第4話
私は身を戻し、はやとさんの両手から離れた。目じっと見つめる。どきん。どきん。
心臓が高鳴っている。こんなにドキドキすることなんて滅多にない。
はやとさんが答えた。
「今日はちょっとな、バーに飲み返しいかなあかんねん。」
「そうなんですか」
んん。まぁそんなこともあるだろう。
自分的には結構思い切って仕掛けたつもりだったのだか。まぁいいや。帰って飯食って風呂はいって寝よう。終わり終わり。
そう思ったときだった、
「良かったら、ゆいちゃんも来る?」
(え!) 思わず目を見開いてしまった。
こちらの返答を待たずにはやとさんは続けて言った。
「連れてってたるわ!強制な!」
それから私たちはエレベーターに乗りまた店へと戻った。他のキャストは送迎されたようだが、れいらちゃんと知らない男が向かい合わせで残っていた。
「ゆいちゃん!こっちおいで。」
私は言われるままにれいらちゃんの隣の席に着いた。れいらちゃんはハイトーンの茶髪に耳にピアスがぼこぼこ空いている。
(アイコスのメンソール。タバコ吸うんだ)
跳ね上げラインの濃いアイメイクをされた目がこちらを向いた。
「おちゅかれさま〜。ゆいちゃん会うの初めてやっけ?」
(お前ら全員会うの初めてだ)
今日の酒の席といい、他のキャストやら
はやとさんやら、常連さんやら、ゆいちゃんやら、私にとってさっぱりわからん初めて会う人だった。しかも普段かかわることのない系統の人だし、正直戸惑いしかない。それにもかかわらず、よくやっているとだれか認めて欲しい。
いつのまにか脳内に聞こえるあの謎の声もしなくなっていた。最初は「ゆいちゃんが」と他人事の感覚だったが、いまでは当事者意識が強くなっていた。私はいま自分の意思で言葉を発し行動している。
私は「はい。初めてです!」と
れいらちゃんに答えると
前の男に「おはようございます」と会釈した。
はやとさんは奥の席で工具箱のような金庫を机に置き、電卓を打っていた。
少女一夜物語 みかるん @Mikanuulu
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