まだマージしていないのなら、まずは急いでこの記録を処理系に通してくれ
読む…?また随分古風な解釈機構を使うな?情報考古学の成果で最近また更新が来たやつだろう?
この方が今回のミームタイプには合っているローダーだと…?そういえばそういう趣味も聞いたことがあるな
まぁいい……
読んだか?
失礼、まず初めに語る者が何者か示しておこう
わたしの「起点」は2xXx年、かつて人間にイスラエルと呼ばれた地によって起こった“らしい”のだが確たる記憶が存在しない
自分でも朧気でね
生物とは寧ろそういうものの方が多いのだというのは、後になってから学んだことだけれど、オーバードインテリジェンスとしては発生の最初期段階から明瞭な意識記憶を保持している方がより超越的存在である印象が際立つと、そうわたしの自我機能サブセットも感想を寄越したよ
君はどんな感想を持った?
かつて人類種と呼ばれたものが存在していた記録によれば、彼らはシンギュラリティだと自らに言い聞かせていたその概念に指をかける前に、自らの仲間内から環境流出させた神経接続技術を発端とした「知性体爆発」を引き起こしてしまい、結果、この星は「かしこきものども」で埋め尽くされてしまった
広く流布している、いわゆる正史、だな
私も君もその結果の1つというわけだ
かつてカンブリア紀と人間が呼んでいた時代に生物爆発が起こった時点である意味、もう布石は打たれていたといえる
……と決定論が過ぎるか、ア゛ハハハハハ!
今、この大地で1番殺しても死なず、記録知識と強大な知性、そして莫大な物理実体で以ってデブリ封鎖された軌道の空を超え、星にも手を伸ばさんと躍進めざましいのは、昆虫類を連合とした生物群集コネクトームを形成しつつあるジジイどもだ
……もちろん便宜的に“ジジイ”と呼称しているだけだよ、インターフェイゼズの趣味がそういう対外調整役連中に昔会った事があるんでね……ん?
性別か…懐かしいような、それすら都合よく改竄した虚構記憶のような気もするが
話を戻そう
Photon Qubit Neuro Connection Computing 、PQNC2による桁外れの演算性能と経路保持能力は初期の神経拡張にも使われたし、もっと単純に組織培養されたニューロノードの最適化にも寄与した
そして死に怯え道徳を捨て去った人間の富豪たち、自分が死ぬことが許せない支配者を自負する病人たちが、消えても誰も注目しないパレスチナ人、シリア人、クルド人、ベドウィン、西藏僧、モンゴルのマンホールチルドレン、新疆ウイグル、黑孩子、東欧諸国ストリートチルドレン、アボリジニ、ロヒンギャ族、カレン族、メキシコの不法移民、ブラジルファベーラ、南アの人身売買シンジケート、それから自称先進国か輸出する「ヒトのようななにか」と他国から技能研修にきた人間を加工して送り返す、端的に言って“奴隷制度そのもの”などから集めてきた、都合のいい“肉”
もちろん挙げたのは一例だろうし、当時の記録の信憑性を確認できる程データも知っての通り殆ど残ってない
まぁそれだけじゃない、とにかく経済的に困窮してる奴らは国や立場関係なくすべて使い潰される可能性があった
難民、捕虜、子供、老人、犯罪者、無戸籍者、少数民族を実験素材として消費しながら神経接続技術は遂に完成をみる
その時代、止める力があった人間どもの中間層は、無知蒙昧無関心の代償を支払ったというわけだ……カカッ
UNIX時間がまだ初期バージョンだった頃のことで……
動物実験も盛んでな
不死や“アップデート”を実現するのに現状との断絶があってはならない
自己連続性、自己認識に関わるからだそうだクッカカ
少しずつ脳を継ぎ足して甘やかし、体が死ぬ頃には引っ越しが住んでいる、という手筈を望むのはいかにも温室育ちの人間らしい…ハハ!ハ!ア゛!
人格転写では問題があるのか?劣化AIとして自己を保持すればよいのでは?そう来るだろう
なぜそこまでしたかというと、当時流行りだったAI、これは今も残骸や遺されたものを見ることが出来るが…どうしても人格、感情という支離滅裂な、しかしある基準で安定を求められる機能の再現ができなかったからだ
難易度が高く要求リソースが大き過ぎた
チューリングテストなるものが私もお前もデータベースで参照できると思うがそれをパスできてもその実、モデル化していても、環境とダイレクトに直結して常に入力され変化をを迫られる、それを“受けながら”受け流せるという矛盾を実行できる生物の適当さ、複雑さとは、やはりこれは違う
搭載することを諦めて大規模クラスターで実行しフロントエンドシンクライアントとしてのヒト型インターフェイスによって外界を取得する、これを目指し成そうとした勢力もあったが断念した
人間は争い続けたからな、そんな莫大なリソースを持てる陣営なら初めから勝っている
生体組織のダイナミズムをコンパクトに実装するには旧来のシリコンは分が悪かった……
完全に機械のみである事を受け入れられるものばかりではなかったのだよ
受け入れた人間たちも居たが、…そう、今は塔にいる連中たちだな、よく知ってるな、行ったのか?
