アフタートゥール 〜道具たちの世界と彼らの未練〜

舞台譲

レイシーと道具たち

//背景 ガラクタ山

//SE ガラクタをどける音

アラン  「そっち、何か売れそうなものある?」

スティーヴ「ない。もうあらかた漁られたな。

      この町の住民はハイエナか? ガラクタが降る度にこれだ。」

アラン  「ボクらも人のこと言えないけどねー。

       ってスティーヴ、また降ってくるよ! 隠れて!」


//背景 ガラクタ山・空からガラクタが降る

//SE ガラクタが落ちる音

アラン  「晴れ時々落下物。今日はガラクタがよく落ちるねー」

スティーヴ「金目のものがあるといいがな。よし止んだな」


//背景 ガラクタ山

//SE 地響き

アラン  「あれ? なんか揺れてない?」

スティーヴ「……まさか今の衝撃で。

      こっちに来い! 崩れるぞ!」


//SE 大量のガラクタが崩れる音

アラン  「どわーっ! 壊れる壊れる壊れるーッ!」

スティーヴ「アラン! くそっ!」


//SE ガラクタをどける音

スティーヴ「大丈夫か」

アラン  「いやーぶっ壊れるかと思ったよ

      あれ、このトランク」

スティーヴ「崩落に紛れてたみたいだな。

      随分お上品な外装じゃないか」

アラン  「金目のもの金目のもの。さて中身は」


//SE トランクを開ける音

アラン  「……これって」

スティーヴ「売れるには売れるが……どうする?」

???  「………………」

      

//背景 アランの家・リビング

//SE 肉を焼く匂い

???  「(なんだろう。美味しそうな匂いがする。

       肉を炙ったような香ばしい匂い。)」

スティーヴ「また随分と作ったもんだ。

      そんなに人間に会えたのが嬉しいか?」

アラン  「ずっと望んでたことだからね!

      全力で歓迎しないと!」

???  「(歓迎。誰を?)」


//背景 アランの家・リビング

???  「(ここどこ? わたしなんでこんな所に)」

     「……ダメ。全然思いだせない」

     「(意識を失う前どころか自分の名前も

       思い出せないなんて)」

スティーブ「売り払った方が良いと思うがな。

      人間は高く売れる。」

???  「(人間を売る? まさかわたしのこと?」


//SE コップが落ちる音

???  「(まずっ。肘がテーブルのコップに)」

アラン  「あれ、彼女起きたのかな」


//SE 足音

???  「(どうしようどうしよう)」

アラン  「おはようレイシー。調子はどうだい?」

レイシー 「わあぁぁっ!!」

アラン  「ちょっ、待ってよ!」


//SE 走る音 → 玄関を開く音

//背景 ガラクタの町・大通り

レイシー 「(何あれ!何あれ! 人間じゃなかった!

      顔も手もコックコートの下は黒い影みたいだった!

      それになんなのこの町の建物。

      全部ガラクタを重ね合わせたみたい。)」


//SE 人にぶつかる音

レイシー 「あっごめんなさい」

人形のトゥール「危ねえな。気をつけろ」

レイシー 「うわっ!」

人形のトゥール「ん? お前……」

レイシー 「(着ぐるみ? 人形? この人も人間じゃないの?

っていうかなんか凄くわたしのこと見てる)」

人形のトゥール「人間だ! こいつ人間だぞ!」

通行人A  「人間? 人間がいるのか! 何処だ!」

通行人B  「あそこだ! 捕まえろ!」

レイシー 「(なになんなの!? とにかく逃げないと!)」

人形のトゥール「逃げたぞ! 捕まえろ!」

レイシー 「ああもう何で皆して追ってくるの!」


//SE 鐘の音

レイシー 「え、鐘の音?」

通行人A 「やばい。スクラップの時間だ」

通行人B 「影の中に隠れないと」

レイシー 「(追って来なくなった。っていうか

       皆何かから逃げてる。でも何から)」


//背景 ガラクタの町・影の腕や地面に幾つもの目が現れた大通り

レイシー 「……なにこれ」

スティーヴ「おい何してる! さっさと陰に隠れろ!」

レイシー 「ちょっ痛い痛い! そんなに引っ張らないで!」


//背景 ガラクタの町・路地裏

スティーヴ「急に逃げやがって」

レイシー 「あ、その声。さっきの家で話してた……」

アラン  「レイシー良かった。無事だったんだね!」

レイシー 「うわっ、さっきの奴も!」

アラン  「そんなに怖がらないでよ。別に何もしないって」

レイシー 「でもさっき売り払うって」

スティーヴ「あれはもしもの話だ。やる気はない。

      それより礼の1つも言ったらどうだ?

