デカツノドラゴン少女イラとねずみみ

イラとねずみみ1 終盤加入キャラに戦力を期待するな

 終盤加入キャラに戦力を期待するな、と思うのは決してオレだけじゃないはずだ。


 バトル面において、終盤加入キャラというものはとかく不遇になりがちである。


 例えばRPGであれば、ストーリーが進む程パーティキャラのレベルが高くなり加入キャラと差がつきがちだし、加入キャラのレベルが高ければその分育成の自由度が下がってかゆいところに手の届かない性能になりがちだったりする。

 それも仕方のないことだろう。

 RPGというジャンルの醍醐味のひとつに「育成」という要素がある以上、序盤からコツコツ育て上げてきたキャラクターよりぽっと出のキャラクターが強いというのは、その醍醐味を薄めてしまうリスクを孕んでいるからだ。

 また、そうでなくても終盤加入ということで、今まで登場した数多のキャラクターと差別化を図っていることも多い。

 オーソドックスな性能のキャラが出尽くした後の加入キャラであれば、その性能は自ずとトリッキーになる。そしてトリッキーならば当然、使い手を選ぶ性能――汎用的な強さからは離れたキャラクターとなるのだ。


 ……まあそもそもの話、終盤加入キャラが愛着あるパーティメンバーに割って入って使用されること自体のハードルが高い。キャラ愛故ややり込み攻略でもない限りちょっと使用感確かめるくらいにしか使ってもらえないんじゃなかろうか。まあ終盤加入キャラの扱いなんて皆そんなもんだろう(個人の感想です)。


 アニメやマンガなどといった物語であっても、終盤加入キャラの不遇は変わらない。

 強者という触れ込みで仲間になっておきながら、ラスボスに対するかませ犬になったり。あるいはラスボスに挑むための前座で「オレは良いから先へ行け」要員になったり。

 バトルものの終盤なんて戦闘力インフレがデフォルトなのだ。即戦力枠で成長の見込めない終盤加入キャラは、インフレの波にいとも容易く飲み込まれてしまう。

 ストーリー展開的にも、ぽっと出の味方というのは活躍させづらい。強敵を倒す新たな強敵は盛り上がるが、強敵を横槍で倒す味方は盛り上がりに欠けてしまう。

 読者が見たいのは主人公の活躍、もしくは愛着のあるキャラクターの活躍なのだ。終盤ぽっと出のキャラなんて所詮は添え物。よくて福神漬、大抵はツマやバランみたいに扱われるもんさ(個人の感想です)。


 つまり何が言いたいかというと。


「くっふっふ……我を楽しませてくれよ、ネズ公?」

「えっあっはい」


 その、終盤加入キャラくそざこのオレごときに戦闘狂発揮しないでもらえませんかね……?


「――いくぞっ!!!!」

「――ひぃっ!!!!!」


 ……良い笑顔のデカツノドラゴン娘さんよぉ……!



