第4話 守護者
なぜか胸までドキドキしてきて、そして何かうっとりするような不思議な感覚がある。雅也は制服の上から自分の胸の辺りを擦った。
「なんか……変だよ……」
見上げた先で、ガイは金色の眼を細めた。
「ああ、知ってる」
「……あんたが……なんかしたのか?」
「正確に言うと、私の体液が作用している。さっき呑み込んだものが、きみの脳下垂体からβーエンドルフィンを分泌させた」
「はぁ……?」
雅也は頭がぼうっとして、ガイの言葉は理解できなかった。
「βーエンドルフィン、つまり脳内麻薬の一種で、モルヒネの約6.5倍の鎮痛作用がある。一般的には性交時に分泌されるものだ」
「せ、せいこう……?」
意味も分からず聞き返す雅也に、ガイはくくっと笑うと圧し掛かった。雅也にはもうガイを跳ね除ける意思はなく、ガイに押されるままベッドの上に折り重なるようにゆっくりと寝そべった。
「痛いのは嫌なんだろう?」
「……うん……」
「それならこのまま力を抜いて、眼を閉じていればいい。……イドはほんの少しだけ頂こう」
雅也はどこかふわふわとした気持ちのまま、素直に眼を閉じた。ガイの声は優しく耳をくすぐり、その指は髪や頬に柔らかく触れてくる。穏やかな波間を漂うような心地よさを感じながら、雅也はガイの重みを受け止めていた。
ガイの手がゆっくりと学生服のボタンを外していった。徐々に雅也の熱い身体が露わになっていく。肌蹴たシャツの下のTシャツを捲り上げ、すっかり雅也の胸を露出させると、ガイはそこに唇を付けた。優しく撫でるように吸いながら、雅也のズボンと下着も下ろしていった。そうして雅也の中心に緩やかな愛撫を加えていく。刺激を受けたそこは形を変え、張り詰めていった。
「ん……」
雅也の瞼がひくりと動く。ガイの指に若い肉体は反応していても、頭の中は霞んだようになって全てが夢の中の出来事のように思えた。快感の波にたゆたい、されるがままになっている。
ガイはゆっくりと唇を離すと、己のズボンを脱いだ。その下から現れたものは人間のものとは違った形をしていた。
それは触手だった。
それ自体が生き物のようにうねうねと蠢き、赤く滑るような鈍い光沢を放っている。
「雅也……」
ガイは雅也の耳元に囁いた。雅也はうっすらと眼を開ける。
「人間との違いのもう一つはこれだ。この姿かたちは擬態で、人間と見分けが付かないが、男の形態でも女の形態でも、我々にはこれがある。覚えておくことだ」
夢見心地の雅也はとろんとした眼をガイに向けはしたが、恥ずかしいとか怖いとか、そういう感情は最早感じられない。ただただとても幸せで、嬉しいような、楽しいような、そんな感情の中をふわふわと漂っていた。
ガイはゆっくりと雅也の両膝を押し広げた。まだ性経験のない雅也の雄芯はすっかり勃ち上がり、透明な雫を溢れさせていた。ガイはベッドの傍に跪き、再びそれに指を絡めた。ほっそりしたしなやかな指は雫を塗りつけるように動き、緩やかに扱き立てる。硬さを増していく若い肢体をくねらせて、雅也は甘い喘ぎを洩らした。
「あっ……ああ……んっ……」
そのうっとりと上気した雅也の表情をガイはちらりと見上げて、それからおもむろにそこに唇を付けた。舌を這わせ、蜜を吸い上げるように唇を窄めながらゆるゆると顔を上下する。ガイの唾液はそこからも雅也の体内に侵入していき、その結果、雅也はますます多幸感に包まれていく。
「あ……はぁ……気持ちいい……」
息を荒げ腰を揺らめかせて雅也は快楽を貪った。己の本能の求めるままに、その欲求に素直に反応しているだけだった。
