三周年目の桜はもうすぐそこに

千羽稲穂

春にはエッセイを書こう。(三周年)

 まだ三月。されど三月。でもまだまだ寒いですね。コートもマフラーも手放せません。「え、まだこの時期にマフラー巻いているの?」という方がいるかもしれません。確かにその気持ち、分かります。実は私は寒がりで、まだもふもふの部屋着を着る人なので、まだまだマフラーが手放せませんし、マフラーも巻きます。


 無類のマフラー好きなのもありますけれど。


 家のストーブも今日もスイッチオンしてます。まだまだもふもふした身なりで外を歩いてます。もし街中でピンクのコートとマフラーを着たピンクの塊みたいな人がいたら、それが私です。気軽に声をかけても「アイムストレンジャー」通し、そそくさとその場を去りますのでご容赦を。


 実はこのエッセイも三周年目になりました。桜の季節になればかならずエッセイを書こうと思い、この一年何を書こうかと頭の中で描いてきましたが、またまた全く何を書こうか思いつきません。

 一年目は物悲しさを、二年目は罪悪感をテーマにしたのに、三年となるとすぐにネタもつきました。二年目から尽きていたじゃないか、と突っ込んでくれる人がいたらその人はかなり古い付き合いの方だと思います。ここまでお付き合いありがとうございます。


 私の住まいの近くには桜はあまり見かけないのですが、駅には多くの桜があります。その桜も冷たい肌を晒して立っていました。桜も寒がりで、花びらを咲かせる気分ではないのかもしれませんね。梅はふっくらした蕾を携えていました。桜とは違い梅は濃い赤を宿していました。そして甘い香りを漂わせています。ピンクの香りを口に放り込み味わうのも、この季節の一興です。


 桜がまだ咲きほこらないこの時期、多く開催されるのが卒業式です。または成人式でしょうか。誰かが旅立ち、誰かと別れる、そんな時期ですね。

 私は先日、ある方の卒業を見送りました。特に仲の良かった先輩です。バイバイと言ってそのまま帰ったのはいいですが、その後でなんだか物悲しくなるものです。それほどまで先輩はとっても私にとってどぎつい、いえ、親近感のある人でした。本当にお世話になり、一方で尊敬していました。


 一番初めに先輩に感じたのは「同類」だなということでした。

 先輩と近しくなったのは、新入生歓迎会でしょうか。あの時の私は先輩に狙いを定めていました。その飲み会の席で向かい合ったとき、会話の隙をみて、言っちゃたんです。


「先輩、それってゲーム実況の話ですよね」


 それから先輩と濃いお話をしました。具体的には誰それが好きなど……私事で、すみません。そして私のイメージを害された方に、大変申し訳なく思います。私はゲーム実況やボーカロイドといったネット文化に深く潜っている身です。

 そんな私が知っている方を見ると思わず声を掛けたくなるんです。同じ本を読んでいたり、映画を見て感想を交わしあったりするような、そんなものです。


 先輩はあけっぴらにそういったネットのお話をしていました。私は結構最初は隠します。と、いうのもその昔同級生がネットのことで担任の教師にいじられていたことがあったからです。


 先輩はそんなのお構いなしに、胸を張って言うんです。ゲーム実況者の誰々が好きって。そして、その好きを謳歌していました。「私は推しに貢ぐ!!」と宣言し、推し(好きなネット有名人やゲーム実況者)のためにお金を払い、遠くまでライブを見に行っていました。

 それが清清しかった。だから私は先輩に惹きつけられました。

 

 先輩は好きなものに貢ぐため、常にお金がありませんでした。


「先輩、夏はどこ行くんですか?」

「遠征! 北海道。あと東京、その後にすぐ大阪行って名古屋」


 そういうことが毎年ありました。「先輩、春休みは……」「夏休みは……」と何度も聞くのですが、遠征遠征で、あまり休暇中に会ったことがありません。その弾けっぷりは面白いもので、昨年ですと、「今年は何回ですか?」と聞いたら、「今年は少なめの三回にしてる」と言ってのけるのです。出不精な私からすると三回は多いです。


 推しにかけるその情熱、素晴らしい!