      見ろ。死ぬ所だった。」

レイシー 「(なにあれ。影の手が道にあるゴミをバラバラにしてる。

       あっ、解体されたものが影の手の中に消えていく)」

     「なにあれ?」

スティーヴ「さぁな。オレたちはスクラップの時間とだけ

      呼んでいる。」

アラン  「毎日朝の6時と昼の12時、夕方の6時にあれが出るんだ。

      日差しの下にあるものはあの影の手が

      バラバラにしてガラクタ山に積んじゃうんだよ。」

スティーヴ「あの影は解体する対象を選ばない。

      日差しの下にさえいれば

      トゥールだろうが人間だろうがスクラップにする」

レイシー 「トゥール?」

スティーヴ「この世界の住人のことだ。オレやそこにいるアランも

      トゥールだ」

レイシー 「きみは人間にしか見えないけど……」

人形のトゥール「ギャアアァァッ!!」

スティーヴ「丁度良いな。解体される実例が出た」

レイシー 「あの人さっきの!」

     「(酷い。腕を折り曲げられて脚はどんどん

       刻まれていってる)」

スティーヴ「お前を襲おうとしてた奴か。

      良かったな。手を下さずに恨みを晴らせるぞ」


・選択肢

A「トゥールに手を伸ばす」


B「伸ばした手を降ろす」


*どちらを選んでもレイシーはトゥールを助ける


レイシー 「良くないよ! 助けないと!」

アラン  「レイシー行っちゃ駄目だ!」

スティーヴ「おい聞いてなかったのか!

