短編ドラマシリーズ「ゲーマー・サバイバル物語2」

溶融太郎

西暦4000年、世界の機器は進化を極め、言葉を発しなくても自ら考え行動出来る様になった。人間並みに繊細な思考を持つ彼らは、医療、政治、文化、生活、産業、あらゆる分野で大いに役立ち、最早なくてはならない存在になった。しかし、

進化を極めすぎた彼らは意思を持ち始め、世界を蹂躙し始めた。この事態を重く見た世界の政府は、RPG方式にてウイルスを破壊できるシステムの開発に成功。

政府は各地のゲーマー達を集め、高い賃金で雇い入れた。これに志願した、ブラッド・ホークもまた、1人のゲーマーである。




「おおお・・・寒いな・・・」

見知らぬ老人は震えていた。数日前から街中の暖房器具にウイルスが入り込み、至る所で震える者が続出した。薪を燃やす者も見受けられるが、このままでは凍死者が溢れかえるのも時間の問題だろう。ブラッドが住んでいる街は、とても寒い。

今はまだ11月だが、このまま放っておけば、悲惨な光景を見る事になるだろう。

ブラッドは、また政府の建物に向かっていた。ウイルスを破壊する為だ。ブラッドにとっては、報奨金を得る為なのか、この街を救う為なのか、どちらの優先順位が先に来るのか、その程度の事だ。いやいや・・・寒いのはブラッドとて嫌な事だ。

どちらにしても、ブラッドは政府の建物に向かっていただろう。

「志願しました、ブラッドです。」

ブラッドは守衛にそう言い、またソファのある場所に通された。

「よくいらして下さいました!ブラッド様!」

そうブラッドを迎えたのは、ウィリアムだ。ウィリアムは政府の者だ。

「今、街は大変な事になってます。どうか、また力をお貸しください。」

ウィリアムは丁寧に頭を下げた。以前、ゲームクリアをした実績があるブラッドだ。期待しているのだろう。ブラッドは頷いた。

「では、またシステムの説明をします。今回から、少しシステム内容が変わりました。最近、すぐにゲーム内でリタイヤをする者が増えています。なのでゲーム内に移動した際は、現実世界の記憶を一時消し去ります。ブラッドさんはゲーム内の世界で生まれ、育った事になります。もちろん、オプションメニューを開く機能もありません。ここまではよろしいですか?」

ブラッドは頷いた。

「リタイヤは、ゲームオーバーの時のみとなります。ラスボス撃破直後に、現実世界の記憶を呼び覚まします。リタイヤでも、ゲームクリアした場合でも、ゲーム内の記憶はありません。ゲームの内容に依存されては困りますから。クリアした場合と、リタイヤと、クリアの意思が無いと判断した場合、現実世界の引き戻しとなります。ゲーム内で戦って傷ついても、現実世界のブラッドさんの体は傷付きません。リタイヤの場合は、1日分の日当を、ウイルスとなるラスボス撃破の場合は報奨金を。これが説明書きです。」

ブラッドは、説明書きを何度も熟読した。

「今回から、ジョブが選べる様になりました。ブラッドさんは何のジョブがよろしいでしょうか?」

説明書きには、剣士、武闘家、槍士、ヒーラー、ソーサラー、ネクロマンサー、エクソシストなど、色んなジョブが並んでいた。今回は、槍士を選んだ。ブラッドは最近、1000人斬りで有名なゲームをやり込んでいた。自分は、武人といった所か。面白いじゃないか。ブラッドは、鼻を鳴らした。

「では、こちらに・・・」

ウィリアムとブラッドは、コンピュータールームに向かった。

「そちらに寝て下さい。ブラッドさんの体はこちらで保持します。では、いってらっしゃい・・・・」

ブラッドは、深い眠りについた・・・・





「整列!!」

ブラッドは、隊に並んだ。

「現在、この宇宙基地に、エイリアンが接近しているとの情報が入った!奴らを返り討ちにするんだ!!では、解散!!」

ブラッドが現在所属しているのは、ネルケル国、防衛宇宙基地、ピアーズという組織だ。地球外生命体、エイリアンが地球を攻めてきたため、この基地が創られた。

エイリアンが地球に辿り着く前に、宇宙空間で撃破する為だ。エイリアンといっても、それはモンスターから、宇宙人まで様々だ。地球軍は、エイリアンが所属する星、デボネイラと戦争状態にある。ブラッドは、ネルケルの傭兵として雇われている。

「ブラッド!どっちが多く倒すか、競争だ!!」

そう言ってきたのは、戦友のリスナルだ。リスナルとは、もう長い付き合いになる。リスナルは、マシーンソーサラーだ。マシーンソーサラーとは、生まれ持った魔力の資質を、機器で増幅し、銃火器に変換して戦う、最新のジョブだ。だが、誰もがなれるという訳では無い。ブラッドとリスナルは基地の端に向かった。

「来たぞ!!迎え撃て!」

エイリアンが現れた!


ブラッドは、トライデントを振り回した!

リスナルは、火炎弾を発射した!


エイリアンを倒した!

「よし、他を回るんだ!」

ブラッドとリスナルは、迫りくるエイリアンを倒して回った。

「よーし!もういないな。報告に行こう。」

2人は、中央区に向かった。この巨大な宇宙基地には、都市の様な建物が並び、商店街や、歓楽街もある。その規模は1つの街だ。基地から離れた所には、幾つもの宇宙ステーションが存在し、自由に行き来できる。宇宙船での物資の輸送や宇宙タクシーもある。

「提督、エイリアンを全部倒しました。」

リスナルとブラッドは、報告した。

「うむ。最近はエイリアンの侵攻が激しくなってきておる。しかし、こうも防戦一方では、拉致があかないな。」

提督は、渋い顔をした。

「フン・・・ベルアナ卿よ。貴公のデボネイラ進軍が失敗に終わったせいでは無いのか?」

「何を言う!!ライアル卿!貴公の部隊とて、何かの戦果を上げている訳でもあるまい!!」

2人の将が罵り合う。

「言ってくれるな!ベルアナ卿!どちらの部隊が優秀か、試してみるか!?」

「面白い!!返り討ちにしてやろうぞ!!」

貴族出身の将達は、極めて仲が悪い。プライドの高い貴族達は、常に自分の力を誇示しているようだ。将達は数人いるが、皆、似たような連中だ。

「やめんか!!2人とも!」

提督が割って入る。

「協力し合わんといかぬというのに・・・ワシは頭が痛い。失礼する。」

提督は中央区から立ち去った。

「フン・・・サッサと引退すれば良いものを・・・」

「フ・・・ライアル興よ。それは貴公の事では無いのか?」

「何!地方貴族めが!!田舎者は黙っていろ!!」

「出身地にすがる程、貴公は無能なのか!ライアル卿!!」

また、揉め始める2人をブラッドは、仲裁に入った。

「・・・何だ?兄は?何の身分だ?」

ライアル卿が、じっとりとブラッドを睨みつけた。ブラッドは、傭兵だと言った。

「傭兵風情が!引っ込んでおれ!!」

ベルアナ卿もブラッドを睨む。ブラッドは、この様な風習には、もうウンザリしていた。それはネルケル国兵士のリスナルも同じ事だろう。

「興が逸れた。失礼する。」

ライアル卿と、ベルアナ卿は、立ち去った。

「フー!ピリピリしてんなー。ブラッド、よく止めたな。1兵士の俺じゃ、話かける事も出来ないぜ。」

リスナルは、ため息をついた。

「とりあえず、今日はこれで帰ろう。はー。肩こるなあ。」

2人は、自室に戻った。




翌日、2人は中央区に呼び出された。

「ご苦労。基地の南のステーション、ホーリーにエイリアンが現れた。掃討を頼む。」

提督に任務を告げられ、ブラッドとリスナルは敬礼した。

「遊撃戦闘機、サイクロンで出撃し、奴らの円盤を撃破してくれ。では、頼んだ。」

2人は格納庫に向かった。

「はー。サイクロンに乗ってる時が、一番気楽だよー。」

リスナルは、風呂に浸かる様にサイクロンのコクピットに入った。ブラッドも別のサイクロンに乗り込んだ。

「あ、あ、ブラッド、聞こえるだろ?」

リスナルが無線を飛ばす。ブラッドは無線で返事をした。

「じゃ、天井開けるぜ?ポチッとな。」

天井が開いた。シュゴオーと音を立ててサイクロンが浮き上がる。目の前には、青く輝く地球が拡がる。ネルケル国の国土が丁度見えた。

「ネルケルは、昼だなー。もう3年位、帰ってないわ。ま、別にいいけど。ほんじゃあ、デッパツー!」

リスナルは、どうにもオヤジくさい、どこからそんな言葉を拾って来るのか。ブラッドは、リスナルのサイクロンに続いた。

「あら?ブラッドは、ホーリーに行った事はあるのか?」

リスナルは、そんな質問をしてきた。ブラッドは、無いと答えた。

「良いぜホーリーは。女性パイロットもいるしな。おケツプリンプリンのカワイ子ちゃんを見たら、どれにしようかなー。とくらあ!ウエッヘッヘッ。」

リスナルは、無線だけで話したら、変態オヤジの化身だ。しばらく進むと、宇宙ステーションが見えて来た。

「お、円盤が飛び回ってんな。ブラッド、名古屋打ちを見せてやろうか?」

リスナルの言葉を無視して、ブラッドはレーザーを撃ち込んだ。

「あっ!カアー。淡泊な奴だな。これだから若い者は!!」

リスナルもレーザーを撃ち込む。攻撃を受けたデボネイラの円盤はこちらに向かって来た。円盤が応戦してくる!