 心の中の私はそんな先輩にいつも拍手喝采してました。


 そんな先輩を見て、ちょっとだけ私も勇気をもらい、ある方のサイン会を応募してみました。あれは懐かしの三年前。夏でした。関西住みの、私にとってサイン会が開かれる関東はさすがに遠かったですし、この時はまだ関西から一人で出たことがありません。出ようと決意もしたことがないのです。当たるはずないよね、と思いつつ応募しました。

 そんな私がサイン会に当選し、すぐに先輩に報告しました。


「先輩、当たった、当たっちゃいました。サイン会!!」


 今や覇権アニメとなったあの方のサイン会になります。チカットチカチカで有名ですね。当時はまだまだ下火でした。だからこそ倍率も低く当たったのかもしれません。


 サイン会はこの時初参加で、東京にどう行けばいいのかも分かりませんでした。そんな先輩が「私がよく使うサイト送っといたから」とさりげなくフォローしてくれました。

 そのサイトを使い、深夜バスを予約。たたたたっと関東へ一人旅行しました。慣れない深夜バスで眠かったのと、作家さんに「イケメンですね」と言ったことしかもう覚えてません。残っているサイン色紙は飾っています。

 バイトをしていたので、だいぶ奮発して良いバスに乗ったのですが、それでも深夜バスはきつかったです。夜はあまり寝れませんでした。その上、帰りのバスの中で私の小説に初レビューをいただけたので、もう寝るに寝れないぐらい興奮してました。このレビューの話はまた違う時にでも。


 そこで深く感じました。深夜バスを使いこなし、県から県へまたぎ、遠征をする先輩はやはりやり手だと。


 そしてそんな先輩の姿を見て、勇気をもらって、いろいろ新しいことができました。この三年の右肩上がりの行動力のことです。東京の即売会に友達と参加したこと、関西の即売会に参加したこと、そして今こうして三年目のエッセイを書いて、投稿できていること。書き続けていけていることによって、いろんな方と繋がったこと。


 そんなことを先輩に報告しました。


「先輩、私、書いているんです。即売会に本出します」

「すっごい。それはすっごいわ」

「え、でも先輩は、いろいろ遠征してポスカとか配ってるじゃないですか」

「それとこれとは違うよ。きちんと書いて、商品として出すとか普通はできないよ」


 なんて褒めて、喜んでくれました。でも、やっぱり先輩の方が凄いんです。毎年、毎月、推しのために遠征までできるのですから。そして好きなことをしていつも過ごしているんですから。とっても楽しそうに生きているんです。そんな先輩に憧れています。


 そんな先輩、最近はジャニーズにお熱でした。推しを聞くと、先日引退した方で、その運の悪さに噴いてしまいました。私はジャニーズの中の違うグループが好きになってしまったので、そのグループ内で誰が推しかを話しました。話が白熱するでもなく、ただあれもいいよね、これもいいよね、と話せる先輩です。

 これが先日最後に会った日の会話だからすっごく笑えます。緩くって、そんな雰囲気が好きでした。


 そんな先輩も今年で卒業です。おしぼりの着物は可愛らしかった。きついきついと言い、すぐに袴を着替えるところも、先輩らしかった。


「先輩、今度ライブ誘ってくださいね」

「またね」


 なんてお話もして。もう会えるかどうかも分からないお別れを。


「先輩のもとまで、私のことが伝わったらいいな」


 という、宣言じみたことも伝えました。私の文やお話が、先輩のいる界隈にまで伝わったらいいな、なんて先輩が意味も分かるはずのないことを。そうすれば、先輩の好きの中に入れるかもしれませんから。


 あんな熱烈な愛を向けられる推しの方は幸せ者です。そしてそれを胸をはり、言ってのける先輩は素敵な人です。


 三月は別れの季節。マフラーもコートもまだまだ主流の季節です。桜はぽんっと蕾がつき、梅がまだ台頭しています。あとほんの少ししたら、マフラーもコートも脱ぎ捨て、ストーブのスイッチも押さなくなります。そして桜が咲きほこり、今年も春の雪を散らせることでしょう。


 私も桜のように咲けるよう、これからも頑張っていきたいです。

 3周年目のエッセイでした。

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