魔法少女てぃんくる☆みざりぃ Splash Star

英知ケイ

魔法少女てぃんくる☆みざりぃ Splash Star

 『3周年』。


 このワードでパッと思いつくのはスマホゲームだな。

 親を拝み倒しスマホを手に入れて初めて遊んだゲームが、気がついたら3周年。


 ……時間を無駄にはしていない!


 それだけ気分転換が出来てるってことだ。

 高校にも合格できてるから、他のこともしっかりやっていたのだ、多分。


 これは自分が無課金ゆえかもしれないと、俺、高橋おさむは分析する。


 スマホゲームは大抵ライフやエネルギーを消費して遊ぶ。

 ライフが切れたら、それ以上はもう遊べない。

 ライフの切れ目が縁の切れ目、もといゲームの終わり時。


 このライフは時間で回復するが、プレイヤーレベルに応じた上限があり無限には溜まらない。

 さらに、ストーリーを進めると1回のゲームでのライフの消費量が多くなったりとバランスがよく考えられていて、もう一つの回復手段である課金での回復を行わない限りは、1日に遊べる時間は実質1時間以下だ。


 ゲームは一日一時間と親が叫ぶ必要は無い。

 泣いても笑っても課金しない限りはこの現実は変わらないのだから。

 子供に変に大金を与えなければいい。

 課金する余裕のあるお小遣いを貰っている富豪はクラスに一人いればいいほうだろう。

 漫画に雑誌、他にもお金が必要なことは沢山あるのだから。


 結果として、細く長く楽しんでいる、だから飽きっぽい俺でも3周年続いたのだと思う。課金していないのは申し訳ないが。



 さて、何故俺が唐突に『3周年』というワードに反応したのかなのだが……眠る前に毎日行っているオタクサイト定期巡回で、とある記事を目にしたからだ。



『魔法少女てぃんくる☆みざりぃ最新巻 3周年記念フィギュアキーホルダー付限定版明日発売!』



 『魔法少女てぃんくる☆みざりぃ』というのは、最近俺が毎週楽しみにしているアニメだ。

 名前の通りに陰惨な残酷魔法を駆使して敵を葬る快感!

 ウリはこれだ、もうこれしかない!


 もちろん話の流れでしっかり敵に残酷魔法を喰らわせる必然性が理解できるつくりにはなっている。

 非道な悪人に、正義の鉄槌が下るのに躊躇うのはかなりの平和主義者だろう。


 視聴者は、良心の呵責に悩む必要はない。

 ただ、みざりぃが最後敵に叩き込む残酷魔法を楽しめばいいのだ。


 だが、クラスメートの評判は悪かった。

 魔法少女というだけでオタクでない大抵の人間はヒくのだが、さらに残酷がダメらしい。

 切々とその良さを語る俺に対して、犯罪者を見るような視線が降り注ぐ。


 理解者がいないっていうのは辛いよな。

 俺が校舎裏で、泣きながら『みざりぃ』の魔法詠唱ポーズを独りキメていたのも無理はないだろ。

 そう思うよな? 思ってよ。思ってください……。



 ……だが、そこで出会えたのだ、最大の理解者に!



 クラスの端に咲く可憐なタンポポのような女の子、立花ぎん

 大人しく、周りの発言にいつもニコニコ頷いている感じで、目立つタイプではない、だがそこが良い!

 彼女のポニーテールがぴょこぴょこ可愛く動くのに俺は毎回感動を覚えていた。見てるだけで幸せだったんだ。



 何と彼女は、俺と同じみざりあんだった。

 ちなみに『みざりあん』というのは、みざりぃをこよなく愛するもののことを言うオタク語である、念のため。


 毎週放映日に録画を見た後、電話で感想を言い合っている。

 電話は苦手だが、LYNEじゃダメって言われたら仕方ない。


 彼女の願いで、クラスではもちろんナイショだ。

 みざりぃだけの付き合い……みざ友だ。

 ちなみに『みざ友』というのは……もういいよな。


 でも、この前初めて彼女の家に行くことができた。

 言わなくてもわかるよな、一緒に『みざりぃ』見ようって誘われたんだ……ふっふっふ。



 この時ほど俺は思ったことは無かった。


 ……生きてて良かった。



 あの日は、私服の激烈に可愛い立花を前にして、自分でもわかるほどにカチコチで、隣に座る彼女のせいで集中できず、アニメも半分くらいしか見られていない。いないが、何かこれ、微妙に彼女との距離が縮まった気がするよな? な? そうだと言ってくれブラザー。