「当たんねえよ!」

リスナルとブラッドは円盤の攻撃を回避しながら、レーザーを撃ち込んだ。円盤が爆発する。

「上上、下下、右左右左、B、A!!」

リスナルは伝説の裏技を叫ぶ。残念ながら、サイクロンには、そんな機能は無い。

円盤は、どんどん爆発していく。

「おっしゃ!全部片付いたな。じゃ、戻ろうぜ。バイバイ、カワイ子ちゃん。」

リスナルのサイクロンは機体を翻した。ブラッドも、基地に戻った。




「任務終了しました。」

リスナルとブラッドは報告した。

「うむ。ご苦労。ホーリーの損害は軽微だったぞ。では、次の任務だ。基地の西にリーデル星がある。その星の洞窟内部に未知の強力なエネルギー物体が観測された。このエネルギー体を調べて、出来れば回収してくれ。では、頼んだ。」

2人は敬礼し、格納庫へ向かった。

「なあ、未知のエネルギー体が回収出来たら、ネルケルも、もっと強くなるかな?」

リスナルは目を細めた。最近では、デボネイラに圧され始めて来ている。この辺で圧し返さないと、不利になる一方だ。2人は、サイクロンに乗り込んだ。

「スペースナビにリーデル星があるな?じゃ、行こう。」

サイクロンは格納庫から飛び立った。

「リーデル星は呼吸が出来る星だ。まだ未開の星だが、昆虫なんかが住んでいる。

これからの進化を見守るらしいぜ?」

リスナルはそう言う。近年では、人類が宇宙に進出している為、土地が足りないという問題はすっかり聞かなくなった。リーデル星を無理に植民地にする必要が無いのだろう。

「あっ。見えてきたぜ。リーデル星だ。」

目の前には、緑色の星が広がっている。

「着陸スタンバイだ。耐熱シールド忘れんなよ?」

ブラッドは、サイクロンの耐熱シールドを展開した。サイクロンは大気圏に突入した。目の前が開けた。どこまでも続く森林が広がっている。このリーデル星の樹木は育てやすく、株分けに優れている。その為、地球によく持ち帰られている。貴重な木材として重宝され、固いその幹は様々な用途に使い分けられる。森林の一角には、まだ若い芽が栽培されている。数年で元通りになるらしい。

「おっー!綺麗な湖だなー!」

リーデル星を飛行するサイクロンの前に、大きな湖が姿を現した。キラキラと眩しく光を跳ね返す。やはり、この景色を見ると大地が恋しくなる。

「あそこに洞窟が見えるな。着陸しよう。」

リスナル達はサイクロンを着陸させた。

「ンーッ!やっぱり人工の空気とは、違うなあ。」

リスナルは背伸びをした。ブラッドも良い空気を吸うと元気になる。2人は洞窟の入り口に向かった。

「ギャアアアアア!!」

数匹のモンスターが現れた!

「オイオイ!デボネイラのモンスターが何でここにいるんだよ!」

リスナルとブラッドは武器を構えた!モンスターとの戦闘が始まった!

「くっ!!こいつら皆、倒してたらきりがないぜ!!ここは俺が引き受ける!ブラッド!エネルギー体を回収して来てくれ!」

剣戟の音を聞きつけたモンスター達は、次々と押し寄せる。ブラッドは、洞窟内部に走った!滴り落ちる水の音が、よく響く。進んで行くと、微かな光を纏う石が見えた。野球のボール位の大きさだ。ブラッドは、エネルギー体に歩み寄った。

「待て!!」

女性の声がした。その女性は横穴から出て来た。

「お前は・・・ネルケルの者か・・・?」

この女性は見た事がある。デボネイラの女将軍、アデイラだ。アデイラは、ネルケル軍を何隊も撃破し、仇敵として写真に公開されている。アデイラは魔剣士で、魔剣、バジリスクの威力はネルケルにとって脅威である。ブラッドは、トライデントを構えた。

「ほう、このアデイラと刃を交えるつもりか。どこからでも来るがいい。」

アデイラは、ぬらりとバジリスクを鞘から抜いた。赤黒く、不気味な剣だ。


ブラッドは、トライデントで槍先を幾重にも突いた!


「カシャーン!」

ブラッドの槍は、はじき飛ばされてしまった!

「お前・・・弱いな・・・」

アデイラは、ブラッドの首筋をバジリスクでなぞる。ブラッドは、硬直した。

「ふーん、死に際にいい顔するじゃないか・・・」

アデイラはブラッドを、いやらしく弄んだ。そして、バジリスクを持つ手の角度が変わった!

「ピーピーピー!」

その時、アデイラの腰の機器から音がした。

「おや・・・緊急帰還命令だ・・・まあ、目的の物は手に入れたし、お前は生かしておいてやる。ネルケル軍は私を見ると尻尾を巻いて逃げるからな。これも一興だ・・・」

アデイラは、エネルギー体を回収し、そのまま横穴から出て行った。ブラッドは、へなへなとへたり込んだ。まだ生きている事が奇跡の様だ。

「ブラッド!!何があった!?」

リスナルが走り寄って来た。外のモンスターも帰還したのだろう。ブラッドは、アデイラと遭遇して、戦闘した事、エネルギー体を回収出来なかった事を伝えた。

「アデイラと!?・・・お前、よく生きてんなあ・・・」

リスナルは他人事の様に感心した。

「任務は失敗したけど、これはしょうがないだろ・・・」

リスナルは苦い顔をする。2人は、サイクロンで帰還した。




「申し訳ありません。任務失敗致しました。」

2人は敬礼した。

「失敗?何があった?」

提督の問いに、アデイラと遭遇し、戦闘した事をブラッドは伝えた。

「フーム、アデイラが・・・」

提督はため息をつく。

「それで?オメオメと逃げ帰ってきたわけか?」

また別の将が、口を挟んできた。

「いや、レイド卿!殺される所だったらしいんですよ!?そんな言い方・・・」

リスナルが庇ってくれる。

「だまれ!一兵卒!!将に楯突くのか?」

レイド卿に睨まれたリスナルは、小さくなった。

「まあ、たかだか傭兵だ。自分の身が一番大事なんだろ・・・」

レイド卿は、汚らしい目をブラッドに向けた。

「クックックッ・・・弱者をいたぶるのもその辺にしたらどうだ?レイド卿よ。」

初老の男性が笑っている。

「フン・・・ルアンナ卿。部外者は信用出来んのでな。」

初老の男性は、ルアンナ卿という。提督の側近には、ライアル卿、ベルアナ卿、レイド卿、ルアンナ卿という将が取り巻いている。どの将も、たちが悪い。

「どれ、謝罪の印にワシらの靴でも、舐めてもらおうか?」

「はっはっはっ!それはいい!さあ、舐めろ!!」

レイド卿とルアンナ卿の、余りの侮辱に、ブラッドは、将達を睨みつけた。

「何だその目は!傭兵!!消してやろうか!?」

「いい加減にせんか!!」

提督が将達を止める。いつもの光景だ。レイド卿は去り際、ブラッドに囁いた。

「消してやるからな・・・」

そう耳元で囁き、レイド卿は立ち去った。

「はっはっ・・・見ものだな・・・」

ルアンナ卿も立ち去った。

「すまんな・・・2人共。もうワシも若くない。あいつらは、ワシの席を狙っているだけだ・・・嘆かわしい事だが・・・」

提督は目を細めた。

「提督!!デボネイラが攻めて来ました!!」

転がり込んできた兵は、血を流している。

「何だと!リスナル!ブラッド!すぐ迎え撃て!!」

提督の言葉に、2人は急いで中央区を出た。




2人が中央区を出た時には、既に戦闘は始まっていた。あちこちから剣戟の音が聞こえる。ライアル卿、ベルアナ卿、レイド卿、ルアンナ卿も戦っている。

「ブラッド!あそこの守りが空いている!行くぞ!!」

リスナルの声にブラッドは走った。


ブラッドはトライデントを振り回し、なぎ倒して進む!

リスナルは、強電流の刃を発生させ、研ぎ澄ました斬撃で切り裂く!


事態は沈静化された。しばしば起こるデボネイラの侵攻に、基地も慣れ始めたのだろうか?あっさりと片が着いた。

「何だ?やけに・・・」

リスナルも不思議そうだ。

「まあいい。ブラッド、報告に戻ろうぜ。」

2人は中央区に戻った。中央区の入り口は何やら混雑していた。リスナルが何があったのかと尋ねた。

「提督が・・・・殺されている!!!」

信じられない様な答えが返ってきた。2人は混雑を抜けて中に入った。

「そんな・・・・提督・・・・」

さっきまで生きていた提督は、帰らぬ人になっていた・・・・提督の亡骸は無惨な姿となっている。2人はその場に立ち尽くした。

「ハイハイ、どいて下さいよ。」

検視官がやって来た。皆、中央区を追い出された。

「まさか・・・・提督が・・・・」

リスナルは、まだ心の整理がついていない。皆、一室に集められた。

「なぜ提督が殺されたんだ!モンスターの侵入を許したのか!?」

「いや・・・それは無い。我々は中央区の盾となって戦ったんだ。モンスターは入り込んでいない。」

将達は言い合う。

「では、なぜ、提督は死んだ!?明らかに殺されていただろう!!」

殺伐とした空気が流れる。

「まさか、兄がやったんではあるまいな!?」

レイド卿はブラッドを睨みつけた。

「怪しいな・・・傭兵は、よそ者だ!」

ライアル卿が続く。

「いやいや、さっきこの者は一緒に戦っていたではないか。冷静にならんと何の解決にもなりはせんよ。」

意外な形でルアンナ卿に救われた。将達は席につく。

「では、一体なぜ・・・」

不可解な事件を探ろうとする空気が部屋を支配する。

「失礼します。検死が終了しました。」

鑑識の者が、近くのベルアナ卿に紙を手渡した。

「死因は・・・刃物での切創!?」

ベルアナ卿は大きな声を出した。・・・切創、それは、人間の仕業という事になる。攻めて来たモンスターは武器など装備していない。知性がないからだ。

「モンスターでもない・・・侵入者がいたわけでもない・・・」

ルアンナ卿は、声を漏らす。皆、一つの仮説に辿り着いた。

そう、この中に・・・・提督を殺した者がいる・・・・反逆者がいる。

将達は、お互いを睨み合った。重く、部屋が凍りつく。

「モンスター!第2波、来ました!!」

飛び込んで来た兵の言葉が、沈黙を打ち砕く。

「くそ!何も分からん!!」

ライアル卿は叫んだ。皆、基地を走り回った。

「連戦は、きついな・・・」

リスナルは息を乱している。モンスターの第2波は片付けられた。今度は居住区に人だかりが出来ていた。そこに横たわっていたのは・・・・ライアル卿とベルアナ卿だった。2人とも絶命している。

「・・・・・」

リスナルは絶句していた。一瞬で3人もの命が消えたのだ。何て言っていいのか、分からないのだろう。

「今日は大忙しだな・・・」

また検死の者が現れた。もう、何が何だか分からない。また、一室に集められた。

「死因、特定出来ました。」

ルアンナ卿が紙を受け取る。鑑識は退室した。

「また切創か・・・」

ルアンナ卿が厳しい顔をする。これで、反逆者の的が絞られた・・・誰も口にしないが、この空気がそれを物語る。

「どういう事だ!何が起きている!?」

レイド卿が声を荒げた。

「傭兵!!お前がやったんだろう!!この様にな!!」

レイド卿は、いきなりルアンナ卿の首に剣を突き立てた!!