      スクラップの対象は人間にも及ぶんだぞ!」


//背景 ガラクタの町・大通り

人形のトゥール「イタイイタイ! 止めてくれぇ!」

レイシー 「待ってて。今助けるから」

     「(とにかく影をこの人の体から外さないと。

       うわっ。触れた瞬間影が枝分かれして

       手に絡んできた。地面からもどんどん影が出てくる)」

     「どうしよう。このままじゃ……」

スティーヴ「くそっ手のかかる」


影の手と戦闘

勝利


//SE 影を斬る音

スティーヴ「人の話を聞いていなかったのか、お前は」

レイシー 「(影を斬った! あれは仕込み杖?)」

レイシー 「ごめん。ありがとう。君、走れる?」

人形のトゥール「あ、ああ」


//背景 ガラクタの町・路地裏

アラン  「ふぅ。良かったよ。みんな無事で」

スティーヴ「まったく何でオレがこんな面倒なことを」

アラン  「良いじゃないか。どうせ君の趣味なんだし」

スティーヴ「趣味じゃない。ライフワークだ」

アラン  「そっちの方がヤバイよなー」

レイシー 「ねぇ大丈夫? ってそんなわけないよね。

      腕折り曲げられてるんだし。」

人形のトゥール「い、いや、全壊してないなら修理出来る。

        道具だからな」

レイシー 「そっか。なら良かった。」

人形のトゥール「なぁそれより何で……」

住民A 「いたぞ人間だ! 捕まえろ!」

レイシー 「げっ。まだ追って来るの」

アラン  「こっちに来て。家への近道があるから」

レイシー 「もうなんなのさこの世界」

スティーヴ「レムナント。壊れた道具の世界だ」


//背景 アランの家・リビング

//SE 食器を動かす音

レイシー 「それでここが壊れた道具の世界って

      どういうことなの?」

スティーヴ「言葉通りの意味だ。現実世界で壊れた道具は、

      その後この世界に来る。

      どういうわけか意識と現実世界の記憶を持ってな。

      現実世界っていうのは、フランスで革命が起きたり、

      ドイツがトチ狂って世界大戦が起きたりした世界のことだ。」

レイシー 「それくらい。記憶がなくてもわかるよ。はむ。」

     「(あ、このピラフ美味しい)」

アラン  「レイシー、ボクの作った料理はどうだい?」

レイシー 「丁度良い味付け。パラパラで美味しいよ。

      で、その道具の世界になんで人間のわたしがいるのさ」

スティーヴ「さぁな。稀に生きた人間が迷い込むとは聞いてるが、

      それだけだ。オレもよくは知らん」

アラン  「サラダはどうかな。

      ドレッシングは気合を入れたんだけど」

レイシー 「シャキシャキして美味しいよ。

      あと名前。わたし、自分のことも憶えてないんだけど、

      そのレイシーって名前は何処から来たのさ」

スティーヴ「お前の首にかけてるその笛だ。よく見てみろ」

レイシー 「……レイシー。ホントだ。名前が書かれてる」

アラン  「あ、ベーコンはどうかな。焼き加減とか丁度良い?」

レイシー 「うん、全部美味しいよ。で、笛」

スティーヴ「その笛は揮笛と言ってな、

      この世界に迷い込んだ人間が必ず身につけているものだ。

      なくさないよう精々気をつけるんだな」

アラン  「そうだ。ジュースの方はどうかな。

      新鮮なフルーツを……」

スティーヴ「おい良い加減にしろ、アラン。

      美味いって言ってるんだからもう良いだろ」

アラン  「え~でもさ~」

スティーヴ「味見をしてくれる奴がいて嬉しいのはわかった。

      だったらそれこそ一番気合を入れて作ったものを

      持って来たらどうだ。」

アラン  「うーんうーん。でもなーそれはなぁ」

スティーヴ「ここでビビってどうする。人間に味見を

      してもらうのはお前が一番望んでたことだろ。

      このチャンスを棒に振る気か?」

アラン  「……確かにそうだ。わかった。ボクも覚悟を決めるよ。」

レイシー 「あ、わたしはもうお腹いっぱ……って行っちゃった」

スティーヴ「よし静かになったな。今度はこっちの質問だ。

      お前、本当に何も憶えてないのか」

レイシー 「さっきも言ったでしょ。

      自分の名前さえ憶えてなかったんだよ」

スティーヴ「良かったな。言葉まで忘れてなくて。」

レイシー 「おかげさまで」

スティーヴ「問題はどうやって記憶を思い出すかだ。

      何か刺激を与えれば良いと聞くが……

      頭とか叩いてみるか。」

レイシー 「バカじゃないの。ブラウン管じゃないだよ、わたしは。」

スティーヴ「なら適当に町でもぶらつくか。

      何か引っかかるものでも見れば思い出すかもしれない。」

レイシー 「でもちょっと外に出ただけであの騒動なんだよ。」

スティーヴ「少し変装すれば問題ないだろ。

      待ってろ。ガラクタ山で拾った服があった筈だ。」

レイシー 「ありがとう。あの、なんで初めて出会った

      わたしにここまでしてくれるの?」

スティーヴ「礼ならアランに言え。あいつは他のトゥールと違って

      人間嫌いじゃないからな。何より。」

レイシー 「なにより?」

スティーヴ「暇だからな。どうせやることもない」

レイシー 「あーそう。」

アラン  「さぁ持って来たよレイシー!

      ボクの自信作だ。食べてくれ!」

レイシー 「わぁ美味しそうなケーキ。

      これくらいの量なら食べれそう」

アラン  「あれ、スティーヴ何処かに行くのかい?」

スティーヴ「そいつが外に出るための服を持って来る」


//SE 階段を昇る音

アラン  「じゃあレイシー。食べてもらっても良いかな」

レイシー 「うん、いただきまーす。はむ。」

     「(……あれ、想像してた味と違う。

       見た目はふわっとしてるのに、実際に噛んでみると

       もちもちっていうか、うわ甘っ! 

       このジャリジャリしたの砂糖?

生地にちゃんと混ざってない。     

なにこれ! 見た目の良さと実際の味が全然違う!)」

アラン  「どうかな?」

レイシー 「あ、うん。え〜っとぉ。」

      「(どうしよう。不味い。とんでもなく不味い。

       けど正直に言っちゃうのは可愛そうだし)」

アラン  「いやもう良いよ! わかった!

      その顔を見ればわかる! 不味いんだろう!」

レイシー 「いや……そんなことは……あるけど……」

アラン  「やめてくれ!

      直接言って欲しくなかったから先に言ったのに!」

スティーヴ「おい持って来たぞ。」

レイシー 「……なにそのボロキレ」

スティーヴ「服だ。3着持ってきた。どれが良い」

レイシー 「こんなので変装って言えるのかなぁ。」


・選択肢

A「ボロボロのエプロン」

  →☆1へ

B「ボロボロのドレス」

  →☆2へ

C「ボロボロの作業着」

  →☆3へ


・☆1

レイシー 「じゃあエプロン。着やすいからね。

     変装っていうにはちょっと心許ないけど。」


・☆2

レイシー 「ドレスかな。見た目は一番マシだし。」


・☆3

レイシー 「作業着で。帽子もついてるし変装には一番向いてるよね」


//背景 ガラクタの町・大通り

レイシー 「本当に気づかない。この町の人たちみんな節穴なの?」

スティーヴ「中々辛辣だな」

アラン  「でも的を得てるんだよねぇ。

      実際トゥールか人間かなんて皆見分けつかないし。」

レイシー 「(うわぁ、この家全部ガラクタで出来てるの? よく作るなぁ。)」

     「でもさっきのひと……じゃなくてトゥールは

    わたしを人間だって見抜いたよ」

スティーヴ「それは……ちょっと待て。

      おいそこのお前、上手く歩けないようだが」

通行人A 「げっスティーヴ! 待て歩ける! 手伝わなくて良い!」

スティーヴ「ハハハ。遠慮するな。そら市場までだろ。行くぞ。」

通行人A  「うわ待て! 体を支えるな! 走るなぁぁっ!」

レイシー 「あれなに?」

アラン  「スティーヴの趣味。

      さっきの続きだけどボクたちは人間かどうかを

      顔で見分けてるんじゃないんだ。」

レイシー 「(町の人たちもよく見れば色んな形のトゥールがいる。

       本当に現実世界とは違うんだ。)

      じゃあ何で見分けるの?」

スティーヴ「揮笛だ。」

レイシー 「戻って来るの早いね!」

スティーヴ「まだ説明し切ってなかったからな。

      礼の金をふんだくってすぐ戻ってきた。

      うん? あそこにも歩きづらそうにしている奴がいるな。

      少し待ってろ。」

通行人B  「げっスティーヴ!」

スティーヴ「そら行くぞ。」

アラン  「この町って体が破損したトゥールが多いんだよね。」

レイシー 「なんでスティーヴがそれを手伝ってるのさ。」

アラン  「スティーヴの趣味。

      さっきも話したけどこの世界に迷い込んだ人間は

      全員が揮笛を持っている。逆に言えば、

      揮笛を持ってさえいれば人間だってことだ」

レイシー 「揮笛を持ってるかでしか判断がつかないの」

アラン  「実際キミ、何も知らない状態でスティーヴが

      トゥールか人間かの見分けなんてつく?」

レイシー 「……ううん。つかない。トゥールごとに

      なんでこんなに見た目が違うんだろう。」

スティーヴ「デコイの出来の差だ。」

レイシー 「おかえり。デコイって?」

スティーヴ「オレたちが自分を使うための体のことだ。

      本来ならオレたち道具は人間がいなければ

      動くことだって出来ない。

      それを解決するのが仮初めの体デコイだ。

      デコイの形が違うのは、みんな……ん? 