 ……それでだ。


 あのオタクサイトの記事によると、原作の漫画は連載3周年を迎えるらしい。

 俺はアニメから入ってるが、放送開始直後に感動のあまり発売中の全巻を購入しているのでこれは知っている。


 連載当初から人気だったそうだが、あまりの内容の凄惨さに、公共波での映像化は無理だとずっと言われていたようだ。

 それがまさかの毎週金曜日夕方17時30分放映。製作委員会がどんなマジックを使ったのかはどうでもいい。

 3年越しの願いが叶ったみざりあん達に今回のアニメは歓喜で迎えられている。そのクオリティも含めて。


 そして、この記念すべき原作3周年にあたり、明日発売の漫画の最新巻としてフィギュア付の限定版も発売されるとのことなのだ。


 フィギュアは、その筋では知らぬ者のない有名メーカーが手がけており、単体でも売れるであろうクオリティとのこと。

 サイトの映像を拡大してみても、その素晴らしさは良くわかった。

 デフォルメ具合がメッチャ可愛い。


 ……何てことだ。


 この俺としたことが、最近ミスタンポポとの交流に心を注ぎすぎていたようだ。全くのノーマークだった。

 録画見るときにCM飛ばしちゃいけないんだよな。

 わかってるんだけど、早く彼女に電話したい気持ちが勝るんだよ!



 これ、絶対、立花にプレゼントしたら喜ぶよな。


 

 思い立った俺は、あらゆる通販サイトを見てみたが、どこも既に予約締切になっていた。


 これはもう、当日予約無し発売ありのオタクアニメショップに行くしか無い。

 俺はパソコンの電源を落とし、目覚ましを早めにセットすると、明日に備えて、布団に潜る。

 明日は土曜日、これは神様がくれたチャンスだ!



 ……



 翌日、そんな俺を待ち受けていたのは残酷な現実だった。

 甘かった。

 店が開く時間に飛び込めれば良いと思ってた自分を殴ってやりたい。


 なんだこの行列。

 東京ディスティニーランドじゃないんだぞ?


 ……当然最後尾に並ぶしかなかった。



 そして……店員さんから無情な声が飛ぶ。


「本日発売の『みざりぃ』の3周年記念限定版、予約無しの確保分は列のここまでとなります。後ろのお客様、大変申し訳ありません」


 ……


 ……


 店員の示すラインから後ろの人間が次々と抜けていく……

 俺はそのまま立ち尽くしていた。


 ……


 人の夢と書いて、儚い。

 わかってたじゃないか。

 自分は努力を怠ったんだ。


 みざりあんは予約してナンボだ。

 気付いてなかった時点で情報戦に敗北している。

 予約してなかった時点で『みざりぃ』愛を問われる事態だ。


 ……ハハッ、全く俺は何やってるんだよ。


 でも……これでいいのかもしれないな。


 スマホゲームの3周年も、『みざりぃ』の3周年も同じ、細く長く、ユーザや読者を裏切らずでここまで来ているんだ。

 確かに『みざりぃ』はアニメ化されたけど、もしアニメ化されなくても読者はついてきていた。


 あの子と俺の関係だって、細いほうが長く続くかもしれない。

 いきなり距離を詰めようだなんて、欲張りすぎだ。

 情熱を絶やさないことだけは忘れずに、目指すは、まず3周年。


 ……『みざりぃ』終わった時のために別のアニメ探しとかないとな。

 何でアニメは3ヶ月で終わるのがほとんどなんだよ、コンチクショー!


 彼女と3周年を迎えるためには、ええっと、後12作品か?

 オタクとしての腕の見せ所だと思うしか無いな、これは!


 もう1周年でも奇跡な気がしてきたが、そんなことを考えてはいけないのだッ!!



 俺は涙を振り払い、前に向かって、3周年に向かって進むことを誓った。










 トントン。



 ……誰だよ、急に肩を叩くのは?


「こんなところでどうしたの? 高橋君」


 顔を上げた俺の目に映るのは……女神タンポポおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!


「た、立花!」


 意表をつかれすぎた。


 情けない顔、姿を見られてしまった。

 この事実に俺の混乱は頂点に達していた。


 しかし、そんな俺のことは全く気にしない風で、彼女はニッコリ、嬉しそうに笑って言うのだ。


「変な、高橋君だね。でも丁度良かったかも」


「えっ!?」


「はいこれ、私からのプレゼント」


 彼女がリュックをごそごそして取り出したのは……



『魔法少女てぃんくる☆みざりぃ最新巻

 3周年記念フィギュアキーホルダー付限定版』!!!



「い、いいのか、これ……」


「気にしないで、私の分も別にあるから。どうしてもお揃いにしたかったから、予約で二つ買っちゃったの」



 ……女神はいつも、俺の予想を超えてくるぜ。

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