「カッ・・・」

ルアンナ卿は、目を見開き、ゆっくりとレイド卿を見た。

「ククク馬鹿が・・・スキだらけだ・・・」

レイド卿は、崩れ落ちた。

「ハハハ!私は、デボネイラの幹部に迎えられたのだ!!提督などというチンケなイスなど、興味もないわ!!」

レイド卿は、高笑いする。

「なっ!!一緒に戦っていたのは・・・」

リスナルは啞然とした。

「バカが!分からんか!?入ってこい!!」

そこに現れたのは、もう一人のレイド卿だった。

「レイド卿が2人!?」

リスナルは困惑している。

「こいつは人間に化けたデボネイラのモンスターよ!!」

もう1人のレイド卿は、モンスターに姿を変えた!

「こんな事が許されるはずがない!!」

リスナルとブラッドは、武器を構えた!

「私は北のイルール星で待っている!!傭兵!!消してやるからいつでも来い!!今はコイツと遊んでおけ!!」

レイド卿は、異空間に姿を消した。

「待て!賊め!!」

リスナルは叫ぶ。

「ギャアアアア!!」

レイド卿に化けていたモンスターが襲い掛かる!リスナルとブラッドは斬撃を飛ばしモンスターを倒した!

「レイド卿が犯人だったとは・・・」

リスナルは悔しそうに苦い顔をした。その後、検察を呼び防犯カメラによる映像でリスナルとブラッドの無実は証明された。提督、ライアル卿、ベルアナ卿、ルアンナ卿の葬儀が続き、数日が過ぎた。中央区の中心人物達がいなくなり、軍の機能は一時的に凍結した。

「これからは、もう自分達で考えて行動しないとな・・・」

リスナルの言葉に、ブラッドも頷く。

「当然、イルール星に向かうんだろ?」

リスナルとブラッドの心は同じだった。貴族達はともかく、分別のある提督には良くして貰ってきたのだ。このままでは済まされない。

「イルール星は生物は生きていけない。地獄の様な星だ。しっかりと宇宙服を装備するんだ。」

2人は宇宙服を装備した。近年の宇宙進出により、宇宙服は凄まじい勢いで進化を遂げた。ヘルメットはまだ取れないが、普通の洋服と着心地は変わらない。運動性、耐久性、持久性、どれをとっても昔とは比べ物にならない。

「あ、あー。ブラッド、聞こえるか?」

リスナルはヘルメット内部のマイクから声を出した。ブラッドもマイクの調整をする。

「よし、問題ないな。イルール星に出発だ!」

2人はサイクロンに乗り込んだ。

「提督、見てて下さい・・・」

リスナルの声がした。傭兵のブラッドとは比べられない程、世話になって来たのだろう。格納庫の天井が開いた。

「行こう!」

2機のサイクロンが基地を後にした。




「あれがイルール星だ。」

うす暗く白いイルール星からは生気が感じられない。白く見えるのは、氷の世界が広がるからだろう。イルール星は、常に絶対零度の極寒地獄らしい。

「大気圏に入るぞ。」

2機のサイクロンは、耐熱シールドを展開しイルール星に降りた。目の前には、やはり氷の世界が広がっている。生物など、何処にもいない。

「見ろ・・・氷の城だ。悪い趣味だぜ・・・」

2人は、城の近くに着陸した。ブリザードが2人を迎える。

「宇宙服が無いと、活動できないな。」

リスナルの言葉にブラッドは共感した。レイド卿はどうやって暮らしているのだろうか?2人は城の内部に進んだ。氷で出来たレイド卿の氷像が佇む。

「うわあ・・・気味悪いな。ぶっ壊してやりたいぜ・・・」

氷像を抜けて、奥へと進む。

「ククク・・・来たか・・・」

レイド卿は氷の玉座に鎮座していた。

「レイド卿・・・いや、逆賊、レイド!!敵討ちに来た!覚悟しろ!」

リスナルとブラッドは、武器を構えた!

「逆賊だと!?ククク馬鹿めが!!忠誠など一度もしておらぬわ!提督と将を殺したのは、デボネイラへの土産だ!見ろ!私は宇宙服など必要ない!デボネイラの化学は、人間を超越する!ネルケルは時代遅れだ!!私はこの星を与えられ、王となった!素晴らしいだろう!!」

レイドは両手を拡げる。

「デボネイラの化学・・・?まさか、レイドは体を・・・」

リスナルが呟く。

「そうだ!!私は肉体を改造し、人間を捨てた!清々しい気分だ!!」

レイドは天を仰ぐ。

「レイド!お前は騙されているだけだ!こんな星、手に入れても仕方ないだろ!」

「黙れ!人間如きが!!傭兵!!殺してやる!来い!!」

レイドは武器を構えた!


ブラッドは、トライデントを天にかざした!稲妻が城の天井を破壊し、凄まじい轟音が轟き走る!!

リスナルは、マシーンの出力を最大にし、青白く輝く火炎を巻き上げ、一面を炎の海にした!!


「ククク!城を壊したな!何時でも直せるがな!」

レイドは、王の大剣を振り上げ、地面を叩き割った!地響きがする程の衝撃が襲う!!

「ガアアアッッ!!」

リスナルとブラッドは、弾き飛ばされた!

「こんな事で、提督の無念は晴らせない!!」


リスナルは、ブースター装置をオンにし、鋭利な刃を創り出した。リスナルの魔力が更に硬度を練り上げる!!


「レイド!!絶対許さねえ!!」

リスナルは、飛び込んだ!!爆風が巻き起こる程の剣戟が辺りに叫び起こる!!

「ガッ!・・・一兵卒如きが・・・」

リスナルとレイドは刺し違えていた。2人の体には刃が貫き、ブルブルと震えている。

「ブラッド・・・後は頼む・・・」

リスナルは、倒れ込んで気絶した。早く処置しないと命が危ない。ブラッドは、うずくまっているレイドに近づいた。

「グクッ・・・傭兵め・・・」

ブラッドは、トライデントを振り下ろした!

「・・・・・」

断末魔も無くレイドは絶命した。トライデントは折れてしまった。激戦に耐えられなくなってきているのだろう。ブラッドは、急いで、リスナルに救命措置を施し、サイクロンから救難信号を発した。

「やったな・・・ハアハア・・・」

リスナルには、余り喋らない様に伝えた。戦闘によって破壊された城は、半分崩れていた。主を亡くした城はずっとこのままだろう。いつか、氷の遺跡と呼ばれる日が来るのだろうか。ブラッドはリスナルの救命措置を続けていた。そして、救助が来た。救助の者に一機のサイクロンを操縦してもらい、基地に帰還した。




「これで、敵討ちは終わったな・・・」

リスナルは、病室のベッドから外を眺めた。基地の病院からは、変わりなく地球が見える。

「地球は、提督が愛した星だ・・・俺達で守っていこう。」

リスナルの言葉に、ブラッドは笑って頷いた。

「なあ、ブラッド。トライデントは折れてしまったんだろ?基地から東のレガイア星には、未知の鉱石があるらしいぜ?凄い槍が作れるんじゃないか?行ってみたらいい。悪いが俺は付いていけないけどな。」

ケガをしたリスナルが行動出来ないのは仕方のない事だ。任務が無い今なら行っても問題無いだろう。ブラッドは、立ち上がった。軍の標準装備の槍を装備し、1人、サイクロンに乗り込んだ。レガイアも呼吸が出来る星だ。動物達が生活し、

平和な星である。サイクロンは基地を飛び立った。スペースナビの通りに飛行すると、水と緑が映える星が見えた。地球とよく似た星だ。サイクロンはレガイアに降り立った。目の前にはジャングルが広がった。サイクロンの音に、動物達が蠢く。

目下には、紅い岩石が見えた。リスナルが言っていた、鉱石だ。ブラッドは、サイクロンを着陸させた。

「サアアアァァァァァ」

心地よい風が、ブラッドの頬を撫でて行く。ブラッドは、紅い岩石を覗き込んだ。

淡く透き通って初めて見る鉱石だ。辺りを見回すと、高い岩山に囲まれ、そこらじゅうに鉱石は存在していた。その時、誰かの足音が聞こえた。

「おや、お前は・・・」

声をかけて来た人物は・・・デボネイラの女将軍、アデイラだ!ブラッドは、槍を持って身構えた!

「何だ。懲りない奴だね。とりあえず、殺しとくか。」

アデイラはバジリスクを抜き出した。

「ホレ!」

ブラッドは、アデイラの突きを槍で捌いた!

「アレ?ほらよ!!」

さらにアデイラの攻撃を受け流す。

「ハハ?何だ?やれる様になってんね!?楽しいじゃないか!!」

アデイラは、バジリスクをヌルリと舞わせた!長く伸びた刀身がグニャリと曲がり、一気にブラッドに襲い掛かる!!ブラッドは、間一髪、剣先を躱した!鉱石が砕け散る!!

「どうだ!?バジリスクは!!かわいいだろう!!」

おぞましく曲がる刀身をブラッドは、どうにか凌ぐ。その度に鉱石が砕けていく。

ブラッドは槍を返して柄でアデイラの足を払った!!

「ぐっ!!この・・・」

アデイラが身を起こそうとした時・・・

「ガラガラガラガラ!!!」

激しい戦いの衝撃により、岩山が崩落する!

