最終話


 「はい、もしもし」



 「陣内さんでしょうか?私、榊原と申しますけど」



 「サカキバラ・・さん?はあ」



 「榊原順子ですが」

 「ああ~、旧姓フルネームかよ、ハハハ」



 「わかりづらかったかしら?マリのほうが良かったかな?そしたらどこのマリさんで?なんて言われるかな~って思ってさ」

 「おいおい」

 「忙しそうねジン、すっかり有名人で」

 「いやいや、今じゃすっかりメタボな裏方さんですよ。まあでも、昔のバンドを知っている人もいるんでびっくりする時もあるよ」

 「中途半端に有名って嫌なもんだね」



 「何かあったの?」



 「う~ん、あったと言えばあったよ」

 「何?」



 「この間、娘に全部本当のことを話したよ」

 「全部?」

 「うん」



 「DAIのこともか?」

 「お姉ちゃんの旦那については、バンドメンバーってことは言わなかった。ただ、離婚してたのは事実だし、いなくなったのも事実だからそれは伝えたよ」


 


 「そうか・・」



 「私がWAR&GUNSのことを封印したのもあれが大きいもんね。旦那がつけていた日記だって、子供が将来見るかもしれないからってバンド名は伏せてくれって言ったんだから。パソコンにも保存しているとは思わなかったけどさ。しかし娘は洞察力に長けているのか勘が鋭いって言うか、驚いたわ」



 「話をして、娘は理解してくれたのか」

 


 「・・・・うん。昨日、仕事中にメールが来たんだ」

 


 「なんだって?」

 


 「あのCDの中では、「BLUE SKY」という曲が大好き。特にお母さんの作った歌詞ね。 ~なぜ歌うのかと聞かれたら あなたの心が綺麗だから そして見上げた空が とても青いから~ というフレーズがとても心に残ったって。お母さんもこれからもっと空を見上げてほしいって」

 

 「私仕事中だったけど、ボロボロ泣いちゃってさ。本当に娘に話して良かったよ。心が軽くなったから。私今までは暗かったのかもね」



 「そうか、それは良かったじゃん」



 「うん、ジン今日は急に電話をかけてゴメンね。」

 


 「大丈夫だよ、またかけてくれば。次はまた5年後か?」

 


 「5年後かもしれないし、5分後かもしれないよ」

 


 「ハハハ」

 


 「ありがとう!!切るね」




 





 始業式の朝。



 私は母に起きなさいと言われ、何回も体を揺すられた。「まったく、遅刻するわよ!」

 


 母は半ば強制的に私を担ぎ、ダイニングチェアーに座らせた。テーブルの上にあったクロワッサンを口に押し付けられた私は、目を瞑ったままガブリとパンを頬張り、オレンジジュースを口に流し込んだ。

 


 母はその後、学生服を部屋から持ってきてくれ「早く着替えなさい」と大きな声を出し、私のパジャマを脱がし始めた。私はされるがままにボケーっとしていた。

 


 「もう行く時間じゃない!」と母は私にカバンを持たせ、ヨロヨロと玄関まで連れて行ってくれた。玄関先で靴を履いた私に、「夕べ磨いといたからね」と母は言った。

 


 そしてドアを開けて「いってらっしゃい気をつけてね!」と見送ってくれた。私はエレベーターホールまでフラフラ歩いて行く。後頭部に母の視線を感じながら。

 


 私の猿芝居もここまでだ。母の言葉は朝からシャキシャキ私の脳に響いていた。




 私はただ母に甘えていたかっただけだ。




 私もいずれ子供が出来るかもしれない。そしたら両親の自慢話をたくさんしてあげたい。そして自分も子供にとって自慢の親になりたい。





 この夏休み私はとても貴重な体験をした。




 クラスの男子が皆、子供に見えるのも私がちょっとだけ成長したからだろうか。




クロージングナンバー~「YESTERDAY ONCE MORE」(カーペンターズ)








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ブルースカイ アツ @atsu-atsu

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