      あそこにも片足を引きずってる奴がいるな。」

レイシー 「ふふっ。」

スティーヴ「なにがおかしい。」

レイシー 「いや、スティーヴって口調は悪いけど、

      結構優しいんだなって。」

スティーヴ「……お前、何か勘違いしてるな。」


//SE 仕込み杖を振う音

レイシー 「あぶなっ! なにするのさ!」

スティーヴ「お前、オレは何のトゥールだと思う。」

レイシー 「なにって……仕込み杖?」

スティーヴ「そう暗器だ。

      剣でもあり杖でもある。

      だからオレは足を引きずってる奴は支えたくて

      仕方ないし誰かれ構わず斬りたくてウズウズしてるんだよ!

      オレたちトゥールにとって道具としての役割を

      果たすのは本能だからな!

      本当だったらまともに歩ける奴でも脚を切り落として

      オレがその脚の代わりになってやりたいくらいだ!

      けどそれをやる気はない。物事には分別が必要だ。

      人間だって公私は分けるだろ。それと似たようなものさ。

      いいか。お前が親切と感じているものを

      親切だとは思わないことだ。

      オレたちは単に自分の作られた意義を

      全うしたいだけだからな。」

アラン  「スティーヴ、もうそれくらいでいいだろ。

      大丈夫かい、レイシー。」

レイシー 「う、うん。」

     「(そうか。だからスティーヴは色々助けてくれるんだ。

      誰かを支えるのがあいつの役割の一つだから。

      料理を振舞ってくれたのも

      アランが料理に関係する道具だから)」

アラン  「ごめんね。あいつも悪い奴じゃないんだけど、

      あれで一応武器だからね。気性が荒い所もあるんだ。」

レイシー 「(親切を親切だと思うな、か。

      やなこった。思うのはわたしの勝手だもんね。

      ん? あれ? あのトゥールが持ってたのなんだろ?)」

アラン  「スティーヴ、ここに困ってるお嬢さんがいるよ。

      まだ教えてないこと色々あるでしょ。」

スティーヴ「ない。もう一人でどうにか出来るだろ。」

レイシー 「(向こうの方から来るトゥールたち、色んなもの持ってる。

       衣服に金具に食器とかも? お店でもあるのかな。)」

アラン  「嘘つくなよ。本当は教えたいくせに〜。」

スティーヴ「しつこい!」

レイシー 「(お店、お店かぁ。トゥールのお店ってどんなのだろう。

       あ、あのトゥールも見たことのないもの持ってる。

       もっと見やすい位置に……)」

アラン  「お前も言っただろ。道具は役割を果たすのが……

      あれ、レイシー何処行ったの?」

スティーヴ「見失ったな。目を離した隙に。」

アラン  「嘘っ! 1分も経ってないんだよ!」

スティーヴ「良いじゃないか。面倒ごとが自分からいなくなった。」

アラン  「よくないよ! 探さないと!

      いまこの町にはリッターだっているんだよ!」



全うしたいだけだからな。」

アラン  「スティーヴ、もうそれくらいでいいだろ。

      大丈夫かい、レイシー。」

レイシー 「う、うん。」

     「(そうか。だからスティーヴは色々助けてくれるんだ。

      誰かを支えるのがあいつの役割の一つだから。

      料理を振舞ってくれたのも

      アランが料理に関係する道具だから)」

アラン  「ごめんね。あいつも悪い奴じゃないんだけど、

      あれで一応武器だからね。気性が荒い所もあるんだ。」

レイシー 「(親切を親切だと思うな、か。

      やなこった。思うのはわたしの勝手だもんね。

      ん? あれ? あのトゥールが持ってたのなんだろ?)」

アラン  「スティーヴ、ここに困ってるお嬢さんがいるよ。

      まだ教えてないこと色々あるでしょ。」

スティーヴ「ない。もう一人でどうにか出来るだろ。」

レイシー 「(向こうの方から来るトゥールたち、色んなもの持ってる。

       衣服に金具に食器とかも? お店でもあるのかな。)」

アラン  「嘘つくなよ。本当は教えたいくせに〜。」

スティーヴ「しつこい!」

レイシー 「(お店、お店かぁ。トゥールのお店ってどんなのだろう。

       あ、あのトゥールも見たことのないもの持ってる。

       もっと見やすい位置に……)」

アラン  「お前も言っただろ。道具は役割を果たすのが……

      あれ、レイシー何処行ったの?」

スティーヴ「見失ったな。目を離した隙に。」

アラン  「嘘っ! 1分も経ってないんだよ!」

スティーヴ「良いじゃないか。面倒ごとが自分からいなくなった。」

アラン  「よくないよ! 探さないと!

      いまこの町にはリッターだっているんだよ!」


//背景 ガラクタの町・露店街

レイシー 「うわぁ凄い。」

     「(色んなものが売られてる。

       ガラクタばかりだけど知らないものばかり。」

     「スティーヴ、あの金具って何に使うの?

