転機

「はわぁ!? こと姉ちゃん、入る時はノックしてよ」

「ごめんごめん。でも急いでるから」


 私が急いで部屋に戻ると、どうやら小春が着替えの途中だったらしい。

 いつもは着替え姿を見ても何も言わない小春なのに、今日はなぜか恥ずかしそうに体をくねくねと。


「ど、どうかした?」

「だって……私たち、もうキスしちゃった関係だし……」

「あんな無理やりなのはキスじゃない! うん、私は絶対認めないよ!」


 などと反論しながら、着々と着替えを済ませていると、


「なら――」


 ドン、と着替え中で足の不自由な私に軽く手のひらを押し付けてきた小春。


「ちょっ――」


 その拍子で、私はベッドへと倒れ込んでしまっていた。


 幸いにも床じゃなかっただけ、助かったというもんだ。


「えへへ……」

「……!?」


 スカートで両足を動かすことが出来ない私に、小春は更なる追い打ちをかけてきたようだ。


 両手をタオルで縛られて、寝起き同様の馬乗り状態に……。


「ちょ、ちょっと、やめて! お願いだから!」

「こと姉ちゃんが悪いんだよ。私の愛を受け入れてくれないから」


 そう言う問題じゃないから!


 すると小春はせっかく着たばかりの私の制服を脱がして、胸に耳を密着させる。


「こと姉ちゃん、ドクンドクンいってるよ」

「…………おねがい、ほんとやめて」


 苦し紛れの一声。

 その刹那、小春は勢い良く私に抱きついてきていた。


「ああ、落ち着く」

「く、くるじい……」

「……あ、ごめんねこと姉ちゃん。苦しくなかった?」

「く、くるしかった」


 ケホケホと、咳ばんでしまったじゃねえかよ!


「ごめんね……」

「これじゃ、入学初日に遅刻だよ」



 ◇◆◇



 煩悩の権化である小春のせいで、遅刻が確定した今。


 もうこうなればゆっくり出来るだけしてやるんだと、逆に開き直った私は朝ご飯を作り、それを平らげる。


 そして歯磨きを……


「は、歯ブラシがべとべとしてる……おえ」

「あっ」


 歯を磨くための道具がなぜか汚れていたことに気付いた瞬間、小春は私から歯ブラシを一瞬で取り上げてから、何事もなかったかのように玄関へと向かって行った。


 もうこれ、怖いんですけど……。

 軽くホラーじゃん……。


「こと姉ちゃん遅い! ほら、早く行こっ!」


 誰のせいだよ、まったく。


「はいはい、行くからちょっと待って」


 新品の靴を履いて、玄関の扉を開ける。


 今日はいつも以上にわけの分からない朝だったけど、これでやっと学校に向かえるんだと。


 ……思っていた数秒前の自分を全力で殴りたい!  


「お! こと姉だ! ほんとに大きなこと姉がいる!」

「こ、こと姉様!! ……私、会えてとても嬉しく思いますわ」


 だから何で、小春にそっくりな顔をした小さい少女と、これまた小春にそっくりな顔をした少し大きめな女の子がいるの?


 ドッペルゲンガーなの!?


 つか 帰って!




                                                                                                                                    

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