「キャアアアアア!!」

ブラッドとアデイラの頭上に、岩石が降り注ぐ!ブラッドは、腰を低くかがんで難を逃れた。砂煙が濃く舞った。ブラッドは砂煙が晴れるのを待った。

「ぐっう・・・足が・・・」

そこには、岩石に足を挟まれたアデイラが横たわっていた。

「クッ・・・くそ・・・」

これはチャンスだ。ブラッドは、槍を構えた。

「こんな所で・・・」

アデイラはうなだれている。この時、ブラッドは気が付いた。アデイラは、まだ若い女性だった・・・今からこの抵抗出来ない若い女性の首を落とすのか・・・

ブラッドには、そんな事は出来なかった。そんな司令も受けていない。

「聞きたい事がある・・・」

ブラッドは、アデイラに話しかけた。

「何だ!?早く殺せ!!」

アデイラは、憤怒の眼差しをブラッドに向けた。

「どうして地球を襲うんだ・・・?」

ブラッドは、アデイラに尋ねた。

「はっ!?何故だと!?お前達、地球人が我等から地球を奪ったのだろう!!」

アデイラは、叫んだ。

「遥か昔、地球には我等デボネイラの祖先が住んでいた。今の地球人が攻め込んで、我等の祖先を皆殺しにしたのだ!!両親も地球人に殺された!!貴様とて、デボネイラを目の敵にしているだろう!!」

アデイラは、更に声を荒げた。ブラッドは、自分は傭兵で、デボネイラに対して私怨は無いと答えた。そして、地球にそんな過去は無い、地球は地球人の物だ。そうアデイラに伝えた。

「何だと・・・?」

アデイラは考えている。その時、何者かが現れた。

「アデイラ・・・失敗したな・・・」

その者は黒いローブに身を包んでいた。

「デスネイラ様!!いい所に!お助け下さい!」

アデイラは、黒いローブの男に助けを求めた。

「助ける?私はお前を始末しに来たのだ・・・」

「なっ!何を!?何故!?」

アデイラは、顔を真っ青にした。

「私は、鉱石を回収しろと言ったはず・・・何を遊んでいたのだ。動けんお前はもういらん・・・」

ローブの男は、アデイラに掌を向けた。

「お待ちください!私は、地球奪還に尽力したではありませんか!これからも戦います!」

アデイラは、忠誠を露わにする。

「地球奪還?ハハハ!そんな話をまだ信じていたのか!まあ、お前の肉親を殺したのは私だからな!それを地球人が殺したと言っていたのよ!地球は高く売れそうな星だからな!異を唱えるお前の両親を消してやったのだ!!」

ローブの男は、嘲り笑った。

「まさか・・・そんな・・・」

アデイラは、驚いている。

「イルール星を与えたあの馬鹿な地球人を騙したのも、この私だ!無様な最後だっただろう!!」

レイド卿も、この男が騙していたのだ。全ての元凶はこの男だったのだ。

「さあ、アデイラ!死んで両親に泣きつくんだな!!」

ローブの男は、掌に黒い炎を集め始めた!ブラッドは、アデイラの前に立ちはだかった!この男は、許しておけない!

「おっと、私は丸腰ではないか。地球人がアデイラを庇うとは、予定外だったな・・・アデイラ、お前は、もうお払い箱だ。消えろ。」

男は、そう言いい異空間に消え去った。

「そんな・・・それが事実だとしたら・・・」

アデイラは、考え込んでいる。ブラッドは、アデイラの足に乗っている岩石を除け始めた。

「お前・・・」

アデイラは、驚いている。

アデイラは、もうデボネイラから追放された身だ。敵ではなくなった。それに、この哀れな、若い女性をこのままにも出来ないだろう。アデイラも、最早、敵意は無い様だった・・・




ブラッドは、レガイア星で小屋を作り、アデイラを介抱していた。獣を狩り、魚を釣り、アデイラに食べさせた。そして、鉱石で新たな槍を造り出した。新槍、ブリューナクだ。アデイラも、足の怪我も良くなって来ている。後、数日もすれば歩ける様になるだろう。

「すまんな・・・」

アデイラは、ブラッドに礼を言う。先日まで、斬り合っていたのが幻の様だ。

「私は・・・両親の仇を討たねばならん・・・デスネイラ・・・許しておけん・・・」

数日たって、アデイラは落ち着いてきたようだ。

「コンコン」

その時、小屋のドアがノックされた。ブラッドは、ドアを開けた。

「ご苦労様です!」

そこに立っていたのは、2人組のネルケルの兵士だった。

「ブラッド様が、デボネイラの将軍、アデイラを人質にとっておられるとの情報を聞きつけ、捕虜の回収に参りました!新たな将達も喜んでおられます。さあ、捕虜の引き渡しを!」

ネルケルの兵士はそう言う。宇宙から、アデイラと一緒にいるのを見ていたのだろう。しかし、アデイラがデボネイラを追放されたのを、まだネルケルは知らないの

だ。いや、知った所でアデイラは、見せしめの為に地球で処刑されるだろう。

新たな将とて、貴族上がりの油断ならぬ将達だ。聞く耳など持ちはしない。

ブラッドは、首を横に振った。

「なっ!・・・そのお返事は、反逆という事になりますぞ。」

確かに、アデイラと手を組んだと取られるのも仕方無い。だが、あの煩わしいネルケルに、もう仕える気にもなれない。ブラッドは、ブリューナクを持ち上げた。

「なっ!・・・謀反だ!お前、本部に連絡しろ!!」

そう言われて、1人の兵士は、身を翻した!ブラッドは、ブリューナクを構える!

「クッ!ただで済むと思うな!」

そう言うと、兵達は立ち去った。

「ブラッド・・・お前まで・・・」

アデイラは、心配そうにブラッドを見ていた。自分のせいだと思っているのだろう。ブラッドは、ネルケルの現状をアデイラに伝えた。

「そうなのか・・・私もお前も、これからどうなるんだろうな・・・」

アデイラは呟いた。日が、陰り始めていた・・・




翌朝、晴天になった。ブラッドは、天に向かって背伸びをした。このレガイアの地から、ピアーズの基地が見える。今、基地からも、こちらの動向を見ているのだろうか?ブラッドは、魚を取り、アデイラに与えた。この生活にも慣れ始めた。

だが、ずっとこのままという訳にも行かないだろう。アデイラが回復したら、どうするべきか・・・ブラッドは考えていた。

「ブラッド!!」

ブラッドは、振り返った。そこにいたのは、リスナルだ。

「何を考えているんだ!!謀反したと聞いたぞ!!」

リスナルは、怒りを露わにする。

「考え直せ!!命令で、俺はお前を、討ちに来た!!」

リスナルは、マシーンを起動させる。ブラッドは、ブリューナクを構えた。

「まさか・・・こんな形で、対峙するとはな・・・その槍、自分で創ったのか・・・後悔しているよ。俺が、レガイアに来る事を勧めた事を!!」


リスナルは、電磁の刃を生み出し、ブラッドに斬りかかる!!


「カキィィン!!」

剣戟の音が響いた!

「何故だ!!何故、謀反などした!?俺とお前は、ずっと一緒に戦っていくと思っていたのに!!」

リスナルは叫ぶ!


ブラッドは、ブリューナクを振り上げた!竜巻が巻き起こり、リスナルを吹き飛ばす!!


「ガハアッッ!!」

リスナルは胸を抑えてうずくまった。まだ、怪我も完治していないのだろう。新たな将に、それでも行けと命令されたのか。やはり、何も変わっていない。兵をゴミの様に思っているのだ。ブラッドは、アデイラはもう敵では無いと、リスナルに伝えた。

「そうなのか・・・でも!俺には、どうしようもないんだ!!命令を聞くしか無いんだよ!!」

立場の弱い者は、逆らえないのが軍の掟だ。兵士と傭兵では、大きく違う。抗えぬ現実が、2人の仲を引き裂く。ブラッドは、リスナルのマシーンを叩き壊した!!

そして、もう戦えないだろう、そうリスナルに言った。

「そうだな・・・撤退するよ・・・お前は・・・殺されるなよ・・・」

そう言い残し、リスナルは撤退して行った。今は、何が正しい選択なのか・・・ブラッドは、胸を痛めて、空を見上げていた・・・




次の日、アデイラが立ち上がった。歩ける様になった様だ。

「ありがとうブラッド、本当に世話になった・・・」

アデイラは、外の空気を吸い、深呼吸した。

「やはり外はいいな・・・健康が、こんなに大切とは・・・」

アデイラは、目を細めた。心境にも、変化が現れたのだろうか?

「ん?何だ?」

アデイラが何かに目を奪われている。ブラッドも空を見上げた。

「カッ!!ズゴゴゴゴゴゴ!!!」

空が真っ赤に燃えている!!これは・・・基地が燃え上がっているのだ!!

「何が起きたんだ!?地球軍の基地が燃えているぞ!!」

アデイラが叫ぶ!これは・・・デボネイラが基地を破壊しているのだ。余りの惨劇に2人は立ち尽くした。粉々になった基地が分断されていくのが、レガイアからでもよく分かる。ブラッドは、もうネルケル軍では無くなったが、このままでは、地球まで乗っ取られてしまう。やはり、デスネイラは放ってはおけない!ブラッドは、ブリューナクを手に取った。

「私も行こう!仇討ちがある。」

アデイラが仲間になった。アデイラをサイクロンの後部座席に乗せ、2人はレガイアを飛び立った。




サイクロンは基地に向かっていた。救援に向かう為だ。基地が見えて来た。

「これは・・・ひどいな・・・」

アデイラが呟く。そこは、もう基地とは呼べない様な、残骸の海だった。命など、何処にあると言うのか・・・救援など、考えが甘かった・・・

サイクロンは、残骸の海を、ただ、泳いでいるだけだ。何が出来るというのか・・・あてもなく、彷徨った・・・

「・・・ブラッド・・・イルール星の西に中立星、ピルカがある。ひとまずそこに行かないか・・・?」

ブラッドは、頷いた。サイクロンは、ピルカに向かった。

「・・・・・」

アデイラはブラッドに、どう声を掛けていいのか分からなかった。この前まで、デボネイラの将軍だったとしても、真実を知った今ならブラッドの心中を察してしまう。無言のサイクロンは、ピルカ星に着いた。サイクロンは着陸態勢に入った。

目の前には、街並みが現れた。強力な自衛隊が活躍するこの国では、デボネイラも迂闊には手出し出来ない。地球とは、貿易などの繋がりがある。サイクロンを見て攻撃はされない。サイクロンは街に降り立った。

「この街に私の知り合いがいる。会いに行こう。」

アデイラがそう言う。ブラッドは頷いた。この街は首都、レティと言うらしい。街には色々な種族が住んでおり、争いなど生まれない。徹底した中立国ならではの光景だろう。もちろんブラッドは来るのは初めてだ。