      ねぇスティーヴ。ってあれ、いない。アランも。

      もう二人とも逸れるなんて仕方ないなぁ。

      探してあげないと。

      ……帰り道、どっちだっけ?」

商人A  「おい、いたか。」

商人B  「いや見つからない。くそっ何処行きやがったあのガキ。」

レイシー 「(ガキ? 人間かな?)」

商人A  「とにかく早く見つけるぞ。人間は高く売れるからな。」

レイシー 「(やっぱり人間。わたし以外にもこの町にいるんだ!

      でもあいつらに捕まったら売られちゃう。助けないと!)」


//背景 ガラクタの町・路地裏

レイシー 「どうしよう。後を付ければ見つかると思ったのに、

      見失っちゃった。戻ろうにも道がわからないし。」


//SE 金属を蹴り飛ばす音

レイシー 「(あれ、今何か蹴った?)」

クロック 「………………。」

レイシー 「きみ大丈夫!懐中時計のトゥールだよね。

      あいたっ。ごめんって。手に体当たりしないで!

      あのごめんね。今急いでるの。後でちゃんとお詫びするから。

      早く人間の子供を見つけないと……。」

クロック 「ッッ! ………ッ!」

レイシー 「わっどうしたの急に。足元でちょこまかしないで!

      踏みつけちゃうよ! いたっ。脛に体当たりも止めて!」

クロック 「……ッ! ……ッ!」

レイシー 「もしかして人間の子供を守ろうとしてるの?

      大丈夫。わたしも人間だよ。ほら揮笛」

クロック 「……ッ!」

レイシー 「わたしも人間だからね。その子のこと助けたいんだ。」

クロック 「……ッ!」

レイシー 「体と懐中時計を傾けてどうしたの?

      あっもしかしてこっちに来いってこと。」

クロック 「ッ!」

レイシー 「ありがとう。一緒に行こう。」


//背景 暗転 → ガラクタの町・路地裏

レイシー 「(見つけた。でもあの子囲まれてる。

      建物を背にしてもう逃げ場もない。)」

エミル  「…………。」

商人A  「手間かけさせやがってこのガキッ!」

商人B  「よせ。傷がついたら価値が下がっちまう。」

エミル  「……どうして。」

商人A  「あん?」

エミル  「どうしてぼくを売ろうとするの。

      ぼくなんてなんの役にも立たないよ。」

商人A  「ギャハハ! んなもん必要ねえよ!

      大切に扱われなかった奴! ぶっ壊された奴!

人間にやり返したいなんて奴は山ほどいる!

      ここはそういう場所なのさ!」

クロック 「……ッッ!」

レイシー 「ダメ。今出ても返り討ちにされるだけだよ。」

     「(あの子が捕まえられる前になんとかしなきゃ。

       でもわたし一人じゃ……。

       あれ、あの屋根の端にあるの廃材か何かかな。

       あいつらをあと少し動かせればあの廃材を落として。)」

     「ねぇ君、あいつらをあの屋根の真下まで誘導できるかな。」

クロック 「ッ!」

レイシー 「よろしくね。わたしも屋根の上に昇らないと。」

商人A   「あん? なんだこのちっこいの。」

クロック 「……ッッ!」

商人B  「うおっ足にぶつかって来やがった。

      あっち行け。しっしっ。」

レイシー 「(屋根の上までは昇れた。あとはあいつらが

       丁度良い位置に……よし来た。)」

     「えいっ!」


//SE 廃材が落ちる音

商人A   「ぐあっ! なんで上から廃材が……」


//SE 着地音

レイシー 「君、大丈夫!」

エミル  「お、お姉ちゃんは?」

レイシー 「安心して。わたしも人間だよ。」

クロック 「ッ!」

エミル  「クロック、お前だったんだ!

      ありがとう。助けてくれて。」

レイシー 「よし今のうちに逃げよう!」

商人A  「くそっ。舐めた真似しやがって。

      待ちやがれ!」


//背景 ガラクタの町・路地裏

レイシー 「待って。この建物の隙間に隠れよう。」

商人A   「あのガキども何処に行きやがった!」

商人B   「そう遠くへは行ってない筈だ。探すぞ。」

レイシー 「ふぅ行ってくれた。きみ、怪我とかない?」

エミル  「うん大丈夫」

レイシー 「わたしはレイシー。よろしくね。」

エミル  「ぼくはエミル。

      助けてくれてありがとうお姉ちゃん。」

レイシー 「レイシーで良いよ。エミルはどうしてあいつらに?」

エミル  「騙されたんだ。ここに来てすぐあいつらに出会ったんだけど、 

      帰る方法を教えるっていうから付いて行ったんだ。

      そしたら倉庫に閉じ込められた。

      多分、一週間くらい閉じ込められてたと思う。」

レイシー 「一週間も……。」

エミル  「うん、クロックがいなかったら堪えられなかったと思う。

      クロックとは倉庫の中で出会ったんだ。」

クロック 「ッ!」

レイシー 「そう。友達なんだね。」

エミル  「うん。クロックのお陰で倉庫も出られたんだよ。」

レイシー 「エミル、君はどうやってこの世界に来たの?

