重すぎる愛

「どう? こと姉ちゃん。よく眠れた?」

「どう? じゃない! おかげで悪夢だったよ!」

「冗談言っちゃって! ……まあ、遂に舌入れちゃったし…………これでこと姉ちゃんのファーストディープキスは私だねっ」


 それを聞いた瞬間、私は背筋に氷河期の様な寒気を覚えて、光の速さのごとく洗面所に移動。


 そして氷を解かすように、お湯で自身の口をゆすいでは吐く。ゆすいでは吐くの延々ループ。


「はぁはぁ……おえっ」


 ここに来て突然すぎるかもしれないけど、私の名前は梨乃言音なしのことね。一六歳。


 今年から晴れて高校生になった私には三つ年下の妹がいるんだけど……


「あーもうっ! せっかく私がちゅーしてあげたのにぃ」


 ……そう、この子だ。


 梨乃小春なしのこはるだ。


「小春。本当にやめて。毎日姉妹でこんなことをするのは、さすがにどうかしてるし、そもそも私たちは女の子同士だから!」


 小春は昔から甘えん坊な性格で、小春が小学校を卒業するまでは一緒に寝てあげたり、お風呂に入ってあげたり、その他身の回りの事は大概やってあげていた。


 でも彼女ももう一三歳! 今日から中一だよ!?


「無理。絶対無理。私、こと姉ちゃんがいないと死んじゃうから」

「そ、そんな大袈裟な……」

「大袈裟なんかじゃないっ!」


 珍しく、小春が叫んだ。


「姉妹だからとか、女の子同士だとかそんなことどうだっていいの! 私はこと姉ちゃんが好き……大好きなの!!」

「わ、私も小春好きだよ。でもね、これは姉妹だからの好きで……」

「私は性的な意味だから! 本気だよ、私」


 私の妹はほんの少し、というかめちゃ変わっている。


 人の恋愛観なんて自由だし、グローバルな視点から見ると今は同性婚が合法化されつつあるのが現実。


 男と女、なんてのは私たち人間の本能。


 なら男と男、女と女は?


 私はこれまで妹の世話ばかりで、その上ずっと女子校に通っていたから好きな人なんてできたことないけど……そんな私が現在進行形で恋してる小春に言うなんておこがましいかもしれないけど、


「小春は私の事が好きなの?」

「うん! 宇宙一大好きだよ!」

「……でもね小春。もし仮に私が小春と両思いになっても、結婚は出来ないし子供だって作れない」

「そんなの知ってるよ? だったら私が総理大臣にでも何にでもなって、法律を新しく作るし、子供はコウノトリが運んでくれるからオールオーケー!」


 この子、性的に好きとか言っておきながらどうやら性知識には疎いらしい。


「そんなめちゃくちゃな……」

「だってそのくらい好きなんだもん! 生まれた時はまだ分かんなかったけど……でも、私も大きくなってやっと気付けたの! この気持ちに!」


 こりゃ何を言ってもダメそうだ……。


 それにこうしている間にも時間が刻一刻と迫ってきている。


「そ、その話の続きは帰ってからするとして……今日入学式だから! 急いで!」

「はーい!」


 大きな返事をし終えた小春は、すぐさま自室へと戻って着替えに行ったようだ。


 まあ、自室って言っても私と相部屋だから、私も同じ部屋で着替えないといけないんだけどね……。

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