「この家だ。」

アデイラは家のドアをノックした。

「ハーイ!」

扉が開いた。

「アラー!アデイラちゃん!久しぶりー!!」

若い女性が出て来た。アデイラの友人なのだろう。

「ミルネア、1週間程、滞在させてくれ。その間に宿を探す。」

アデイラはそう言う。

「1週間?それ位ならいいわよ?」

ミルネアという女性は、心よく受け入れてくれた。

「どうぞどうぞ。アデイラちゃん、駆け落ち?アデイラちゃんは、昔から恋愛ドラマばかり見ていたからねー。初めましてミルネアです。アデイラちゃんを末永くよろしくね。」

ミルネアはそんな事を言ってくる。

「そうではない!こいつとは、成り行きで一緒にいるだけだ。」

「まあまあ、成り行きの行きずりなのねー。」

ミルネアは、どこか、飛んでいるようだ。

「ブラッド、これからの事を話し合おう。」

ブラッドは頷き、テーブルに案内された。

「私はこのレティには、よく来ている。とりあえずは仕事を探し、路銀が必要になる。明日、クエスト紹介所に行こう。それから宿を探して、再出発だ。

デスネイラには、4人の側近がいる。側近から倒しておかないと、一度に戦いを挑むのは自殺行為だ。」

ブラッドは頷いた。確かにもうネルケルの傭兵では無いブラッドには収入が無い。

それは、アデイラも同じ事だ。とりあえずはこの計画に乗っておこう。

「ミルネア、2人分の食事代位は渡しておく。よろしく頼む。」

アデイラはミルネアに紙幣を手渡した。

「アデイラちゃん、しっかりしてるのね。そういう所、好きよ。」

ミルネアは、笑って受け取った。

「今日は色々あって疲れたな。これで休ませてもらう。」

食事を終えたアデイラはそう言った。ブラッドも疲れを癒した。




翌日、2人はクエスト紹介所に向かった。収入を得る為だ。

「今ある仕事は、これ位だな。とりあえず、あんた達がどれ位、戦えるのか見させてもらう。初見の者は、ここからスタートだ。」

紹介所の者がそう言う。初のクエストは、レティ周辺のモンスター退治だ。安全確保の為だろう。

「了解した。ブラッド、行こう。」

アデイラとブラッドは、レティの街を出た。レティの街を出ると草原が広がっている。この辺は、まだ人の手が入っていないのだろう。

「ギエエッッ!!」

数匹のモンスターが現れた。アデイラは、魔剣バジリスクを抜き、振り斬った。

一瞬にしてモンスター達を倒した!流石は、元将軍といった所だ。

「よし、次を探そう。」

アデイラは、味方になれば頼もしい存在だ。ブラッドも負けじとモンスター達を倒した。

「これで任務終了だな。紹介所に行こう。」

2人は、レティに戻った。

「もう終わったのか!?あんた達、出来るんだな!」

紹介所の者は感心している。印象も上々だ。

「じゃあ、次の仕事は、護衛役だ。レティの北にサイリンという村がある。食料の輸送だから、モンスターが寄ってくるんだ。これを掃討して護衛してくれ。サイリンまでが、仕事だ。あっ!今日、続けて仕事するかい?」

「無論だ。続けて仕事しよう。」

アデイラはそう答える。初のクエストが早く終わったので、仕事を続ける事にした。2人には、何の事でも無い。

「よし分かった。依頼人を呼んでくる!待っててくれ。」

紹介所の者は依頼者を連れて来た。

「よろしく頼むぞ。ウエッヘッヘッ。」

依頼者は、太った商人のオヤジだ。嫌な感じもするが、お客さんだ、揉める訳にもいかないだろう。食料を積んだ馬車は、サイリンに向かった。

「姉ちゃん、良い足してんな。ウエッヘッヘッ。」

商人はアデイラを舐める様に見ている。

「いやだー。お客さーン。」

アデイラは商人を軽く躱す。アデイラには、こんな一面もあるようだ。

「ギギギギギッッ!!」

モンスター達が現れた!2人は武器を構えた!

「頼むぞ!」

商人は2人の後ろに隠れた!ブラッドは、槍を突き、アデイラは、剣で攻撃する。

モンスター達を倒した!

「ふうー!危ない所だったな!あんたらみたいなのを雇わないと、商売出来ないよ。」

商人は、2人の仕事ぶりを納得しているようだ。馬車は、サイリンに辿り着いた。

「良し、到着だ。なあ姉ちゃん。連絡先を・・・・」

「またお願いしますー。」

アデイラは、そそくさと立ち去った。ブラッドもそれに続いた。

「クエスト完了した。」

2人は紹介所に報告した。

「ご苦労だったなー。ほら、2回分の報酬だ。また明日も来てくれ。」

アデイラは、報酬を受け取った。

「確かに、また明日来よう。」

2人は、ミルネアの家に戻った。

「お疲れ様ー。」

ミルネアが出迎えてくれた。

「仕事を続けて、貯めていこう。無駄遣いは出来ないぞ。」

アデイラはそう言う。しっかりしたアデイラに、路銀の管理は任せる事にした。また明日も仕事だ。ブラッドは、眠りについた。




翌朝、2人は紹介所に赴いた。

「良く来てくれたなー。いい仕事があるぞ。数匹の小さなドラゴン退治だ。奴らは小さいが、獰猛でな。街に襲われた者もいる。危険だが、報酬もいい。やるか?」

係の問いに、アデイラは頷いた。

「ヨシ、レティの西に奴らの巣がある。片付けて来てくれ。」

2人は、レティを出た。

「ブラッド、お前には家族はいるのか?」

不意に、アデイラが聞いてきた。いや、家族とは昔に死別した。ブラッドは、そう答えた。

「そうか・・・私と同じだな。」

アデイラはそう言う。ブラッドの両親は、病気により他界した。殺された訳では無い。だがそれは、アデイラには言わなかった。両親を殺されるというのは、どんな心境なのだろうか?また、2人は無言になった。

「ギョオオオオッッ!!」

遠くから、モンスターの声がした!小さなドラゴンの群れだ!

「キャア!!」

誰かが襲われている!若い女性だ!

「いかん!ブラッド!片付けるぞ!」

2人は走った!武器を手に取りドラゴン達を攻撃する!ドラゴン達をやっつけた!

「大丈夫か!?」

アデイラは、若い女性に手を差し伸べた。

「あ、ありがとうございました・・・」

女性は、しどろもどろになっている。

「この辺は危険だ。1人でいると危ないぞ。」

アデイラは、そう言い、立ち去ろうとした。

「待って下さい!!」

その女性は、2人を引き留めた。

「私も連れていって下さい!!」

アデイラは「はあ?」と言う。

「私、こう見えてアサシンなんです。暗殺者の修業を受けて来たんですけど、私ったらドジで・・・怒った師匠は、5人殺すまで戻って来るなって言うんです。

今のは、ぼっーとしてただけで・・・お願いします!足を引っ張ったりしませんから!」

アデイラとブラッドは、互いに見合わせた。

「どうする?ブラッド・・・確かに、戦力は多い方がいいが・・・」

2人は、ごにょごにょと話し始めた。

「ホントに戦えるのか・・・?」

更にひそひそする。

「そうだな・・・・しかし・・・・うーん、それなら・・・そうした方が・・・」

2人の意見はまとまった様だ。

「ヨシ、一緒に行こう。ただし!戦力にならんと判断したら、お別れだ!」

アデイラは条件を述べた!

「ありがとうございます!頑張ります!私、イレーミと言います!」

イレーミは、目をキラキラさせた!

「くっ!」

アデイラは目を背けた。このキラキラぶりを直視出来ないようだ。

「私、1人で困ってたんです!お姉さまのお役に立ちます!」

イレーミは、キラキラモエモエする。

「お・・・お姉さまだと・・・?」

アデイラは、悪くないという表情をした。新たな世界に目覚めたのだろうか?

イレーミを含めた3人は、レティに戻った。

「お疲れ様!おっ!3人になってんね!ほい、報酬!じゃあ、また明日!いい仕事あるから!」

アデイラは報酬を受け取った。

「私は家に帰ります。明日の朝、ここにまた来ます。」

イレーミはそう言い、家に帰った。

「私達も帰ろう。」

2人は、ミルネアの家に戻った・・・・




翌朝、約束通りイレーミは待っていた。イレーミを含めて3人で紹介所に向かった。

「おはようさん!3人ならいけると思って、この仕事を用意したぞ。サイリンの西に現れた、リザードマンを討伐してくれ。奴は危険だ。ランクも上がり、報酬も跳ね上がる。ヨロシク頼む!」

3人は、レティの街を出た。

「アサシンて、どんな武器を使うんだ?」

アデイラは、イレーミに尋ねる。

「私の武器は、風切りの小太刀といいます。少し刀身が短いんですよね。」

イレーミは小太刀を見せた。

「ホッホーウ。良い剣だな。」

アデイラは感心している。やはり、刀剣には興味があるようだ。

「正式には刀といいます。忍者刀の親戚ですね。」

忍者というジョブは聞いた事がある。イレーミも忍者みたいなものなのだろうか?

しばらく歩くとリザードマンに遭遇した。大きな体に巨大な、ナタだ。これは強そうだ。3人は身構えた!

「カアアアッッ!!」

リザードマンは、ナタを振り回した!!一瞬で草花が刈り取られる!!

「カアアン!!」

アデイラは、バジリスクでナタを受け止めた!!その隙に、ブラッドが槍を突く!

「ギョオオオオッッ!!」

リザードマンは、左手で槍を打ち払った!!

「クッ!!コイツ、強い!!」

アデイラとブラッドは、一歩下がる。

「ん?イレーミはどこに行った・・・?」

アデイラがそう呟いた時・・・イレーミはリザードマンの背後を取り、頸を掻き切った!!

「ギャアアアア!!!」

リザードマンの頸から、血飛沫が舞う。リザードマンは倒れた。

「ククク・・・いい声で鳴きやがる・・・」

イレーミは、確かにそう言った。ブラッドは震えが走った。

「やりました!お姉さま!!」

イレーミは、アデイラに駆け寄った。

「ヨシヨシ。偉いぞイレーミ。出来るじゃないか。」

アデイラはイレーミをナデナデした。イレーミはモエモエしている。

ブラッドは、イレーミから距離を置く事にした。3人はレティに戻った。



「ご苦労さん!さすがだな!ほい、報酬だ!」

いつもより厚い封筒をアデイラは受け取った。

「イレーミ、これからの事を話そう。」

3人は、カフェに向かった。席に案内され腰を下ろす。

「イレーミ。私とブラッドは、これからデスネイラ討伐に向かう。一緒に来るなら共に行動しよう。来られないなら、報酬は3分の1だ。どうする?」

アデイラは、イレーミに問いかけた。

「私、一緒に行きます!1人じゃ、ノルマ達成出来ません!」

イレーミは即答した。ノルマというのは、イレーミの師匠に言われた、5人殺せというやつだろう。

「良し分かった!一緒に行こう!路銀も貯まってきた事だし。2人におこずかいだ。」

アデイラは、ブラッドとイレーミに、おこずかいを手渡した。

それから3人は、クエストを数日こなし、ミルネアの家を出て、宿を拠点にした。

当面の路銀も確保し、最後のクエストを求めた。

「お疲れさん!今日で最後だって?残念だ!最後はとびきりのやつを用意したぞ!

サイリンの北に、暴れ回っているヒートドラゴンがいる。倒してくれ。死ぬんじゃねーぞ!!」

最後のクエストを貰い、3人はサイリンの北へ進路を取った。

「ヒートドラゴンか・・・厄介そうだな。」

ヒートドラゴンは、随分前から討伐の依頼があったらしい。受託者が返り討ちにあったり行方不明になったりする為、敬遠され始め今日に至ったらしい。紹介所も頭を抱えていたみたいだ。

「いたぞ・・・ヒートドラゴンだ・・・」

ヒートドラゴンは、その巨体を悠然と佇ませ、のさばり歩いていた。

「その振る舞いも今日で終わりだ!覚悟しろ!!」

アデイラはバジリスクを鞘から解き放った!