      この世界に来る前の記憶はある?」

エミル  「一応あるけど、どうやって来たかはわからない。

      ママに言われて、家の片付けをしていたことまでは

      憶えてるよ。けどその後の記憶はさっぱり……。」

レイシー 「ならここに来るまでの記憶はあるんだね。」

エミル  「レイシーは?」

レイシー 「わたしは……」

商人B   「いたぞこっちだ!」

レイシー 「しつこい! エミル行こう!」

商人C   「行かせるかよ!」

レイシー 「まだ仲間がいたの! じゃあこっち!」


//背景 ガラクタの街・廃屋前

レイシー 「あいつら何人グループなの。」

エミル  「ボクが直接見たのは2人だけど、

      倉庫の外で話してたのは3人だと思う。」

レイシー 「なら今ので最後。」

     「(けどエミルは直接見てない。どれくらいの

       グループかもわからないし。まだいるかも)」

商人D  「待ってたぜぇ!」

レイシー 「(やっぱりいた!)」

商人C  「ようやく追い詰めたぜ。」

レイシー 「(どうしよう挟み撃ちに。

       もうあの廃屋しか……でもそれこそ逃げ場が……)」

クロック 「……ッッ! ……ッッ!」

エミル  「クロック、行っちゃダメだ!」

商人C  「なんだこのチビ。持ち主を守ろうってか。」

クロック 「……ッッ!」


商人たちと戦闘

敗北


//背景 ガラクタの街・廃屋の中

クロック 「……ッッ!」

エミル  「クロック!」

レイシー 「エミル、建物の奥へ!」

商人A  「よぉさっきはよくもやってくれたな」

商人B  「予想外の利益だ。最後には商品が増えてくれるなんてな」

エミル  「なんで奥にも!」

レイシー 「待ちぶせてたの!」

     「(どうしよう。本当に逃げ場がない。

       このままじゃ……あれ、この場所おかしくない?

       その辺りに散らばってるのは、人形?

       違う。これ、デコイの体だ……。」

     「ねぇこれキミたちがやったの?」

商人A  「ああん? なに言ってやがる。」

レイシー 「周りに散らばってるのデコイの体だよね。」

商人A  「おい、妙なこと言って気を逸らそうとしてんじゃ」

商人B  「待て。そいつの言う通りだ。ここに捨てられてるガラクタ

      全部デコイの体だ。」

商人C  「なぁもしかしてここ、例のリッターの住処じゃ……。」

商人A  「テメェまで釣られてんじゃねえよ!」


//SE 何かが落下し、ガラクタが砕ける音


商人B   「……何だ?」

レイシー 「(屋根に穴が空いてる。あそこから

       何かが落ちてきたんだ。)」

商人A  「チッ、確認してきてやるよ。何もないって

      わかりゃあテメェらの腑抜けっぷりも少しは治るだろうよ。」

商人C  「おいオレは腑抜けなんかじゃ……」

商人A  「ギャアアァァァ!!」

商人C  「うわああぁぁッッ! やっぱりリッターが!」

商人A  「なぁんてな」

商人C  「……お、脅かすなよ!」

商人A  「いやお前があんまりビビるもんだからつい」

???  「………。」

商人A  「え? ギャアアァァァ!! イタイイタイッ!

      なんだお前離しやがギャアァッッ!

      やめろ! 腕はそっちに曲がらないんだよぉっ!」

商人C  「やっぱりリッターだ! リッターがいたんだ!」

商人B  「おい逃げるな! くそっ。おい俺たちだけでも助けるぞ!」

商人D  「おう!」

レイシー 「(なにあれ狼男? 他のデコイは人形みたいなのが多いのに

       あれは違う。なんて言うか凄く本物っぽい)」

     「って観察してる場合じゃない! エミル逃げよう!」

エミル  「うん!」


//背景 ガラクタの街・廃屋前

//SE 道具の破壊音 → 狼の遠吠え

狼男   「……ニンゲン。ニンゲンニンゲンッ!」

レイシー 「もう追ってきた!」

狼男   「ガルルッ!」

レイシー 「エミルっ!」

     「(だめ、早すぎる。エミルは突き飛ばせたけど、

       わたしは逃げられそうにない。

       あの爪、振り下ろされたら絶対痛いだろうな。)」


//SE 剣戟の音

スティーヴ「お何処まで手間をかけさせる気だ?」

レイシー 「スティーヴ!」

スティーヴ「だが礼を言う。久々に

      武器としての自分を活かせるんだからなぁッ!」

狼男   「グルアッ」

レイシー 「(凄い剣捌き。体格ではあっちの方が大きいのに

       互角に戦ってる)」

スティーヴ「どうしたどうしたッ!そんな物か!

      フハハハッッ!」

レイシー 「(……あと無茶苦茶楽しそう)」

アラン  「レイシーこっちこっち!」

レイシー 「アランも来てたんだ!

      もう二人が逸れたから探したんだよ。」

アラン  「逸れたのレイシーだから。

      探したのボクらだから。

      それでその子は?」

エミル  「えっとエミルです。」

レイシー 「トゥールに襲われてた所を助けたんだ。」

アラン  「同じトゥールが悪いことをしたね。

      にしても生き生きしてるなぁスティーヴ。

      リッター狩りは久々だからね。」

レイシー 「リッターってなんなの?