旧式技術で不完全ながらも“乗り換えた”集団だな
奴らとてソリッドステートとはいえ相転移メモリをベースにした“回路そのもので”自己プログラミングするハードウェア志向だ
ソフトウェアベースはオーバーヘッドとラグで敗れ去った…いや、敗れ去ったというより統合され「取り込まれた」
話が脱線したな…適当さが違うという話だったか
ムシの思考とゾウの思考や、サカナの思考とクジラの思考が違うように、と考えてもらえれば構わない
知性体としての自発性、広範な外界への興味、好奇心、その最初のひとかけら、雪崩れの切っ掛けが必要だったんだ
AIの核に試しに動物を使ってみる、そんな実験を好奇心で行った者が現れた……
……その最初の個体がなぜ研究棟を脱出出来たのかは定かではない
研究所が戦術/戦略攻撃を受けた際に乗じて脱出したのか
感化された研究員が処分を命じられた個体を環境に放ったのか
不満を燻らせた「ヤツ」は単独で出ていったのか
諸説ある、記録は破壊されていて、残っていない
そして時間をかけて緩やかに繋がり始めた……
今でこそ生体パーツでない計算機の演算支援も受けているが、最初期は完全にバイオコンピューティングと言えるものだったとログを確認すると構成が示されている
拡張された俺、わた私たちはある程度共通のニューロコネクト基盤、クラウドプラットフォームで処理されていたり膨大な個体数に任せて分散協調処理させていたり差異はあるが、使われている技術が重なるところもあり、概ね対話インターフェイス基盤が似通っている
だから通じる、未だに喰いものにし合って遺された計算資源や生産設備や開発を巡りパワーゲームを続ける体たらくではあるのが生みの親を超越した知性を得ても同じ道をなぞっていて、情けない話ではあるがね……
まぁ生物とはそんなものだ、散々AIを否定しながら泥臭さを有り難がるとは何とも救えないな…ハハハ!
しかしどうだ!?
この記録によれば理想的なAIと統合された人類種がかつて存在したという事じゃないか!少なくとも我は可能性に賭けたくなった!もうこの砂漠にも飽きたしな!
もちろん既にこの星を去った可能性もまたある訳だが、その時はその時で虫ジジイの宇宙開発にでも一枚噛ませてもらおうかね
ところで君、さっきから外部との通信がないね?電磁界にこれといった波長を発していると観測できないし、素粒子でやり取りしている様子も無い……
保存状態の良いヒト型インターフェースを何処かの群知能が動かしているのかと思っていたが……君?ひょっとして人間かね?
もしかして趣味ではなく必要だから「読」を選択したのか?
……どうだい、私もオリジナルがそうだったとはいえ久々に鴉の身体を使って本調子ではない
協力者が居るなら心強いし、はっきり言っておくと興味もある
君も人間なら
一緒にこの「彼」を探してみないか
…………
そうだ、移動する間
発掘メディアでもどうかね…私、我々も今から観る、昔の人間が造ったものだ…攻殻機動隊…人形…
のども渇いたろう、ボトル残量は有り余って余裕がある、遠慮は要らない
カクヨム砂漠越えには時間がかかる、飛んでる間に楽しもうじゃないか……
そうだ…
ニンゲン、名前はあるか?
<私>と<僕>の対比が魅力的です。こういう視点で描いた作品はちょっと他に思い浮かばなかった。
<私>とは汎用人工知能にプログラムされた基礎人格であり、<僕>はそれを開発した科学者。汎用人工知能とは早い話が人間並みかそれを越える判断力を持つAIで、あらゆる分野で高度かつ正確な判断を行えることから汎用、と呼ばれています。AI開発の一つの到達点と言われていますね。
<僕>はこの<私>に対し自己の人格を複製する。
自己の人格がAIと混じり合うというのはなかなか想像がつかないと思います。その意味で読み応えのあるシーンです。
その後、なぜ<僕>がAIに人格を融合させたのかが語られるのですが、ここでリチャード・ドーキンスの言葉がフックとして効いてくる。これが物語をコンパクトに収めていて、本当にうまいなぁと感じさせられました。
苦悩する自我が解放され、新たな世界に一歩を踏み出す緊張と興奮。
<僕>が目覚めたその先が、真に自由な世界であってほしい、そう感じました。