ガイの触手がずるりと伸びる。先端が先程より細く変化し、ぬらりと赤く濡れたそれは雅也の窄まりへと向かった。ガイは口での愛撫を止めないまま両手で雅也の双丘を割り広げた。触手はうねうねと自ら蠢いて固く閉じた蕾のような雅也のそこへと伸びていき、緩く円を描くようにその周囲を這った。触手のぬめりはまるでナメクジの這った痕のように濡れて糸を引いた。雅也の喘ぎと粘着質の音が混ざりあって部屋の中に淫猥に響く。
そして、先端がぬるりと雅也の体内に侵入する。
「ああっん!……あっ……あ……」
雅也の喘ぎが一段と高まり、熱い身体は瘧のように震え出す。触手は絶妙な緩急をつけながら雅也の奥を抉った。
「ああ……はぁっ……いいっ!……いく……も……いくぅっ!」
雅也の雄芯がガイの口中で膨らみ、一気に弾けた。
がくがくと身を震わせて全てを解放した雅也は、幸福感と快感とで恍惚とした表情を浮かべてぐったりと力を抜いた。雅也の放ったものをゆっくりと嚥下しガイは雅也から離れた。触手もまたゆるゆると雅也の体内から抜け出ると、元の大きさと長さに納まった。
ガイの腕の傷はまるで逆回転のフィルムのように見る間に癒えていった。
ガイは雅也の隣に横になると、ぐったりと脱力している雅也をゆったりとその腕の中に包み込むように抱いた。
「……雅也……きみは覚えていないだろうが、昔もこんな風に……きみのイドを分けてもらったことがある」
「……俺の……イドを……?」
ぼんやりとした意識の中で雅也は聞き返した。
「ああ……随分昔の話だ。あの頃のきみは雅也という名ではなかったが……」
ガイの金色の眼は優しく雅也を見つめていた。だがその瞳の奥に映っているのは雅也ではない雅也だ。それは遠い昔にガイと共に在った雅也だった。バイパー達との死闘をかいくぐり、緑色の飛沫を浴びて立ち尽くす雅也の神々しいまでに美しい姿。ガイは今の雅也を通してその姿を見ていた。雅也が記憶を全て取り戻した時こそ、ガイの前に再び彼は現れる。古(いにしえ)とも呼べる時代に、共に闘い、そして共に強く惹かれあった者が。
「……ガイ……?」
雅也はガイの胸にことん、と頭を付けた。
「……なんだか……すごく眠いんだ……」
ガイは雅也の髪を撫でて微笑んだ。
「……ゆっくり眠るといい。……私はずっと……きみを守るから……」
翌朝、雅也は不機嫌だった。
なぜなら、起きた時自分の下半身は裸な上、隣には全裸のガイが寝ていたからだ。
「ぬわっ!!!な、なんだよ!これっ!!!」
さらに、自分の尻の辺りにはぬるぬるした液体のようなものがこびりついているのに気付いて雅也は頭を抱えた。
「お、俺に、な、何したんだ、あんた……」
「何って……イドを少し頂いただけだ」
慌てる雅也とば対照的に、ガイは少しも動じない。
「私は別に無理強いした訳ではない」
「そ、それはそうだけど!ってそうじゃなくて!……俺が聞きたいのはどうやってイドを吸ったのかってことだよ!」
「覚えていないのか?」
ガイは不思議そうな顔で首を傾げた。
「……少し刺激が強すぎたか……」
「し、刺激!?イドって……吸血鬼みたいに首から吸うんじゃないのかよ!?」
言い募る雅也をしげしげと見つめ、ガイはこともなげに言った。
「きみと性交してイドをもらった」
「せ……!?」
絶句した雅也にガイは追い打ちをかけるように唇の端を上げた。
「きみのイドはとても甘かったな」
「!?」
顔から火が出そうなほど真っ赤になり雅也は思わず耳をふさぎ頭を振った。
ハイド・バイパー SKY @SKY-see-moon
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