      トゥールとは違うの?」

アラン  「トゥールだよ。ただし、理性はぶっ壊れてる。

      だからリッターは本能だけで動いてるんだ。」

レイシー 「スティーヴが言ってた造られた意義を果たすこと?」

アラン  「そうそれ。でもあいつはちょっと変わってるね。

      デコイの形は元の持ち主に影響されるんだけど、

      あの狼男は随分持ち主に怖がられてたみたいだ。

      もしかしたらあいつの本能はそっちに変わったのかも。」

レイシー 「本能って変わるものじゃなくない。」

アラン  「道具は変わるよ。ボクたちに意味を与えるのは

      キミたちだからね。」

スティーヴ「チィッ! 図体のわりに素早いな。」

狼男   「グルルッ。グルアァッッ!」

アラン  「マズイな。少し押されてる。

      レイシー手伝ってやれないかな。」

レイシー 「無理無理! わたしただの人間だよ!」

アラン  「直接戦えって言ってるわけじゃない。

      ただその笛を使って欲しいんだ。」

レイシー 「使うって揮笛を?」

アラン  「揮笛はトゥールの能力を高める力があるんだ。

      道具を使うのは人間の領分だろ?」

レイシー 「わかった。やってみるよ!」


//SE 揮笛を鳴らす音


狼男と戦闘

勝利


//背景 ガラクタの街・廃屋前

//SE 剣戟の音

狼男   「グルァッッ!」

スティーヴ「いいな! 最高に気分が良い!

      本来の性能以上の能力を発揮出来るなんてなぁ!

      これが揮笛の力か!」

狼男   「……グルル。」

スティーヴ「諦めろ。お前の負けだ。

      オレに武器としての意義を果たさせてくれた礼だ。

      一撃で壊してやる。」

狼男   「……グルル……壊れるのは……お前、だ。」 


//SE 猟銃を構える音 → 銃声

スティーヴ「くっ、こいつ服の下に猟銃を!」

狼男   「グルルラァッ!」

アラン  「やばいやばいッ! あの狼こっちに来る!

      二人とも逃げるよ!」

レイシー 「わかった!」

エミル  「う、うん!


//背景 ガラクタの街・路地裏

アラン  「うわうわうわっ! あいつどんどん追いついて来る!」

レイシー 「スティーヴがだいぶ傷つけたけど、

      やっぱり狼の姿をしてるだけあって速いね。」

アラン  「冷静に分析してる場合じゃないでしょ!」

クロック 「リリリリッ!」

レイシー 「うわなにっ!」

エミル  「わ、わからない!

      クロックは毎日朝6時、昼12時、夕方6時に鳴ると

      鳴き出すんだよ!」

レイシー 「(スクラップの時間!

       時計だから教えてくれてるんだ!)」

アラン  「やばい追いつかれる!

      二人とも先に行って! ボクが足止めを!」

狼男   「グルァッ!」

アラン  「ってボクを飛び越えてったー!」

レイシー 「あの狼、わたし達を直接狙ってる!」

狼男   「ニンゲンニンゲンッ!」

レイシー 「(スティーヴと戦ってた時も

       あいつはずっとわたしたちの方を見てた。

       多分、エミルよりもわたしの方を。なら……。)」

     「エミル先に行って!」

エミル  「レイシーっ!?」

レイシー 「いいから! 狼こっちだよ!」

狼男   「グルァッ!」


//背景 ガラクタの街・露店街

//SE 商品が落ちる音

住民A  「ひぃなんでリッターがっ!」

住民B  「逃げろ! 逃げるんだ!

狼男   「グルルルル!」

レイシー 「こっちだよ!」

     「(やっぱりわたしを狙ってる。

       他のトゥールには目もくれない。

       けど好都合!)」

狼男   「グルルァッ!」

レイシー 「(ヤバッ距離が詰められて!)」


//SE 衝突音

狼男   「ッッ!」

レイシー 「(狼に木材が投げられた! 誰が!?)」

人形のトゥール「大丈夫か!」

レイシー 「キミ、昼間解体されそうになってた……。」

人形のトゥール「いいから逃げろ! 追いつかれるぞ!」

レイシー 「ありがとう!」


//背景 ガラクタの街・大通り

レイシー 「人通りも少なくなってる。今なら……」

狼男   「ニンゲンッ!」

レイシー 「うわっ!」

     「(なんとか爪を避けれたけど、その拍子に

       転んで……。あと、ちょっとなのに……。)」

狼男   「ニンゲン……カワイイ……ウマソウダ……。」

スティーヴ「揮笛を吹け! 全力でだ!」

レイシー 「スティーヴ!」

     「(よくわからないけどやってみよう!)」


//SE 揮笛を鳴らす音


//背景 回想・アパート・寝室

少女の母 「おばあさんに化けていた狼に

      赤ずきんは食べられてしまいました。

      はい、今日はここまで。」

少女   「えー続き読んでよー」

少女の母 「本当にこのお話が好きなのね。

      もう物語は全部憶えてるでしょ。」

少女   「それでも読みたいのー」

少女の母 「はいはい。」

      

//背景 ガラクタの街・大通り

レイシー 「なに、いまのイメージ……。」

狼男   「グルルルル! グルアァッ!」

レイシー 「全然効果ないし! むしろさっきより唸ってるし!

      あれ、襲って来ない。何かに苦しんでる?」


//SE 鐘の音

//背景 ガラクタの町・影の腕や地面に幾つもの目が現れた大通り

レイシー 「始まった。スクラップの時間!

      襲ってこない今の内に!」


//SE 縄が絡むような音

レイシー 「影の手が体に絡まって!

