第2話 魔導士のお仕事
小型の丸テーブルに桜色のテーブルクロスを敷き、お気に入りのベーグルとヨーグルト(ヨーグルトには甘いはちみつで漬けたレモンを細かく切って入れる)を並べ席につく。
白いブラウスに、タイトな黒い革のパンツに履き替えた私は、ダイニングで一人で食事を始める。
ほんのりと暖かいベーグルを一口かじると、少しずつ目が覚めていくのを感じる。
べーグルは予め部屋の片隅にある調理器ですこし加熱した。
香りが増して寝ぼけた脳を程よく刺激する。
「マリアンナさんのベーグルおいちぃ。」
自然と表情が和む。
この魔力を蓄えた調理器具、見た目はフライパンのようだが、食材を載せてボタンを押すと程よく温めてくれる。
この世界に魔法使いが絶えてから、このように魔力を使用する器具を作れる人は少ない。
私は、その少ない人の一人。魔導士と呼ばれる。
魔力を操る能力のない現代の魔導士は、単に魔力を感じることができるだけで、正確には魔導士ではない。
だけど、魔導士と呼ばれ大切に扱われている。
なぜなら、魔力を感じ取ることができることで、太古に作られた魔法器具を模倣して作ったり、修理することができるから。
結果的に魔力の恩恵を導き出す人。魔導士と呼ばれている。
魔導士はこの国には3人しかいないため、一般人とは区別されている。つまり保護されている。
だから、この調理器具も貴重品だ。
まして、”このコ”はベーグルかパンかエッグかを判別して最適な調理をするように私が改良を加えたものだ。
なんて私得。
ヨーグルトはミルクで割ってあり、飲みやすい。
甘酸っぱいよりも少し甘い寄り。
いつもの食事を終えると、下の階へ降りる。
この家は、3階建て。
3階の居住フロアから2階のオフィスへ移動する。
大きな仕事用のデスクには、昨日はなかった書類が3つ増えている。
仕事かな?
でも今日は休日、仕事は忘れて買い物に行くのよ。
miumiuの新作のお財布を買うんだもん!
そう心でつぶやき、頭を横に振る。
「そうだ、手紙をついでに出していきましょう。」
デスクの前に寄ると、昨日書いた手紙とその横の3つの書類から青い帯のついた書類だけ手にとり、階段を下りた。
さて、出発。
1階へ降りると、朝のメイド服を着た小柄な少女が、優しく声をかける。
「おはようございます、カオリ様」
「おはよう、マリアンナさん、出かけるわ。」
マリアンナさんは、私の身の回りを見てくれるメイドさん。
16歳なので、私とそんなに離れていない。
美味しいおやつを作れる超優秀なメイドさんよ。
「本日もお仕事ですか?少しお休みになってはいかがですか?」
「今日はお休みよ?お買い物にいくの。」
マリアンナさんはどうして仕事に行くと思ったのかしら?
少し首を傾げ、自分の身なりを見直してみる。
モナリザのフリル付きブラウスはどう見てもお出かけ用の洋服。
「あ、」
いつのまに、片手には手紙と一緒に、書類をもっていた。
表紙には、「依頼書」と書かれている。
いつの間に、、、体が勝手に動いていたわ。
この歳にしてすでにワーカホリックなのかしら。
まあいいわ、ついでだから、私の仕事のお話をするわね。
まずはこの依頼書を開いてみましょう。
3部の書類から、急用を意味する青い帯がついた一つを手にとったのは無意識だ。
-----------------------------------------------
HD.5043年3月12日
題名:カーク市街地水道局のトラブル。
昨夜未明、カーク市街地水道局の中央配水棟から水が流れない問題が発生。
カーク市街地の半数の家庭に水の供給がとまる問題が発生。
速やかな復旧が必要であり、白銀の魔導士様のご尽力を賜りたい。
カーク市長 アルバート・フォックス
-----------------------------------------------
簡単な依頼文だわ、でも急がなければ問題になるわね。
この国、神聖共和国のアール国では水道が発達している。
この水道は、大昔に魔導士たちが強力な魔法で作ったシステムで動いている。そしていつまでも きれいな水を供給することができる。
このきれいな水のおかげで、医療や工業が発達して人々の寿命は伸びた。平均寿命は180歳ほどだ。
きれいな水を必要としているのは、主に水道局に隣接する薬師館と工業団地だわ。
そうつぶやくと、マリアンナさんを呼んだ。
「マリアンナさん、」
「はい、表に馬車をご用意いたしました。」
私をよどみ無く仕事へと導くこの感じ、さてはこの書類を手紙の隣に置いたときからマリアンナさんの仕事は完成されていたのね。
まったく、どこまで働かせるのよーー!この国は!
うめきながらも馬車に乗ると、マリアンナさんが小さなハンカチに包まれたものを手渡してくれた。
これはおやつだ。開けなくても匂いでわかる。
大好きなレーズンバターサンドよ。
やった!
すこしウキウキしながらマリアンナさんに笑みを向けたところで馬車は走り出した。
白銀の魔導士は報告書がお嫌い としぞう @toshizou00100
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。白銀の魔導士は報告書がお嫌いの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます