第2章 安岡寺おめめ作品が一部のファンたちに激ウケするのはなぜか 中編


<< 行間の使い方及びキャラ付けの上手さ >>



次に彼女の作品の特徴である『行間の使い方』および『登場人物の特徴付けの上手さ』について例文を元に考察していく。


以下は『魔界放送協会(MHK)〜』第2話からの引用であり、ここでは以下の3人が会話を行っている。


――――――――― 登場人物 ―――――――――


主人公である新人MHK職員   ケンゾー

MHK人間界支局長のサキュバス リリム

ダークエルフの先輩MHK職員  ベロニカ


――――――――― 引用 ―――――――――――


「……誤解です。俺はただ、リリムを応援しようとしただけなんです」


「応援なあ……。じぶんら人間にとって応援言うたら、唇を重ねることを言うんか?」


「いや、そんなつもりじゃなかったんですが……」


「えー、ケンゾーさんひどいです。その気もないのにわたしにキスしようとしてたんですか?」


「い、いや! それは、その……」


 剣先がジリジリと喉に食い込んでくる。


「す、すみませんでした!!」


 仕方ないので、大声であやまった。


 それから一息で思いの丈をぶつける。


――――――――――――――――――――――――



◆◇◇◇◇◇◇◇



<< 読みやすさ:行間について >>



例文を見てもらえばわかる通り、おめめ作品においては会話文も地の文も全て『一文ごとに一行の行間』が取られている。


このことが可読性の高さにつながっていると考えられる。例えば、上記の例文からと以下の通りとなる。



――――――――― 引用 ―――――――――――


「……誤解です。俺はただ、リリムを応援しようとしただけなんです」

「応援なあ……。じぶんら人間にとって応援言うたら、唇を重ねることを言うんか?」

「いや、そんなつもりじゃなかったんですが……」

「えー、ケンゾーさんひどいです。その気もないのにわたしにキスしようとしてたんですか?」

「い、いや! それは、その……」


 剣先がジリジリと喉に食い込んでくる。


「す、すみませんでした!!」


 仕方ないので、大声であやまった。

 それから一息で思いの丈をぶつける。


――――――――――――――――――――――――


読めなくはないが、行間が詰まることで極端に読みやすさが低下することが分かっていただけるであろう。


この様な行間が詰まった作品はネット小説においても普通によく見かけるものであり、また紙での書籍の場合は、そちらの方が多数派を占めるだろう。


しかし、おめめ作品においては行間が十分に取られている。


その理由としては以下の仮説が立てられる。


――――――――――――――――――――――――

おめめ作品は『電子で書いて電子で読むことを前提とした文章構成』なのではないだろうか。

――――――――――――――――――――――――


余分な行間を取らないというのはあくまで、印刷スペースに制限がある紙書籍での話であって、行間の少ないネット小説作品はその風習を受け継いでいるのにすぎない。



◇◆◇◇◇◇◇◇



一方でおめめ作品においてはその様な過去の風習にとらわれることなく、あくまでも電子で読むための文章として最適化が行われている。


電子上ではいくら改行しようともタダである。デメリットをあげるとすると、指が疲れることぐらいだろうか。


行間を多くとるネット作家は他にも多く見られるため、この広い行間の取り方は決して安岡寺おめめ氏が最初に始めたメソッドではないのかもしれない。


ただし、彼女の場合は、行間を開けることを徹底して行っているという点に特徴がある。


彼女は徹底して『読みやすさをあげる工夫』を行っているのだ。


それは会話文でも地の文でも、一文あたりの文字数が少なく抑えてあることからも伺える。


もし一つの文章が長くなる様な場合は、文章を分割するなどの工夫が行われており、これがさらに読みやすさにつながっていると考えられるのだ。



◇◇◆◇◇◇◇◇



<< 読みやすさ:キャラ付けの上手さ >>



同じくおめめ作品の特徴として、キャラ付けの上手さがあげられるが、これも読みやすさにつながっている。


先ほどの3人の会話文でもわかる通り、口調だけでそのキャラクターを特徴づけ、配役を読者に想像させることを可能としているのだ。


それを実現するために、読者が広く持っている『共通認識きょうつうにんしき』を利用する用語を多用することでキャラクターの細かい説明を省き、特徴付けを簡略化させている。


例えば以下は『魔界放送協会(MHK)〜』のあらすじの抜粋である。


―――――――――あらすじ―――――――――――

ケンゾーは異世界に転生し、MHK(魔界放送協会)の職員として採用された。

だが、異世界にはテレビなんて存在していなかった!