 * * *



 朝っぱらから犬耳美少女の下着姿に親友の笑顔(圧)にと色んな意味でどぎまぎさせられての1日のスタートだったが。

 豪華な朝食に気力は回復しきってオーバーフロー。やっぱ美味い飯が食えるだけで人生幸せなんだよなあ。


 それから、カオリは銀髪天使さんと何やら「後片付け」があるとかで、教会へ出掛けていった。一体何を片付けるんやら……くわばらくわばら。


 一方、オレはといえば。

 犬耳褐色美少女ことクロと、デカツノドラゴン娘ことイラの2人に、この街、セントプレージュを案内してもらうことになった。


 正直、オレを売った人間やら奴隷商やらが居るうえ亜人にも優しくなさそうなこの街を散策するのは少し、いやだいぶ億劫おっくうだったのだが。


 イラ曰く、

「住民はドライだが観光には良い街だぞ!」

竜人ドラゴニュートの我に手を出そうなんて気概のある奴などおりゃせんから安心しろ!」

 とのこと。


 それに加えて、クロに

「ロナ、いっしょにおでかけ、しよ?」

 と言われればもう否やはない。

 犬耳褐色純真美少女のお願いに勝てる人類など存在しないのだ……。

 だから「チョロすぎんか?」とか言わないソコの竜人。


 セントプレージュ、またの名を「水の聖都」。

 馬車からでは分からなかったが、街には多く水路が張り巡らされていた。

 流れる水も澄んでいて、何でもこの街、水の聖都と名乗るだけあって上下水道がきちんと整備されているそうな。

 つまりこの街じゃ水洗トイレはデフォってこと。素晴らしいね。じゃああの虜囚おまる生活はなんだったんや……。

 失敬。

 人通りの多い広場には立派な噴水もあったり、ちょっとした緑があったり。

 白く整然とした街並みに彩りが加わった姿は、なるほど観光にはうってつけだなと頷いてしまう。

 露店や屋台といった賑やかな店こそないが、オープンカフェチックな飲食店やブティック、骨董品店など目を引く店が多く並んでいる。

 観光地としては上品な、悪く言えばお高くとまった街のようだ。イメージ通りでなんとなく安心してしまう。


 亜人3人で店に入るのも憚られたので、ウィンドウショッピングと洒落込みながら歩くことしばらく。


「お、アレが今日の目的地だぞ」


 目的地なんてあったんだ、と思いながらイラの竜の爪が指す先を見れば。


 そこにあったのは、街並みと同じく白色の、立派だけれど無骨な建物。


「カオリが『ロナは絶対喜ぶ』、って言ってたからな」


 ――それは、異世界の街で訪れたい施設ナンバーワンとの呼び声高いあの施設。


「あれがセントプレージュの冒険者ギルドだ」


 そう、冒険者ギルドである!



 * * *



 そこにあったのは、役所を思い浮かばせるような空間だった。

 広いカウンターと「番号札133番の方ー?」と呼ぶ受付の人。長椅子で待つ人々。木札を上げてカウンターへ向かうおっさん。


 ……てかまるきり役所だった。

 違うのは人々の格好が中世ファンタジーチックなくらいだ。


 酒場は!?

 荒くれ者は!?

 新人に絡むテンプレ野郎は!?


皇国ここの連中は冒険者でもお行儀が良いからな。ギルドもお堅い感じなわけよ」

「さいですか」

「うちの地元のギルドならネズ公の期待に応えられただろうけどな!」


 そう言って、ふはは! と笑うイラ。異世界テンプレはどうやらお預けらしい。まあトラブルなんてない方がいいか……。

 などと酸っぱいぶどうの論理で――この場合はマジで酸っぱいかもしれないが――がっかりを和らげていると。


「それにしてもカオリの言った通りの反応をするのだな?」

「ふふ、ロナはごしゅじんとすっごくなかよしだもんね!」


 イラがにまにま。クロがにこにこ。


「……あはは……」


 あいつの読み通りですかそうですかちくせうめ。

 自分の見てない所でまで一喜一憂させて楽しいかよ……楽しいんだろうな……。


 ……いや待てよ、本当に見てないのか……?


 どこかであざ笑ってらっしゃるのではなかろうか、やつなら遠視魔法やら何やらで見ててもおかしくないぞとキョロキョロ辺りを見回していると。


「それよりネズ公、ここに来たのは物見のためだけじゃあないぞ?」


 そう声を掛けてきたのはドラゴン娘。

 蒼い鱗の美しい手を懐に入れると、一枚のカードを取り出した。

 見覚えのある偉そうなカードである。


「冒険者になりたいんだろ? コレ、作ってもらおうじゃないか」


 神金オリハルコン級冒険者、イラ・グローカス。

 屈指の強者たる彼女はちょっと得意気に、けれど気さくにニカッと笑った。



 * * *



「つーわけで、お手並み拝見という訳だネズ公」

「え……」

「イラさん、手加減はしてくださいね?」

「わかってるって!」

「がんばって! ロナなら勝てるよ!」

「お、おう……」

「ほう……?」

「あっ」


 そうして冒頭に戻るわけである。


 ……どういうわけだよちくせうめ!

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ふくろのねずみみ! ~異世界で親友(女)の百合ハーレムに取り込まれるオレ(男→女)の話~ ねこどらいぶ @neco-drive

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