「グウオオオッッ!!!」

大地を揺るがす程の咆哮が3人に降りかかる!

「怯むんじゃない!行くぞ!」


アデイラは、バジリスクの力を開放した!高々と延び上がった刀身は六つに割れ、オロチの化身となり、禍々しく牙を向いて襲い掛かる!!

イレーミは、空中を舞い風の軌道に身を委ねた!瞬速の斬撃を幾つも繰り出し、

大地ごと抉り取る!!

ブラッドは、ブリューナクを構えた!狙いすました一直線の強烈な竜巻と共に突き抜け、大気が唸りを上げて振動する!!


「ウガアアアアアッッ!!」

ヒートドラゴンは、巨体を翻し人の体よりも大きな尾を振り回した!巨大なムチが大地を叩き割る!!

「グアアッッ!!」

3人は弾き飛ばされた!更に、ヒートドラゴンは、全身を燃え上がらせて口に熱を集めた!!凄まじい炎が辺りを紅い地獄に変える!!

「グッッ!!ハアハア・・・コイツ・・・まずいぞ!」

アデイラは、膝を付き危険を叫んだ!

「ギュアアアアッッ!!」

ヒートドラゴンは、叫びながら全身を真っ赤に染める!口を大きく開け、炎を吐き出した!荒れ狂う灼熱が3人を焦土の世界へいざなう!!

「あぶな・・・」

アデイラが声を出そうとした時には、もう死神の鎌が喉元をかすめていた。

「ゴオオオオオ!!!」

その時、後方から輝く冷気の塊が炎を凍らせた。冷気は炎を押し戻し、一気に圧し返した!更に、ヒートドラゴンを凍らせてゆく!!

「ギャアアアア・・・」

ヒートドラゴンは完全に凍りついた!3人は後ろを振り返った。眩い閃光が3人を突き抜け、ヒートドラゴンを粉々に打ち砕いた!!

「誰だ・・・?」

アデイラは目が慣れるのを待つ・・・

「ブラッド、久しぶりだな。大丈夫か?」

聞いた事のあるその声は・・・・リスナルだ!!

「ブラッド、俺は単独で行動出来る様になった。目標は、もちろんデスネイラ撃破だ。」

リスナルは生きていた。基地が破壊された日、マシーンを新調するために地球に戻っていたのだ。

「ピアーズの宇宙基地が復旧するまで、俺は自由に行動できる。目的は同じだろ?

俺も一緒に行くぜ!」

リスナルが再び仲間になった!デスネイラを討伐すると言ったリスナルには、軍が最新鋭の技術を施した、新型のマシーンをリスナルに託したらしい。リスナルだけの最強のマシーンだ。

「アデイラ・・・色々あったが、もう敵同士じゃないだろ?後、イレーミか。

よろしく頼むぜ。」

様々な困難を乗り越えたリスナルは、頼もしくなっていた。何でもない仕草だが、男の成長を漂わせる。

「俺はサイクロンで来たんだ。イレーミ、俺の後ろに乗るといい。」

リスナルを含めた4人は、クエスト紹介所へと戻った。

「やってくれると思ってたぜ!!」

紹介所の係は握手を求めてきた。ずっと悩ませてきたクエストを消化できたのだ。安心したのだろう。

「ほら!持ってけ!重いぞ!俺からも特別ボーナスだ!チクショウ!また顔を見せろよ!?」

ズシリと重い報酬をアデイラは受け取った。雪だるま式に報酬が増えていったのだろう。当分はこれで活動出来そうだ。

「よし、これからの作戦を練ろう。」

アデイラの提案に、皆、頷いた。



4人はカフェのテーブルで落ち着いていた。アデイラが話を切り出す。

「それで、これからの事なんだがな・・・多分、今の装備では厳しいだろう・・・」

アデイラはズバッと言ってくる。

「ヒートドラゴンの戦いで分かったと思うが、リスナルがいなかったら全滅していた。リスナルの様に、新たな強い武器が必要だ。」

確かに、リスナルが来なかったら、と思うと、ゾッとする。何かいい案はあるのだろうか?

「私は、このピルカ星の北のレイドス星に洗礼を受けに行く。剣士として巡礼し、心身を磨く為にな。新たな武器を託されるらしい。」

アデイラはそう言った。

「では、私は・・・アルメルという星に、アサシン最強の刀があると聞きました。一筋縄では手に入りそうに無いですが、これが無いとノルマ達成出来そうに無いですからね・・・手に入れに行きます。」

イレーミも進路を決めた様だ。ブラッドは、悩んでいた。ブリューナクよりも強い槍など、どこにあるというのか?分からない・・・

「ブラッド、覚えているか?」

リスナルが声をかけて来た。

「大分前に、俺達2人でリーデル星に行っただろ?ブラッドが初めてアデイラと遭遇した時だ。」

ああ、覚えている。ブラッドは頷いた。

「あれ?アデイラ・・・あの時のエネルギー体はどうなったんだ?」

不意にリスナルは質問の方向を変えた。

「あのエネルギー体は、デスネイラが吸収し、地球軍の宇宙基地を破壊したのだ。私は・・・まんまと利用されたのだ!」

アデイラは怒りを思い出す。

「まあまあ、アデイラ、デスネイラを倒せば全て片が付く。熱くなりなさんな。」

リスナルは話を続けた。

「リーデル星に綺麗な湖があっただろ。その湖の底に伝説の槍が祀られているらしいぜ。」

リスナルは得意気な顔をした。

「そう思ってな。ダイビングの一式を持って来たぜ。」

リスナルは地球からダイビングの道具まで用意していた。気が利く奴だ。

「よし、それぞれ、目標の武器は決まったな。先ずは武器を手に入れ、それからデスネイラの側近を倒しに行こう。では、私からでいいか?」

アデイラの言葉に、皆、頷いた。4人はサイクロンに乗り込み、レイドスに向かった。



サイクロンは惑星レイドスに降り立った。寺院や宗教的な建物が存在するこの星は巡礼の地として旅人が行き来する。皆、大体無口で目を合わさない。訳ありの者が訪れる地だ。

「この建物だ。付いてきてくれ。」

アデイラは神殿の奥へと足を進めた。

「洗礼の準備をしてくる。待っててくれ。」

そう言い残し、アデイラは姿を消した。ブラッドは辺りを見回した。仁王像の様な巨大な石像が襲い掛かるかの様に剣を振り上げている。薄暗い部屋は蝋燭の灯りでユラユラと不気味に景色を揺らす。何とも神妙な空間だ。その時、白い衣を纏ったアデイラが現れた。長い髪を下ろし、化粧をしている。

「お姉さま・・・キレイ・・・」

イレーミはウットリとアデイラを眺めた。瘴気を脱ぎ捨て、女神の様なアデイラの姿は、ブラッドの目を釘付けにした。アデイラはバジリスクを台座に置き、膝をついた。

「汝はアデイラと申すか・・・」

神官は静かに口を開く。

「アデイラよ・・・汝は、職を捨て、新たな力を求めておるのか・・・」

神官はアデイラに質問する。

「いいえ・・・私は、魔剣士の道を進みます。この刀剣、バジリスクは私の体の一部・・・手放す事はありません・・・」

アデイラは決意を述べた。神官は、バジリスクに手を触れ、ブツブツと呪文を唱え始める。

「アデイラよ・・・その剣を手に取り給えよ・・・」

神官の言葉に、アデイラはバジリスクを手に取った。するとバジリスクは、カタカタと揺れ始め、脈動し始めた。

「これは・・・!」

アデイラは目を丸くする。

「アデイラよ、そなたの心に刀剣が喜び、震えているのだ。新たな武器とは、即ち己の心、肉体、立ち向かうべき未来の事である。」

神官は教えを諭した。そしてバジリスクは、真の姿に形を変えた!硬く鋭く刀身は光を放つ!竜神剣、ドラゴンソードとなった!

「ドラゴンソード・・・」

アデイラはドラゴンソードを掲げた。おぞましい程の威光を放つドラゴンソードは、魔剣士として、最高の誉れだろう。

「ありがとうございました・・・」

4人は神官に礼を言い、神殿を後にした。神殿を出ると、外はすっかり暗くなっていた。

「今日は、ここで一泊しよう。宿もある。」

4人は、宿を取り、食事を済ませた。

「ブラッド、少し夜風に当たらないか・・・?」

アデイラはブラッドにそう言った。ブラッドは頷いた。2人でゆっくりと外を歩いた。飾り気も無い武骨な巡礼の地を星が照らす。高くそびえる崖の下、2人はベンチに腰を下ろした。静かに灯る街灯が、アデイラの長い髪が揺れるのを教える。

「これまで本当に色々あったな・・・」

アデイラはそう呟いた。洗礼を終えたアデイラは、どこか淑やかになった気がした。

「今更だが・・・デボネイラに追放された私を介抱してくれて、心から礼を言う。」

アデイラは僅かな笑みをブラッドに向けた。アデイラがこうして笑うのは、初めて見た。

「地球では、感謝の印はこうするのだったな・・・」

アデイラはそう言うと、ブラッドの口にキスをした。ブラッドは驚いてアデイラを見た。しかし、アデイラも驚いた顔をしている。

「うーむ・・・コレに何の意味があるのか・・・どれ、もう一つ。」

更にアデイラは、ブラッドの口に深くキスをする。アデイラの長い髪が、ブラッドの顔を包み込み、ブラッドの体に、アデイラの香りが侵入した。ブラッドの心は溶かされ、アデイラの胸に手を伸ばした。

「あっ・・・まっ・・・待ってくれ・・・」

アデイラはブラッドの腕に手を添えた。

「その・・・ここから先は、デボネイラの男女も同じ事をする・・・その・・・嫌では無いのだが・・・心の準備というか・・・時間が欲しいというか・・・」

アデイラは急にしおらしい仕草を見せた。ブラッドは、そんなアデイラが愛おしくなり、今度はブラッドがアデイラにキスをした。

「ん!ブラッド・・・んん・・・ウフフ・・・何か変な感じね・・・」

見よう見まねでキスをするアデイラには、笑えてしまったらしい。それから2人は手を繋ぎ、お互いの事を話した。何も無い巡礼の地が、2人だけの空間を創り出してくれていた・・・



「次はイレーミの番だな。」

翌朝、一行はサイクロンに乗り、レイドス星を後にした。進路は東のアルメル星だ。

「アルメル星に、宝刀、七星剣が納められています。私の試練なので皆さんは手を出さないで下さい。」

イレーミはそう言う。皆は頷いた。サイクロンはアルメル星に着陸した。

特に何もない星だが一行はイレーミに洞窟に案内された。洞窟内部はヒンヤリし、

コウモリ達が一行を見送る。

「あれです・・・」

イレーミは、奥の台座を指差した。台座には、宝刀が安置されている。

「私はイレーミと言います。試練を受けに来ました!」

イレーミは、刀に向かって声を出した。その時、侍の霊が姿を現した!

「ほう・・・礼節は弁えているようだな。勝手に持ち出そうとする者もいるというのに・・・」

侍の霊は感心する。

「では、抜くが良い・・・命までは取らんよ・・・」

侍は刀を抜いた。イレーミも刀を構える!他の3人は隅で見守った。

「行きます!ヤアアアア!!」

イレーミは侍に斬り掛かった!剣戟の音が洞窟に響く!

「もっと打ち込んで来い!」

侍はイレーミの刃をいなす。

「この技をお前にくれてやる!盗んで行くといい!!」

侍は、秘剣・燕返しを放った!!

「あうっ!!」

イレーミは弾き飛ばされた!!

「くそ・・・イレーミ・・・頑張れ・・・」

アデイラは辛そうにイレーミを見つめる。

「ハアハア・・・ヤッ!!」

イレーミは見よう見まねで燕返しを放つ!侍は弾き返した!

「そうだ!!そうして剣先で細く線を辿る様に撃て!しかし、それでは私には通用せぬぞ!!さあ、ここからどうするのだ!?」

侍は稽古をつけている様にも見えた。

「私は・・・このままではいけない!!変わらないと!!」

イレーミは、風切りの刃を逆手に持ち替え、印を結んだ!イレーミの体が2つ、4つに分かれた!

「これは・・・忍びの術か・・・」

侍は8体に分かれたイレーミをキョロキョロと見回した。

「そこだ!!」

侍は1体のイレーミを斬り抜いた!しかし、それは分身だった。空振りした侍目掛け、分身達も燕返しを放つ!!

「グアアアアアッッ!!」

侍は膝を付いた!!

「グッ・・・ハハハ・・・見事だ・・・合格といたそう・・・」

侍はイレーミを認めた様だ。

「七星剣を持って行くといい。・・・いや、貸すだけだぞ!?用が済んだら返すんだぞ!?」

侍はゴネ始めた。

「ええっ!?くれないんですか!?」

イレーミは目を丸くした。

「やらぬわ!宝刀だぞ!?持って逃げたら、お前、MAJIで化け出る5秒前だぞ!?

私の仕事が無くなるだろう!!」

「仕事でやってるんですか!?」

「そりゃそうだろ!お前、時給いくらだと思ってんだよー!やってらんねーぞ!?」

「でも24時間勤務ですよね!?お化けだから、食費、光熱費、交通費かかりませんよね!?」

「それはそうだが・・・私にも、交友費というか、行き付けの遊郭というか・・・」

「遊郭!!それ、Hなお店ですよね!?最低!!奥さんいますよね!?」

「いや・・・奥さんは・・・そうであってそうで無いというか・・・」

「ホント最低!!お金払えば、浮気じゃ無いって言うんですか!?男ってホント最悪!!」

純粋なイレーミの険悪に、ブラッド、リスナル、侍は下を向いた・・・

「あーもう!!用が済んだら早く立ち去ってくれ!!ほら!持ってけ!ハイハイ!

頑張って下さいねぇ!!」

侍はイレーミに七星剣を押し付け、ドロンした!

「あっ!逃げた!!・・・お姉さまは、男よりも大切な事がありますよね!?」

イレーミは、キラキラモエモエ、アデイラに詰め寄った。

「えっ!?んー・・・まー・・・そー・・・だなー・・・」

この場の誰も、イレーミと目を合わさなかった・・・



「よし、次はブラッドの槍だな。」

一行は、サイクロンで、再びリーデル星に突入した。美しい自然が懐かしく思える。サイクロンはしばらく飛行した。

「ほら、この湖だ!」

「キレーイ!!」

変わらずキラキラと光を跳ね返す湖の側にサイクロンは着陸した。

「じゃ、ダイビングの装備に着替えよう。2人分しか無いからな。アデイラとイレーミは、ここで待っていてくれ。」

リスナルとブラッドは、ダイビングスーツを装備した。

「2人で行動するのも懐かしい気がするな。じゃあ行こう。」

2人は湖に飛び込んだ。青く澄んだ世界には、小さな魚が泳いでいる。ゴボゴボと辺りを見回すと、リスナルがチョイチョイと指をさす。リスナルの後に続いた。

「ブハア!」

2人は水面から顔を出した。岩に覆われた空洞だ。日の光が小刻みに揺れ、岩の隙間から水面を照らす。外からは見えない、神秘的な空間だ。振り返ると、空洞は奥へと続いていた。

「行こう。ブラッド。」

リスナルは懐中電灯を照らした。自然が創り出した芸術的な洞窟を進んで行く。

「地球に戻った時、本で見つけたんだ。2つと無い槍をこの地に残すってな。200年前に、未来の為に残しておくと決めたらしいぜ。」

リスナルはそう言う。200年・・・ずっとその間、この未開の地が守って来たのだろう。やはり自然は、人間にとって必ず必要な存在だ。

「あったぜ・・・」

リスナルは懐中電灯をピタリと止めた。そこには、未だに錆びずに佇む槍が祀られていた。

「地球の未来を紡ぐ我等の子らよ・・・神の槍を託す・・・」

リスナルは先人のメッセージを読み上げた。

「ブラッド・・・これが、神槍、ゲイボルグだ・・・」

ブラッドは、ゲイボルグを持ち上げた。神々しい光が、200年の時を経て甦る!

ブラッドは、ゲイボルグを掲げた!新たな力が体に宿る様だ!きっと、ゲイボルグも地球の危機を感じ、活躍の為に目覚めたのだろう。

「よし、戻ろうぜ!」

リスナルとブラッドは、アデイラ達の元に戻った。

「これで、それぞれ最強の武器が揃った訳だ。」

アデイラはドラゴンソード、リスナルは最新鋭のマシーン、イレーミは七星剣、そして、ブラッドは神槍ゲイボルグ、皆、自信に満ちていた。

「デスネイラの側近は、玄武、白虎、青龍、朱雀の4人だ。先ずは、イルール星の東、ビハイド星に玄武、白虎がいる。そいつらから倒しに行こう。」

アデイラの計画に皆、頷いた。



サイクロンはビハイド星に降り立った。

「あの城に玄武、白虎がいる。行こう。」

アデイラの案内により城に侵入した。

「おお、誰かと思えば、アデイラか・・・」

ゴツゴツした岩のモンスターがこちらに気づいた。

「裏切り者のアデイラよ・・・いや、お前はお払い箱だったな・・・ウァハハ!」

白い虎のモンスターもいる。

「要件は分かっているだろう。デスネイラを討伐する!」

アデイラはドラゴンソードに手を伸ばした。

「ウァハハ!やってみるがいい!!ここで殺してくれよう!!」

玄武、白虎が身構えた!

「ここは私に任せてくれ!」


アデイラはドラゴンソードを抜いた!剣先は大きく膨れ上がり、巨大な爬虫類の形になった!!恐ろしい捕食者の顎が標的を噛み潰す!!


「ブシャアアア!!!」

2つの標的の血液が爬虫類の顎から飛び出た・・・あっという間の出来事だ・・・

「ヨシヨシ、バジリスク。よく噛んで食べるんだぞ?」

アデイラは優しく微笑んでいたが、皆、チョット引いていた・・・



一行は次の標的、青龍、朱雀を倒す為、カラハル星に降り立った。

「青龍、朱雀はあの建物にいる。」

アデイラは指差した。4人が歩を進めると、建物からゾロゾロとモンスター達が出てきた。その数は、数百だ!

「そいつらを皆殺しにしろ!!」

モンスターの奥の方に2人の姿が見えた。青龍、朱雀だろう。玄武、白虎を倒され、警戒していたのだろう、厄介な事になった。

「くそ!走り抜けるぞ!!・・・ん??」

アデイラが叫ぶと同時にモンスターは全て真っ二つになり、バタバタと倒れていった。

「もう終わりましたよ?」

イレーミは七星剣を鞘に収めた。

「イレーミ!お前、いつの間に・・・あ。」

この隙に乗じ、ブラッドは駆け抜けた!

「クッ!この・・・」

青龍、朱雀は遅れて構えた!


ブラッドは、ゲイボルグで2体の敵を串刺しにした!体の内部から爆発を起こし粉々に砕いた!!辺りに肉片が飛び散る!!


「ブラッド!イレーミ!凄い威力だな!!伝説の武器は、伊達じゃ無いぜ!!」

リスナルは感心している。やはり、決戦の前に最強の武器を集めたのは間違いでは無かった様だ。皆、驚く程に強くなっている。

「後はデスネイラだけだ。一度、ピルカ星に戻り、休んでおこう。万全を期しておきたい。」

アデイラの言葉に皆、頷いた。



サイクロンはピルカ星に降り立った。必要な道具を買い揃え、宿を取った。辺りはすっかり暗くなっている。ブラッドは、風呂につかり疲れを癒した。最後の戦いが迫ってきている。この宇宙で、様々な事があった。ブラッドは、星空を眺めていた。

「コンコン。」

ブラッドの部屋のドアがノックされた。ブラッドは、ドアを開けた。そこにいたのは、アデイラだった。

「ブラッド、話があるんだ。」

ブラッドはアデイラを招き入れた。

「次が最後の戦いになるな。本当に色々あったものだ・・・」

アデイラも、同じ事を考えていた様だ。

「正直、決戦はどうなるか分からない。お互い、思い残す事が無い様にしよう。私は・・・心を決めた・・・私が何を言っているのか、わかるな?」

ブラッドは、頷いた。そして、2人は、キスを交わした。そのキスは、深く、熱く、2人は互いに体を手繰り寄せた・・・

「ブラッド・・・愛しているぞ・・・」

ブラッドは、アデイラを抱きしめたまま、ベッドに倒れ込んだ。アデイラの体温と鼓動が、高まっているのを感じた。2人は身体を通して心を紡ぎ、互いの絆を確かめ合う。星は違えど、敵対していた過去があったとしても、こうして、2人の未来を約束し合う。男と女は、何もかも脱ぎ去り、1つの道筋を、手を取って歩んで往く。一つになった身体からは、汗が美しく輝いていた・・・・そして、朝を迎えた・・・



「よし、最後の戦いだ。行こう。」

4人はサイクロンに乗り込んだ。行き先はデボネイラだ。

「やるべき事は全てやった。これ以上の準備も必要無いだろう。」

アデイラは呟いた。サイクロンは真っ直ぐデボネイラに向かった。

「あの星だ。」

デボネイラは、不気味に黒く蠢く星だ。黒い雲が覆っているのだろう。サイクロンは、デボネイラに着陸した。殺風景な大陸が広がっている。

「あの城に、デスネイラがいる・・・」

4人はデスネイラの居城に立ち入った。暗く、冷たい空気が城に立ち込めている。

「ギイイイイ・・・」

大きな扉が開いた。入って来いという事だろうか?4人は扉をくぐった。大広間の奥に、1人、座っている男がいる。

「待っていたぞ・・・」

デスネイラだ・・・

「4人の幹部達を倒してくれたみたいだな・・・お前達は、私が葬ってやろう・・・」

デスネイラは、ゆっくりと立ち上がった。

「両親の敵討ちだ。覚悟しろ・・・」

アデイラはドラゴンソードを構えた。

「これで戦争を終わらせる!」

リスナルも構える!