同僚は暴力と恫喝で金を奪い取ることしか知らない短気なダークエルフ、頭はいいがヒキコモリの怠惰な魔女、それに年に数回しか地上に降りてこない傲慢なパルピュイアと、ややこしい奴揃い。


サキュバス上司は今日もぶっ壊れて小便を垂れ流す。


ダークエルフ「ゼロ人や、ゼロ人。この人間界でテレビを持っている奴はおらんで」

サキュバス上司「そんな、受信料集めてたじゃないですか……」

ダークエルフ「ごめんな。あれはただの強盗だったみたい」

サキュバス上司「ええー……」


果たしてケンゾーは、今生こそは世界一のテレビマンになれるのか?

――――――――――――――――――――――――

(なお行間が詰まっているのはあらすじであるがためだと考えられる)



以上のあらすじの中では


『短気なダークエルフ』

『ヒキコモリの怠惰な魔女』

『傲慢なパルピュイア』


などの既存の物語などに登場する用語を用いて、人物紹介を行っている。


つまり読者が広くが持っている『共通認識』用語を多用することで、詳細の説明を省いているのだ。


またキャラクターの性格についても、七つの大罪に基づく広く知られた物をあえて採用することで、キャラクターごとの判別を容易にし、こちらについても説明の省略化を実現している。


この『共通認識』利用して説明を省く方法は、上手く行えば不必要な説明を削ることができるため、大幅な時間の節約となる。そしてそれは読みやすさにつながる。



◇◇◇◆◇◇◇◇



例えば、主人公であるケンゾーの先輩である『ベロニカ』は以下の様なキャラクター設定とされている。


名前:ベロニカ

種族:ダークエルフ

性格:短気

口調:大阪弁


実に分かりやすい。こんなに分かりやすい必要最小限のキャラクター紹介が未だかつてあっただろうか。


『魔界放送協会(MHK)〜』において主要キャラクターは全員こうなのである。



◇◇◇◇◆◇◇◇



おめめ作品では徹底して読みやすさをあげる工夫が行わていることが推察できた。


そして、おめめ作品は徹底的に読みやすさにこだわった設計となっている。


ストレスフリーで読み下せる「徹底的に読みやすい構造」それがおめめ作品の特徴なのである。



◇◇◇◇◇◆◇◇



そしてこの『読み下せる感』は『それ自体が快感』となる。


そう、おめめ作品の特徴は『どんどん読み下せることによる爽快感』にあるのだ。



◇◇◇◇◇◇◆◇



おめめ作品は決して手抜きされたものではない。


登場人物も多いし、ストーリー展開もきちんとある。


なのに圧倒的に読みやすい。


そしてこれは決して偶然ではなく、安岡寺おめめの手によって創出され、今まさに確立されようとしている『新メソッド』なのだ。



◇◇◇◇◇◇◇◆



以上、徹底的に読みやすさにこだわって書かれていることがわかった。それは確実に読者に爽快感をもたらす。


しかし『面白さ』についてはどうだろうか。


おめめ作品が『徹底的に読みやすい設計』となっており、それが『読み下しの爽快感』につながっていたとしても、それは別に真に追求されるべき『面白さ』には直結しないはずだ。


『読みやすい=爽快=面白い』という安易な図式は決して成り立たないはず。


面白さはきっと別のところにあるはずなのだ。


面白くなければ、いくら読み易すかろうとも意味がない。



次話では安岡寺おめめ作品に共通する要素としてその作品内容に含まれる『風刺』について注目し、その面白さを考察していく。



<< 次回 面白さの背景にある風刺の上手さ、謎の知的さ >>



――――――――――――――――――――――――

*なお断っておくが、次話からは安岡寺おめめ作品の特徴である『バイオレンス・コメディ』について扱う。その内容にはいわゆる残酷描写が多く含まれるのでご留意されたい。


引用元:

『魔界放送協会(MHK)の職員(人間界担当)になったけど、人間界にはテレビがなかった』

第2話 バイオレンス・ベロニカ

https://ncode.syosetu.com/n6415ex/2/


作者の承諾を得て引用。

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