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あき @COS部/カレー☆らぼらとり

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それでは、最後のホームルームをはじめる。

今日は卒業式ということで、これが先生からの最後のメッセージになるわけだが、その前にはっきりいっておきたいことがある。

先に言っておくが、これは犯人探しではない。それだけは約束する。



みんなも覚えているとは思うが、去年の秋、修学旅行に行ったよな?

ーーそう、京都だ。

あれは俺にとっても忘れもしない日になった。


朝5時、学校集合ってあれほど口酸っぱく言ったにもかかわらず、ワダは寝坊してきたよな。おかげで30分も我がB組は遅れて出発したわけだ。遅刻グセ、治しとけよ。

何時間もバスに乗らなきゃいけないのに、一時間たらずでナカダが車酔いして大変だったよな。わかっていたなら、あらかじめ酔い止めもらっておくこと。素直がいちばんだぞ。

アオキとマツシマは行きのサービスエリアでお土産結構買ってたよな。帰りには全部開けてたし。おまえたちは、はしゃぎすぎに気をつけておくこと。

昼前に京都に到着して、いろいろ回ったわけだが、途中でタカハシが貧血起こしたんだっけか。先にイイダ先生と旅館に行ったはずだが、大丈夫だったか? タカハシもあんまり無理するなよ。みんなもしんどいときはしんどいっていいんだぞ。




ということで、残りの生徒と清水寺にいったわけだ。

それがみんなとの最後の思い出になった。




そういえば、『清水の舞台から飛び降りる』って、俺の授業で教えたよな?

あれは、思い切って大きな決断をする、という意味だ。

間違っても、ほんとうに落ちるという意味ではないから、ちゃんと覚えとけよ。

俺みたいに大変なことになるぞ。笑

案外人は死なないからな。


あれから、俺はみんなに授業を教えられなくなって、本当に本当に悔しかった。修学旅行の楽しい思い出を壊してしまい、申し訳ない思いでいっぱいだった。

それでもみんなが、手紙をくれたり、見舞いに来てくれて、涙が出るほど嬉しかった。おまえたちが、生徒で、本当に良かったとおもっている。

おかげで、おまえたちから元気をもらって、卒業式には間に合わなかったが、早く退院できるよう、俺もリハビリをがんばれた。

これから社会に出て、たくさん辛いことに直面するかもしれないが、この3年間、クラスで学んだことを思い出して、ひとつひとつ乗り越えられるよう、おまえたちもがんばれ!







改めてになるが、最後にはっきり言っておく。

俺は自分で落ちたんじゃない。

俺はあの日、「誰かに突き落とされた」んだ。


これはもしもの話しだが、もしこの中に俺を突き落としたやつがいるとしたら、ぜひ自首してほしいとおもっている。

あるいは、あれを目撃した人間がいたのなら、ぜひ勇気をもって誰か大人に行ってほしい。

俺はお前らを信じている。




ということで、毎月届けていたこのメッセージも今回で最後だ。

今日は卒業おめでとう!

誰ひとりとして欠けることなく、無事今日という日を迎えられたことを、俺は誇りに思っている!

またいつか会おうな!




三年B組 タシロ ユウイチ






以上が、タシロ先生から預かった最後のメッセージだ。毎月わざわざ奥さんにお願いして手紙を書いてくださってたみたいだ。

現在もタシロ先生はイチノハシ病院でリハビリ生活らしい。あれから一年半か、かわいそうにな。気が向いたら、またお見舞いにいってやってくれ、な。



で、だ。



タシロ先生は犯人探しはしないと言っていたが、念のため。



この中に、犯人を目撃したってやつは正直に手を挙げてみろ。

いるか?



いないよな?



大丈夫。

このクラスのみんなは、なにも知らないし、なにも見てない。

それでいい。

卒業したらみんな忘れていくしな。




よし。

じゃあこの話は終わりだ。




お前ら、三年間よくがんばったな。

大学生、あるいは社会人になっても、がんばれよ。

以上!





日直! 号令!


















卒業後、程なくして副担任のイイダが逮捕されたそうだ。おそらく、クラスの誰かが警察に密告したのだろう。証拠となる”殺人(未遂だったが)計画書”がイイダのPCから見つかったそうだ。

イイダはタシロ先生に日頃から恨みを抱いていたらしい。その原因については、明らかになっていないが、おそらく生徒指導における考え方の違いとかなんとか、ほんとうにくだらないことが発端となったのだとおもう。所詮、イイダは器の小さい奴だからだ。

その後、クラス全員にも警察による事情聴取が行われた。例に漏れず、僕もそれを受けた。

回ってきた噂によると、タシロ先生の突き落とし事件を計画したのはイイダだったが、それとは別に実行犯がB組の生徒の中にいたらしい。

たしかに、タシロ先生のメッセージにもあった通り、イイダはその時、先にタカハシと旅館に行っていたはずで、アリバイがある。

あの現場にいた関係者はB組の生徒だけのはずなので、そういう噂が流れるのは当然だろう。

だが、逮捕以来、イイダは獄中で半狂乱状態となったため、まともに会話ができないらしく、その実行犯については闇の中、いまでもその真相は明らかにされていないらしい。






本当にタシロ先生は犯人を知らないのだろうか? とふと思った。

生徒が自首してくれるのを本当に信じて待っているのだろうか?







あの卒業式から3年、リハビリ生活の甲斐あってタシロ先生は車椅子ながらも自力で動けるようになったらしい。頚椎損傷という診断だったにもかかわらず、それは奇跡的な回復力なんだそうだ。

B組のグループLINEに、今度の同窓会にタシロ先生も招待しているとのメッセージが届いた。







俺はおまえらを信じている。








清水寺の舞台で、先生がしっかりとこちらを見る瞬間がまたフラッシュバックする。

手にまだ、嫌な感触が、その質量感が残っているような、そんな気がする。













僕は返事もせずにグループトークを削除した。





一年続いた先生のホームルームメッセージに、僕の名前だけがとうとう一度も出てこなかった。

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