「私は・・・えっーと・・・ノルマ達成って事で!」

イレーミも構える!ブラッドもゲイボルグを構えた!

「よかろう!!掛かってくるがいい!!」

デスネイラは両手を広げた!!


アデイラは、ドラゴンソードを振りかざした!暗黒の世界より邪神竜が舞い降り、黒い稲妻を呼び寄せ撃ち降ろした!!

リスナルは、炎を纏う大鎌を巻き裂いた!唸りを上げて燃え広がる真空が走り抜け、地面に亀裂を刻む!!

イレーミは、七星剣を斬り上げた!描き出された北斗七星の線を辿り振り抜き、斬撃は深い爪痕を鉤ぎ潰す!!

ブラッドは、ゲイボルグを天に掲げた!デスネイラに破壊された基地の残骸が流星群となって激しく降り注ぐ!!


「ハハハハハ!!」

デスネイラは、右腕を挙げて振り下ろした!地面を爆発させ瓦礫を舞い飛ばす!

爆風は全てを飲み込み襲い掛かる!!

「グッ!!まだまだ!!」


アデイラは、自分の血をドラゴンソードに飲ませた!大地が揺れる程の咆哮が轟く!!二つに割れた巨大な牙が城ごと咬み潰す!!

リスナルは、右手に爆雷、左手にトルネードを生み出し混ぜ合わせた!荒れ狂う竜巻は稲妻を伴い万物を塵に化す!!

イレーミは、八つの分身に分かれ燕返しを放った!空を舞う燕は一つとなり天空を統べる鳳凰となる!鳳凰は豪炎を纏い急下降し獲物を粉砕する!!

ブラッドは、ゲイボルグを叩きつけた!大巨人タイタロンを空から降ろし大陸を揺るがした!地面を深く抉り掘り、衝撃は地形を変える!!


「効いているぞ!時間を稼いでくれ!!切り札を使う!!」

リスナルは長い詠唱を唱え始めた。古の言葉で詠唱している!


デスネイラは、ブラックホールを創り出した!黒点より星一つを引きずり込んで撃ち放った!!星は引き込んだ全てを蒸発させ、飲み込もうと迫りくる!!


「ブラッド!あぶな・・・」

アデイラは、咄嗟にブラッドを庇った!

「アアアアアアアアアアアア!!!!」

アデイラは体から煙を上げて倒れ込んだ!!

「クッ!アデイラ!!チクショウ!!」


リスナルは、太陽の一部を召喚した!太陽はコロナを舞い上がらせ、何者をも無に還す!!その場の全員が吹っ飛んだ!!


「ブラッド!!俺のマシーンはもうオーバーヒートだ!!早くしないと、アデイラが!!」

リスナルが叫ぶ!!

「お姉さまをお願い!!」

イレーミも叫ぶ!!


ブラッドは、持っていたブリューナクを投げつけた!僅かに穂先が刺さる!更にゲイボルグを力の限り突き込んだ!!楔となったブリューナクは粉々に砕け、刃先を深くめり込ませた!!一気に体当たりする!!


「貴様・・・何を・・・?」

体当たりされたデスネイラは、僅かに反応が遅れた・・・

「ビュオオオオオオッッ!!」

召喚された太陽はまだ残っていた。凄まじい引力が引き付ける!!

「アッ!!・・・アアアアアアアアアアアア・・・」

デスネイラは太陽に引きずり込まれ、消し飛んだ・・・ブラッドは、ゲイボルグに引っかかって難を逃れていた。召喚された太陽は消え去った・・・・


「アデイラ!!!」

「お姉さま!!!」

皆、アデイラに駆け寄った!ブラッドは、アデイラの手を取った。

「ハア・・・ハア・・・やったな・・・どうにかなったもんだ・・・」

アデイラは力無く微笑んだ。

「待ってろ!!今、回復を・・・」

リスナルは道具袋に手を伸ばす。

「やめろ・・・無駄だ・・・私が死ねば、この戦争はこれで全て終わる・・・歴史は・・・それを望んだ様だ・・・」

アデイラは、死を受け入れている。

「嫌だ!!お姉さま!!」

イレーミは泣いてすがり付いた。

「イレーミ・・・すっかり立派になったな・・・お前はもう大丈夫だ・・・ガハッ!ガハッ!!ブラッド・・・ブラッド・・・」

ブラッドは、ここにいると叫んだ!

「私も、これまで何人も殺めて来た・・・デスネイラに騙されていたとしても、当然の報いだ・・・未来の約束・・・守れそうに無くて、すまんな・・・最後に、ブラッドと出会えて、本当に良かった・・・ガハッ!ブラッド・・・愛している・・・・心から・・・愛して・・・・」

アデイラは、そのまま息を引き取った・・・・

「ウアアアアアアア!!!」

イレーミは泣き叫んだ!

「アデイラ・・・立派だった!!」

リスナルは、祈っている。ブラッドは、アデイラを抱き上げた。

「アアアア・・・アデイラぁ・・・・アデイラぁ・・・・」

ブラッドは涙が止まらなかった。未来を約束し、身も心も交わす事が出来たのに・・・何故、アデイラを連れていくのか・・・?戦争が憎くて仕方なかった。

ブラッドは、アデイラの亡骸を抱きかかえたまま、ずっと泣いていた・・・




あれからブラッドは、レガイア星にいた。アデイラの亡骸をサイクロンに乗せ、今、ベッドに寝かせている・・・・アデイラと共に過ごしたこの家の側に、墓を作りたかった・・・アデイラ・・・愛している・・・ブラッドは、アデイラの亡骸に何度もキスをした。冷たくなったアデイラでも、尚、愛しい・・・ブラッドは、アデイラの髪を優しく撫でた。その時だった・・・にわかに、頭痛が走った!

「あ・・・・・」

この時、ブラッドは、全て思い出した!!そうだ・・・これは・・・ゲームの世界だった・・・ラスボス撃破後に記憶を戻すと言っていた・・・現実世界に戻されるのか・・・・。急がなくてはいけない。2日後には現実世界に戻され、記憶も残らない・・・ブラッドは、アデイラの墓を作り始めた。出来るだけ、立派な墓にしてやりたい。ブラッドは豆を潰しながら地面を掘り続けた。最後にアデイラにキスをし、埋葬した。それから、墓に手向ける花を探し回った。昼も夜も関係無く。

そして、立派な墓を作る事が出来た。

「アデイラ、ここに眠る・・・心より愛を込めて・・・」

墓標にはそう刻んだ。その後は、ずっとアデイラの墓の側にいた・・・




ブラッド、リスナル、イレーミは、アデイラの墓に手を合わせている。この2人にも、お別れを言わないといけないだろう・・・ブラッドは、2人を家に入れ話し始めた。自分は異世界の人間であること・・・もうすぐ消えてしまう事・・・

最初は、2人共目を丸くしていたが、何度も真面目に話すうちに信じてくれた様だ。

「アデイラの墓は、俺達2人で守るから安心してくれよ。」

リスナルはそう言ってくれた。

「うん・・・約束する!」

イレーミも快諾してくれた。3人は、アデイラの想い出話に花を咲かせた。まだ笑って話す程ではないが、涙は流さなかった。気丈に振る舞ってくれる2人を、ブラッドは感謝していた・・・・




「もう、行ってしまうのか・・・?」

3人は、アデイラの墓の前にいる。もう思い残す事も無い。あれからリスナルは、デスネイラ討伐完了の功績を認められ、階級も跳ね上がった様だ。リスナルが地球軍を変えていくだろう。

「お墓は任せといて!」

イレーミも、実績が認められ師範を務めているようだ。良い子の暗殺塾を開いているらしい。結構、人気があるようだ。ブラッドは、空を見上げた・・・

少しずつ宇宙基地も復興し、形が分かるまでになった。

10・・・9・・・8・・・

ブラッドの頭上にカウントダウンの数字が現れた。

「なあブラッド!また一緒に手を組もうぜ!お前なら、飛び級で軍に戻れるさ!」

リスナルの言葉に笑顔で頷いた。

7・・・6・・・5・・・

「あ!あたしも!また会いに来てね!」

イレーミにも笑顔を向けた。

4・・・3・・・2・・・

「ありがとう!!」

ブラッドは、最後に感謝の気持ちを伝えた。

1・・・0。

ブラッドは、ゲームの世界から姿を消した・・・




「お疲れ様でした・・・」

ブラッドは、ベッドから身を起こした。

「流石ですね。ゲームクリアです!助かりました!!」

ウィリアムは拍手でブラッドを迎えた。

「窓の外を見て下さい。皆、笑ってますよ。」

ブラッドは、政府の建物の窓から顔を覗かせた。いつもの日常だ。部屋の隅にはストーブが暖かい風を出している。これで凍死者など出ないだろう。

「ゲーム内の記憶は、残っていますか?」

ウィリアムの問いにブラッドは、首を振る。報奨金が振り込まれていれば、それでいい・・・野暮な質問など、ブラッドには必要なかった。

「ウイルスはまだまだ存在します。またお願いします!」

ウィリアムの声にブラッドは頷いた。必ずまた来る事になるだろう。自分には、ゲームしか無いのだから・・・ブラッドは政府の建物を出た。少し冷たい風がブラッドに吹きつけた。早く帰って風呂にでも浸かろう・・・ブラッドは足早に自宅に向かっていた・・・・






                                 続く

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短編ドラマシリーズ「ゲーマー・サバイバル物語2」 溶融太郎 @382964

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