56 エピローグ ……僕は、不思議な夢を見ていた。
エピローグ
……僕は、不思議な夢を見ていた。
真白はひとりぼっちで真っ暗な世界の中にいた。暗い夜の中には、真白のほかに一本の古い街灯があり、それと一匹の猫がいた。その猫は黒い毛並みをした猫で、周囲の闇と完全にその体を同化させていた。それなのに、そこに猫がいると真白に理解できたのは、暗闇の中に緑色をした二つの目がはっきりと浮き上がっていたからだ。ほかに余計なものはなにもない。真白はそんなシンプルな世界の中にある、古い街灯の小さな明かりの中にいた。猫はすぐ近くの闇の中からそんな真白のことをじっと、とても長い時間、見つめていた。
……やがて、空からぽつぽつと雨が降り出してきた。それは強い雨ではない。とても弱い、まるで真白自身のような雨だった。真白はその雨が嫌いではなかった。
「……おいで。そこにいたら雨に濡れてしまうよ?」真白はその場にしゃがみこんで、猫にそう話しかけた。
別に猫に話しかけたことがきっかけとなって、自分の元から、その猫が逃げてしまってもいいと思った。それならそれで構わないと思った。でも猫は話しかける真白の元にやってきた。古い街灯の明かりの中に移動した猫は、その黒い毛並みをした体のすべてを真白の前にあらわした。猫はやっぱりその体も耳も四本の足も、尻尾も、全部が全部真っ黒だった。真白はその黒猫を優しく抱き抱えると、黒猫が雨に濡れないように自分の上着の中に、そっと、……その黒猫をしまった。
黒猫はその顔だけを真白の上着の首元から出して、空から降る雨にじっとその緑色の瞳を向けていた。だから真白も、その黒猫と同じように真っ暗な世界に降る、静かな雨をじっと眺めた。
古い街灯の作り出す小さな明かりの中から、真白と黒猫は、ずっと、ずっと、そんな真っ暗な世界に降る、小さな雨をぼんやりと眺めていた……。
「……雨、止まないね」と真白は言った。
その真白の言葉に黒猫は「にゃー」と小さく鳴いて、返事をした。
小さな心臓 終わり
小さな心臓 雨世界 @amesekai
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます