平和な日常!

「……で、あなたたちは誰なの?」


 高校入学初日の朝、実の妹である小春に散々時間を取られた私は、さあやっと学校に向かうんだ! ……と決意を新たにする間もなく、なぜか私の名前を知っている二人に行く手を阻まれていた。


 このまま放って学校に向かうことを考えはしたんだけど、さすがに女の子二人を路上に立たせておくのは私の良心が許さない。


「わたしだ! こはるだぞ、忘れたのか? こと姉!」


 すると元気いっぱいで返事をしてくれたのは、まるで小春の幼少の頃にそっくりな女の子。


 名を小春というらしい。


「……へ?」

「こはるはこはる! わたしの名前はこはる!」

「小春……ちゃん?」

「そうだ!」


 私の妹、梨乃小春は茶髪のツインテール、顔は少し童顔で、胸は小さい。


 目の前のロリ小春ちゃん、茶髪のポニーテール、顔は小春の幼少時そのもの、胸はない。


「……うん?」

「こと姉ちゃん! 騙されないで! 私が小春だから!」

「ややこしいから小春は黙ってて!」

「ううぅ……」


 とりあえず一番厄介な小春を粛清させた私は、目の前のロリ小春ちゃんに、


「小春ちゃん……でいいかな? 小春ちゃんの苗字は何ていうのかな?」

「なしの! フルーツのなしに、なんかむずかしい漢字の、の!」

「ほ、本当に……!?」

「ほんとだぞ! さては……こと姉信じてないな?」


 にやにやと、こちらを見つめてくる視線は何とも愛らしいけど今はそれどころじゃなくて!


「ところで先程からずっとお茶を飲んでいるそこの人……」

「私の事でしょうか? こと姉様」


 これ以上年端もいかない女の子に聞いても埒が明かないと判断した私は、小春ちゃんの保護者っぽい女の子に訊いてみることに。                                                 

「そうそう。あなたは何て名前なのかな?」


 純白の和服である白無垢を、なぜか着こなしている女の子。


 背は私と殆ど同じで、滝のように流れる黒髪ロングは清楚さをより際立たせている。


 一見顔つきは、冷酷で厳かな感じに見えなくもないけど……


「挨拶が遅れました。私の名前は梨乃小春。……早速ですがこと姉様、抱き着いてもよろしいでしょうか?」


 丁寧な自己紹介の後、彼女は息を荒げながら私の胸へと飛び込んで来ていた。


「ちょっ――」

「はぁはぁ……こと姉様、やはりあなたはお綺麗です」

「ずるいぞずるいぞ! 私もやるー!」

「ちょっとあなたたち! 私のこと姉ちゃんから離れて!!」


 自主規制。



 ◇◆◇



「はあ、はあ……くるしかった」

「申し訳ございません。こと姉様」

「え? あー、いいよ」


 二人の美少女に抱き着かれてから数分後。


 私は実の妹である小春に助けられて、何とか呼吸を整えることに。


「助けてくれてありがとね。小春」

「あたりまえよ! こと姉ちゃんには私がいないと、だからね!」


 相変わらず、ぶれない妹だ。


 そして感謝の気持ちを伝えたところで、私はこの二人が一体何者なのか、なぜこうも二人が小春に似ているのかを訊いてみることにしていた。


 すると、二人は同時に――


「わたしはな、四年前の世界からやってきたんだ! ……そうだよな? こと姉」

「ええ、そうです。因みに私は今から四年後の世界からやってきました。梨乃小春、一七歳です」


 …………うん、さっぱり分からない。


「ど、どういうこと!?」

「私が説明しましょう」


 どうやら大きな小春が説明してくれるらしい。


「まず、私はここにいる梨乃小春の四年後の姿です。そしてこの小さな小春は、今から四年前の九歳の小春です」

「わたし、九歳小学三年生だ!」

「理由はなぜか分かりませんが、私たちは同時にこの世界線へと送り込まれました。タイムパラドックスかどうかについては、まだ分かりません」


 それを聞いて、私は今一度考えをまとめていた。


 つまり、今話している子が四年後から来た梨乃小春、一七歳。


 そしてロリの梨乃小春ちゃんが、九歳。


 オリジナルの小春は一三歳だから、確かに四年前と四年後という話は理解できた。


「じゃあ……名前ややこしくなりそうだからハルコ」

「は、はぃ!」


 小春を少しもじっただけの簡単な名前だ。


 ロリ小春ちゃんは、ハル。


 よし、これからはそう呼ぼう。


「ハルコは、この世界線に送り込まれたんだよね? 誰からなの?」

「それは分かりません。そもそも人によって……ではないのかもしれませんし、そうなのかもしれません」

「どっちだ……」

「現状、私たちに知る術はないのです。ですから、私たちはこの家を訪ねました。大好きなこと姉様なら何か分かるのではないかと、そして何よりここにはオリジナルがいますから」


 そう言ったハルコは、小春に視線を向けてから、


「四年前の私、初めまして」

「……え!? あ、初めまして」


 何だこの超絶面白い展開は!


 現在の小春と、未来の小春が手を握り合っているこの奇妙な図。


 もしこんな展開がSF映画とかにあったら、脚本家はすぐさま叩かれるだろうな……。


 だって、時間軸の違う同一人物を直接会わせるのって、過去を改変したことになるからね。


 …………って、ちょっと待って。


「コハル、ハルちゃん」

「何でしょうか?」

「わたしのことかー?」


 背中に強烈な寒気を覚えていた私は、直ぐにリビングのカーテンを勢い良く開ける。


「ハルちゃんは過去人だからともかく、未来人のコハルは過去改変って言葉、知ってる……?」

「あ…………」


 私は、その言葉を聞くなり「やってしまいましたわ……」と、全身に脂汗を浮かべ腰を抜かしたコハルを見やった後、カーテン越しの景色に視線を戻す。


「…………」


 そこには大地が荒廃した、巨大な機械の都市が広がっていた。

 



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私と妹と、妹と妹。 全人類の敵 @hime_sakura

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