石問答
安良巻祐介
私は見てしまった。
道端に転がっている、苔の生えたような小石と、建物の瓦礫の破片とが、会話しているところを。
「ざっと二百年ぶりですねお元気ですか」
「ええそうですね息災ですそちらも息災ですか」
話し合う石ころと瓦礫は、よくよく見ると、その表面に顔のような陰影を生じさせている。
「大分と角が取れて丸くなってしまいましたが元気ですそちらは大分お姿変わりましたね」
「ええそうですね砕かれて建物に混じってみたりその建物も壊されたり色々とありまして楽しかった」
二つの小さな顔は、どちらも楽し気に笑っているらしかった。
「まったく世の中は移り変わりが早いこと早いこと」
「まったくその通りですねだから面白い」
「この町というのもそれなりに形を保っていましたがそろそろまた変わるようですよ」
「ほうそうですか大地が言っていましたか」
「ええそうです大地が呟いていました何か大きいことがまた起こるそうです」
「それは愉快愉快」
なんということだ。何か恐ろしい天変地異がこの町を襲うらしい。逃げなければ。
しかし、そこまで考えたところでふと、私もまた、消防署の前で考え込んでいる形をしただけの石の像であったことを思い出した。
なんだ、つまらない。
長い間人の形になって人のような恰好をしていたせいで、人の考え方を模していたようだ。
私は顎に手を当てて悩んだような形のまま大きなあくびをして、来るべき大きな何かをぼんやりと平和に思いやって、また眠り込んだ。
石問答 安良巻祐介 @aramaki88
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