質問

屑原 東風

第1話

はじめまして。

ああそんなに怯えなくていいよ。私は決して怪しいものじゃない。…え?怪しさしかない?あはは、ひどい言われようだなあ。うん?名前を教えろ?うーん、ごめん。それは教えることができないんだよ。

突然だけど、いくつか質問があるんだ。それに答えて欲しい。悩まずに、君の直感で答えてくれ。

私のことを疑う暇なんてないよ、ほら、スタート!


Q1.君の性別は?

A.男_


Q2.君の家族構成を教えてくれるかい?

A.両親 妹 自分の四人家族_


Q3.君の年齢は?

A.13歳_


Q4.友達は多いかな?

A.それなりにいる_


Q5.家族のことは好きかい?

A.大切にしているつもりだ_


うんうん、ありがとう。君は優しい子だね。

あらら、疲れた顔してるね。こんな知らない奴に質問されたからかな?それとも、また別の理由?

うわあ、そんな怖い顔しないでよ。からかってるわけじゃないからさ。

ほらほら、続きだよ。


Q6.両親の仕事を教えてくれるかい?

A.父親は工場で勤めてる 母親は専業主婦_


Q7.君の妹のことを教えてくれるかい?

A.保育園の年長 かなりわがまま そのくせ泣き虫_


Q8.楽しみにしていることがある?

A.母さんのお腹の中に赤ちゃんがいる それが楽しみだ_


Q9.最近、君の周りで起きたとある事件を覚えているかい?

A.………_


…覚えていないなら、答えなくても大丈夫だよ。

無理にとは言わないからね。

…うん、質問を変えようか。


Q10.君の住んでいる近所では、殺人事件が起こっていた。子供ばかりを執拗に狙うものだ。覚えてるかい?

A.覚えてる_


Q11.警察も総動員で動いていたけど、犯人にはなかなかたどり着けなかった。そんな時、君達が巻き込まれてしまうんだよね?

A.そう 俺と妹二人で公園で遊んでいた時に知らない男の人が来て 手には包丁を持っていたんだ_


Q12.周りは、君と妹以外誰もいなかった。そうだね?

A.夕方 そうだ誰もいなかった 俺と妹だけ_


Q13.妹は砂遊びに夢中で犯人には気づいていない。気づいているのは君だけだったね?

A.真っ直ぐ走ってきたから、俺は妹に覆い被さって それから_



「俺は死んだのか?…」



…君は犯人に背中を刺された。

刺された場所は大事な臓器がある場所だったんだ。

妹を守るように覆い被さって、君は気を失った。君に刺さった包丁は抜けなくて、そのまま犯人は逃げたんだ。

その後すぐに犯人は捕まった。君に刺さったままだった包丁から犯人の指紋で特定できたんだ。



「妹は、ハルは無事なんだな」



うん、君の妹は助かった。君が命をかけて守ったんだ。

君の妹の泣き声を聞いた大人達が駆けつけてきて、君はすぐに大きな病院に運ばれて、それから手術室に運ばれた。

君はさっき、自分は死んだのか、と聞いたね。

それは五分五分だ。君は死んではいないが、生きてもいない。言うならば狭間にいるんだ。

さて、あと二問だ。戸惑いはあるだろうけど、いいかな?


Q14.君はまだ生きていたい?それとも、もう終わってもいいと思っているかい?

A.俺は生きたい まだ生きていたい_


ああ、よかった。そう答えてくれて。

たまにいるんだ、そう答えない子がさ。


親に虐待されて狭間にいる子。虐められて狭間にいる子。

生きたかったのに生きていたくない子。


ああ、よかった。

私は安心して、君を生きる世界に戻してあげることができる。



「なあ、お前は一体なんなんだ」



名前は教えてあげることはできないけれど、存在を答えることはできる。最後だからね。

そうだね、神様とでも言おうか。この狭間に存在する神様。自分で言うのは少し恥ずかしいね。


私は生と死、どちらかの選択肢を選んでもらうために存在する。全ての人にこういうことを出来るわけじゃないから、まあなんだ。君は私が選んだ一人、とでも言おうかな。

…さ、話もほどほどに最後の質問だよ。


Q15.生きた世界で、ちゃんと生きることを約束してくれるだろうか

A約束するよ_


ありがとう。

戻った世界では、きっと激しい痛みが君を襲うだろう。

怪我の痛みもそうだけれど、これから先、君が生きていく上で辛いことはたくさんある。それを、君は立ち向かっていかなきゃいけない。それを乗り越えて欲しい。大丈夫、君なら乗り越えられるさ。神様である私がいうんだから間違いないだろう?


それじゃあ、おやすみ。またいつか



目が醒めると、俺の手を握る母さんと父さんの姿が目に入った。腕には点滴が繋がっている。

背中はひどく傷んだ。ふ、ふ、と浅く呼吸を吐く。痛みを堪えながら、二人の名前を呼んだ。


「かあ、さん。とう、さん」

「颯汰!」


口を開いた俺を、ボロボロと泣きながら名前を呼ぶ。あまり見ない二人の泣き顔。俺は思わず笑ってしまった。


「ハルは…?」

「にいちゃ…」


ガラリと病室の扉が開く。看護師と一緒に入ってきたのは、妹のハルだった。ハルはペタペタと俺の横たわるベッドに近づいて来る。母さんがハルを抱き上げると、ハルは俺の手を握った。俺もハルの手を握る。

小さい手だ。随分と久々に握った気がするのは、あの夢とも言える狭間にいたからだろうか。


「にい、ちゃ…」

「泣くなよ、泣き虫」


言ってやると、涙でぐちゃぐちゃの顔で笑った。自分の手で守った妹がちゃんと生きている。俺もこうして生きている。それは本当に泣きそうなくらい嬉しかった。

否、きっと泣いていた。ハルが笑う。兄ちゃんも泣いてるって。

うるせえって言ってハルのデコを突いた。

ハルは突かれた頬を触りながら笑う。母さんも父さんも笑っていた、俺も笑った。


こういうのがきっと、最高の目覚めなんだと思う。





やあやあ、はじめまして。

私は決して怪しいものじゃありません。

え?怪しすぎる?酷いなあ。まあ、いいや。

さて、君にいくつか質問があります。

直感で答えてくれてくれ。適当には答えないでくれよ。あくまでも真面目に、ね?

さあ、いくよ?




END








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質問 屑原 東風 @kuskuz

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