      やだっ。あとちょっとなのに!」

狼    「グルルッ! グルアァッ! グルアァッ!」

レイシー 「狼が影の拘束を抜けて!」

     「(やられるっ!)」


//SE 斬撃音

レイシー 「……死んで……ない?

      影の手だけが、斬られた?」

狼    「グルアァッ!」

レイシー 「ちょっ何するの離して!」

狼    「……ッ!」


//SE  地面に体を打ち付ける音

レイシー 「っ痛っ!」

     「(影のある場所まで投げられた?)」

     「キミ、どうして!」


//SE 影の手に切り裂かれる音

狼    「グルアアアアァッ!」

レイシー 「……狼の体が薄くなって消えていく」

スティーヴ「もうデコイを保つ力もなくなったのさ。

      ああなれば終わりだな。」

レイシー 「あ、影が消えていく。」


//背景 ガラクタの町・大通り

アラン  「運が良いのか悪いのか。

      解体が完全に終わる前に時間が来るとはね。」

レイシー 「狼がいた場所に絵本がある。

      あれが本当の姿ってこと?」

スティーヴ「本は元の持ち主のイメージの影響を受けやすい。

      あのトゥールがあれだけ凶暴だったのはよほど

      元の持ち主に怖がられた物語だということだな。」

レイシー 「……それだけじゃないよ。」

スティーヴ「そいつはあのリッターだったものだぞ。

      持っていく気か。」

レイシー 「この絵本は持ち主に怖がられた時もあったかも

      しれないけど、大切にもされてたんだ。

      ねぇスティーヴ、わたし揮笛を吹いた時、

      この絵本を読んでる女の子のイメージを見たんだ。

      あれはこの絵本の記憶なんだよね。」

スティーヴ「道具の力は製造者や持ち主に与えられた

      意味でもある。揮笛が道具の力を引き出すのなら

      意味を与える記憶も呼び覚ますんだろう。」

レイシー 「……そっか。」


//背景 アランの家・リビング

//SE 荷造りを終える音

レイシー 「よし。準備完了。

      手伝ってくれてありがとう、アラン。」

アラン  「荷造りくらいお安いごようさ。

      記憶を取り戻すために旅に出るって

      言い出した時は驚いたけど、

      まぁ当然の流れだよね。」

レイシー 「わたしの記憶、見つかるかな。」

アラン  「人間は多くの道具と関わって生きてる。

      キミのことを知ってる奴も必ずいるよ。」

レイシー 「ありがとう。でもいいの?

溜めてたお金、本当はアランがお店を

開くためのものだったんでしょ?

      それをわたしの旅費になんて……。」

アラン  「今のままじゃ店を開いたとしても

      人間は食べてくれないとわかったからね。」

レイシー 「あの、ごめんね。マズイなんて言っちゃって。

      スティーヴに聞いたんだけど、

      アラン、味覚がないんだってね。」

アラン  「ハハ、なにせ道具だからね。

      そんな機能は備わっていないとも。

      だからこそお礼がしたかった。

      キミはボクのオリジナルの料理を

      初めて食べてくれた人間だからね。

      厳しい採点をありがとう。

      レシピ通りなら美味しく作れるんだけど、

      やっぱりまだまだだね。」

レイシー 「味覚がないのにどうして料理を?」

アラン  「キミ、ボクはなんのトゥールだと思う?」

レイシー 「えーっと、コック帽?」

アラン  「惜しい、コックコートだ。

      ボクの元の持ち主は料理店のシェフでね、

      長いことボクのことを大切に扱ってくれた。

      あいつはボクのことなんか

      何とも思っちゃいないだろうけど、

      ボクにとってあいつは生涯の友達だ。

レイシー 「それで料理を?」

アラン  「うん、あいつが夢中になってたものを

      ボクもやってみたかったんだ。

      この世界は人間を恨んでるトゥールも

      多い。でもそういう奴ばかりじゃないことも

      憶えていて欲しいな。」

レイシー 「うん、わかった。」

アラン  「そろそろ時間だね。行こうか。」


//SE 扉を開ける音

//背景 大通り

クロック 「……ッ!」

エミル  「どうしたのクロック。あ、レイシーだ。」

スティーヴ「遅いぞ。何をやってた。」

レイシー 「ちょっと準備に手間取ってただけ。

      それより、キミ本当に付いて来るの?」

スティーヴ「当然! あのリッターとの戦いは

      素晴らしいものだった!

      オレの性能を限界以上に使えたからな!

      お前の旅に付いて行けば、

      またああいう機会があるだろう。

      なにせ人間を恨んでいるトゥールは山ほどいる。

      その時は揮笛で精々オレを上手く使うと良い。」

レイシー 「ごめんねエミル。

      変なのまで付いて来ることになって。」

エミル  「良いよ。危ないのは本当だし。」

アラン  「まあ面倒臭いところもあるけど、

      悪い奴じゃないから。」

エミル  「ねぇアラン、元の世界に帰る方法

      見つかると思う?」

アラン  「どうだろう。

      ボクも聞いたことがないから。」

レイシー 「きっと見つかるよ。

      わたしの記憶も元の世界への帰り方も。

      さぁ行こう!」

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アフタートゥール 〜道具たちの世界と彼らの未練〜 舞台譲 @Dango

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