 その時、3つの風船が吹き口から空気を吹き出して、パーティー会場の大広間の周りを飛び回った。


 「おめでとうー!!」「おめでとうー!!ケルベロス!!」「ケルベロスの勇気に俺らは惚れた!!」


 と同時に、3匹のドーベルマン兄弟が困惑するケルベロスに飛び込んできた。


 「ケルベロス。この飛ばした風船は、お前を称える為に皆で口で膨らませたんだぜ?!」


 「ケルベロス!あの時は責めてごめんな。お前は『ヘタレ』じゃねぇ。」


 「ケルベロス!!おめでとう!これからも楽しく御主人様の番犬しような!!」


 「皆・・・兄弟、ありがとう。皆の叱咤が無ければ俺は目覚めなかった。

 このパーティーは俺だけじゃない。皆も一緒に、このパーティーを楽しもうよ!!」


 「わふーーーー!!」


 ドーベルマン兄弟達は一緒に、ご馳走をたいらげたり、装飾の風船を更に口で膨らませたり萎ませたり割ったりして楽しんだ。


 ・・・やっぱり、兄弟皆と一緒に風船戯れるのが愉しいっ・・・!!


 「ケルベロス!今度はお前が風船を膨らませてみろ!割れるまで。」


 「わふ?!」




 ~fin~



 



 


 


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